Seibutsu Butsuri
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Development of Ultrafast Camera-based Single-Molecule Imaging Unravels Plasma Membrane Structure and Function in Live Cells
Takahiro FUJIWARAAkihiro KUSUMI
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2024 Volume 64 Issue 5 Pages 235-241

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Abstract

生細胞中で1蛍光分子感度を持つ超速1分子カメラを開発し,現行の蛍光色素で究極の0.1ミリ秒以上の時間分解能を達成した.細胞膜上での超速1分子追跡から,ホップ拡散を検出しアクチン膜骨格の仕切りを確認した.また,超速PALM-dSTORMを開発し,接着斑の階層的メゾスケール群島構造を明らかにした.

Translated Abstract

Regulation of molecular diffusion in the plasma membrane (PM) is fundamentally important for enabling many PM functions. An ultrafast camera system was developed for single fluorescent-molecule imaging at time resolutions better than 0.1 ms, which confirmed the actin-based PM compartmentalization. The camera system was applied to develop ultrafast live-cell PALM and dSTORM. They revealed the mesoscopic dynamic organization of the focal adhesion (FA), in which the FA has an archipelago architecture of ≈30-nm diameter FA-protein islands loosely clustered into ≈300-nm diameter functional units in the compartmentalized fluid membrane (74 nm vs 110 nm outside the FA).

1.  はじめに

細胞膜は細胞の内外を規定する境界構造である.主要な構成分子であるリン脂質が親水性の頭部を外側に,疎水性の足を内側に向けて2層に並んだ基本構造を持ち,常温では熱揺らぎによる流動的な性質を示すので,しばしば「2次元の液体」と例えられる.この液体内外で,タンパク質分子が特定の相手と結合/集合し,図1に示すように,メゾスケール(直径3-300 nm程度)の分子複合体を形成することで固有の機能を発揮し,目的によっては,それらがさらにミクロンスケール(直径300 nm-数μm)の高次の構造体を形成することが分かってきた.これらの「細胞膜ドメイン」がシグナル伝達,輸送,接着をはじめとした重要な機能の素過程を担い,それらが統合されることで,細胞の増殖や組織中での移動が可能となる.神経細胞においては,その統合が神経ネットワーク形成に寄与し,活動電位の伝播を可能にする.

図1

神経細胞(左)と上皮細胞(右)における,メゾ(3-300 nm)-ミクロン(300 nm-数μm)スケールの細胞膜ドメインの例.

1972年にSingerとNicolsonにより,この「2次元の液体」では,脂質分子とタンパク質分子がモザイク様に存在し,両者とも拡散運動をおこなうという最も基本的な細胞膜のモデル,「流動モザイクモデル」1)が提唱された.しかしながら,「2次元の液体」中の制限のない拡散(自由拡散)だけを考えると,脂質分子の典型的な側方拡散係数は5-10 μm2/s,膜貫通型タンパク質では1-5 μm2/s程度となっており,細胞を直径20 μmの球体としたときの表面積に相当する領域を拡散するのに脂質分子だと30秒から1分,膜貫通型タンパク質でも1分から5分しかかからない.また,膜貫通型タンパク質100分子程度が集まって直径が10倍のドメインを形成しても,拡散係数の低下は30%程度に限られる.すなわち,拡散運動を抑制する機構なしには,細胞膜上の必要な場所で分子を集めても,すぐに細胞全体に広がってしまい,細胞活動にとって重要な極性の維持が困難である.SingerとNicolsonの論文では,流動モザイクモデルの図が示されており,その大きさは約10 nm四方である.この空間スケールにおいては,流動モザイクモデルは現在においても本質的に正しいと考えられている.しかし,10 nmを超える空間スケールでは,構成分子の不均一な分布を維持するために,拡散運動を抑制したり,分子間の会合を誘導したり,特定の場所に係留する機構が重要となる.実際,細胞膜上での脂質や膜貫通型タンパク質のミクロンスケールの運動に対応する拡散係数は,自由拡散で予想される値の1/10程度に抑制され,分子によっては止まっている成分も多く存在することから,多くの研究者が様々な計測技術を開発/応用し,その機構の解明に取り組んできた.

