ケモインフォマティクス討論会予稿集
第30回情報化学討論会 京都
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特別講演
FT-ICR/MSでみる悉皆的生物代謝
*太田 大策
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キーワード: FT-ICR/MS, メタボロミクス
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p. JS

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抄録
メタボロミクス研究には,代謝情報を悉皆的に解析することによって,トランスクリプトミクスやプロテオミクスでは得ることのできない細胞生理機能情報を探索し,生命機能の新たな分子機構を解明するためのブレークスルーとしての役割が期待されている. メタボロミクスには核酸あるいはタンパク質だけを分析対象とするトランスクリプトミクスやプロテオミクスとは異なる研究概念が必要である点に注意しなければならない.すなわち,メタボロミクスは不特定の未知物質を網羅的に分析(定性・定量)することによって成立するのであるが,全ての化合物を完璧に一斉分析できる万能の方法は無い.核酸やタンパク質の分析化学と大きく異なる点である.特に注意が必要なのは,絶対定量には化合物標品が必要であり,言い換えるならば未知物質の定量は不可能であるという点である. そこで,メタボロミクス研究の目的を明確にし,それに応じた分析プラットフォームを整備することが求められる.対象生物の違い,分析する物質の種類(性質),分析内容に応じて,使用機器や分析法,データ解析法を柔軟に選択しなければならない.一定の範囲のメタボライト標品を準備し,それらの動態変化を高精度で分析するのか,あるいは膨大なメタボロームデータ解析を通して,新規マーカーメタボライトの発見を目指すのかなどによっても,分析プラットフォーム構築の思想は大きく異なる.今回は,FT-ICR/MS(フーリエ変換イオンサイクロトロン型質量分析装置)を用いた高速代謝プロファイリング法について紹介する.FT-ICR/MSは,現存する質量分析法の中で最高の分解能(100,000以上)と精度(1ppm以下)を持つ.その利点は,二つに大別できる.まず, HPLCやGCなどによる分離操作を経ること無しに,組織粗抽出液中に含まれる各物質の質量を個別に分離・測定できる.次に,高分解能・高精度分析データに,同位体ピーク存在量の相対的比較データを加味すると,各質量測定値に対してほぼ単一の元素組成を割り当てることが可能であり,その元素組成からメタボライトの特定が可能となる.これらFT-ICR/MS分析の際立った特長を十分に発揮させ,未知メタボライトの構造情報の一斉取得を目指したメタボロミクスへと展開するために,我々はFT-ICR/MSスペクトルデータ解析プログラム(Dr.DMASS)を開発し,メタボライト網羅的検索データベース(KNApSAcK)との機能的リンクによって自動的にメタボライト予測するための実験系を構築した(1).これらの一連の解析システムによって行った代謝プロファイリング(2)とディファレンシャルメタボロミクス(3)の実験結果を紹介するとともに,今後のメタボロミクス研究の方向性の一つについて議論したい.
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© 2007 日本化学会
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