日本先天異常学会会報
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過剰ビタミンAのマウス肢芽形成に及ぼす影響 : I : 光学顕微鏡による観察
山脇 平仲村 春和藤沢 肇安田 峯生
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1974 年 14 巻 1 号 p. 13-22

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抄録
ビタミンA(V・A)を妊娠動物に過剰に投与するとその胎児に種々の奇形をひきおこすことは広く知られているが、その作用機序に関しては不明な点が多い。今回の実験では、ICR-JCL系マウスの妊娠10日(膣栓発見日=0日)に水溶性V・Aを60万IU/kg腹腔内に投与することによって生じる前肢の奇形を観察し、その発現過程を検討した。妊娠18日に胎児をとり出し、肉眼的に観察Lたところ、14母体に由来する生胎児94例の前肢芽、計188側の100%に奇形が見られた。主な奇形は1指の欠指20例、I・II指の欠指147例、I・III・II指の欠指20例で、うち104例のものにIII・IV指の合指が伴っていた。対照群では小指側の痕跡的な多指が324例中I指に見られただけであった。V・A投与2、4、12、24、48、72時間後に前肢芽をとり出し、光学顕微鏡で観察したところ、投与24時間後より対照群との間に差が出現しはじめた。すなわち投与24時間後には対照群では肢芽の母指側と小指側に壊死細胞が少数認められるだけであったが、投与群では肢芽の両側部、とくに母指側に多数の壊死細胞が出現した。投与48時間後には、対照群の肢芽では中胚葉細胞の集積が認められ、母指側に壊死細胞が少数見られたが、投与群の中胚葉細胞は集積が遅れ、かつ母指側の中胚葉細胞は24時間後よりもさらに多数壊死に陥っていた。投与72時間後には、対照群では正常な指の形成が進んでいた。この時期では投与群の肢芽にも指放線部の中胚葉細胞の集積が認められたが、その数は少なかった。すなわちI・II指に相当する中胚葉細胞の集積が見られず、この部のかなりの細胞が壊死に陥っていた。以上の観察から、V・A投与群の妊娠末期胎児に見られる前肢の奇形はV・A投与24時間後から母指側に見られる多量の中胚葉細胞の壊死のためにひきおこされるということができる。
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© 1974 日本先天異常学会
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