2.  細胞膜研究における計測技術の発展

流動モザイクモデルの提唱以来,モデル膜の研究から,脂質分子がナノ-ミクロンスケールで相分離し,秩序相と無秩序相に特定の分子種が濃縮される2)可能性や,細胞膜上のタンパク質分子が会合/オリゴマー化して形成するドメインが拡散運動の制御やシグナル伝達に関与している可能性を示す,生化学的・生物物理学的証拠が蓄積した.特に,1990年代後半に提唱された「脂質ラフト仮説」3)は大きな注目を集め,その存在を検出するための多様な技術の発展を促した.

細胞膜分子間の相互作用解析に利用される方法は数多く存在し,相互作用の安定性によって選択される方法は異なる.特定の脂質種を含むドメインを単離する技術として開発され,その後多くの改変が加えられた界面活性剤不溶画分(Detergent-Resistant Membrane; DRM)分離法は,初期の脂質ラフトの研究を支えた.また,タンパク質間の結合相手を同定するためには,共免疫沈降法,プルダウンアッセイなどの生化学的なアプローチに加え,蛍光/生物発光共鳴エネルギー移動(Fluorescence/Bioluminescence Resonance Energy Transfer; FRET/BRET)4),5)や,近接ライゲーションアッセイ6)のような,蛍光/生物発光プローブ間の相対距離に依存したアンサンブル平均値を検出する技術が開発され,利用されてきた.

細胞膜上のタンパク質分子,脂質分子の熱揺らぎによる側方拡散は,流動モザイクモデルの重要な特徴である.その計測と制御機構の解明のため,多くの拡散運動計測技術が開発されてきたが,それらは,定点計測アプローチ,または,座標追跡アプローチのいずれかに大別される.蛍光褪色回復法(Fluorescence Recovery After Photobleaching; FRAP)や蛍光相関分光法(Fluorescence Correlation Spectroscopy; FCS)のような「定点計測アプローチ」では,蛍光強度の変化を定常座標で測定し,それを用いて観察体積中の細胞膜分子の拡散速度を見積もる.FRAPでは,まず蛍光標識した標的分子を細胞膜上の特定の領域でフォトブリーチさせる.蛍光の回復時間,すなわち,ブリーチされていない蛍光分子がブリーチ領域に拡散で入ってくるのに必要な時間から,これらの蛍光分子の拡散係数が推定され,細胞膜上の特定の場所での標的分子の拡散や,細胞膜ドメインの構成分子がドメイン内外で交換する速度が,細胞の状態によってどのように変化するか,などの知見が得られる.FCSは,少数の蛍光分子が対物レンズの焦点体積を出入りする際の,蛍光強度の変動を利用している.この変動から自己相関関数を得て,それ自身を時間的にシフトさせた複製と相関させることで,蛍光標識分子の分子量と濃度,拡散係数を推定できる.このFCSの焦点体積を段階的に変化させて,見かけの拡散係数との相関を調べるspot variation FCS7),STED-FCS8)などを利用して,分子種,空間スケール依存的な拡散制御機構の知見が得られている.また,対物レンズの焦点体積の代わりに,共焦点蛍光顕微鏡,あるいは高感度カメラの画像を入力とし,画素単位の強度の変動をもとにした空間的,時間的な相関を得る画像相関分光法(Image Correlation Spectroscopy; ICS)9)は,1点のみの定点計測では不可能な,拡散係数や細胞膜分子の会合体/オリゴマーの空間・時間分布のマッピングに利用される.FRAPとFCSで得られる拡散係数は,装置や蛍光プローブの特性,測定中のフォトブリーチ,また,推定に利用する拡散運動のモデル式に大きく依存するので,適切に条件を設定する必要がある.FRAPは0.1秒-数10秒の長時間スケールの側方拡散を対象とするのに対して,FCSは原理上ミリ秒-0.1秒スケールの側方拡散の推定を基本とするので,併用,もしくは目的によって使い分ける必要がある.

