Seibutsu Butsuri
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Minimal Cell Motility System Reconstructed in Synthetic Bacterium Driven by Bacterial Actin MreBs
Hana KIYAMAShigeyuki KAKIZAWAMakoto MIYATA
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2023 Volume 63 Issue 6 Pages 303-305

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Abstract

走る,飛ぶ,泳ぐなどの運動能は「生き物らしさ」の一端を担う.本稿では最もシンプルな仕組みで動くと思われる小さならせん細菌の遊泳運動を,自己増殖できる最小の生命体であるミニマル細菌に再構築した.再構築から明らかになった2種の細菌アクチンMreBがモーターとして働く最小の細胞運動について紹介する.

1.  はじめに

生き物にとって運動能を持つことは,栄養源や住環境の獲得,捕食者からの逃避など重要な生存戦略である.私たちはこの「生き物らしさ」の一端を担う運動能を,自己増殖できる最小の生命体であるミニマル細菌に再構築して調べることを考えた.再構築する運動能としてシンプルな仕組みで動くと考えられるスピロプラズマ遊泳運動に注目した.

2.  スピロプラズマの遊泳運動

スピロプラズマは世界中に見つかる寄生性の細菌であり,2-10 μmのらせん状の細胞形態を持つ.マイコプラズマの仲間であり,一般の細菌において細胞形態を維持する細胞壁を持たない.一見すると梅毒の病原細菌として知られるスピロヘータと形状や遊泳の様子が似ているが,全く異なる仕組みで遊泳する.すなわち,細胞の前方から,左巻きから右巻きに,右巻きから左巻きにらせんを反転し,反転より後ろの部分を回転させることで粘性溶液中を遊泳する1)図1).遊泳を駆動するのは細胞内部の最内側線に沿って膜を裏打ちする内部構造と考えられている2),3)

図1

スピロプラズマ遊泳運動の模式図.左巻きらせんが青色,右巻きらせんが赤色,らせんの境界のねじれが黒の矢頭で示されている.細胞の前方から,らせんを反転させ遊泳する.

3.  ミニマル細菌JCVI-syn3.0

JCVI-syn3.0(以下ミニマル細菌)はヒトゲノムの配列決定で有名なVenter氏が設立したJ. Craig Venter研究所(JCVI)から2016年に報告された,増殖に必須な遺伝子のみで化学合成された最小のゲノムを持つ細菌である4).そのゲノムはマイコプラズマの一種(Mycoplasma mycoides)に由来し,大きさは531 kb,タンパク質やRNAをコードする遺伝子の数は473遺伝子である.大腸菌のゲノムの大きさは4.6 Mb,約4500遺伝子なので,比較するといかにミニマル細菌のゲノムが小さいかがわかる.ミニマル細菌は1 μmに満たない小さな球形の菌体をしており,運動能を持たない.

4.  ミニマル細菌が泳いだ!

私たちはスピロプラズマの遺伝子をミニマル細菌に導入し,運動能の再構築を試みた.スピロプラズマの遊泳運動には細菌のアクチンであるMreBタンパク質5種類とスピロプラズマ特異的なFibrilタンパク質が重要であることが示唆されていた2).これら6つの遺伝子を一連のDNA配列として,ゲノム上でこれらの遺伝子の間に位置していた1つの機能未知遺伝子とともにミニマル細菌のゲノムへ導入した.その結果,ミニマル細菌は,スピロプラズマとよく似たらせん状の細胞形態と,らせん反転遊泳運動を示した5)図2,上).ビデオからフレームごとに細胞を切り出し横に並べてみると,スピロプラズマと同様に左巻きらせんと右巻きらせんが前方から反転していることが確認された(図2,下).しかし,スピロプラズマに比べると遊泳するミニマル細菌では,らせんが不明瞭な箇所が存在していた.さらに,反転の伝播の連続性も低いように見えた.これらのことは,7つのタンパク質以外に他のタンパク質が構造と運動の連続性に寄与している可能性を示唆する.

