Seibutsu Butsuri
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Letters from Abroad
Japan, China, and Then to France
Airi N. KATO
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2026 Volume 66 Issue 2 Pages 129-130

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はじめに

私は2023年9月よりフランスの南西部にあるボルドー大学のLOMA(Laboratoire Ondes et Matière d’Aquitaine; laboratory of wave and material in Aquitaine)というラボでポスドクをして,このたび本帰国しました.2026年4月より明治大学総合数理学部にて特任講師に着任予定です.帰国前後に執筆の機会をいただいたため,ここではその研究環境などを紹介します.私はボルドーに来る前,中国の国科温州研究院(好村滋行先生の海外だよりを参照1)でポスドクをしていました(2021-2023).その後半に,次のポスドクを今度は欧米圏のどこかでしたいという思いがつのりました.そこで,自分の研究の興味の核心をつく論文の著者たち何人かに連絡をとった結果,幸運にも今のボスであるハミッド・ケレー(Hamid Kellay)さんからオファーをいただき,日本で繋ぎの短期ポスドクを経てこちらに来ています.興味ど真ん中の論文というのは,アクティブマターの実験で,界面が関わる現象や変形可能な閉じ込めを用いた研究です.実際に希望通りのテーマで存分に研究でき,幸運に感じています.

「研究室」LOMA

そもそも,ボルドー大学で「理工学部物理学科」といえば教育のための組織であり,大学そしてフランス国立科学研究センター(CNRS)に所属するラボこそが研究の母体です.ボルドー大学内だけでも多数あり,その一つのLOMAというラボに属しています.日本でいう研究室の規模ではなく,LOMAの中に理論,フォトニクス,ソフトマター・生物物理の3チームがあり,理論には16人のテニュア研究者,他2チームの中にまた各々4,5のグループがあり,そのグループが日本の研究室規模と言えるかもしれません.ラボで計45人もテニュア研究者がいる中,エンジニア(技官),博士課程の学生とポスドク,修士以前のインターン生(修士は正式な所属ではない)というメンバーで一つの建物で過ごしています.セミナーやイベントも,毎週木曜日の公式おやつ(!)もラボ単位で行うため,グループの中で閉じずに,立場を問わずLOMAの人々全体で日々交流できているのがとても楽しいです.必ずしもグループメンバーの研究内容が私の研究内容と近いわけではなく,実際,私がほぼ人工系のアクティブマターをやっている中,グループの他のメンバーは乱流や雪崩の研究をしているいっぽう,他グループで分野としては近いことをやっている人も多数いました.ラボ全体のテーマとしては液晶・生体膜などからフォトニクス,量子解放系,強相関系物理など多岐にわたります.理論・シミュレーションの方々とも気軽に議論させてもらえるのも良い点です.これは来る前は意識していませんでしたが,大学だけでなくCNRS雇用の存在によってテニュア比率が多く,例えば所属グループ8人中4人がテニュアで,PIでないテニュアメンバーが多くの短期インターン学生をメンターするなど,うまく仕事の分散をしている印象をうけました.

現在の私のボスとはラボに加わる前にはZoomで一回話しただけで,ほぼ研究の興味の方向性だけで決めたところがありますが,広く関連分野のバックグラウンドがあるのはもちろん,いつも協力的で,とても明るくポジティブな人です.ラボ全体の副ディレクターだったりなど(私が普段意識していないだけで)高い立場にあるはずですが,LOMAのテニュアメンバー全体で一人だけオフィスを持たずに実験室の中にオフィスを構えており,いつでも話しかけやすいです.ボスがある日,「自分は博士学生+ポスドク合わせて3人までと決めている.それ以上はきちんと内容までみきれないから.」と言っており,確かにこの人数だからこそこんなに日々議論する時間をとってもらえているのだと納得しました.学生や私の実験をサポートするのとは別に,自分で実験もしています.そういう環境を手に入れることが将来可能かはわかりませんが,こういう科学者でありたいと思いました.

