植物分類,地理
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東亜産カヤツリグサ科の分類學的研究 3
小山 鐵夫
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1955 年 16 巻 1 号 p. 5-12

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抄録

7.私は現在印度支那や雲南のカヤツリグサ科を調べて居るので,参考資料として京大所有の臺灣のカヤツリグサ科を拝見した処,此の章に記載したスゲの2種がそれぞれイハスゲ節及びナキリスゲ節の新種であることがわかった.前者は臺灣産のチャイロスゲC. fulvorubescensの系統のものと思われるが,極めて〓澁の稈と無葉片・膜質で短い苞は他に類を見ない(第3圖版R-T).此の美しいスゲの學名は何時も御世話になって居る田川先生に献じたものである.後者はタカサゴフサナキリに似た一種で岡本省吾氏高雄州での採集.共に比較的フロラのわかって居ない山地より發見されたことになる.次に,今迄臺灣の特産として知られて居たダンスゲは早田博士の印度支那採集品を検定して,トンキンからフランシェ氏が報告したCarex tonkinensisと同品であることがわかった.ネルムス氏がC. tonkinensisにあてて居るマレーシア産のスゲは恐らく別物であらうと考へて居る.又クラーク氏のC. perakensisは多分本品の葉の狭い形の様に受取れるが不幸にして未だ基準品を見られないで居る.8.琉球吐〓喇列島中之島から發見されたスゲの新種にフサカンスゲCarex tokarensisの名を下すことにした(第3圖版A-I).コカンスゲ節Decoraeに屬し,臺灣のモリスゲ(第3圖版J-M)に最も近いが,マレーシアなどに分布するC. veriticillataにも大變よく似て居る.大型の圓錐花は著しいものである.この材料をお見せくださった初島博士に厚く御禮申上る.9.今度茲に發表した様な組合せが出版されることになった.一部は今迄にこの様な意見が述べられたものもあって,別に説明の要も無いが,アヲスゲに就て簡単に記して置く.今迄アヲスゲにはC breviculmis R. BR.がよく用ひられたが,豪州やニューギネアに分布するC. breviculmisはネルムス博士が言はれる様に邦産アヲスゲとは果胞が倒卵形でより太い脈を有し短い剛毛を疎生するなどの點で區別できると思はれる.私はアヲスゲに北川博士のご意見の様に北支植物を基準品とするC. leucochlora BUNGEを用ひたい.残念乍ら私は印度品を基準とするC. Royleana NEESを見る事が出来ないが,幸にしてブンゲのC. leucochloraの發表が1833年で,ネースの1834年より一年早いから,印度品が邦産アヲスゲと同じであっても學名の變更は無い.又,茲で取扱ったアヲスゲの變品は極めて著しいもののみである.メアヲスゲ・イトアヲスゲ・ヒメアヲスゲはいづれも細い型でメアヲスゲには葡枝があり,イトアヲスゲは果胞が疎に着き通常雄小穂は小形で,ヒメアヲスゲはメアヲスゲに似て葡枝無く側小穂は殆ど無柄となる.オホアヲスゲは後に記すハマアヲスゲと共にかなりはっきりした一品で葉は廣く硬く(?2年生)果胞も相当に大きい.私は之等を多数栽培比較した結果いづれも別種とは認め難いとの結論となった.之等の中で,果嚢が熟時黄色で強い肋があり,鱗片が比較的落ち易い點で最も明瞭なハマアヲスゲでさへも,典型的と思しき型と他の型との間に中間を生ずる.凡そ同一種内の變異が異種間の差異より遙かに大きい様な植物の好例がアヲスゲである.

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© 1955 日本植物分類学会
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