本研究は、大村西崖が漢文で著した『密教発達志』の訳注研究の続編で、第一章の第39節から第45節までを国訳し、注記をほどこしたものである。ここで取り上げられている経典は、前秦・後秦・西秦の、いわゆる三秦時代、およそ4世紀後半から5世紀初頭に、僧渉・竺仏念・鳩摩羅什・弗若多羅・仏陀耶舎・聖堅といった六人の訳経僧によって翻訳された経典、およびその時代の失訳となっている経典である。大村は、それらの経典に見られる、呪や陀羅尼、あるいは毘盧舎那などといった、後のいわゆる純密と関わる要素について検討して、翻訳の時代が下るにつれて、密教的な要素が顕著になっていることを明かしている。