2020 Volume 60 Issue 6 Pages 429-433
関節リウマチの59歳女性で,脳造影MRIにおいて脳軟膜を中心に増強を認め,リウマチ性髄膜炎が疑われクリプトコッカス髄膜炎を合併した症例である.2ヵ月後再発し,抗cyclic citrullinated peptide抗体,クリプトコッカス抗原価などの変動からリウマチ性髄膜炎主体と診断した.リウマチ性髄膜炎にはステロイドパルス4回にとどめ,methotrexateを継続し,クリプトコッカス髄膜炎に対してはliposomal-amphotericin Bおよびfluconazoleを継続し,両髄膜炎の再発はみていない.
We report a case of rheumatoid meningitis complicated with cryptococcal meningitis in a 59-year-old female with rheumatoid arthritis. Migraine symptoms were followed by abnormal behavior, and the patient was admitted with fever and headache. On admission, her cerebrospinal fluid (CSF) contained 115 cells/μl, a protein content of 95 mg/dl, and a sugar level of 47 mg/dl; Her serum anti-cyclic citrullinated peptide (CCP) antibody value was high (174 U/ml), and a brain MRI showed enhanced gadolinium lesions in the cerebral/cerebellar pia mater and subarachnoid space, etc. Probable rheumatoid meningitis was clinically diagnosed, and a prednisolone (PSL) pulse was started. Several days later, a CSF culture test was positive for Cryptococcus neoformans, and the antigen titer was 128-fold. Liposomal-amphotericin B (L-AMB) was started for cryptococcal meningitis, combined with three PSL pulses for rheumatoid meningitis. After about 4 weeks, the number of CSF cells and anti-CCP antibodies decreased rapidly. At 2 months after the onset, the meningitis recurred. The MRI contrast lesions reappeared, and the CSF cells increased to 24/μl. Serum and CSF anti-CCP antibodies increased at the time of recurrence, but the cryptococcal antigen titer decreased. Thus, we concluded that the rheumatoid meningitis mainly involved the pathogenesis of both types of meningitis. The number of PSL pulses was limited to four. Post-perioral therapy was avoided. Methotrexate was continued for the rheumatoid meningitis, fluconazole was continued for the cryptococcal meningitis, and neither type of meningitis has recurred.
リウマチ性髄膜炎(rheumatoid meningitis)は関節リウマチに合併する稀な中枢神経合併症で,クリプトコッカス髄膜炎(cryptococcal meningitis)は免疫不全患者ではハイリスク群になるが,健常者にもみられる難治性の髄膜炎である1)~3).両者は脳軟膜主体の画像所見を示し,リウマチ性髄膜炎には副腎ステロイドの適応となるが,クリプトコッカス髄膜炎急性期においては必ずしも推奨はされていない.
われわれは関節リウマチ患者でリウマチ性髄膜炎が疑われクリプトコッカス髄膜炎を合併した症例で,2ヵ月後再発し,抗cyclic citrullinated peptide(CCP)抗体,クリプトコッカス抗原価の推移からリウマチ性髄膜炎主体と判断した症例を経験した.両者の合併は稀であり,診断・治療上の問題点を含め報告する.
症例:59歳,女性
主訴:頭痛発作,異常行動,発熱,頭痛
既往歴:2010年某病院で関節リウマチと診断,ブシラミン(bucillamine)100 mg/日,2012年よりメトトレキサート(methotrexate; MTX)10 mg/週とイグラチモド(iguratimod)50 mg/日併用療法を継続し,以後左手の近位指節間関節(proximal interphalangeal joint; PIP)の痛みは小康状態であった.
生活歴:鳩との直接の接触歴はない.
現病歴:2017年3月から,めまい・ズキンズキンした頭痛発作が出現,ザーザーした耳鳴りを伴う.4月より右優位に閃輝暗点発作が出現した.6月初めに,お札を机の上でたたんだり,おったり,歯磨き粉で顔を洗ったりする異常行動がみられ,発熱を認め,脳外科医院を受診し,6月初旬に当科に入院した(Fig. 1).

A 59-year-old female with rheumatoid arthritis was admitted with fever and headache, probable rheumatoid meningitis was clinically diagnosed, and a PSL pulse was started. A CSF culture test was positive for Cryptococcus neoformans, and L-AMB was started for cryptococcal meningitis. The number of CSF cells and anti-CCP antibodies decreased rapidly. At 2 months after the onset, the meningitis recurred. Serum and CSF anti-CCP antibodies increased at the time of recurrence, but the cryptococcal antigen titer was decreased. The PSL pulse was limited to four times without post-perioral therapy. MTX was continued for the rheumatoid meningitis, and fluconazole was continued for the cryptococcal meningitis. Neither type of meningitis has recurred. Abbreviations; MTX: methothrexate, PSL: prednisolone, CSF: cerebrospinal fluid, RF: rheumatoid factor, CCP: cyclic citrullinated peptide, L-AMB: liposomal-amphotericin B, FLCZ: fosfluconazole.
