2020 Volume 60 Issue 10 Pages 668-676
片頭痛の有病率は約10%と報告されている.片頭痛では,数時間持続する拍動性頭痛が悪心・嘔吐や光過敏を随伴して繰り返し起こる.個々の患者のQOLは大きく障害され,社会全体に与える経済的影響も非常に大きい.動物実験や機能画像を用いた臨床研究から,片頭痛は視床下部,大脳皮質,三叉神経系,自律神経系など非常に広範な部位の異常を呈する複雑な神経疾患であることが明らかとなった.従来の片頭痛発作予防治療では,カルシウム拮抗薬や抗てんかん薬などが経験に基づいて用いられてきた.しかし,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide; CGRP)が片頭痛病態に深く関与することが明らかとなり,CGRP関連抗体による特異的治療が脚光を浴びている.
Migraine is a common and debilitating neurological disorder characterized by recurrent attacks of moderate to severe throbbing headache accompanied by nausea, vomiting and photophobia/phonophobia. Because of its high prevalence, migraine causes a considerable financial burden on the society as well as impaired quality of life in individual patients. Scientific evidence shows that migraine is a quite complex neurological disorder that involves not only the trigeminovascular and autonomic systems but also the hypothalamus and cerebral cortex. Calcitonin gene-related peptide (CGRP) was originally discovered as a 37-amino acid neuropeptide derived from a calcitonin gene splicing variant. CGRP is found to be expressed in trigeminal ganglion neurons. Much attention has been attracted to this molecule since CGRP was found to be released from trigeminal terminals in animal migraine models. Subsequent studies demonstrated that CGRP administration induced migraine-like headache attacks specifically in migraineurs, thus highlighting a pivotal role of CGRP in the development of migraine attacks. Several CGRP receptor antagonists were shown to be efficacious for the treatment of acute migraine. Among them, telcagepant, was shown to exert a significant migraine prophylactic action as well. Nevertheless, the development of most of these agents were discontinued due to hepatotoxicity. Currently, newer CGRP receptor antagonists are being developed. On the other hand, monoclonal antibodies targeting CGRP and its receptor showed consistent efficacy for migraine prophylaxis with excellent safety profiles in Phase III clinical trials. Furthermore, emerging data support the long-term safety and efficacy of these antibodies. In this review article, the development and perspective of anti-migraine therapeutic strategies using CGRP-related antibodies are discussed.
片頭痛とは,一定の性質を満たす頭痛発作が繰り返す慢性疾患である.頭痛はほとんどの人が経験するありふれた症状である.しかし,片頭痛は確固とした神経疾患であり,病態生理の解明が進んだ結果,カルシトニン遺伝子関連ペプチド(calcitonin gene-related peptide; CGRP)を標的にした特異的治療が行われるようになった.片頭痛が有する一定の性質は,国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準に見ることができる1)(Table 1).①片側性,②拍動性,③中等度~重度,④日常的な動作によって増悪する,あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける,という4項目のうち2項目以上満たす頭痛が,未治療の場合に4時間以上続く.また,悪心や嘔吐,光過敏・音過敏のいずれかが随伴する.また,全片頭痛患者の1/4~1/3では,頭痛に先行して前兆が認められる.前兆は一過性の神経症状であり,多くの場合は閃輝暗点や視野欠損である.中等度の頭痛とは仕事や家事をするのに支障が出るレベル,重度の頭痛では寝込んでしまうレベルである.このような頭痛発作は日常生活と社会生活に大きな影響を及ぼし,QOLは大きく障害される.実際にGlobal Burden of Disease 2016において,片頭痛は障害生存年数の観点から全疾患中の2番目にランクされている2).1ヵ月の中で頭痛が15日以上存在し,8日以上において片頭痛を認める場合は慢性片頭痛(chronic migraine; CM)と呼ばれ,特に生活支障度が高い.頭痛頻度がそれ以下の症例は反復性片頭痛(episodic migraine; EM)として区別される.また,片頭痛は10~40歳代で有病率が高いため,学業や社会全体の生産性に与える影響は甚大で,わが国では年間約3,000億円の経済的損失を引き起こしていると試算されている3).
