Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Multiple cerebral hemorrhages due to varicella-zoster virus vasculopathy presenting as cranial nerve palsy
Tatsuya MukaiToru SaigaTakehisa Araki
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2020 Volume 60 Issue 12 Pages 861-864

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要旨

再生不良性貧血加療中の72歳男性.左肩から上腕部にかけて帯状疱疹を認め,13日後に右末梢性顔面神経麻痺および左動眼神経不全麻痺を認めた.脳脊髄液検査では,水痘−帯状疱疹ウィルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)抗体価指数が25.6と高値であった.頭部CTにて,右橋背側,左中脳内腹側,右視床,左前頭葉から側頭葉に皮質下出血を認めた.MR angiographyでは左中大脳動脈,前大脳動脈に狭窄が見られた.VZV血管症による多発性脳出血に伴う脳神経麻痺と診断し,アシクロビルおよびステロイドによる加療にて症状は改善した.帯状疱疹後の脳神経麻痺の原因としてVZV血管症による出血も鑑別する必要がある.

Abstract

A 72-year-old man was admitted to our hospital because of right facial muscle weakness and diplopia. He had been treated for aplastic anemia with cyclosporin for 2 years. Thirteen days before admission, a diagnosis of herpes zoster was made and treated with amenamevir. On admission, neurological examination revealed mild cognitive disturbance, mydriasis, weakness of the inferior rectus muscle of the left eye, and right peripheral facial nerve palsy. Cerebrospinal fluid (CSF) analysis showed elevated leukocytes and increased protein levels. Antibody index to varicella-zoster virus (VZV) was elevated in CSF to 25.6, although VZV DNA was negative by PCR. Head CT revealed multiple intracerebral hemorrhages in the left dorsal pons, left ventral midbrain, left thalamus, and left front-parietal lobe. MR angiography detected cerebral artery stenosis. In addition to intravenous acyclovir, the patient was treated with steroid pulse therapy and steroid tapering therapy. One month after admission, his symptoms improved. We diagnosed him with VZV vasculopathy. We believe that multiple intracerebral hemorrhages due to VZV vasculopathy caused facial and oculomotor nerve palsy. Our findings suggest that cerebral hemorrhage induced by VZV vasculopathy must be considered when differentiating cranial nerve palsy after herpes zoster.

はじめに

帯状疱疹は水痘-帯状疱疹ウィルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)の再活性化により生じ,帯状疱疹にともなう神経合併症としては,帯状疱疹後神経痛が多く,Ramsay Hunt症候群に代表される脳神経麻痺,髄膜炎,脊髄炎などがあり,VZV vasculopathyによる脳血管障害の報告もある.今回,VZV vasculopathyによる多発性脳出血により,顔面神経及び動眼神経麻痺を呈した症例を経験した.

症例

症例:72歳 男性

主訴:右顔面筋麻痺,複視

既往歴:再生不良性貧血,高血圧症,胃がん全摘術後(2015年11月).

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2017年4月再生不良性貧血と診断され,シクロスポリン75 mg,エルトロンボパグオラミン50 mg,メテノロン10 mgによる加療にて病状は安定していた.2018年9月上旬軽度の頭痛,発熱を認め,2日間で改善したが,左肩から上腕部にかけて水疱を認めた(発症第1病日).皮膚科にて,帯状疱疹と診断され,アメナメビル400 mgが開始された.また,このころより軽度の失見当識,記銘力低下を認めるようになったが,仕事や日常生活には支障なかった.第14病日に右顔面筋麻痺と複視を認め,当科に入院となった.

入院時現症:血圧165/82 mmHg,脈拍64/分・整,体温36.7°C.左肩から上腕部にかけて痂疲を認めた.意識は清明であり,軽度の記銘力低下,失見当識を認めた.脳神経系では,左眼の動眼神経不全麻痺(散瞳,対光反射消失,軽度の下転障害)および中等度の右末梢性顔面神経麻痺を認めた.味覚,聴力は正常であり,耳介に皮疹は見られなかった.運動系,感覚系および腱反射は正常であった.

検査所見:血液検査では,軽度の貧血(赤血球305 × 104l,Hb 11.0 g/dl)および血小板減少(11.5 × 104l)を認めた.炎症反応の上昇はなく,その他の生化学検査も異常を認めなかった.凝固系,各種自己抗体および腫瘍マーカーも正常であった.脳脊髄液検査では,細胞数113/μl(単核球86%,異形リンパ球16%),蛋白178 mg/dl,糖69 mg/dlであった.ウィルス学的検査では,VZVウィルスの抗体価は,血清でVZV IgM抗体価指数(ELISA)1.94(基準値 <0.8),VZV IgG抗体価(ELISA)294.9(基準値 <0.2),脳脊髄液でVZV IgM抗体価指数(ELISA)2.25,VZV IgG抗体価(ELISA)279.6であった.IgGは血清で1,208 mg/dl,髄液で44.8 mg/dlであったことから,VZV IgGの抗体価指数(脳脊髄液中ウィルス抗体価/血清ウィルス抗体価)/(脳脊髄液中IgG/血清IgG)=(279.6/294.9)/(44.8/1208)=25.6と高値であった.脳脊髄液中のVZV DNA-PCRは陰性であった.心電図及び心エコーは正常所見であった.入院時の頭部CT(Fig. 1)にて,右橋背側,左中脳内腹側,右視床,右前頭葉,左前頭葉から側頭葉に出血を認めた.Susceptibility-weighted MRIでは,CTで見られた出血部に低信号域を認め,さらに多発性の微小出血を認めた(Fig. 2A).また,右島回にDiffusion-weighted MRIでは高信号を呈する小梗塞病変を認めた(Fig. 2B).MR angiographyでは左中大脳動脈(M1),左前大脳動脈(A1)で狭窄を認めた(Fig. 2C).造影MRIでは,顔面神経および動眼神経の腫大や造影効果は見られなかった.

