抄録
【目的】高齢者大腿骨転子部骨折手術の脊椎麻酔において、安全かつ確実に麻酔を行うことが重要である。等比重ブピバカインと低比重テトラカインによる脊椎麻酔を行い、その安全性と有効性を比較検討したので報告する。【対象と方法】対象は、当院で行われた65歳以上の高齢者の大腿骨転子部骨折手術60症例で、その内30症例に対しては0.5%等比重ブピバカインを使用し(B群)、他の30症例に対しては、0.2%低比重テトラカイを使用(T群)して脊椎麻酔を行った。手術はすべてガンマネイル(Stryker社製)を用いて行った。麻酔薬注入後30分以内の収縮期血圧の最大低下率、麻酔中の合併症、補助麻酔の有無、疼痛出現までの時間を比較検討した。【結果】麻酔薬注入後30分以内の収縮期血圧の低下率はB群):平均28%、T群:平均33%で明らかな有意差を認めなかった。麻酔中の合併症はB群:10症例、T群:13症例に発生した。補助麻酔が必要になった症例はB群:2症例、T群:5症例であった。疼痛出現までの時間は、B群:平均4.4時間、T群:平均4.7時間で明らかな有意差を認めなかった。【考察】0.5%等比重ブピバカイン、0.2%低比重テトラカインのいずれも、それぞれの利点を活かして使用すれば、高齢者大腿骨転子部骨折の脊椎麻酔において、比較的安全で有効な麻酔薬であると思われた。