植物分類,地理
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ウチワゴケの変異について
鎧 禮子岩槻 邦男
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1977 年 28 巻 4-6 号 p. 152-159

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抄録

ウチワゴケの仲間は変異が大きいので,東南アジアでは幾つかの種に区別されたりしている.これは,葉の全形が,扇状から羽状のものまであり,大きさも,葉面の長さが 1 cm に達しないものから10cmを越えるものまである上に,葉柄や葉軸,更に裂片の上にまで不規則な出芽がみられ,それが発達して,1 単位の葉が何枚かの葉の合成されたもののようにみえることまであったりする (13-17図) ので,変異の実体がなかなか捉え難いということに起因しているように思われる.そこで,分布域全体を対象に,葉面の形や大きさの変異と,出芽による葉面の構成の変異とをそれぞれ比較してみると,それらは厳密には相関していないことが判明した.また,羽状分岐して出芽の多い型は無配生殖を行っているという報告も,胞子の数による予備的な観察からみると,表現形質と無配生殖が必ずしも相伴っていないらしいということから,この仲間に 2 種を認めることも妥当でないようである.ウチワゴケと同じ属に入れられているアフリカやポリネシアのものも同じような手法で比較するまで結論は控えたいが,アジアのウチワゴケは,種以下のランクの区別は可能としても,すべて同一種であると見做したい.

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© 1977 日本植物分類学会
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