Seibutsu Butsuri
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Prediction of Protein Phase Separation Based on Heteropolymer Interactions
Kyosuke ADACHIKyogo KAWAGUCHI
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2025 Volume 65 Issue 5 Pages 252-254

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Abstract

タンパク質の液液相分離は,核小体などの膜のない細胞小器官の形成原理として提案されており,その主要な駆動力は天然変性領域のアミノ酸残基間の相互作用だと考えられている.本研究では,天然変性領域のポリマーモデルの計算機実験と理論的解析により,相分離のしやすさや相分離液滴の共存状態を決定するアミノ酸配列のルールを明らかにした.

1.  細胞内のタンパク質相分離

細胞は生命の基本単位であり,その内部では,DNA・RNA・タンパク質といった数千種類以上の分子が複雑に相互作用している.これらの分子は,細胞内でランダムに分布しているのではなく,大まかな機能ごとに集まって存在している.このような細胞内の区画化は,細胞の生命活動を支える上で不可欠な要素であり,多種多様な細胞機能を生み出すための基盤となっている.

細胞内の各区画は細胞小器官と呼ばれており,ミトコンドリアや小胞体のような脂質膜で囲まれた細胞小器官のみならず,核小体やストレス顆粒のような膜を持たない細胞小器官も多数存在することが知られている.このような膜を持たない細胞小器官はタンパク質液滴とも呼ばれ,液液相分離という物理現象によって形成されていることが近年明らかになってきた1).液液相分離とは,水と油の分離のように,複数の液体成分が混ざり合わずに自発的に分かれて異なる相を形成する現象である.細胞内では,多数のタンパク質がより集まり,液滴のような状態を形成する.この液滴が細胞小器官としてはたらき,特定のタンパク質やRNAを選択的に濃縮したり,細胞内の反応の場を提供したりすることで,さまざまな細胞機能を制御していると考えられている2)

タンパク質は,アミノ酸が鎖状に結合した高分子であり,その構造は,αヘリックスやβシートなどの二次構造やそれがさらに折りたたまれた三次構造をとる部分と,特定の構造をとらない天然変性領域(Intrinsically Disordered Region, IDR)に分けられる.複数のタンパク質のIDR同士が弱く相互作用し,お互いに引きつけ合うことで細胞内のタンパク質液滴が形成されると考えられている.IDR内のどのようなアミノ酸配列が相互作用することで相分離が起こるのかという問題は実験と理論の両面から研究されており,相分離状態を決定するアミノ酸配列のルールは相分離の“molecular grammar”(分子文法)とも呼ばれている3).実験側からは精製タンパク質を用いたin vitro実験やIDRの変異体を用いた細胞実験などが行われている4).一方,理論側からはIDRに含まれる一アミノ酸を一粒子とみなした粗視化ポリマーモデルの分子動力学シミュレーションなどが行われており,相分離を特徴づける飽和濃度などの量がin vitro実験の結果と定量的に比較可能になってきている5)

我々の研究では,IDRを異なる種類のアミノ酸からなるヘテロポリマーと考え,ポリマー間の相互作用を単純計算で見積もる手法を考案することで,in vitro環境におけるタンパク質の相分離しやすさや相分離液滴の共存状態を予測する理論的枠組みを構築した6)

2.  相分離しやすさを決定するアミノ酸配列の情報

まず,ヒトタンパク質に含まれる200種類以上のIDRのアミノ酸配列を対象に,ポリマーモデルの分子動力学シミュレーションを行った(図1).分子動力学シミュレーションは,原子や分子の運動を計算機上で追跡する手法であり,ここではIDRポリマーの運動を粗視化シミュレーションにより計算した7).特に,IDRの相分離しやすさの指標として相分離し始める温度(臨界温度)を調べたところ,臨界温度はアミノ酸の組成に加えて並び順にも依存することがわかった.

図1

IDRポリマーの相分離のシミュレーション.200種類以上のIDRのアミノ酸配列をヒト細胞データベースから選び,各配列に対してポリマーモデルのシミュレーションを行った.右下の画像は二種のポリマーが集合してできた液滴のスナップショット.

次に,シミュレーションの結果を説明および予測するために,IDR間の相互作用をアミノ酸配列から計算する方法を提案した(図2).まず最も単純な方法として,IDRに含まれる全てのアミノ酸の相互作用を足し合わせることで,IDR間の相互作用を近似した.具体的には,アミノ酸の相互作用とは(第二)ビリアル係数を指し,ポリマーモデルの相互作用ポテンシャル関数に基づいて簡単な数値積分で計算できる.その和がIDR間のビリアル係数を近似的に表すと考え,ビリアル係数がちょうどゼロになる温度(ボイル温度)をもとに臨界温度を算出した.この方法を使うと,アミノ酸の並び順は無視されるものの,大まかには臨界温度を予測できることがわかった.さらに,アミノ酸の並び順も考慮するため,隣り合うアミノ酸ペアの間の相互作用(ビリアル係数)に基づく近似を用いると,臨界温度の予測精度が向上した.以上の結果から,タンパク質の相分離しやすさの大部分は,アミノ酸の組成や隣接アミノ酸ペアの組成といった比較的単純な情報によって決定されていることがわかった.