| A. At least five attacks 1 fulfilling criteria B–D |
| B. Headache attacks lasting 4–72 hours (when untreated or unsuccessfully treated) |
| C. Headache has at least two of the following four characteristics: |
| 1. unilateral location |
| 2. pulsating quality |
| 3. moderate or severe pain intensity |
| 4. aggravation by or causing avoidance of routine physical activity (e.g. walking or climbing stairs) |
| D. During headache at least one of the following: |
| 1. nausea and/or vomiting |
| 2. photophobia and phonophobia |
| E. Not better accounted for by another ICHD-3 diagnosis |
片頭痛治療薬は,発作を頓挫させる目的の急性期治療と発作予防薬に大別される.急性期治療の効果は,投与後の2時間後における頭痛消失によって評価される.一方,発作予防薬の評価は様々な点を考慮する必要がある.例えば,1ヵ月(4週間)あたりの片頭痛日数や片頭痛の発作回数が臨床研究の主要評価項目として用いられることが多い.しかし,片頭痛の日数や頻度がそれほど減少しなくても,1回ごとの発作の重症度が低下したり,随伴症状が軽減したりすることでADLが向上しうる.その結果,これまで寝込んでいて,出来なかった仕事ができるようになり,患者の満足度が上がるようなこともある.また,月に3日の片頭痛発作が認められても,3日連日で起こる場合と1週間程度の間隔を空けて3日起こるのとでは生活への支障度は異なる.したがって,最近では予防治療薬の評価を行う際に,健康関連QOLや生活支障度の改善を考慮するようになった.
CGRPは1982年に,カルシトニン遺伝子のsplicing variantとして産生されるmRNAに由来するペプチドとして報告された4).その後,CGRPには二つのアイソフォーム(CGRPαとCGRPβ)が存在することが示された5).片頭痛病態に関わるのは主にCGRPαである.CGRPは三叉神経節ニューロンや後根神経節ニューロンといった一次感覚ニューロンに主に局在し,細胞体だけでなく末梢側および中枢側の神経終末に集積していることが,その後免疫染色によって明らかにされた6).さらに培養三叉神経節ニューロンを高濃度KClによって脱分極させるとCGRPが放出されることが示された7).CGRP受容体はCLR(calcitonin receptor-like receptor)とRAMP1(receptor activity-modifying protein 1)から構成される8)9).CGRP結合後に細胞内伝達系を駆動するにはRCP(receptor component protein)の存在が必要である10).リガンドの刺激を受けるとG蛋白質を介してアデニレートシクラーゼ(adenylate cyclase)活性化が生じ,細胞内cAMP濃度が上昇する.すると,プロテインキナーゼA活性化に引き続いて,カリウムチャネル開口,一酸化窒素(NO)産生酵素活性化,ERK(extracellular signal-regulated kinase)活性化,CREB(cAMP response element-binding protein)活性化,NMDA型グルタミン酸受容体リン酸化など様々なイベントが惹起されることが知られている(Fig. 1)11)12).血管平滑筋に働くと血管拡張を引き起こすが,CGRP阻害自体は定常状態の血管を収縮させない.

Upon the ligand stimulation of the CGRP receptor, comprised of calcitonin receptor-like receptor (CLR) and receptor activity-modifying protein 1 (RAMP1), the adenylate cyclase-protein kinase A (PKA) axis is activated, which leads to activation of nitric oxide synthase (NOS), cAMP response element-binding protein (CREB) and extracellular signal-regulated kinase (ERK). Furthermore, PKA modifies the functions of NMDA and AMPA glutamate receptors and K+-ATP channels. The receptor component protein (RCP) is required for the signal transduction downstream of CGRP receptor stimulation.
