日本先天異常学会会報
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イタリア実験奇形学会シンポジウムについて
前田 敬三訳
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1968 年 8 巻 1 号 p. 47-49

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抄録
イタリア実験奇形学会の主催による国際奇形学シンポジウムが1967年10月21、22日の両日イタリアのComoにおいて開催された。このシンポジウムはイタリアにおける最初の実験奇形学の国際会議で、実験的発生病理学の分野での著名な学者をはじめとして15カ国以上の国々から多数の研究者が参加し、奇形学の当面する問題について活発な討議をおこなった。奇形成因の生化学的、酪素学的研究においては、イタリアの研究者も優れた業績をあげているが、その研究の目的とするものは奇形の成立機序の解明であり、その知見の応用による新薬の催奇形性を検定する新しい方法の開発である。奇形の成因および対策、とくに薬物の催奇形性の検定は学問的な立場からばかりでなく、社会的見地からも緊急の課題であるが、その解決にはそれぞれ異った分野における研究者の間の密接な国際的協力が必要である。このことは、発生現象の複雑さ、動物実験のヒトヘの適用の困難さ、薬物を含め次々に開発される新物質の増加、国による有害物質規定措置の違い、などを考えれば容易に理解することができる。本シンポジウムにおいては奇形成立機序の生化学的分析に関する新しい知見が数多く報告されたが、これは最近の研究が危険性のある物質の発見にとどまらず、その物質の作用機構の分析に指向していることを物語るものである。またヒトに対する有害作用の疑いのある物質を実験的にスクリーニングする種々のテスト方法が発表されたが、これらはいずれも従来のものより広範かつ精密であり信頼性の高いものであった。また物質の催奇形性を正しく評価するための方法論についても熱心な討論が行なわれた。今回の国際シンポジウムにおいて、発生学者、遺伝学者、薬物学者、臨床医家の協調が多大の成果をあげ、これら異った分野での専門家の協同研究の必要性が再認識されたため国際奇形学会International Society of Teratologyの設立が提案された。
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© 1968 日本先天異常学会
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