図2

相互作用の近似法.IDR配列間の相互作用をアミノ酸間の相互作用に分解する方法(左)とアミノ酸ペア間の相互作用に分解する方法(右)を考えた.

3.  共存可能な相分離液滴のアミノ酸配列の分類

上述の近似法を応用し,異なる種類のタンパク質液滴が混合するのか,それとも混ざり合わずに共存するのかをアミノ酸配列に基づき予測する方法を考案した.もし異種のIDR間の相互作用が同種のIDR間の相互作用に比べて弱ければ,それぞれの液滴は混ざり合わず,異なる相を形成して共存できると考えられる.そこで,IDRポリマー間の相互作用を計算して液滴の共存が可能となるタンパク質配列の組み合わせを予測し,シミュレーションによる検証を行った.

さらに,相互作用の詳細な解析を行うことで,共存可能なタンパク質液滴はアミノ酸配列の特徴に基づいて三種類のタイプに分類できることがわかった(図3).第一のタイプは,荷電アミノ酸を多く含む配列である.このタイプのタンパク質は,プラスやマイナスの電荷を帯びたアミノ酸を多く含んでおり,静電相互作用によって相分離を起こす.第二のタイプは,芳香族アミノ酸を多く含む配列である.このタイプのタンパク質は,ベンゼン環のような構造を持つアミノ酸を多く含んでおり,π-π相互作用によって相分離する.π-π相互作用は,芳香族アミノ酸同士が接近した際にはたらく比較的強い相互作用で,タンパク質の相分離を促進する.第三のタイプは,上記二つ以外の特徴を持つアミノ酸を多く含む配列である.このタイプは,疎水性や極性などの特徴を持つアミノ酸を起源として相分離する.これらのタイプの配列は天然に存在するIDRでも見つかっており,IDR配列のタイプと細胞機能の関係も研究が進められている4),8)

図3

共存可能な液滴のアミノ酸配列の分類.異なるタイプ(例えば荷電アミノ酸を多く含む配列1とその他のアミノ酸を多く含む配列3)の液滴は混ざり合わずに共存できるが,同じタイプ(例えば荷電アミノ酸を多く含む配列1と配列2)の液滴は混ざり合う.

以上の結果から,新たなタンパク質液滴を形成するためには,既存のタイプとは異なるアミノ酸配列,すなわち,異なる物理的性質を持つ配列を用いる必要があることがわかる.また,アミノ酸の相互作用の大まかな分類に基づいて液滴のタイプも分類され,共存可能な液滴の多様性には上限があることが示唆される.実際,ヒトタンパク質のIDR配列を用いた粗視化シミュレーションによる探索では,三種類の異なるIDR配列の共存状態は実現できたが,四種類で実現する組み合わせは見つけることができなかった.

4.  今後の展望

本研究では,タンパク質を構成するIDRのアミノ酸配列に基づいて,in vitro環境におけるタンパク質液滴の形成や共存状態を予測する理論的枠組みを構築した.この枠組みはin vitro実験における相分離状態の説明や予測に応用できるだけでなく,細胞内環境のような複雑な状況においても,大規模な実験データと理論予測をすり合わせることで,より正確なポリマーモデルの力場やパラメータを構築できるようになる.

細胞内には,タンパク質だけでなくRNAやATPなどさまざまな分子が存在している.これらの分子はアミノ酸同士の相互作用とは異なるタイプの相互作用をすることでタンパク質液滴の多様性を高めている可能性がある.実際,RNAとタンパク質の相互作用を駆動力として形成されていると考えられる液滴も見つかっており9),RNAとの相互作用を考慮したときに液滴のタイプの分類がどう変わるのかは興味深い問題である.

また,疾患と関連するアミノ酸変異によってIDRの液滴が線維化・固体化する例も知られている10).液液相分離以外の状態も含めた包括的なタンパク質相図の予測理論を構築していくことも,今後の重要課題である.

文献
Biographies

足立景亮(あだち きょうすけ)

理化学研究所数理創造研究センター・開拓研究所研究員

川口喬吾(かわぐち きょうご)

理化学研究所開拓研究所主任研究員,東京大学大学院理学系研究科知の物理学研究センター准教授

 
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