FRAPとFCSでは,定常座標における多数の細胞膜分子の拡散の平均化された振る舞いを検出できるが,個々の分子の運動様式とそのバリエーションに関する情報は得られない.一方,「座標追跡アプローチ」は,同じ分子からの時間的に連続した局在を軌跡として得ることにより,1分子運動の追跡を可能にする.1分子毎の拡散係数を決めるだけでなく,運動様式の統計的な分類により,分子間のバリエーションや,観察中の1分子の運動変化も検出することができる,最も直接的で効果的なアプローチである.座標追跡アプローチは,点像分布関数(Point Spread Function; PSF)局在化法と,変調強化局在化(modulation enhanced localization)法の2つに大別できる.「PSF局在化法」では,まず,金コロイドなどの金属微粒子をプローブとした1粒子追跡(Single Particle Tracking; SPT)法が1990年代に実用化された10).細胞膜分子を粒子で標識し,粒子の明視野像や干渉像を解析してその座標をナノメートル精度で推定する.量子ドットの蛍光像も利用される.その後,全反射蛍光顕微鏡法などの局所照明技術の開発と高感度カメラの性能の改善とともに,微粒子の代わりに蛍光分子をプローブとする1蛍光分子イメージ(Single Fluorescent-Molecule Imaging; SFMI)法11)が実用化された.2000年に生細胞上でのEGF受容体の拡散運動の観察と1分子FRETによるダイマー形成の検出が報告された12)のに始まり,現在では細胞膜分子の1分子運動計測の標準的な技術となっている.この技術を発展させたPALM,STORM,PAINTなどの1分子局在化顕微鏡法(Single-Molecule Localization Microscopy; SMLM)13)と同様に,点光源の回折限界像の中心位置を推定するため,その位置決め精度はPSFあたりの光子数に依存する.一方,MINFLUX(MINimal photon FLUX),SIMPLE,SIMFLUXなどの,「変調強化局在化法」14)と総称される技術は,超解像蛍光顕微鏡法15)のSTEDやSIMで利用される空間的に構造化された照明パターンで,対象の蛍光分子の近傍を高速でスキャンしたときの蛍光強度の変調を解析して,検出される光子がより少ない位置を探すことで1蛍光分子の位置決めをおこなうため,SFMI法より必要な光子数がずっと少ない.

MINFLUXの場合,in vitroや固定細胞上では1-2 nmの精度で局在化できるが,人工膜や生細胞中で拡散する分子に対しては精度が20-50 nm程度に限られ,PSFベースのSFMI法に近い.少ない光子で局在化できるので,追跡の時間分解能は0.1 ms程度と標準的なSFMI法の100倍以上高速であり,ブリーチまでにSFMI法(10-100ステップ)の10倍程度長い軌跡(100-1000ステップ)が得られる16),17)という利点がある.一方で,1分子ずつしか追跡できず,信号のより少ない位置を探すという原理から,細胞の自家蛍光をはじめとした背景からの信号が追跡精度に大きく影響するという問題がある.それに対して,SFMI法はカメラ視野内の全ての分子を追跡できるのに加えて,多色同時観察による分子間相互作用の検出が容易と,測定の並列性が高い利点がある.しかし,SFMI法での時間分解能の限界に関しては,これまで生細胞観察における実用的な条件での厳密な検証がなされていなかった.