ボルドーの研究環境

来る前は,ボルドーは地方都市だし,パリのような研究者がどこからともなくやってくるような刺激はなく,フランス全体か欧州で将来の共同研究者が見つけられたらいいなと思っていました.しかし,ラボの中だけでも関連分野の人が多数おり,ゲストもよく来るのに加えて,ボルドーだけでもソフトマター関連分野の人口がかなり多いことに気づきました.私個人はCRPP(The Paul Pascal Research Center)という少し生物よりのラボに時々お邪魔させてもらうなどしていましたが,ローカル研究会でボルドーの他のラボの研究者らと話すことがあったりと,十分すぎるほどに研究者がいます.これは嬉しい誤算でした.いっぽうでパリにあるような日本人研究者コミュニティはなく少し羨ましかったですが,マイノリティ外国人としてなるべく周りに馴染もうと,立場問わずいろんな人と話すようにする,ジャーナルクラブや発表に積極的に名乗りをあげる,そして非英語圏に来た以上は下手でも仏語を話すなどを続け,こういう地道な種まき行動によって,居心地の良さは増加していきました.シャイな人達は外国人だけでかたまったり,共用のコーヒースペースにあまり来ないのですが,いまだに自分が一番英語が下手だしラテン系の陽気さもないのを時々悶々としながらも,自分の従来の枠を超えて過ごしています.

ボルドーでの生活

ボルドーの街自体は外国人学生比率が高いのもあり,必要なら英語は通じやすく,かと言って観光地すぎないのでまずフランス語で話しかけられる環境で,私には良いバランスでした.噂に聞いていた事務手続きの大変さも,コロナ後で電子化されてきたからかスムーズでした.中国での方が圧倒的に事務手続きは大変でした.治安的にも問題がなく,アパートにネズミが出たり,なくしものなどミニトラブルは多々ありますが楽しく過ごせました.同僚とピクニックや飲みに行ったり,旅行に行ったり,フランス語試験を受けたり,日常では楽器を弾いたり,コンサートに行ったり,スカッシュをするなども楽しみました.ボルドーといえば日本人的にはワイン(とカヌレ)ですが,残念ながら周りの人は飲みに行くといえばビールであり,ワインを人と飲んだ機会はそんなになく,数少ない日本人との機会くらいでした.加えて,年中不定期にある博論審査の後,その学生が振る舞う立食パーティー(pot de thèse)でもワインや世界の知らない飲み物や食べ物を食べられて楽しかったです.

グループ(Turbulence and Instabilities group)のメンバーでのフェアウェルディナーにて.右手前がHamid.

日本に帰って研究者として考え続けたいこと

日本の研究者として,研究の進め方や組織の文化などの良いところは制度的に可能な限り取り入れたいと思うと同時に,これからどう日本で国際的に研究のプレゼンスを示していけるのかと考えています.ある欧州の国際会議で,同じような研究が多数あって特定の論文の引用の必然性がない場合,よく引用されるのは欧州コミュニティの研究だとひしひし感じたこともありました.知り合いを引用するのは自然で,ネットワーキングが大事と認めつつも日本の知人の論文について話題にして広めていました.それ以外にも,共同研究の進め方や,どうインパクトのある研究をするかなど,まだ私はちゃんとわからないことが多いですが,この経験を通して確実に多くのことを学びました.

個人的には,中国で感じた人々の論文出版への勢い・ハングリー精神・勤勉さに背中を押され,ヴァカンスで1か月まるまる休みで家族との時間を第一にする文化が根づいているいっぽうで,じっくりと良い仕事をし続けられるフランスの研究者からの刺激を存分に受けて,どちらの良さも胸に刻み込んでこれからも研究していきたいです.

おわりに

今回このような貴重な機会をいただきました「生物物理」編集委員の皆さまに深く感謝申し上げます.また,これまで研究やポジション探しをサポートしていただいた全ての方に感謝いたします.最後に,中国2年+フランス2年3か月にわたる単身海外ポスドクを許し,いつも応援してくれる夫や家族に感謝します.

文献
 
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