入院時現症:意識清明,血圧132/86 mmHg,体温35.5~37.5°C,呼吸数18/分,右中指ボタン穴変形,左第3,4指(PIP)関節に軽度圧痛を認めた.めまい,耳鳴り,吐き気,頭痛などの自覚症状は消失していた.簡易知能検査(MMSE):24/30点(計算–4,遅延再生–2),失語・失認・失行はみられない.神経学的所見では,視覚異常はなく,眼球運動で左への水平眼振を認めたが,他の脳神経に異常なし.項部硬直・Kernig徴候なし.四肢の腱反射は左右正常,Barré徴候およびMingazzini徴候陰性,感覚低下・排尿障害なし.四肢の協調運動では異常なく,歩行は何歩かでよろめき,体幹失調が疑われた.
検査所見:一般血液生化学検査では,軽度の貧血を除いて異常なし.CRP 1.68 mg/dl,D-dimer 1.3 μg/ml.免疫系検査では,C3 77 mg/dl,C4 <9,IL-2 839 U/ml,CD4 28.1%,CD8 66.8%,CD4/CD8 = 0.8,ACE 17.5 U/l,抗SS-Aおよび抗SS-B抗体陰性,PR3-ANCA <1.0,MPO-ANCA <1.0,rheumatoid factor(RF)312 IU/ml(基準値 <15),抗CCP抗体174 U/ml(基準値 <4.5)と高値を示し,HTLV-1陰性,RPR(–),HIV(–).心電図・胸部X線・肺CT異常なし.髄液所見:圧270 mmH2O(正常値70~180),細胞数:115/μl(単核球のみ,正常値0~5),蛋白95 mg/dl(正常値10~40),糖47 mg/dl(正常値40~70)/血糖値110 mg/dl,グラム染色・墨汁染色陰性,培養でCryptococcus neoformans陽性,クリプトコッカス抗原価128倍,抗CCP抗体1.6 U/ml,interleukin(IL-6)165 pg/l,ADA 5.0 U/l.脳造影MRI FLAIR,およびDWIにおいて,大脳・小脳の脳軟膜・クモ膜下腔,後頭葉,中脳周囲・脚間槽などの脳槽などにガドリニウム(Gd)増強を認めた(Fig. 2).

A–C; At admission, brain contrast MRI FLAIR showed enhanced gadolinium lesions in the cerebral/cerebellar pia mater and subarachnoid spaces (arrows). D–F; At discharge, these lesions had mostly disappeared. A–F; MRI images (A–C: 1.5 T, TR 8,000 ms, TE 100 ms, TI 2,300 ms, D–F; TR 11,000 ms, TE 125 ms, TI 2,800 ms).
臨床経過(Fig. 1):入院時,頭痛・発熱,髄液細胞増加を示し,血清RF 312 IU/l,抗CCP抗体174 U/mlと高値,髄液でも抗CCP抗体1.6 U/ml,IL-6 1,060 pg/lを示し,脳造影MRIにおいて大脳・小脳の脳軟膜・クモ膜下腔を中心にGd増強を認め,リウマチ性髄膜炎と診断し,メチルプレドニゾロン(PSL)1 g/日,3日間を開始した.1週後,血清クリプトコッカス抗原価512倍,髄液培養検査でクリプトコッカス陽性,抗原価128倍が判明し,liposomal-amphotericin B(L-AMB)100 mg/dayで開始し,150 mg/dayに増量した.併せてリウマチ性髄膜炎に対しPSL 1 g/日,3日間を2回,PSLセミパルス1回を,副腎ステロイドの後療法は避けて実施し,MTX 6 mg・4 mg 月・火1回/週を継続した.約4週後よりL-AMBからfosfluconazole(FLCZ)400 mg,IVに切り替え,髄液圧200 mH2O,細胞数は7/μl,蛋白30 mg/dl,糖48 mg/dl,培養陰性,IL-6 22.0 pg/mlと改善し,脳MRIの大脳・小脳の脳軟膜・クモ膜下腔,脚間槽などのGd増強は軽減した.
しかし,8月初めより,軽度の頭痛,閃輝暗点発作が再出現,脳MRI所見で初発時の脳軟膜・クモ膜下腔の造影が再出現し,髄液細胞数24/μl,IL-6 386 pg/lと増加し,髄膜炎が再発した.血清抗CCP抗体59.5 U/ml,髄液0.6 U/mlと再上昇し,クリプトコッカス培養陰性,抗原価も4倍と変動なく低下していた点でリウマチ性髄膜炎が再発の主体と診断した.PSLセミパルス3日間実施し,FLCZ 400 mg/dayを継続し,髄液細胞数・IL-6値が減少し,両髄膜炎は鎮静化し,90病日で退院した.