3.  超速1粒子追跡法で見出した細胞膜の仕切り

分子間相互作用や拡散運動の計測技術の発展により,10 nmを超えて100 nm程度までの空間スケールでは,脂質ラフトドメイン(図1のラフト)18),19)や,受容体分子のダイマー/オリゴマーに代表される動的膜タンパク質複合体(図1のシグナル受容体会合体,シグナル分子複合体)20),21)が,細胞膜の単位機能ドメインの役割を果たし,分子の局在化を制御していることが分かってきた.しかし,それを超えた長距離の拡散制御や,細胞極性の維持には,細胞外マトリックスとの結合や,細胞質側における,いわゆる細胞膜裏打ち構造との相互作用が不可欠である.図2Aは細胞膜を細胞質側から見た電子顕微鏡像で,「膜骨格」と呼ばれる,細胞膜に近接して重層した裏打ち構造のメッシュワークが存在する22).左下の拡大図に示す5.5 nm周期の縞模様はアクチン線維の特徴であり,膜骨格が主にアクチン線維で構成されることを示している.

図2

A.細胞膜を細胞質側から観察した急速凍結-ディープエッチ電子顕微鏡像.文献22のFig.2を改変して再掲.B.細胞膜分子の拡散運動を制御する細胞膜の仕切り.

我々は以前,このアクチン膜骨格による仕切りの効果が細胞膜分子の運動と機能の制御に果たす役割を調べるため,直径40 nmの金コロイド標識によるSPT法で,超速1分子運動追跡をおこなった23).仕切りの効果を検出するための鍵は時間分解能で,直径100 nmの領域を5 μm2/sで自由拡散する分子は,平均0.5 msでその境界に達するため,少なくとも時間分解能0.1 ms(10 kHz)で追跡しないと仕切り中の閉じ込めが平均化されてしまい,効果が見えなくなる.金コロイド標識の明視野観察では時間分解能25 μs(40 kHz)を達成し,仕切りの中にしばらくの間運動が閉じ込められ,時々隣り合ったコンパートメントへの移動を繰り返して長距離の運動をおこなう,「ホップ拡散」を見出した.

また,その閉じ込めは,アクチン膜骨格の仕切りと膜貫通型タンパク質の細胞質領域がぶつかることによる「フェンス」効果と,フェンスに沿って立ち並んだ膜貫通型タンパク質が,脂質分子に対しても拡散障壁としてはたらく「ピケット」効果によって起こる,というモデルを示した.モデルの模式図を図2Bに示す.

超速観察が可能な一方で,SPT法では金コロイド粒子のサイズが標的分子に対して大きいため,複数の標的分子の結合によるクロスリンクが拡散運動に影響する可能性と,細胞外マトリックスと粒子が衝突することによる立体障害の効果を常に考慮する必要があった.また,一度に一種類の分子しか観察できず,分子間相互作用の検出には利用できない.これらの問題を解決するため,標的分子より小さい蛍光分子をプローブとするSFMI法での超速1分子運動追跡の実現と,これまで厳密な評価がなされていなかった生細胞SFMI法での時間分解能の限界の検証に取り組んだ.

4.  超速1蛍光分子観察の限界に挑む

1個の蛍光分子で標識した細胞膜分子を検出し,その拡散運動を時間分解能0.1 ms以上(10 kHz以上)で追跡できる,1分子感度・超速カメラシステムの開発をおこなった24).市販の科学研究用高感度カメラのEM-CCD,sCMOSカメラでは,数10個以上の分子を同時に撮影するのに現実的な画像サイズ(256 × 256画素以上)での時間分解能は1 ms(1 kHz)程度が限界である.そこで,産業用途(燃焼/衝突/材料試験など)の,仕様上は100 kHz以上の撮影が可能なCMOSカメラをベースとし,株式会社フォトロンと共同開発をおこなった.フレームあたりの光子数が限られる超速観察における最大の問題は,蓄積した光電子を各画素から読み出す際に生じるノイズ(読み出しノイズ)に信号が埋もれてしまうことである.sCMOSカメラはこのノイズを抑えるためにローリングシャッターと呼ばれる時間差読み出し方式を採用しているが,ノイズを抑えるための回路設計により撮影速度を犠牲にしている.一方,産業用CMOSカメラは,全ての画素を100 kHz以上のレートで同時に読み出し可能なグローバルシャッターを採用しているが,蓄積光電子のリセットに伴う読み出しノイズがsCMOSの数10倍高いため,そのままではSFMI法には使用できない.

