日本先天異常学会会報
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高温飼育したヒキガエル幼生における欠損的趾異常の成立と肢芽の予定骨格中胚葉の細胞分裂の頻度の低下との関係
武藤 義信
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1971 年 11 巻 4 号 p. 203-213

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抄録

Xenopusの胚芽を細胞分裂阻害剤で処理すると趾の欠損的異常が生ずるが,この原因としBretscher(1949)Tschumi(1954)などは細胞分裂の阻害による中胚葉の量の不足をあげている.筆者(Muto,1969a,b,1970a,b)はさきにヒニガユル幼生を30±1℃の高温で飼育すると欠損的な指・趾異常が生ずることを報告し,このような異常がBretscherやTschumiが指摘した中胚葉の量の不足に起因するのでないかと考えた.もしこのような考えが妥当であるならば,高温により腋芽の予定骨格中胚葉の細胞分裂の頻度が低下することが推測できる.ヒキガエルの腋芽における最初の前軟骨(precartilage)の形成は篭者の発生段階5におこることはすでに報告した(Muto,1970a)が,発生段階3-5に相当する3日間だけ幼生を30±1℃の高温で飼育すると,例外なく欠損的な趾異常が生ずることがわかったので,これらの発生段階の幼生の腋芽の予定骨格中胚葉の細胞分裂の頻度をしらべた.20±1℃はほば適温とみなされる温度であるが,この温度で幼生を飼育すると,発生段階4において細胞分裂の頻度が他の段階におけるよりも著しく高いことがわかった.このことはこの発生段階において予定骨格中胚葉の最が特に著しく増加することを示すとともに,この時期が肢の奇形成生要因に対する感受性が最も高い時であることを示すようにおもわれる.30±1℃で飼育した幼生ではこのような発生段階4における細胞分裂の頻度の上昇がみられないぼかりでなく,一般に細胞分裂の頻度が著しく低かった.このようなことから,30±1℃で飼育した幼生の腋芽においては,予定骨格中胚葉の量が正常のものに比べて著しく少ないことが推測できる.以上の観察結果から30±1℃の高温は細胞分裂の抑制により肢芽の予定骨格中胚葉の量の著しい低下をもたらし,これが欠損的な趾.指の異常の少なくとも一つの原因になるものと考えられる.

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© 1971 日本先天異常学会
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