Rinsho Shinkeigaku
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Utility of transesophageal echocardiography for etiologic diagnosis of centrum ovale infarcts
Yuta KojimaHidesato TakezawaYasumasa YamamotoTakehiro YamadaEijirou TanakaDaisuke NakashimaTakamasa KitaojiYoshinari Nagakane
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2020 Volume 60 Issue 6 Pages 414-419

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要旨

髄質枝領域の半卵円中心梗塞は小血管病だけでなく,塞栓性機序で発症することが少なくないとされる.本研究では,半卵円中心に1.5 cm未満の単一病変を有する急性期脳梗塞例を対象に経食道心エコー(transesophageal echocardiography; TEE)を含めた塞栓源検索をおこなった.79例中45例に塞栓源性疾患を検出した.卵円孔開存(patent foramen ovale; PFO)が29例で最も多く,次いで大動脈複合粥腫病変15例,心房細動6例,頸動脈病変2例,その他2例であった.塞栓源性疾患の8割はTEEで検出し得ており,半卵円中心梗塞の発症機序推定にはTEEが有用である.

Abstract

A small centrum ovale infarct in the territory of the white matter medullary artery can be caused not only by embolism but also small-vessel disease. In our study, thorough screening for emboligenic diseases was performed, including the modality of transesophageal echocardiography (TEE), in patients with an acute, isolated, small (less than 1.5 cm) infarct in the centrum ovale. Of 79 patients enrolled in this study, 45 had emboligenic diseases, in whom a patent foramen ovale was detected in 29 patients, complicated aortic arch lesion in 15, atrial fibrillation in 6, occlusive carotid disease in 2, and others in 2. The majority (80%) of the emboligenic diseases were diagnosed by TEE. Therefore, TEE may be mandatory for the etiologic diagnosis of centrum ovale infarcts.

はじめに

大脳皮質下白質に分布する血管には深部穿通枝と表在穿通枝の二つがある.深部穿通枝は大脳基底核や視床に血液を供給するレンズ核線条体動脈や視床膝状体動脈などの血管でありラクナ梗塞をきたす血管として知られている.表在穿通枝は,髄質枝とも呼ばれ,大脳の表面を走行する皮質枝から脳実質に入り,半卵円中心を栄養する血管のことである.髄質枝も深部穿通枝も共に小血管であるが,両者の閉塞機序は異なる可能性が指摘されている1)~3.深部穿通枝が主として小血管病により閉塞するのに対して,髄質枝は,小血管病よりも塞栓性閉塞が多いとされているが,その病態機序についての報告は少なく見解も一定していない2)~4

近年,経食道心エコー(transesophageal echocardiography; TEE)の進歩とともに奇異性脳塞栓症や大動脈原性脳塞栓症の病態が明らかになってきている.今回われわれは,髄質枝領域である半卵円中心梗塞に塞栓性機序がどの程度関与しているのかを明らかにするため,前向きに登録した急性期脳梗塞連続例より半卵円中心梗塞を選出し,可能な限りTEEを施行し,梗塞機序の検討をおこなった.

対象と方法

対象は2010年4月から2017年3月までの当施設に入院した発症7日以内の急性期脳梗塞連続例を前向きに登録したレジストリから,初診時の頭部MRI拡散強調画像を用いて半卵円中心に単発で1.5 cm未満の急性期虚血病巣を認めるものを後方視的に抽出した(Fig. 1).半卵円中心は,Bogousslavskyらの報告に従い,大脳皮質を含まず,深部穿通枝領域に及ばないものとした1

Fig. 1 MR diffusion-weighted imaging of an isolated, small (<1.5 cm) centrum ovale infarct in the territory of a white matter medullary artery.

Left: Axial view, Right: Coronal view.

血管病リスク因子は高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙を検討した.高血圧は降圧薬を服用中であること,もしくは入院時の収縮期血圧が160 mmHg以上または拡張期血圧が95 mmHg以上であること,糖尿病は血糖降下薬を使用中もしくはHbA1c >6.4%であること,脂質異常症は脂質異常症薬を服用中もしくは血清総コレステロール値 >220 mg/dlであること,喫煙は脳梗塞発症28日以内に喫煙歴があることと定義した23

脳梗塞と同側の頭蓋内・外主幹動脈病変(50%を越える狭窄または閉塞)と大動脈複合粥腫病変(最大厚4 mm以上,もしくは潰瘍や可動性病変を伴う大動脈弓部プラーク)を塞栓源性動脈病変とし,心房細動,機械弁,心腔内血栓,発症4週間以内の心筋梗塞,僧帽弁狭窄,感染性心内膜炎,拡張型心筋症,心臓粘液腫,左室壁運動異常,卵円孔開存(patent foramen ovale; PFO)を塞栓源性心疾患とし,これらに悪性腫瘍や血液疾患に伴う血液凝固異常を加えて塞栓源性疾患と定義した.全例に一次塞栓源検索として,血液・凝固検査,頸動脈エコー,頭部MRA,ホルター心電図,経胸壁心エコーをおこない,塞栓源が検出されない場合にTEEを追加した.