Fig. 1 Brain CT on admission.

Head CT revealed multiple intracerebral hemorrhages in right dorsal pons (A), left ventral midbrain (B), right thalamus, right frontal lobe and left front-parietal lobe (C).

Fig. 2 Brain MRI on admission.

(A) Susceptibility-weighted MRI showed multiple cerebral hemorrhages and microbleeds. (B) Diffusion weighted image showed small hyperintensity lesion at the right insular cortex. (C) MR angiography showed stenosis (arrowheads) of left middle cerebral artery (M1) and left anterior cerebral artery (A1). (D) These stenosis disappeared 7 months later.

臨床経過:入院後,アシクロビル625 mg/日の点滴投与およびステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500 mg 3日間)を行い,その後プレドニゾロン内服30 mg/日より開始し,漸減した.症状は改善傾向を認め,発症6週後には左眼の動眼神経不全麻痺は改善し,左顔面神経麻痺も口輪筋の軽度の麻痺を認めるのみとなった.発症7か月後のMR angiographyでは,狭窄所見は消失していた(Fig. 2D).

考察

左肩から上腕にかけての帯状疱疹を発症し,第14病日に右末梢性顔面神経麻痺,左動眼神経不全麻痺を認め,頭部CTで左橋背側,右中脳内腹側などに多発性脳出血を認めた.本例では,耳介部の水疱形成,聴神経症状などを認めず,頭部MRIでは顔面神経および動眼神経の腫大や造影効果は見られなかった.今までに橋出血に伴う末梢性顔面神経麻痺の報告があり,中脳内腹側の出血により本例と同様に散瞳および下直筋麻痺を呈した症例が報告されている1ことより,脳出血による顔面神経および動眼神経麻痺と考えた.ウィルス学的検査において,髄液のVZV DNA-PCRは陰性であったが,VZV抗体価指数は高値であった.VZV vasculopathyの診断基準として,1)脳卒中に合致する神経症状がある,2)脳梗塞または脳出血の画像所見がある,3)皮疹がある,4)vasculopathyを示す血管画像所見がある,5)VZVの感染を示す所見がある(髄液のVZV DNAまたは髄腔内でのVZVIgMまたはVZVIgGの産生)を挙げ,これらすべてが合致するものをdefinite VZV vasculopathyとすることが提唱されている2.本例は,上記の所見をすべて満たしており,VZV vasculopathyによる多発性出血に伴う動眼神経,顔面神経麻痺であり,帯状疱疹後の脳神経麻痺の原因として,VZV vasculopathyによる出血も鑑別する必要があると思われた.

VZV vasculopathyは,電顕で血管平滑筋にVZV粒子が認められ,VZV抗原は,病初期では血管外膜に後期には血管内膜に認められることなどにより,VZVが血管外膜から直接に浸潤することにより生じると考えられる.病理学的にVZV vasculopathyでは,内弾性板の損傷,内膜の肥厚,血管平滑筋細胞の減少を認めており,これらの変化が梗塞,出血または動脈瘤を生じると考えられている3.VZV vasuculopathyの62例の検討2では,平均発症年齢が55歳,免疫抑制状態の症例が41.9%,脳梗塞を呈する症例が77.9%であった.また,Nagelらの30例の検討3では,皮疹を認めた症例が63%あり,髄液での細胞増多が67%に見られ,皮疹から神経学的症状出現まで平均4.2か月であった.障害される血管は,小血管型38.7%,大血管型17.7%,混合型43.5%であり,免疫不全患者のVZV vasuculopathyでは小動脈病変を呈することが多いと報告させている.ウィルス学的診断としては,髄液のVZV DNAの陽性率は46.1%であったのに対し,髄液のVZV IgG抗体陽性が95.2%であり,髄液のVZV IgG抗体測定が有用であると報告されている.

成人発症のVZV vasculopathyでの脳出血例は,検索しえた限りでは,本例を含めて7例あった24)~8.免疫抑制状態の症例が3例,全例が皮疹を認めた.症状は,意識障害や頭痛で発症した症例が多く,本例のように脳神経症状で発症した症例の報告はなかった.皮疹から発症までの期間は,脳梗塞例の報告より短く平均12日(2~35日)であり,出血後に皮疹を認めた症例もあった.予後不良例もあり,3例が死亡していた.髄液検査では細胞増多が4例/6例,蛋白増多が6例/6例で見られた.ウィルス学的検査は,髄液のVZV DNAの陽性率が4例/7例であり,VZV IgGは6例/6例で高値であった.髄液のVZV DNAの陽性率が,脳梗塞例の報告よりやや高率である原因としては,出血の場合には皮疹から発症までの期間が短いためと考えられた.本例は,帯状疱疹より13日後の発症であり,VZV DNAは検出されず,抗体価の測定が診断に有用であった.

本例では,多発性に微小出血を認めた.VZV encephalitisで微小出血を認めた報告9や微小出血を伴った症例でVZV脳炎後に脳出血を呈した報告10がある.VZV vasculopathyによる出血では,リモデリングにより小血管の拡張や動脈瘤を生じ,微小出血を前段階として脳出血をきたす可能性が考えられた.今後,VZV髄膜炎/脳炎の症例において,微小出血の有無を検討することは,VZV vasculopathyの発症機序を検討することにおいて重要であると考えられた.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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