Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of neurofascin-155 antibody-positive chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy successfully treated with Cyclosporine A
Daisuke SatoHidenori OgataMotoi KuwaharaJunichi KiraSusumu KusunokiYoshihiro Suzuki
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2020 Volume 60 Issue 8 Pages 533-537

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要旨

症例は41歳の男性である.手指や足趾のしびれで発症し,四肢筋力低下や感覚障害が徐々に進行した.典型的な慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーと診断されたが,経過中に四肢や体幹の失調,手指振戦が顕著となり,抗neurofascin-155抗体陽性が確認された.ステロイドパルス療法,大量ガンマグロブリン療法,血液浄化療法の効果は限定的であり,十分に進行を抑制できなかったが,シクロスポリンが導入され,筋力や失調が著明に改善され維持されている.同抗体陽性例ではリツキシマブの効果が期待されているが,シクロスポリンが有用な例も存在する可能性が考えられた.

Abstract

A 41-year-old man noticed numbness of the fingers and toes, and gradually developed limb weakness and sensory impairment. The patient was diagnosed with typical chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy. Over the course of clinical diagnosis, the limb and trunk ataxia, and finger tremor became prominent, and the presence anti-neurofascin-155 antibody was examined and confirmed positive. The effects of corticosteroids, intravenous immunoglobulin, and plasma apheresis were limited, and the disease progressed slowly and noticeably. Therefore, cyclosporine was introduced as treatment, and the patient’s weakness and ataxia significantly improved. Rituximab treatment is expected to be effective in patients with the same antibody and immunosuppressant treatment may be useful in intractable cases.

はじめに

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy; CIDP)は最も頻度の高い免疫介在性の慢性炎症性末梢神経疾患であり,液性免疫と細胞性免疫の関与が疑われていたが,特異的な自己抗体は指摘されてなかった1.近年,有髄神経のランビエ絞輪部とその周辺の分子機構が明らかとなり,それらを構成する接着分子であるneurofascin-155(NF155)やcontactin-1(CNTN1),contactin-associated protein 1(CASPR1)が標的抗原として認識されてきた.NF155はランビエ絞輪および傍絞輪部に存在する150~160 kDaの膜蛋白であり,軸索側より発現するCNTN1やCAPSR1と結合してseptate-like junctionを形成し,軸索と髄鞘形成細胞を結合する.また,絞輪部の電位依存性Naチャネルとjuxta傍絞輪部の電位依存性Kチャネルを隔てており,跳躍伝導にかかわるとされている2.CIDPと診断されたものの中でも,抗NF155抗体陽性例が報告されており,特徴的な症候・検査所見を呈するサブグループとして確立されつつある3.今回,急性発症し,経過中に四肢・体幹失調と振戦が優位となり,抗NF155抗体陽性CIDPと診断された難治性の症例にシクロスポリン(Cyclosporine A; CyA)が奏効したため報告する.

症例

症例:41歳,男性

主訴:両手指,足趾のしびれ,感覚が鈍い,物をつかみにくい

既往歴:痛風(35歳~),小児喘息(小学生期),右耳下腺腫瘍術後.

先行感染:なし.

現病歴:X年5月初旬に両足,両手の指先のしびれ,脱力が出現した.近医を受診しメコバラミン,プレガバリンを投薬されたが,徐々に悪化していった.5月末に当院を受診し,神経学的には四肢遠位筋優位の筋力低下,glove and stocking型の感覚障害,振動覚低下,体幹失調,軽度左下肢失調,反射消失があった.神経伝導検査で脱髄の所見があり,髄液検査で蛋白細胞解離もあったことから,免疫介在性二ューロパチーとして6月に入院した.

初診時現症:意識清明,脳神経系に異常なし.運動系については徒手筋力テスト(manual muscle testing; MMT)(右/左の順で記載)で胸鎖乳突筋5/5,僧帽筋5/5,三角筋5/5,上腕二頭筋5/5,上腕三頭筋5/5,手関節掌屈4/4,手関節背屈4/4,腸腰筋4/4,大腿四頭筋5/5,大腿屈筋群4+/4+,前脛骨筋4+/4+,腓腹筋5/5と遠位筋優位で4~4+の筋力低下があり,近位筋である腸腰筋もMMT 4と低下していた.握力は右が50 kg,左が59 kgであった.感覚系については,上肢は両手指遠位指節間関節より末梢掌側で触覚・痛覚ともに鈍麻あり,下肢は両側大転子より末梢で触覚鈍麻,両側足首付近で痛覚過敏,それより末梢では痛覚鈍麻していた.両下肢にピリピリとした異常感覚があった.振動覚は両側内顆で10秒であった.左下肢の膝踵試験でわずかに運動分解があり,Romberg試験は開閉眼にかかわらず不安定であり,Mann肢位は左右差なく不可能であった.腱反射は上腕二頭筋と膝蓋腱では正常であったが,上腕三頭筋,腕橈骨筋,アキレス腱では消失しており,異常反射はなかった.安静時や姿勢時に振戦はなかった.膀胱直腸障害はなかった.