TEEは当施設の脳神経内科医が施行し,バルサルバ負荷を含めたマイクロバブルによるコントラストエコー法での右左シャントの有無とシャント量の確認,および大動脈複合粥腫(プラーク厚,潰瘍形成,可動性病変の有無)の評価を施行全例でおこなった.マイクロバブルテストの評価は左房内バブルが1視野に1~5個をgrade 1,6~20個をgrade 2,20個以上をgrade 3とした5.大動脈複合粥腫はプラーク厚が4 mm以上のものと定義し,プラーク内の深さ2 mm以上の陥凹を潰瘍形成と定義した.

塞栓源を検出したものをE群,検出しなかったものをN群とし,初診時頭部MRI画像所見(陳旧性基底核・橋・大脳皮質・小脳病変の有無,Fazekas分類6,微小出血の有無,基底核血管周囲腔の有無,small vessel disease score(SVD score)7,初診時血液検査所見(BNP値,Dダイマー値)を2群間で比較した.

本研究は京都第二赤十字病院臨床研究審査委員会の承認を得ておこなわれた(承認番号Sp 2019-14,承認日2019年8月23日).

結果

対象となる症例は,急性期脳梗塞連続例2,552例のうち79例(3.1%)で,年齢は73.3 ± 11.8歳,男性41例(64.6%)であった.入院時の背景因子の結果をTable 1に示す.

Table 1  Demographic and clinical features of the 79 patients enrolled in this study.
Patients (n = 79)
Age, y 73.3 ± 11.8
Male sex 41 (64.6)
Hypertension 56 (70.9)
Diabetes mellitus 25 (31.6)
Dyslipidemia 43 (54.4)
Smoking 24 (30.4)
NIHSS on admission 2 (1–3)
mRS at 3 months after onset 0 (0–1)

Values are mean ± SD, n (%) or median (IQR). NIHSS, National Institutes of Health Stroke Scale. mRS, modified Rankin Scale.

塞栓源性疾患を有するE群は45例(57%)であった.一次塞栓源検索により塞栓源性疾患を検出したものは9例(心房細動6例,頸部内頸動脈狭窄2例,陳旧性心筋梗塞による左室壁運動異常1例)であった.残る70例中60例(86%)にTEEを施行し,36例に塞栓源性疾患を検出した(Fig. 2).その内訳は,PFOのみが20例(うち3例は下肢深部静脈血栓を合併,シャント量はgrade 1が18例,grade 2が1例,grade 3が1例),大動脈複合粥腫病変が15例(潰瘍形成または可動性病変を伴うものは6例,PFO合併は9例(シャント量はgrade 1が6例,grade 2が3例)),心腔内(左心耳)血栓が1例であった(Table 2).以上より,塞栓源性心疾患は37例(47%)に,塞栓源性動脈病変は17例(22%)に認められた.

Fig. 2 The flow of patients on investigating emboligenic diseases.

After primary embolic source investigation involving all recruited patients, 70 patients did not have emboligenic disease. Of these, 60 patients had TEE, and emboligenic diseases were detected in 60% of patients who received TEE. Af, atrial fibrillation. ICS, internal carotid stenosis. LVEF, left ventricular ejection fraction. TEE, transesopageal echocardiography. PFO, patent foramen ovale. AAA, aortic arch atheroma. LAA, left atrial appendage.

Table 2  Types and frequency of emboligenic diseases detected in this study.
Emboligenic disease n = 45
PFO 20
PFO + AAA 9
Af 6
AAA 6
Carotid ICS 2
OMI 1
LAA thrombus 1

PFO, patent foramen ovale. AAA, aortic arch atheroma. Af, atrial fibrillation. ICS, internal carotid stenosis. OMI, old myocardial infarction. LAA, left atrial appendage. There were no patients who had multiple emboligenic diseases other than PFO + AAA.

E群,N群の頭部MRI所見と血液検査所見をTable 3に示す.塞栓源性心疾患の存在を示唆するBNP値,静脈血栓の存在を示唆するDダイマー値,塞栓症を示唆する大脳皮質や小脳の陳旧性病変,小血管病を示唆する白質病変(Fazekas分類)・大脳基底核と橋の陳旧性ラクナ梗塞・微小出血・大脳基底核の血管周囲腔・SVD scoreを比較したが両群に差は認められなかった.

