植物分類,地理
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故矢部吉禎氏: カハノリの有性生殖
G KOIDZUMI
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1932 年 1 巻 3 号 p. 269-270

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抄録

カハノリ(Prasiola japonica)は下野,上野,駿河,美濃,肥後等の河川の上流,清冽なる急流の岩上に生じ,長さ10-20cm.以上にも達する,葉状の〓藻にして,カハノリ科(Prasiolaceae,又はBlastophoraceae)の一科をなし唯カハノリ屬の一屬を以て成れり,世界に若干種ありて或ものは頗る多形的の性質を示す。カハノリ科は〓藻の Ulotrichales 目中にては Thallus が,うすい葉状體をなし,色素體は星状にして四個づゝ一群をなせる各細胞の中心部に位置すると遊走子を生ぜざるを以て極て特色あるものなり。本科のものは從來無性生殖の外知られざりしが,著者は日光大谷川産のカハノリに就き其有性生殖あるを明にせり,大谷川にては六月の終頃より該藻現れ十一月まで生育するが,長さ10cm.位に達すれば生殖作用をはじめて漸次枯死し翌年の三月になれば一時皆影を〓するに到る。即ちカハノリは雌雄兩性にして, frond を成す或る部分の各細胞は縱横に分裂して16個の Macrogametes を生じ,他の部分の細胞群は同く64個の Microgametes となる,兩 Gametes は勿論二本の等長の鞭毛を有す,接合子は長い間休眠して七月に入り發芽するが著者は其2--4細胞時代まで見届けしのみなり。近來の研究に據れば〓藻には三型あり,其一は Haplobiontic Haplont にして藻は唯 Haplont のみで Diplont は接合子之を代表するもので Volvocales, Stephanocontae, Acontae, Ulothrixx zonata, Cole chaete の類之に屬し,其二は Haplobiontic Diplont で藻體は Diplont にして其 Gonotocont cell の減数分裂によりつゝ直に Gametes を生ずるものにて Cladophora glomerata, Acetabularia, Codium tomentosum 等之に屬す,其三は Diplobiont にして Haplont 世代と Diplont 世代と交互する世代の交番あるもので Chaetomorpha aerea, Ulva lactea, Dasycladus, Monostroma, Enteromorpha intestinalis, Cladophora Suhriana, Cladophora pelucida 等之に屬す,而てカハノリは其何型に屬するか此後の研究を要す。(G. KOIDZUMI).

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© 1932 日本植物分類学会
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