かつては血管収縮によって前兆が生じ,血管が拡張して頭痛が起こるとする血管説が信じられていた.しかし,前兆と頭痛を呈する患者の脳血流SPECT所見などから血管説は否定的となり,片頭痛の病態は神経側にあると考えられるようになった13).
前兆の原因として有力視されているのは,皮質拡延性抑制(cortical spreading depression; CSD)である.CSDは大脳皮質においてニューロンとグリア細胞の一過性の脱分極に続発する電気的抑制状態が同心円状に2~5 mm/分の速さで周囲に拡延する現象である14).CSDは二次的に血流変化を引き起こすが,前兆時にCSDの伝播速度と症状出現に合致したBOLD(blood oxygenation level-dependent)シグナル変化が確認されている15).また,一部の患者では頭痛発作に先行して予兆を自覚する.予兆では疲労感やあくびなど様々な症状が訴えられるが,予兆時には視床下部機能異常が観察されている16)17).頭痛は三叉神経系の感作が生じた結果,通常の血管拍動が「拍動性頭痛」として知覚されたものと考えられる18).CGRPは三叉神経終末から放出されて感作誘導に関与する19)20).そのような現象が起きる場としては,三叉神経終末が密に分布する硬膜が重視されている21).なお,CSDが三叉神経系の感作を引き起こすという動物実験データも存在する22)23).感作が一次ニューロンレベルで起こると拍動性頭痛が発生し,中枢性感作が二次ニューロンレベルで生じると頸部痛の出現が起こり,視床レベルに生じると全身のアロディニアが観察される18).また,感作が広範に生じることで頭痛も増強する24).三叉神経の痛覚シグナルは,結合腕傍核や扁桃体や視床下部にも伝達され,不快な感情や自律神経反応を引き起こす25)26).片頭痛の病態機序をFig. 2に示す.

Migraine attacks consist of three distinct phases. During the prodrome, migraine patients exhibit vague symptoms, such as yawning and fatigue. Hypothalamic activation has been demonstrated during this phase. Migraine aura is characterized by transient neurological manifestations, such as fortification spectrum and unilateral sensory disturbance. Cortical spreading depression is considered as the underlying phenomenon of migraine aura. During headache attacks, peripheral and central sensitization is induced. Moreover, the limbic system and the hypothalamus are activated, which contributes to the emergence of affective and autonomic symptoms.
大脳皮質,結合腕傍核,視床下部にもCGRP発現は確認されているが27)28),中枢神経系のCGRPがどのように片頭痛病態に関わっているのかについては不明な点が多い.硬膜などの三叉神経終末が分布する頭蓋内組織,三叉神経節,視床下部の一部などでは血液脳関門のような血中高分子の組織内侵入を阻む構造が存在しないため,抗体が到達しうることは治療法を考える上で注意が必要である.
前述のように,片頭痛の病態の座として硬膜が重視されているが,硬膜刺激によってCGRPが放出されることが動物実験で報告され,片頭痛病態におけるCGRPの役割に注目が集まった29).さらに,片頭痛発作中の頸静脈でCGRP濃度が上昇すること,CGRP投与によって片頭痛患者で頭痛発作が誘発されるなど,CGRPが実際の片頭痛発作発現に関与していることを示す臨床データが相次いで報告された.発作直後の頸静脈中CGRP濃度は健常群に対して有意に高値を示した30).その後,Tvedskovら31)が,前兆のない片頭痛患者17名を対象に,発作時と非発作時の頸静脈血中CGRP濃度の測定を行った.本研究は2通りの測定法を採用しているが,いずれの方法においても,発作中にわずかな濃度上昇を示したものの有意差は得られなかった.ただし,発作時のCGRP上昇は一部の患者では明らかに観察されており,症例間のばらつきが大きいようである.また,発作間欠期の上肢静脈CGRP濃度がCM患者において高値を示すとの報告もある32).