Table 3  Head-MRI and laboratory findings in patients with and without emboligenic diseases.
E group (n = 45) N group (n = 34) P-value*
Head MRI findings
 Old infaction
  Basal ganglia 23 (51.1) 18 (52.9) 0.87
  Pons 9 (20.0) 11 (32.4) 0.21
  Cerebral cortex·Cerebellum 12 (26.7) 5 (14.7) 0.20
 Fazekas classification
  PVH 2 (1–2) 2 (1–3) 0.57
  DWMH 2 (1–2) 2 (1–3) 0.32
 Microbleeds 23 (52.3) 18 (52.9) 0.95
 PVS in basal ganglia 39 (86.7) 31 (91.2) 0.53
 SVD score 2 (1–3) 2 (1–3) 0.81
Laboratory tests
 Serum BNP elevation 18 (54.6) 15 (51.7) 0.82
 D-dimer elevation 12 (26.7) 12 (35.3) 0.41

Values are n (%), median (IQR). *Pearson’s chi-square test was used to compare variables between the 2 groups. PVH, periventricular hyperintensity. DWMH, deep white matter hyperintensity. PVS, peri-vascular space. SVD, small-vessel disease. BNP and D-dimer cut-off values are 18.4 pg/ml and 1.0 μg/ml, respectively.

考察

本研究では,TEEを含めた積極的な塞栓源検索により,半卵円中心の単発小梗塞例の57%に塞栓源性疾患が検出された.塞栓源性疾患のうち8割がTEEによって初めて検出されたことは,半卵円中心梗塞の発症機序の推定,さらには再発予防方針の決定におけるTEEの重要性を示すものであろう.

半卵円中心梗塞は,MRIの普及とともにその発症機序が議論されるようになった1)~3.Bogousslavskyらは,梗塞の最大径が1.5 cm以下の半卵円中心梗塞は頸動脈病変とは関連がなく高血圧症や糖尿病と関連があり,小血管病を示唆していると報告した1.一方,YonemuraらはMRI拡散強調画像を用いた解析をおこない,半卵円中心梗塞では深部穿通枝領域の基底核梗塞に比し内頸動脈・中大脳動脈の狭窄・閉塞病変および塞栓源性心疾患が多いため,ラクナ梗塞と区別すべきであると報告している2.また,Lammieらは半卵円中心梗塞の剖検例の検討から,単発の半卵円中心梗塞例では小血管病の特徴とともに心臓または大動脈に塞栓源を有していることを指摘している4.このように半卵円中心梗塞の発症機序については明らかにはなっておらず,実臨床においても小血管病なのか塞栓症なのかしばしば議論の分かれるところである.これまでの主要な既報告と本研究での背景データ,塞栓源性疾患を有する割合等をTable 4に示す.

Table 4  Difference between the present study and previous reports.
Present study Bogousslavsky et al.
1992
Yonemura et al.
2002
Lee et al.
2005
Modality judging COI MRI - DWI CT and MRI MRI - DWI MRI - DWI
Size of infarction <1.5 cm <1.5 cm <1.5 cm No definition
COI in all BI patients 3.1% 1.2% 6.5% 7.3%
Age, mean ± SD 73 ± 12 66 ± 6 67 ± 10 64 ± 11
Male 65% 62% 74% 60%
Hypertension 71% 77% 63% 59%
Diabetes mellitus 32% 27% 32% 36%
Dyslipidemia 54% 12% 37% NR
Smoking 30% 42% 61% 43%
All emboligenic disease 57% 35% 79% 75%
Emboligenic heart disease 47% 15% 34% 12%
Arterial occlusive disease 3% 19% 53% 63%

COI, centrum ovale infarction. DWI, diffusion weighted imaging. BI, brain infarction. SD, standard deviation. NR, not reported.

本研究では半卵円中心梗塞の機序を推定するため,従来おこなわれてきた塞栓源検索にTEEを追加することにより,57%に塞栓源性疾患を検出した.最も多く検出された塞栓源性疾患はPFO(37%)であったが,一般健常人・剖検例で認められる頻度よりも高率であり,またKazuiらの報告しているラクナ梗塞患者でのPFO頻度(10%)よりも明らかに高率であった89.Yasakaらの提起しているPFOを介した奇異性脳塞栓症の診断基準に照らし合わせると,PFOを検出した29症例のうち,奇異性脳塞栓症のdefinite例はわずかに3例(10%)で,probable例は17例(59%)であった10.Probable例ではいずれも静脈血栓症が検出できておらずdefiniteの診断には至っていないが,いずれも他の塞栓源性疾患を認めず,健常人やラクナ梗塞患者で認められるよりも高い確率でPFOが検出されている状況を考慮すると,これらのprobable例の虚血機序としてはPFOによる奇異性脳塞栓が最も考えられた.PFOに次いで多く検出された塞栓源性疾患は大動脈複合粥腫病変(19%)であり,これらの症例は大動脈原性脳塞栓症と診断された.半卵円中心梗塞における大動脈弓部病変の重要性は剖検例を検討したLammieらも指摘している4.彼らの報告では,単発の半卵円中心梗塞5例中3例に大動脈弓部病変が認められた.

