Seibutsu Butsuri
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Theoretical and experimental techniques
Optical Second Harmonic (SHG) Microscopy as a Potential Tool for Structural Analysis
Tomonobu M WATANABE
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2024 Volume 64 Issue 2 Pages 100-103

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Abstract

光第二高調波発生(SHG, Second Harmonic Generation)光は,蛋白質の二次構造を反映する.SHG計測の利点である非侵襲性および非染色を活かせば,溶液中/細胞内での構造動態計測が可能になるかも知れない.SHG顕微鏡の蛋白質構造解析ツールとしての利活用について,最新の試みを紹介する.

1.  はじめに

光第二高調波発生(SHG, Second Harmonic Generation)は,非線形物質に光を照射すると入射光の2倍のエネルギーを持つ光子が発生する非線形コヒーレント過程/散乱現象として,1961年に発見された1).SHG光の特徴を表す係数は3階の極性テンソルであり,高分子集合体における永久双極子モーメントを持つ分子の構造とその配列に由来する.それゆえに,たとえば,線維状構造の配向/極性を反映する.SHGの発見から25年後に,初めての生物学応用として,ラット尾部腱のコラーゲン線維配向が,SHG計測により定量された2).SHG光は観察対象の分極に起源するので,神経細胞の活動電位の測定にも使われている3)

SHGを計測原理とする顕微鏡(SHG顕微鏡)の構成は,レーザー走査型共焦点蛍光顕微鏡に基づいている.そのため,SHG顕微鏡の主な用途は画像化である.SHG顕微鏡は,コラーゲン,ミオシン線維,微小管束など,生きた試料の線維構造を非侵襲かつ非染色で可視化するモダリティとして使用されてきた.一方で,蛋白質線維から発せられたSHG光は,線維配向だけでなく,αヘリックスの軸方向ピッチなどの蛋白質の二次構造を反映する.そのうえ,SHG顕微鏡では,溶液中での時間的観察が可能である.すなわち,溶液中の蛋白質構造の揺らぎや生きた細胞内における構造動態の計測が,SHG顕微鏡により可能になるかも知れない.SHG顕微鏡は蛋白質構造解析の新しいツールとしての可能性を秘めている.本稿では,その実現に向けた私たちの挑戦を紹介する.

2.  SHGによる単一微小管の構造多型の検出

蛋白質構造解析にSHG顕微鏡があまり用いられてこなかった理由は,蛋白質が発するSHG光の強度が極めて弱いからにほかならない.私たちは,まず,達成すべきベンチマークを「SHG顕微鏡による単一微小管の画像化」に設定した.

SHGは光散乱現象のひとつであり,前方散乱強度が後方散乱強度より20倍以上高い.それゆえに私たちは,落射型ではなく透過型のSHG顕微鏡を構築した(図1A).照射用対物レンズは,実験操作の簡便性を考慮しドライレンズとし,SHGの効率向上のために,その中で最も高い開口数(NA)0.95を選択した.観察用対物レンズは油浸レンズとし,開口数は多くの光子を集められるよう1.45を選択した.また,入射光の偏光状態を任意に制御する一対の電気光学変調器からなる高速偏光制御装置を装備した4).しかしながら,単一微小管の画像化はできたものの,明確な画像コントラストには達しなかった(図1B).

図1

単一微小管のSHG観察.(A)構築したSHG顕微鏡の構成の概略図.(B,C)ホウケイ酸ガラス上の微小管(B)および石英ガラス上の微小管(C)のSHG画像.

私たちは徹底して背景光の原因を調べ,背景光の原因がガラス基板から散乱されるSHG光であることを突き止めた.基板として使用したホウケイ酸ガラス製のカバーガラスから,SHGが発生していたのである.ホウケイ酸ガラス由来のSHG光は,照射時間や照射パワーとともに増加したことから,コヒーレント光ガルバノ効果を介した周期反転静電場の発生が主要な原因であると考えられた.もしそうであれば,高純度二酸化珪素(石英)ガラスを使用することで画像コントラストは容易に改善される.予想通り,ホウケイ酸ガラスを石英ガラスに置き換えることで,基板からのSHG光を抑制することに成功し,SHG顕微鏡で単一微小管の鮮明な像を得た(図1C).