一方,片頭痛患者に対してCGRPを投与すると片頭痛様発作が誘発されることが報告されている.Lassenら33)は,前兆のない片頭痛患者に9名ずつにCGRPあるいはプラセボを投与したところ,前者のうち3名に投与6~12時間の間に片頭痛様発作が誘発され,プラセボ投与群ではそのような頭痛は認められなかった.Hansenら34)は,14名の前兆のある片頭痛患者のうち8名において投与1~13時間後に片頭痛様発作が誘発されたことが報告されている.11名の対照群ではそのような頭痛発作は全く認められなかったため,これは片頭痛患者に特有の現象と考えられる.CGRPが片頭痛患者において遅発的に発作を誘発することは,CGRP受容体刺激から発作誘発に至るまでの間に複雑な過程があることを示唆している.
トリプタン導入によって片頭痛発作のコントロールは大きく改善したが,ノンレスポンダーの存在や5-HT1B受容体刺激による血管収縮作用のために禁忌となる症例が存在する.CGRP機能阻害は血管収縮を引き起こさないため,トリプタン以上に有望な治療戦略と考えられた.最初に開発されたCGRP受容体拮抗薬はBIBN 4096 BS(Olcegepant)と呼ばれる注射薬であり,発作頓挫作用が実証された35).その後,経口投与可能なCGRP受容体拮抗薬が複数開発されたが,それらはいずれも小分子化合物であり,中枢神経にも移行しうる薬剤であった.しかし,CGRP受容体拮抗薬の抗片頭痛作用は末梢性効果のみで説明可能と考えられている36).これらの薬剤は “gepant” と総称されているが,肝機能障害のために初期の薬剤の多くは開発中止となり,より安全な新世代の薬剤の開発が現在進められている.一方で,CGRPおよびCGRP受容体を標的にしたモノクローナル抗体による片頭痛予防療法の開発が急速に進み,海外では既に実臨床で用いられている37).小分子化合物と抗体の比較をTable 2に示す.抗体療法の最大の利点は,高い標的特異性と効果持続性である.現在のところ,CGRP抗体としてGalcanezumab,Eptinezumab,Fremanezumabが,CGRP受容体抗体としてErenumabが開発され,いずれの製剤もプラセボに対して有意な片頭痛予防効果が大規模臨床試験で示され,認可に至った(Table 3).また,現時点において薬効を減弱するような中和抗体の存在も問題となっていない.
| Small-molecules | Monoclonal antobodies | |
|---|---|---|
| Target specificity | Lower | Higher |
| Site of metabolism | Liver, kindney | Reticuloendothelial system |
| Molecular size | <1 kDa | Approximately 150 kDa |
| Administration route | Oral | Parenteral |
| BBB permeability | + | – |
| Half-life | Minutes to hours | 3–6 weeks |
| Immunogenicity | No | Yes |
| Generic name | Galcanezumab | Erenumab | Fremanezumab | Eptinezumab |
|---|---|---|---|---|
| Former appellations | LY2951742 | Amg 334 | LBR-101, TEV-48125 | ALD403 |
| Trade name | EmgalityTM | AimovigTM | AjovyTM | VyeptiTM |
| Vendor | Eli Lilly | Amgen | TEVA | Lundbeck |
| Epitope | CGRP | CGRP receptor | CGRP | CGRP |
| Antibody isotype | Humanized IgG4 | Human IgG2 | Humanized IgG2a | Humanized IgG1 |
| Doses | 120, 240 mg | 70, 140 mg | 225, 675 mg | 100, 300 mg |
| Administration intervals | 4 weeks | 4 weeks | 4, 12 weeks | 12 weeks |
| Administration route | Subcutaneous | Subcutaneous | Subcutaneous | Intravenous |
EM患者を対象にした二つの第3相臨床試験が施行され,試験薬は4週間に1回投与された.主要評価項目は12週間の二重盲検試験期間における4週間あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化に設定された.このうちEVOLVE-1ではプラセボ投与群で2.8日の減少が認められたのに対して,120 mg投与群(初回投与時は240 mg)では4.7日,240 mg投与群では4.6日の減少が認められ,有意差が確認された38).EVOLVE-2でも同様の効果が認められている39).また,投与1週間後の段階で既に有意な効果が実証されている40).CM患者を対象にした第3臨床試験(REGAIN)でも同主要評価項目において,プラセボに比較して実薬に有意な効果が認められた40).また,これらの臨床試験では片頭痛日数の改善だけでなく,QOLの向上も報告されている.治療効果の一つの指標として,片頭痛日数低下を6ヵ月間にわたって50%以上に維持できた症例はEM患者で約20%,CM患者で約15%であった41).一方,心血管系イベントを含めて重篤な有害事象出現は認められていない42).