本症例は関節リウマチの治療歴を有し,閃輝暗点発作,頭痛発作が先行し,発熱・頭痛を訴え,髄液圧上昇・細胞数中等度増加,MRI所見で広範な脳軟膜のGd増強,クモ膜下腔病変を示した.リウマチ性髄膜炎にクリプトコッカス髄膜炎の合併例と診断したが,リウマチ性髄膜炎の診断には脳生検での特異的病理所見が得られた訳ではなく,血清・髄液抗CCP抗体高値からの臨床診断例で,クリプトコッカス髄膜炎は髄液より菌培養陽性で確定例である.両髄膜炎の合併の報告はPubMedで検索した限りではなく,両髄膜炎は脳軟膜・クモ膜下腔病変が特徴的で,リウマチ性髄膜炎の診断をほぼ確定的としてよいか,両髄膜炎の治療をどうマネージメントすべきかなどが問題と思われる.
2015年,山下ら1)は65歳女性例のリウマチ性髄膜炎の報告と併せ26文献例を検討し,テント上片側の軟膜・クモ膜下腔を主体としたGd増強が特徴的とし,従来脳生検で同部の炎症細胞浸潤,リウマトイド結節,血管炎などの所見で診断されていたが,脳軟膜のMRI画像所見と血清RF,抗CCP抗体は疾患活動性の参考になると指摘している.安倍ら4),吉良ら5)は抗CCP抗体がリウマチ性髄膜炎の関節症状のない時点で陽性を呈したリウマチ性髄膜炎の報告を追加し,安倍らは,抗CCP抗体価指数の測定は診断特異性がたかく,有用と言及している.本例の再発時では,経時的に低下傾向がみられていた血清・髄液抗CCP抗体が血清35.4→59.5 U/ml,髄液 <0.6→0.6 U/mlと髄液細胞数・IL6の増加とともに再上昇していた点,リウマチ性髄膜炎が再発の主体と判断した.しかし,小数例の検討であり,本例のリウマチ性髄膜炎は疑い例として考察進める.
クリプトコッカス髄膜炎は,HIV感染,膠原病,悪性腫瘍,副腎ステロイド投与,糖尿病などの免疫不全患者がハイリスク群となる日和見感染症であるが,健常者も30%を占める.クリプトコッカスの内因性再燃発症の報告もみられるが6),一般的には,初発肺病変から脳軟膜から侵入し,クモ膜下腔,脳実質へ侵入する.MRI所見では,脳軟膜・クモ膜下腔の増強効果,水頭症,囊胞・肉芽腫性病変を示し,発熱・頭痛,倦怠感,意識障害など呈する難治性の慢性髄膜炎である3)7).
一方,変種gattiiを含むクリプトコッカス髄膜炎の遅発性増悪に対し副腎ステロイドが有効とされ,菌による増悪ではなく菌体成分への免疫学的機序,あるいは免疫再構築症候群と推論されている8)~11).本例の再発にはクリプトコッカス髄膜炎の遅発性増悪が鑑別にあげられ,クリプトコッカス培養陰性・抗原価が低下している点など類似性がみられる.しかし,臨床的には高抗原価や脳内病変を随伴し副腎ステロイドの後療法も必要とされるが,本例では主として脳軟膜・クモ膜下腔のMRI病変示し,後療法を避けて緩解した点などで除外はできないが可能性は少ないと考えられる.
脳軟膜・クモ膜下腔のGd造影所見は両髄膜炎を反映した所見であり,リウマチ性髄膜炎ではテント上に一側に好発すると報告されているが,本例では両側性で小脳半球にも造影効果を認めた.しかし,L-AMB投与開始前の髄膜炎急性期において,PSLパルスに反応し脳軟膜を中心としたGd増強は軽減し,髄液細胞数・抗CCP抗体が低下しており,リウマチ性髄膜炎が先行し,初発症状の閃輝暗点,片頭痛発作,異常言動もリウマチ性髄膜炎の軟膜病変・血管炎などによる可能性12)13)も考えられる.本例では,日和見感染的なクリプトコッカス髄膜炎が合併したとも推論される.
治療における優先度として,クリプトコッカス髄膜炎の方が予後不良であり,PSLのパルス・後療法はリウマチ性髄膜炎には有効であるが,クリプトコッカス髄膜炎に対しては悪化も危惧し,PSLパルス・セミパルスの対応で副腎皮質ステロイドの後療法を避け,両髄膜炎の沈静化に成功した.
謝辞:本症例の関節リウマチの病歴・検査所見の情報をいただいた久留米大学医療センター・リウマチ膠原病科 中島宗敏教授に深謝致します.
本報告の要旨は第22回日本神経感染症学会(2017.10,北九州)で発表した.
※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.