微小管は,αチュブリンとβチュブリンのヘテロ二量体からなる螺旋線維であり,チュブリンに結合するヌクレオチドにより構造が異なる.より具体的には,タキソール(taxol)で安定化したグアノシン二リン酸(GDP)が結合した微小管(GDP-MT)よりも,グアノシン5ʹ-α,β-メチレン二リン酸(GMPCPP)が結合した微小管の方(GMPCPP-MT)が,中心軸と対するβチュブリンの傾きが大きい(図2A).単一のGDP-taxol-MTおよびGMPCPP-MTを縦軸に沿ってセットし,縦偏光(Y偏光)および横偏光(X偏光)における微小管からのSHGの入射偏光角依存性をそれぞれ測定した(図2B).Y偏光では二つの微小管間に違いはなかったが,X偏光では明らかな違いが観察された(図2C).この結果は,SHG偏光計測による単一微小管の構造多型解析の実現可能性を示している.しかし,本来,αβチュブリン二量体の各双極子は,螺旋配向により微小管間内で相殺されるため,入射偏光の0度と90度におけるX偏光の強度はゼロになるはずである.すなわち,理論的には,X偏光における交差(図2C,右,矢印)は観測されない.今回用いたような高開口数の対物レンズでは,レンズ表面の高曲率が要因となり偏光の回転を引き起こす,偏光解消効果が発生する.この偏光解消効果がX偏光に変調を与え,結果として,構造多型の相違が強調されたのである.ガラス基板のSHGや対物レンズの偏光解消効果に関する詳細は,プレプリントリポジトリに記してあるので,そちらを参照されたい5).なお,微小管束を用いて信号強度を上げれば,αβチュブリン二量体の双極子の角度を定量することも可能である6)

図2

単一微小管の構造多型の検出.(A)GDP-MTおよびGMPCPP-MTTの予測される構造多型を示す概略図.(B)実験上のXYZ座標系で定義された微小管の方向と入射偏光角θおよびSHG光の縦偏光(Y偏光)と横偏光(X偏光)を示す概念図.(C)Y偏光(左)とX偏光(右)におけるSHG強度の入射偏光依存性.エラーバーは標準誤差を示す.文献5より抜粋.

3.  SHGを用いた細胞内構造動態計測への挑戦

蛋白質結晶は強いSHGを発する.私たちは,光スイッチ型蛍光蛋白質を観察対象として,結晶内という限られた条件ではあるが,溶液中において蛋白質構造の動態(正しくは発光団構造)を非染色で計測できることを示し,論文として発表している6).しかしながら,本来,SHG計測の最大の特徴は生体試料に対する高い適用性である.SHG顕微鏡は多光子励起を用いるため,検出波長を可視光領域に設定すると,励起波長は必然的に近赤外領域となる.これにより,細胞への光損傷が軽減されるほか,生体組織への透過性も向上する.私たちは,この特徴を活かして,ごく最近,生細胞におけるアクトミオシン構造の動態解析に成功した7)ので,その一部を紹介する.

アクトミオシン複合体内のミオシンもアクチンもSHG源である.しかし,ミオシン由来のSHG光はアクチンに比べ3桁程度大きいので,アクトミオシン複合体から発せられるSHG光のほとんどはミオシン由来となる.ミオシンは,しゃもじ様のサブドメイン-1(S1),棒状のサブフラグメント-2(S2),線維化のためのライトメロミオシン(LMM)領域から構成される(図3A).S1領域は,アデノシン三リン酸(ATP)加水分解に伴い,ヌクレオチドの状態に対応して構造を変化させることで力を発する.S2領域は動原を持たず,S1とLMM間の“バネ”として働く.ミオシンにおけるSHG発生源は,S2とLMMであると考えられている.ミオシンの力発生過程で,S1領域の構造変化によりS2領域が傾いたり曲がったりすることで,SHG光の異方性が変化する.結果として,SHG光の入射偏光依存性は二つの山を示し,このふた山の高さ(振幅)を特徴付けるパラメータγが,ミオシンの構造に依存する(図3B).

図3

生心筋細胞内のアクトミオシン活性率評価.(A)力発生中のミオシンの構造変化を表す概念図.(B)収縮時(緑)および弛緩時(赤)におけるミオシン由来のSHG光の偏光特性.(C)ヒトiPS細胞から分化誘導した心筋細胞のSHG画像.(D)心筋の拍動とそれに伴う,サルコメア長とSHG偏光から見積もられた筋活性を表す指標(γ値).(E)ブレビスタチンを添加した際のγ値と光照射によりブレビスタチンを不活性化した際のγ値.(F)グラフ(D)から,サルコメア長とγ値の相関をプロットした図.(G)cMyBPC欠損心筋細胞(赤,疾患株)とゲノム編集により欠損を修復した心筋細胞(緑)修復株におけるサルコメア長とγ値の相関.ベタ塗りは弛緩時,中抜きは収縮時の各サルコメアにおける平均値.文献7より抜粋.

