石川県農業短期大学研究報告
Online ISSN : 2433-6491
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日本語の主格を表示する助詞の階層的分布
井東 廉介
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1997 年 27 巻 p. 13-26

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抄録

日本語の格を標示するといわれている助詞,ハ・ガ・ノは,これまでの日本語分析の中でそれぞれの最も顕著な文中機能によって分類されてきた。しかし,日本語の統語構造と助詞付加が必ずしも英語のような述語項構造の配列規則や統語機能と整合性を係つものではないことから,これらの助詞分類と普遍文法的方向をめざす統語構造,意味構造の分析とが必ずしも一致していない。日本語では,上代ですでに,起源的に注意を喚起するための強調を意味する助詞「ハ」,「ヲ」がそれぞれ主題・主語,動詞の目的語を表示する用法として定着していたが,同時にこれらの用法を助詞無しで行う方法も平行して存在していた。「ガ」は,「君が代」に見るように,元来属格を表示する助詞だったが,用言に連用成分が連なって構成する日本語の統語構造の最小の基本単位(文または節)の中で,ハとは異なる情報価値を拒う主語を表示する用法として定着してきている。「ノ」は,節の埋め込み構造を含まない関係節の中で「ガ」と平行して主語を表示することができる。また,属格表示の「ノ」で連接され,節と同じ意味価値を持つ名詞句の中で,用言と等価の名詞句(意味論的に述語的機能を内包できるもの)の主語を表示することができる。また,ノよりもさらに原初的格表示として,主題・主語が助詞を付加されないで提示されることや,漢字のみの名詞句羅列表現の中に助詞を付加しないで主語を意味しているものがあることも事実である。これらのことから,日本語の主語機能の表示は特定の助詞が唯一的に行うのではなく,統語構造の階層によって異なる助詞が行うと考えた方が有効である。

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© 1997 石川県公立大学法人石川県立大学
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