開発した超速カメラシステムでは,図3に示すように,GaAsPイメージインテンシファイアを光ファイバー束でCMOSセンサーにカップルし,光電面への入力信号(1蛍光分子からの信号+光学系,生細胞試料からの背景信号)を,読み出しノイズが無視できるまで増幅した.約8,000倍の増幅により,画像上で90%以上の1光子由来の光電子の信号の認識が可能であった.なお,sCMOSセンサーの量子効率が前面照射で70%,背面照射で90%程度であるのに対し,開発したカメラのGaAsP光電面の量子効率は40%程度に限られる.また,増幅は確率的プロセスであるため,1光子由来の増幅光電子数の変動は,過剰雑音(excess noise)と呼ばれる1.2~1.4倍程度の位置決め精度の低下を伴う.すなわち,「位置決め精度」とのトレードオフで,通常の科学研究用カメラでは不可能な「時間分解能」での1分子検出を達成したことになる.

図3

開発した超速カメラシステムの外観と構成の概略図.

次に,信号強度と光安定性に優れるとされ,SFMI法でよく利用される8種の蛍光色素について,フレーム時間0.1 ms以下での検出光子数を評価した.図4に示すように,励起レーザー強度を上げるにつれて検出光子数は増加するが,暗状態である励起三重項を経由した緩和過程(マイクロ秒〜分のオーダー)の割合が増加するため,得られる光子数は飽和状態に達する.すなわち,1個の蛍光分子から単位時間に得られる光子数には限界があり,暗状態への遷移確率が低い色素を選定する必要がある.検討した市販の色素中で,最も飽和しにくかった色素はCy3で,フレーム時間0.1 ms(10 kHz)では約100光子が検出されて位置決め精度は20 nm,フレーム時間0.033 ms(30 kHz)では約40光子が検出されて位置決め精度は34 nmであった.

図4

カバーガラス固定色素でのフレームあたりの1分子からの検出フォトン数と励起レーザー強度の関係.●は全反射照明,○は斜光照明の場合を示す.文献24のFig. S3Aの再掲.

この超速カメラシステムの開発で,SFMI法での究極速度は,装置ではなく,蛍光色素の励起と発光の効率で決まることとなった.生細胞観察における実用的な条件では位置決め精度が30-50 nmで,現在はCy3を用いた時間分解能0.033 ms(30 kHz;通常のビデオ速度の1,000倍)が1蛍光色素による生細胞SFMI法での究極速度となる.Cy3を平均5個結合しているリガンドによる標識では,フレーム時間0.022 ms(45 kHz)での1分子追跡が可能であった.カメラ自体は100 kHz以上の撮影が可能であり,より信号強度に優れた色素が開発されれば,さらなる時間分解能の向上が期待できる.ブリーチまでの観察可能フレーム数は,0.1 ms時間分解能において,100フレーム以上の軌跡が全体の14%,300フレーム以上が3%であった.

5.  細胞膜の仕切りの検証

開発した1分子感度超速カメラシステムにより,ヒト上皮T24細胞アピカル側(上面側)細胞膜でのリン脂質アナログ(Cy3-DOPE)と膜貫通型タンパク質(Cy3リガンド標識トランスフェリン受容体;Cy3-TfR)の超速1蛍光分子観察をおこなった(図5A24).ともに,1分子運動は自由拡散からかけ離れた「ホップ拡散」を示し,仕切りのサイズは,金コロイド粒子による測定と同様,約100 nmであることが示された(図5B).

図5

A.0.1 ms時間分解能で観察したリン脂質(Cy3-DOPE)の10 ms毎の1分子像のスナップショットと軌跡.B.リン脂質(Cy3-DOPE;0.1 ms分解能)と膜貫通型タンパク質(Cy3-TfR;0.167 ms分解能)の典型的な軌跡.文献24のFig.3を改変して再掲.

