植物分類,地理
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大阪府大東北ネパール学術調査隊の採集したキンポウゲ科植物
田村 道夫
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1968 年 23 巻 3-4 号 p. 100-108

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抄録

中尾佐助助教授を隊長とした大阪府立大学東北ネパ-ル学術調査隊(1962年)の採集した植物標本のうち,キンポウゲ科のものを同定した.ヒマラヤには,大へん多くのキンポウゲか植物が分布しているが,属の多くは日本と共通である.ここにあげられたもののうちでも,Anemone, Batrachium, Caltha, Clematis, Ranunculus, Thalictrum および Trollius は日本にもあり,ないものは Delphinium, Oxygraphis, Paroxygrphis だけである.しかし,両地域間の共通種となると大へんに少く,ここにあげられているバイカモ(Batrachium trichophyllum)のほか,ハクサンイチゲ(Anemone narcissiflora),エゾノリュウキンカ(Caltha palustris),タガラシ(Ranunculus sceleratus)くらいのものである.これらのうち,タガラシは水田などの雑草として主として北半球の亜熱帯から温帯にかけて分布しており,バイカモは世界各地にかなり広く分布している水草である.エゾノリュウキンカとハクサンイチゲは,周極要素として,北半球の寒帯にかなり広く分布している.日本の植物に近縁なものは,ヒマラヤにはかなりある.ここにあげられている Clematis Buchananiana と C. trullifera は,西日本の暖帯に分布するタカネハンショウズルに近く,ともに Clematis Sect. Connata に属する.Anemone vitifolia はキブネギクや台湾の Anemone matsudae に近く,中井竹之進博士はこれらをまとめて Eriocapitella とし,Anemone より別属として区別した.また,Ranunculus diffusus はキツネノボタンやシマキツネノボタンの仲間に入ると思われる.これらの群は大体において,ヒマラヤ,中国,台湾,日本の暖帯から温帯にかけて分布しており,いわゆる日華区系を特徴ずけるものである.ここにあげられている Ranunculus brotherusi は,ヒマラヤ,中央アジア,中国西部の高山帯に分布しており,八ヶ岳の高山帯に特産する八ヶ岳キンポウゲや北岳の高山帯に特産するキタダケキンポウゲはこれにもっとも近縁である.日本の高山植物は,いくつかの要素に分けることができるが,それらのうち最も多いのは周極要素,またはそれに類縁の強いものである(例えばミツバオウレン).また,日本の山地または低地対応する種をもつ植物も多い(例えばトリカブト類).それらに較べると,ずっと数は少ないが,ヒマラヤや中央アジアの高山帯に近縁種を持つものがあり,これらは日本の高山植物のうちでも古いものと考へられ,分布範囲も局限されていることが多い.ヤツガタケキンポウゲやキタダケキンポウゲのほかに,タカネキンポウゲやキタダケキンポウゲなどもこの例と見做すことができる.台湾の高山や山地の植物には,ヒマラヤに類縁の強い種を持つものが多い.ここにあげられている Clematis montana は,ヒマラヤ,中国,台湾に分布しており,共通種の例である.そのほか,Clematis, Ranunculus, Thalictrum などには,両地域に近縁な種を産する場合がかなりある.

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© 1968 日本植物分類学会
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