図2

光学顕微鏡像(上)と反転の伝播の連続性(下).(上)左からSpiroplasma eriocheiris,元のミニマル細菌,7遺伝子が導入された遊泳するミニマル細菌.(下)フレームごとに細胞をまっすぐに切り出し並べた図.

次に,それぞれのタンパク質の役割を調べるために7つの遺伝子のうち1つずつにナンセンス変異を導入した.細胞形態の変化と遊泳運動の有無を調べたところ,1つのタンパク質を欠損した7種類のミニマル細菌全てで動きが見られた.このことから,遊泳にはMreBが必須であるものの,それぞれのMreBは重複した役割を持つことが示唆された.

5.  2種のMreBの組み合わせが運動を駆動する

そこで,運動を駆動する最小の因子を調べるために,5つのMreBとFibrilタンパク質を1つずつ単独で発現させたが動きは見られず,いずれのタンパク質も単独では細胞を動かすモーターとして働けないことがわかった.

次に,5種のMreBを2つずつの組み合わせでミニマル細菌において発現させた.その結果,合計10通りの組み合わせのうち4通りでらせん状の細胞形態とらせんを反転するような動きが見られた.7つの遺伝子を持つ遊泳するミニマル細菌とよく似ていたのはMreB5とMreB4の組み合わせ,またはMreB5とMreB1の組み合わせだった.MreB2とMreB4,またはMreB2とMreB1の組み合わせでは形態変化と動きが見られる細胞の頻度が低かった.これらのMreBの組み合わせを系統解析で分けられたスピロプラズマMreBの3つのグループ6),7)に当てはめると,2種の異なるグループのMreBが同時に存在するとき運動を駆動するモーターとして働くことがわかった(図3).そのほかの組み合わせでは動きは見られなかったが,らせん状,フィラメント状の形態変化が見られる組み合わせもあった(図3).

図3

2つずつMreBを組み合わせてミニマル細菌に発現させた結果.動きが見られたのは,MreB5とMreB2からなるグループ(オレンジ)とMreB4とMreB1からなるグループ(黄色)の組み合わせの時だった.

これまでMreBタンパク質が直接運動のモーターとして働くことは知られていなかった.また,アクチンスーパーファミリータンパク質による細胞のらせんの変化もこれまでに知られていない.本研究は,最小の細菌に最小の細胞運動を再構築したと言える.

スピロプラズマは進化の過程で,細胞壁を失っている.MreBは細胞壁のある細菌においては短い繊維を作り,細胞壁を合成する酵素のレールとして働くと考えられている8).そのようなMreBがどのようにして細胞運動の力を発生する能力を獲得したのか興味深い.スピロプラズマの遊泳能の進化についてのこれまでの提案9),10)と今回の結果を元に私たちは遊泳メカニズムと進化について以下のように考えた(図4).(i)もともと運動には関わらず,短い繊維を形成する祖先型のMreBタンパク質が長い繊維を形成するようになった.(ii)次にMreBが2種類に変化しそれぞれ異なる構造変化を起こすようになり,それによる繊維の性質の違いにより温度調節機に使われるバイメタルのように,らせんを反転させる能力を獲得した.(iii)その動きが,細胞壁を失った柔らかい細胞において細胞の形態に反映され現在のような遊泳運動に進化してきた,というものである.

図4

遊泳メカニズムと起源の仮説.

6.  おわりに

私たちは現在,スピロプラズマ遊泳運動の起源を探る研究を行なっている.ミニマル細菌を使って実験室で運動能獲得の瞬間を再現するのが私たちの夢である.

文献
Biographies

木山 花(きやま はな)

大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻後期博士課程3年次在学

柿澤茂行(かきざわ しげゆき)

産業技術総合研究所生物プロセス研究部門主任研究員

宮田真人(みやた まこと)

大阪公立大学理学研究科教授

 
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