植物分類,地理
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ネパール・ヒマラヤで見い出されたイワベンケイ属(ベンケイソウ科)の雑種
大場 秀章秋山 忍ラジバンダリ ケシャブ R.
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1986 年 37 巻 4-6 号 p. 123-127

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抄録

高山帯を主たる生育地とするベンケイソウ科イワベンケイ属には,両性花と雌雄異株の系統がある.イワベンケイ属の花は,虫媒花と考えられるが,高山帯における野外調査中にはほとんど訪花昆虫が観察されなかった.ところで,両性花のものでは,昆虫による花粉の媒介を必要としない自花受粉と無融合生殖の可能性が考えられる.そこで,種間雑種が存在すれば,実際に他家受粉が行なわれている可能性が強く示唆される.したがって,種間雑種の存否は,単にその形質発現の状態だけでなく,同属での繁殖法を明らかにするうえでも興味深いものがある.ここに報告するのは1983年中部ネパ-ルのロルワリン・ヒマ-ンのベディン村で見いだされた雑種であり,Rhodiola amabilis (H. OHBA) H. OHBAとR. Wallichiana (HOOK.) FUがその親と推定される.推定両親種はともに,両性花を生じるモロシベイワベンケイ亜属(Subgen. Crassipedes)に分類され,系統上近縁である.見いだされた個体は一見したところ両種の中間のかたちをしており,調べた多くの形質において確かにおおむね両親種の中間の状態を呈していることが判明した.今まで,イワベンケイ属では,両性花の系統では雑種に関する報告は皆無であるが,雌雄異株の系統から種間雑種ができるという報告があった.しかし,それらの証拠標本を検討した限りでは種間雑種と見做せるものではなかった.したがって,本報告で記載した個体は,現在のところ同属中雑種と推定される唯一のものである.

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© 1986 日本植物分類学会
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