2025 Volume 65 Issue 1 Pages 54
2024年,約50年ぶりに日本で開催されたIUPAB国際会議は,生物物理学の最前線の研究が集結し,活発な議論が繰り広げられる場となりました.本号では,従来の研究総説や若手研究者によるトピックス解説に加えて,50年前の第6回IUPAB国際会議と今回の会議を比較した報告記事や,生物物理学の50年後を語る座談会の内容を特集しており,生物物理学の過去,現在,そして未来を考えるきっかけとなる内容となっています.
物理学は,自然界の現象を統一的な法則で説明し,一つの真理を追求する学問です.一方で,生物学は,生命の多様性を観察し,その豊かさを理解することを目指します.生物物理学の魅力の一つは,このように対照的なアプローチを融合させ,両者の力を引き出している点にあるといえるでしょう.例えば,DNAシーケンサーや1細胞解析といった技術は,生物学的なニーズと物理学的な実現可能性が交わることで生まれた成果といえるのではと思います.
座談会では,AIの台頭について活発に議論が行われました.AIは,膨大なデータからパターンを抽出して統一的なモデルを構築できる一方で,生物の多様性を記述することもできます.かつてのAIは,結果を示すだけでプロセスがブラックボックスとされることが多かったものの,現在ではその過程を解明する手法が進化し,未知の入力に柔軟に対応する能力も向上しています.このためAIの活用は,今後の生物物理学において本質的なものとなることは想像に難くないように思います.
生物物理学は,「生物」と「物理」という一見相反する分野をつなげる学問です.その柔軟性と先駆性は,サイエンスにおけるパラダイムシフトを促し,未来の科学の方向性を示す重要な役割を果たしています.これからも,この学問が切り開く可能性を皆さまと共有し,共にその魅力を深めていけることを願っています.