観察材料として,ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)から分化作製した心筋細胞を用いた.サルコメア構造ひとつひとつが,明確に可視化された(図3C).観察視野を2画素×40画素(0.39 × 7.81 μm2)に制限することで,SHG光の入射偏光特性を80ミリ秒毎に取得できる.これにより心筋拍動中のγ値の変動を検出でき,筋収縮時にγ値が増加することが確認された(図3D).

過去のほかグループからの報告,ならびに,私たちの研究から,γ値はアクチンに結合しているミオシンに起因すると考えられる.たとえば,ミオシン阻害剤であるブレビスタチンを添加することで拍動を停止させると,γ値は0.5~0.6程度で停止する.紫外光照射によりブレビスタチンを不活性化すると心筋は再び拍動するが,収縮時のγ値は0.5~0.6程度であるのに対し,弛緩時には0.4程度にまで低下する(図3E).弛緩のためにアクトミオシンが解離したことによりγ値が低下したのである.

サルコメア長とγ値の相関を見てみると,収縮時にγ値が増加し弛緩時に低下する様子が良く分かる(図3F).ミオシンが収縮力を発するためには,ミオシンは必ずアクチンから解離し再び結合する必要がある.この相関グラフにおける弛緩時のγ値は,アクチンに結合しているが力発生に寄与していないミオシンに起因する.一方で,収縮時と弛緩時のγ値の差(δγ)は,力発生に寄与したミオシンの数に依存する.収縮距離(δSL)は,サルコメア長を計測することで容易に求まる.すなわち,サルコメア長とγ値の相関δγ/δSLは,単位収縮距離あたりに力発生に寄与したミオシン数に比例する.

心肥大症患者から作成されたiPS細胞を用いて,その検証を行った.ここでは,心筋ミオシン結合蛋白質CをコードするcMyBPC遺伝子が欠損しているiPS細胞株を用いた.cMyBPC欠損は,肥大型心筋症で見られる遺伝子変異のひとつであり,この疾患患者の心筋細胞では,健康な心筋細胞に比べて,筋収縮のためにより多くのミオシンを必要とすることが知られている.また,ゲノム編集技術を用いて欠損している遺伝子を補填することで,健康状態に修復することができる.cMyBPC欠損iPS細胞株から作られた心筋細胞では,修復されたiPS細胞株から作られた心筋細胞に比べδγ/δSLが大きいことが確認された(図3G).このように,SHG顕微鏡を用いて,生きた心筋細胞の収縮時におけるミオシン活性を定量できるのである.

このほかに,私たちは,生きたショウジョウバエ蛹内部における筋活性の評価にも成功している.詳しくは,文献7を参照されたい.

4.  おわりに

何十年もの間,蛋白質構造解析の主なツールはクライオ電子顕微鏡とX線結晶構造解析であった.これらは,蛋白質構造に関する静的であるが詳細な情報を提供する.構造動態は,核磁気共鳴(NMR)やフェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)技術によって測定され,静的情報と併せて解釈される.SHG偏光顕微鏡による蛋白質構造解析は,その対象は線維や結晶に限られ,また,X線構造解析や電子顕微鏡解析に比べると空間分解能が圧倒的に低い.一方でSHG計測は,NMRやFRETとは異なり化学標識を必要としない.そのため,溶液中や細胞内における蛋白質構造解析を長期間に渡り連続的に行うことができる.私は,SHG顕微鏡を用いた構造解析技術が,従来の構造解析ツールの弱点を補強するサードパーティツールとなることを願う.

5.  謝辞

顕微鏡構築およびデータ解析に多大な貢献を頂いた市村垂生特任准教授(大阪大学先導的学際研究機構),金城純一博士(元当研究室技師)に感謝する.微小管の解析には,岡田康志教授(東京大学医学部および理学部)ならびに島知弘助教(東京大学大学院理学系研究科)にご指導頂いた.iPS細胞由来心筋細胞は,宮川繁教授(大阪大学大学院医学系研究科)らの研究グループにより準備頂いた.心より深謝する.

本研究は,主に理化学研究所運営費交付金で実施し,iPS細胞に関する研究は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構再生医療実現拠点ネットワークプログラム「難治性心筋症疾患特異的iPS細胞を用いた集学的創薬スクリーニングシステムの開発と実践(研究代表者:宮川繁)」,国立研究開発法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業CREST「オールオプティカルメカノバイオロジーの創出に向けた技術開発と発生生物学への応用(研究代表者:倉永英里奈)」による支援を受けて行われた.

文献
Biographies

渡邉朋信(わたなべ とものぶ)

(国)理化学研究所生命機能科学研究センターチームリーダー/広島大学原爆放射線医科学研究所教授

 
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