抄録
薬剤の催奇形性を実験動物によって検査する場合,そこにでてくる種属差をより正確に評価するためのひとつの試みとして,催奇形実験を行なう場合と全く同一の実験条件下でCF#1マウスの妊娠8〜13日,S.D.ラットの妊娠9〜15日および白色ウサギの妊娠8〜16日における正常発生を胚の体節形成前期の発生状態,体節数,眼および前肢の発生などに注目して観察し,各動物種ごとの胚の発生の個体差,発生進度および3種動物間の対応する発生段階を比較検討した.3種動物中,胚の発生の個体差はマウスおよびウサギにおいて著明であった.これら2種動物胚の個体差は母体間のみならず,同腹仔の間にもみとめられ,発生の進んだ胚と遅れた胚の間には約1目の相違があった.しかしラットにおける胚の発生の個体差はマウスおよびウサギほど大きくはなく,発生の進んだ胚と遅れた胚の差は約1/2日であった.3種動物の胚の発生進度は動物種間のみならず,同一動物種においても指標とした器官によって異なった.体節形成からみた胚の発生進度はマウスとラットでは類似しており,いずれの胎令においても定速的であったが,ウサギ胚では器官形成期の前半と後半で胚の発生進度は異なり,前半においてはマウスおよびラット胚の発生進度と類似するが,後半になるとマウスおよびラットの進度より緩慢であった.しかし眼の発生を基準とした場合,胚の発生進度は3種間に相違はなく,かついずれの胎令においても定速的であった.3種動物間の対応する発生段階は指標とした器官により異なった.すなわち体節数を基準とした場合,マウスの8,9,1O,11,12日胚はそれぞれラットの91/2,101/2,111/2,121/2,131/2日胚に,ウサギの71/2,81/2,91/2,11,12日胚に対応し,マウスとラットでは11/2日,ウサギとマウスでは約1/2日の差があり,いずれも前老の方が発生は進んでいた.しかし眼の発生を指標とした結果,マウスの1O,11,12,13日胚はそれぞれラットの111/2,121/2,131/2,141/2日胚に,ウサギの10,12,13日胚に対応し,前肢の発生からみた場合,マウスの10,11,12,13日胚はそれぞれラットの111/2,121/2,131/2,15日胚に,ウサギの11,12,13,15日胚に対応していた.以上であきらかなように3種動物の胚の発生は種属間のみならず,同一種においても個体間,母体間さらに観察する器官により相連があり,それぞれ種特有の発生様相をもっている.すなわち動物種間で発生段階を比較する場合,特定の器官の発生に注目して得られた種間の発生段階の差はその器官だけについてのものであり,それをもって胚全体の相違であるとはなし得ない.各動物種の胚全体の発生段階を厳密に比較することは非常に困難である.したがってわれわれが催奇形試験を行なう場合,あるいはその結集を評価する際にはこのようた事実のあることを充分に考慮する必要がある.