1993 年 42 巻 p. 452-432
ここで筆者が「灌頂前行の諸次第」と仮称しているのは,「曼荼羅造壇の次第」と瓶灌頂以降の「狭義の灌頂次第」との間で弟子に対して行なわれる諸儀礼の次第を指す。当該の資料Kriyasamgrahapanjika(KS)の場合《弟子受認の次第》と《弟子引入の次第》がこれに当たり,それぞれ「弟子受認(sisyadhivasana)」と「弟子引入儀軌(sisyapravesavidhi)」で説かれている。本稿では前者を取り上げ訳註を提示し,その構造を明らかにする。この次第は伝統的な作壇法では曼荼羅造壇の前で行なうよう規定されているが,KSは多くの《灌頂儀軌》類と同様「弟子引入儀軌」と連続させて行なう。構成は概ね無上瑜伽タントラ階梯のそれに対応するが,儀礼の具体的な内容面でAnandagarbha著Sarvavajrodayaからの影響が認められ,本書成立の基盤を探る上で注目される。