ErenumabEMに対する第3相臨床試験(STRIVE)では6ヵ月の二重盲検試験が設定され,Erenumab 70 mgおよび140 mgを月1回投与し,プラセボとの比較が行われた.主要評価項目は,投与4~6ヵ月時点での4週間あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化に設定された43).プラセボ投与群で1.8日の減少が認められたのに対して,70 mg投与群では3.2日,140 mg投与群では3.7日の減少が認められ,有意差が確認された43).別個の第3相臨床試験(ARISE)でも70 mg投与の有効性が確認された44).これらの第3相試験では,身体的活動度の改善効果も実証されている.また,日本人を対象にした第2相臨床試験のデータも報告されているが,28 mgという低用量においてもプラセボに比較して有意な片頭痛日数の低下が認められている点は特筆に値する45).CMに対する効果もグローバルな第2相臨床試験で実証されており,投与52週後の時点における効果持続性も確認されている.また,Erenumabの効果はMOH合併症例でも実証されている46).EMとCMに対する効果は投与1週間に時点で確認され47),生活支障度と健康に関連したQOLも改善した48).心血管系を含めた有害事象に関しても問題は指摘されていない49)50).
なお,最近になりErenumabによる予防効果とCGRP受容体拮抗薬Rimegepantによる急性期治療の併用効果も報告されている51).
FremanezumabEMに対する第3相臨床試験では,二重盲検期間は12週間に設定し,Fremanezumab 225 mgを4週間毎の投与,675 mgの単回投与,プラセボ投与の三つの群で比較が行われた.主要評価項目は,試験期間中の4週間あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化に設定された52).両治療群に同等の治療効果が認められ,3ヵ月に1回の投与の有効性が示されたことは注目された52).CMに対する第3相臨床試験では,Fremanezumab 225 mgを4週間毎の投与(初回のみ675 mg),675 mgの単回投与,プラセボ投与の三つの群で比較が行われた.主要評価項目は,4時間以上持続した中等度以上の頭痛を認めた日数あるいは頭痛の程度や持続時間に関わらず急性期頭痛治療薬が使用された日数のベースラインからの変化とした.いずれの実薬投与群もプラセボ投与群に比較して有意な減少が確認された53).さらに本研究の後解析では,治療効果は投与後1週間の段階で発現していた54).また,本薬は仕事や学習あるいは家事などを遂行する機能を向上させることも実証されている55).
Eptinezumab唯一静注で用いられる抗体薬であり,速効性が期待されている.EMに対する第3相臨床試験(PROMISE-1)では,30 mg,100 mg,300 mgを静注投与の効果がプラセボ投与と比較された.主要評価項目は試験期間中(1~12週)における4週間あたりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化に設定された.100 mgおよび300 mg投与群で有意差が確認された.なお,速効性の指標となる投与翌日における発作頻度の減少効果も実証された.有害事象に関しては,Eptinezumab投与群では上気道炎と疲労感の頻度がプラセボ投与群に比較して高かった56).CMに対する第3相臨床試験(PROMISE-2)では,PROMISE-1と同様の主要評価項目が設定され,100 mg,300 mgを静注投与の効果がプラセボ投与と比較された.両治療群で有意な効果が確認されたが,300 mg投与群では鼻咽頭炎の頻度がプラセボ投与群に比較して上昇していた57).