本研究で検出した塞栓源性疾患の頻度は,Bogousslavskyらの報告(35%)1より多く,Yonemuraらの報告(79%)2より少ない結果であったが,いずれの報告にもPFOや大動脈複合粥腫病変が含まれておらず,TEEの追加により塞栓源性疾患の頻度がさらに多くなった可能性がある.また,本研究でも,全ての塞栓源性疾患を検出できていない可能性は十分に考えられる.それを示唆する結果として,N群においても塞栓症を疑う大脳皮質や小脳の陳旧性梗塞を認める症例が5例あり,これらの症例のうち4例はDダイマーの異常を認めた.また,E群との比較において,N群は血液検査のBNP値・Dダイマー値に差が認められなかった.潜在性の塞栓源性疾患として発作性心房細動,悪性腫瘍に伴う塞栓症,先天的・後天的凝固異常等が挙げられ11,本研究では十分に施行できていないが,心房細動検索のための植え込み型心電計検査や悪性腫瘍検索目的の胸腹部CT,凝固因子・抗リン脂質抗体などの血液検査は塞栓源検索をより詳細におこなうために検討していく必要がある.

一方,Bogousslavskyらは,半卵円中心梗塞は小血管病が多いと指摘しており1,Lammieらも単発の半卵円中心梗塞5例の剖検例で全例が中等度から重度の小血管病を有していたと報告している4.本研究で塞栓源性疾患の検出できなかったN群については,小血管病の可能性を考慮し,その指標として頭部MRIの白質病変,基底核・橋の陳旧性ラクナ梗塞,微小出血,血管周囲腔,SVD scoreの評価をおこなったが,いずれの項目においてもE群とN群に有意な差は認められなかった.上述のようにN群に塞栓症が含まれている可能性とともに,E群にも小血管病による脳梗塞が含まれていることを考慮すべきと思われる.

本研究の半卵円中心梗塞は脳梗塞の機序として奇異性脳塞栓症,大動脈原性脳塞栓症と考えられる症例が多く存在した.奇異性脳塞栓症の再発予防治療については下肢静脈などに静脈血栓を認める症例については抗凝固療法をおこなうのが一般的であるが,血栓の存在が確認できない症例については奇異性脳塞栓症の確定診断にならず,その場合の治療選択はエビデンスが乏しく難渋する.近年,PFOの関与が疑わしい60歳以下の脳梗塞症例において,再発予防治療としてカテーテルによるPFO閉鎖術が有効であるとするエビデンスが報告され,抗凝固療法との比較がなされていないのが問題ではあるが,奇異性脳塞栓症の再発予防治療オプションの一つとして考慮する必要がある12)~14.大動脈原性脳塞栓症の再発予防治療についても,再発予防の内科的治療として抗血小板薬と抗凝固薬のどちらが良いのか一定の見解はなく,動脈硬化因子の管理とともに,潰瘍病変や可動性病変の状態や脳梗塞再発・出血リスクも考慮した上で個々の症例ごとに抗血栓療法を選択する必要がある.

本研究においてはいくつかのLimitaionが存在する.まず,前向きに登録したレジストリを用いているがTEE施行には選択バイアスが存在しており,一次塞栓源検索で塞栓源性疾患を検出した症例におけるPFOや大動脈複合粥腫が存在する可能性については検討できていない.また,TEE施行時に鎮静を要した場合はバルサルバ負荷が十分できないため,PFOが過小評価されている可能性がある.さらに,単施設でのデータでありサンプルサイズは小さく,症例の偏りが存在する可能性がある.これらの問題点を解決するためには今後,多施設でより多数例の前方視的研究の施行が望まれる.

半卵円中心の急性期脳梗塞の原因は多岐にわたるが,その中でもPFOによる奇異性脳塞栓症,大動脈原性脳塞栓症の割合が高く,TEEによる塞栓源検索の有用性は高いと考えられる.可能な限りの塞栓源検索をおこない虚血機序を明らかにすることが最適な再発予防治療の選択において重要である.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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