コンパートメントあたりの滞在時間の時定数はリン脂質で9 ms,TfRで23 msであり,同じ分子ではアピカル側とベーサル側(底面側)で仕切りのサイズと滞在時間に有意差はないことが明らかになった.今回,サイズが1 nm程度の蛍光プローブでも検出されたことから,「ホップ拡散」は金コロイド標識によるアーティファクトではなく,アクチン膜骨格による細胞膜の仕切りが100 nmを超える空間スケールでの基本的な拡散運動制御機構であることが示された.この細胞膜の仕切りを第1階層,仕切りの中の脂質ラフトドメインと動的膜タンパク質複合体をそれぞれ第2階層,第3階層と考えると,細胞膜の基本的な構造と機能制御は,これら3種のメゾスケール階層構造の協働作用に単純化して理解できることを我々は提案している25)

6.  SMLM(PALM, dSTORM)の超速化と生細胞への応用

1分子毎の局在を点描して画像を得るSMLMは,STEDと並んで空間分解能が高い超解像法である.画像の取得を主な目的とするSTEDとは異なり,SMLMでは1分子毎の局在の情報を持つという利点を活かして,分子分布パターン解析,セグメント化,クラスター解析,分子数のカウント,分子レベルの共局在をはじめとした,様々な定量解析が可能である26).一方,超解像画像の再構成に必要な1分子像(典型的には10,000フレーム)の取得に時間がかかるのが問題で,通常のビデオ速度(30 Hz)では5分以上かかることになり,刻々と変化する生細胞の観察は困難であった.

そこで,開発した超速カメラシステムをSMLMに応用し,PALMとdSTORMのデータ取得時間を100-1,000倍短縮することを目指した.しかしながら,装置が十分に高速でも,点描のための蛍光プローブの明滅速度が高速化の限界となった.蛍光タンパク質mEos3.2によるPALMと,ブリンキング色素HMSiRによるdSTORMでは,局在化1回に相当する明状態が2 ms程度までしか短縮できず,撮影の高速化は1 ms/フレーム(1 kHz)が限界であった.それでも,超速カメラシステムを用いると,データ取得時間が従来の5-10分から10秒程度に短縮された.このシステムにより,10秒程度の時間スケールでゆっくりと変化するような構造体については,生細胞中でのSMLMが実現している27).明滅速度が速い蛍光プローブが開発されれば,通常のビデオ速度でのSMLMも可能になるであろう.

図6は,接着斑(focal adhesion)を,構成分子のパキシリンをマーカーとして10秒間で生細胞PALM観察した例を示す.接着斑は,細胞運動の足場となるミクロンスケールの細胞膜ドメインである.ボロノイ分割(Voronoï tessellation)を利用したクラスター解析28)により,接着斑(下段右端の図の赤色の輪郭)と,内部のナノスケール群島構造(緑色の輪郭)が検出された.

図6

mEos3.2融合パキシリンを発現したT24細胞のほぼ全体にわたる領域(35 × 35 μm)で得た,接着斑の回折限界像(上段)と超解像PALM画像(下段).文献27のFig.4を改変して再掲.

1分子位置決め精度を考慮すると,パキシリン標識された各々の島の直径は約30 nmであることが示された.野生型の細胞での島あたりの分子数の見積りには,標識分子と非標識内在性分子の発現量の比,プローブ発光効率(蛍光タンパク質の場合は光変換効率,蛍光色素の場合はラベル率),ブリンキングによる同一プローブの繰り返し検出,などの要因を注意深く評価する必要がある.そこで,各パキシリンの島にあるパキシリンの分子数を,蛍光タンパク質mEos3.2によるPALMとブリンキング色素HMSiRによるdSTORMで別々に見積もった.両者とも,野生型の細胞に換算して島あたり約30分子という結果が得られた27)

