植物分類,地理
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ヤブソテツ属における単葉形成過程
光田 重幸
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1977 年 28 巻 4-6 号 p. 131-142

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抄録

維管束植物の葉には,さまざまな形態的差のみならず,いくつかの発展段階としての差もまたあると考えられる.そのうちで最も代表的なものは,複葉から単葉への変化だが,そういう一連の変化に見られる各葉の型の差がどのような過程を経てもたらされたか,という問題は,さしあたっての大きな問題のひとつであろう.この種の問題を現生の植物で跡づけるには,系統的見地から見た同分類群としての詳しい範囲設定が不可欠であり,岩槻 (1962, 1963) や H_<ENNIPMAN> (1977) が実証的方法をとりながらも,なお慎重に判断を保留してきた理由のひとつは,おそらくこの事によるのであろう.ヤブソテツ属は東亜を中心に十余種が知られている小さな属であり,葉形・網状脈の型にも連続的変化が見られる.また,この属がふつう 2 (-3) 回羽状複素で遊離脈をもつイノデ属と密接な系統関係にあることは広く認められている.この種の問題を考えるに適した一群であるとみられるので,ここにとりあげてみた.ヤブソテツ属の範囲設定にあたっては,ほぼ三つの群が関係してくる.そのうちの一つは新太陸産の Phanerophlebia (III図-F) で,葉形はヤブソテツ属によく似ているが,網状脈の型に違いがあり,またエゾデンダ属の葉脈形成 (II図18-25) による跡づけから,両群はイノデ属から平行的に導びかれた疑いがあることが示された.残りの二つは旧大陸産のテンチョウシダ属及びオリズルシダの一群で,前者は羽片の基部に関節状構造をもち,頂羽片が側羽片によって置きかえられるという葉形の差により,後者は楯状に近い鱗片をもち,網状脈形成は偶発的なものであるという差により,ヤブソテツ属と一線を画するものであることが示された.ヤブソテツ属各種の成葉間および幼葉の変化の比較から,以下の相関関係の傾向が指摘される.1. 成葉間で,羽片の数が減ると,羽片は幅広くなる.2. 葉の個体発生変化において,最初の羽片が切り出されるときの主脈 (葉脈) に沿う網目の列が切り出される時の主脈 (葉軸) に沿う網目の列が増すほど,成葉における羽片数は減少する.これら二つの相関関係から,ヤブソテツ属においては,葉の型の変化が属に固有な一連のものであることがほぼ確実に推定される.また,オリズルシダの葉形はヤブソテツ属と比べて,形態的差は少いが,発展段階としては異質のものであことがわかった.

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© 1977 日本植物分類学会
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