CGRP関連抗体は高価であるため,既存の予防薬が有効でなかったり,副作用の関係で継続が困難な症例に用いられることが予想される.そのような症例に対する有効性や安全性も検討されている.過去に2剤以上の予防薬で治療が奏功しなかった症例に対してもGalcanezumab58),Erenumab59),Fremanezumab60)はプラセボに比較して有意な症状改善効果を発揮し,安全性も確認されている.各試験で対象患者やプラセボ効果の程度が異なるために単純な比較は出来ないが,片頭痛日数を50%以下に減少させる効果のプラセボに対するオッズ比は3~5となっている.一方,実薬群において片頭痛日数を50%以下に減少できない症例が50~60%程度存在していたことも判明しており,CGRP関連抗体でも解決できないunmet needsが存在する事実が浮き彫りにされた.
片頭痛予防治療薬は何年にもわたり投与される可能性がある.前述のように,数年間の単位でのCGRP関連抗体の投与では問題となるような有害事象は生じないと考えられるが,さらなる長期の投与が生体に与える影響について考慮しておく必要はある.実際に,CGRPノックアウトマウスでは交感神経機能の亢進と血圧上昇が確認されている61)~63).また,CGRPが血圧上昇,血管壁肥厚,血管での酸化ストレスの発生を定常的に抑制作用しているとするデータも存在することから64),心血管系への長期の影響は慎重に見極める必要があろう.
CGRPは免疫機能にも関与していることが知られ,T細胞のIL-9産生65)やalarmin(傷害を受けた細胞から放出にされ,Toll-like受容体を介して免疫担当細胞を活性化させる分子の総称)誘導性のT細胞サイトカイン産生66)に重要な役割を果たしている.
さらに,CGRPは病的状態に暴露された際の組織保護効果を発揮しているというデータも存在する.CGRPノックアウトマウスでは虚血性神経細胞死が増加することや,慢性両側総頸動脈脳動脈狭窄モデルで記憶障害が増悪することは,CGRPに神経保護作用がある可能性を示している67).また,S. pyogenesの組織浸潤に対して侵害受容器刺激によって神経終末から放出されたCGRPが阻害作用を示すことや68),加齢性網膜変性モデルにおいて,CGRPがマクロファージ浸潤とTNF-α産生を抑制することで保護的に作用しているというデータもあるため69),CGRPの組織保護効果は様々な部位で作用していることが示唆される.このようなことから,CGRP機能をブロックする治療を受けている患者が,病的状態に曝露した際の病状悪化の可能性も念頭に置く必要がある.
以上述べたように,CGRP関連抗体はいずれもプラセボに比較して有意な片頭痛改善効果を示し,安全性についても大きな問題は指摘されていない.既に多くのリアルワールドデータも報告されており,わが国でも近い将来認可される見込みである.欧州頭痛連合(European Headache Federation; EHF)が2019年に発表したCGRP関連抗体療法の指針では,既存の予防薬2剤以上に対して有効性が得られなかったり,共存症の存在,副作用,コンプライアンスに問題があったりする場合に導入を考慮することを提案している.使用に当たっては,CMの既往がない場合を除いて,既存予防薬は中止することを提案している.これまでの臨床試験の結果から,最大効果は3ヵ月程度で得られることがわかっているが,6~12ヵ月で十分な改善が認められた場合は中止を考慮してもよいと記載されている.わが国ではボツリヌス毒素が片頭痛治療に認可されていないため,CGRP関連抗体による治療は,特にCM症例にとって大きな福音となることが期待される.一方,片頭痛の多彩な症状の生物学には現在でも不明な点が多い.CGRP関連抗体治療による症状変化の詳細な解析は,片頭痛病態の解明にも重要なヒントを与えることが期待されている.
※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.