抄録
本論文では,造影3次元腹部X線CT像からCT値の確率分布を解析することにより,肝臓領域を自動抽出する手法について述べる.肝臓のCT値分布は隣接する脾臓や筋肉のCT値分布と非常に類似しているため,単一時相からしきい値処理を用いて肝臓領域を抽出することは困難である.本論文では,早期相と晩期相の2次元ヒストグラムから肝臓,脾臓,筋肉に対応するCT値分布を推定し,肝臓領域抽出に用いるしきい値を自動的に決定する.具体的には,各臓器のCT値分布を正規分布と仮定し,EMアルゴリズムを用いてそれぞれの分布を推定する.推定された分布を用いて,肝臓領域,肝細胞がん領域を抽出することで,肝細胞がんを含む肝臓領域を抽出する.また,肝臓外領域を抽出することで肝臓に隣接する筋肉等への過抽出を抑制し,最後に輪郭を補正し肝臓領域を得る.本手法を早期相,晩期相の3次元腹部X線CT像26例に適用した結果,24例で良好に肝臓領域を抽出することが可能であった.