7.  仕切りを足場にした接着斑ユニット群島構造

超解像PALM/dSTORM 2色同時観察により,接着斑構成分子パキシリン,タリン,FAK,ビンキュリンは,それぞれ直径約30 nmの島を作ること,さらに,これらの島が直径約300 nmの領域にゆるやかに集合することが示され,接着斑の構造が階層的に組織化されていることが明らかになった(図7図8右).また,この群島構造は10秒程度のタイムスケールで刻々と再編成されることから,接着斑における力応答の機能ユニットの役割を果たす可能性が示された27)

図7

接着斑構成分子のPALM/dSTORM 2色同時観察(図ではパキシリン/タリン)と,島中で検出された分子局在の自己相関/相互相関解析(指数減少関数の相関距離x2からクラスター直径を推定)から,30 nmの島が300 nmの領域にゆるやかに集まったユニット群島構造モデルが得られた.文献27のFig.6を改変して再掲.

図8

接着斑の境界(黄)におけるトランスフェリン受容体(0.167 ms分解能)の軌跡と,膜骨格の仕切りを足場にした接着斑ユニット群島構造のモデル図.文献27のFig.8を改変して再掲.

接着斑の構造と機能はアクチン膜骨格の仕切りに制御を受けているだろうか? 接着斑には直接関係ないTfRの運動を時間分解能0.167 ms(6 kHz)で追跡したところ,接着斑の内外を拡散で出入りし,接着斑の内部でもホップ拡散で移動することが分かった(図8左).内部の仕切りのサイズ(74 nm)は外部(110 nm)に比べて小さく,区画あたりの滞在時間(36 ms)は外部(24 ms)に比べて長い.内部でホップの頻度が低下する理由としては,接着斑構成タンパク質の島と,島を作るに至らないオリゴマーが,網目の細かい仕切りに結合して,拡散障壁となっている可能性が考えられる(図8右).接着斑における代表的な接着分子インテグリンの場合は,接着斑内部までホップ拡散で入り,ユニット群島構造上で拡散を停止する(停留時間はミリ秒-数10秒まで幅広い)ことが分かった27)

以上の結果より,各々の島は接着斑内で均一に分布しておらず,アクチン膜骨格の仕切りを足場としてゆるやかに集まり,300 nm程度のユニット群島構造を形成していると考えられる.島の間の隙間は仕切りの入った2次元の液体であり,構成分子がユニット群島内外の拡散,および,接着斑内外の拡散による出入りで交換可能な接着斑の構造により,外部の刺激に応じて急速に接着斑を再編成して細胞運動を制御できる可能性を示している.

8.  今後の展望

提唱から50年を経過した流動モザイクモデルのアップデートは,我々のメゾスケール階層構造の概念を含め,Nicolson自身による2022年の総説29)に詳しい.最近でも,Gタンパク質共役受容体の局所的な濃縮/排除が曲率1 μm–1以下の浅い細胞膜の湾曲とエネルギー的に共役するというモデル30),天然変性領域に富む構成分子が液液相分離の効果で細胞膜ドメインの形成と機能制御に関与するモデル,アクチン線維以外の中間径フィラメントと微小管も細胞膜に近接して存在し,3種の細胞骨格が協調して細胞膜ドメインの機能を制御するモデルなど,新たな概念が次々と提案されている.本稿で解説した計測技術による動的な知見だけでなく,近年急速に発展してきたクライオ電子顕微鏡による分子レベルの構造の知見も加えて,細胞膜の理解が継続して進むことが期待される.

接着斑で示された,膜骨格の仕切りを足場にしたユニット群島構造は,接着斑以外の細胞-細胞/細胞-基質間接着構造(シナプス,アドへレンスジャンクション,デスモソームなど)でも共通している可能性がある.複数種の1分子毎の運動を同時に追跡し,超解像分解能での細胞膜ドメインの構造とその構成分子の出入りを検出できる生細胞超速1分子観察法により,今後も細胞膜の構造と機能の解明に貢献したいと考えている.

文献
Biographies

藤原敬宏(ふじわら たかひろ)

京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点特定准教授

楠見明弘(くすみ あきひろ)

沖縄科学技術大学院大学膜協同性ユニット教授

 
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