検査所見:一般血液所見では脂質異常症以外に異常はなかった.抗核抗体は80倍だが,各種自己抗体やM蛋白は陰性,網羅的に解析された抗ガングリオシド抗体は陰性であった.抗CNTN1抗体は陰性であった.脳脊髄液検査では細胞数31/3(個/μl,単形核球:多核球=29:2),蛋白190.5 mg/dlであった.神経伝導検査では運動神経で遠位潜時の著明な延長と伝導速度の低下がみられ,特に脛骨神経では時間的分散の増大がみられた.また,F波最小潜時の延長あり,脛骨神経でF波出現頻度の減少があった.感覚神経では正中神経,尺骨神経では導出不可であり,腓腹神経ではsensory nerve action potential(SNAP)振幅の低下と伝導速度の低下がみられた(Table 1).電気生理学的には脱髄性ニューロパチーであり,CIDPの電気診断基準(FENS/PNS基準)でdifiniteに相当した.

Table 1  Nerve conduction studies.
pre-treatment peak of symptoms post CyA
motor nerve conduction study (right side)
Median Distal latency, ms wrist 10 16.8 11.5
CMAP, mV 4.92 0.1 5.02
Conduction velocity, m/s 39 14.2 21
F-wave latency (mean), ms 39.9 54 N.E.
Ulnar Distal latency, ms wrist 4.4 7.5 7.4
CMAP, mV 8.63 1.07 7.43
Conduction velocity, m/s 48.6 25.5 30.2
F-wave latency (mean), ms 41 52.6 56.2
Tibial Distal latency, ms Ankle 7.4 N.E. N.E.
CMAP, mV 2.995 N.E. N.E.
Conduction velocity, m/s 37.3 N.E. N.E.
F-wave latency (mean), ms 104.7 N.E. N.E.
sensory nerve conduction study (right side)
Median SNAP, μV N.E. N.E. N.E
Conduction velocity, m/s N.E. N.E. N.E
Ulnar SNAP, μV N.E. N.E. 9.1
Conduction velocity, m/s N.E. N.E. 31.3
Sural SNAP, μV 7.2 N.E. N.E.
Conduction velocity, m/s 37.2 N.E. N.E.

Abbreviations: CMAP = compound motor action potential; SNAP = sensory nerve action potential; N.E. = not evoked; CyA = Cyclosporine A.

*The peak of symptoms was just before apheresis and treatment with CyA.

臨床経過(Fig. 1):6月に反射はすべて消失していた.6月下旬に大量ガンマグロブリン療法(intravenous immunoglobulin; IVIg)が1クール(400 mg/kg/day × 5 days)施行された.MMTは全部位で5となり,両大腿より遠位の感覚障害が一部改善した.経過観察されたが,徐々に失調が悪化し,自力歩行困難となった.8月にIVIgを1クール,ステロイドパルス療法(methylprednisolone, 1,000 mg/day × 3 days)を2クール施行された.失調性歩行は改善し,自力歩行も可能となった.進行抑制目的に免疫グロブリン療法による維持療法(1,000 mg/kg/day,3週間に1回)が導入されたが,2回目の維持療法前に筋力と感覚性運動失調が悪化し,9月にIVIgを通常量で1クール,ステロイドパルス療法を1クール施行された.治療後は筋力と失調は改善し,独歩が可能となった.9月よりプレドニゾロン(prednisolone; PSL)30 mg/dayを開始した.10月時点では筋力低下よりも四肢・体幹失調が優位であり,typical CIDPからataxic form CIDPに変化していると考えられた.その後,約3ヶ月間でPSL内服を30 mg/dayから漸減され,PSL 10 mg~5 mgの隔日投与(平均7.5 mg/day)で維持量とされた.X+1年4月より前脛骨筋のMMTが3に低下し,5月にはMMT 2と下垂足となった.同時期より感覚性運動失調は悪化し,姿勢時振戦や動作時振戦が顕著となり,PSL 20 mg/dayまで漸増されたが改善しなかった.6月の神経伝導検査で正中神経のcompound motor action potential(CMAP)振幅は1 mV以下に低下しており,脛骨神経は導出不能であった.6月に単純血漿交換(plasma exchange; PE)を3回施行し,握力と振動覚が軽度改善した.免疫吸着療法(immunoadsorption plasmapheresis; IAPP)を3回施行された段階では著変はなかった.続いて,ステロイドパルス療法を2クールとIVIgを1クール施行された.前脛骨筋のMMTは4に改善し,四肢の失調は改善したが,Romberg試験は陽性と感覚性運動失調が持続していた.6月からCyA 240 mg/dayの併用を開始した.ガイドライン4に準拠し,血中濃度のトラフ値が100~150 ng/mlの範囲にあることを確認しつつ,320 mg/dayまで漸増された.なお,シクロスポリンは適応外使用となるため,当院の倫理審査委員会の承認のもと,本人に十分なインフォームドコンセントを行った後に導入した.8月にはRomberg試験は陰性となった.また,失調や振戦が顕著であった点から,9月の血清を用いてFlow cytometry法により抗NF155抗体を測定したところMFI(Mean fluorescence Intensity)ratio 9.87(Healthy control MFI ratio平均0.99,Healthy control MFI ratio SD 0.12),ΔMFI 14.42(Healthy control ΔMFI平均−0.02,Healthy control ΔMFI SD 0.31)であった.治療に際して抗体価が低下している可能性もあったため,X年6月とX + 1年9月の血清でEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)法により測定したところ,whole IgGでX年6月の血清で平均optical density(OD)値1.25(正常値 <0.2),X + 1年9月の血清で平均OD値0.39であった.また,サブクラス解析ではIgG4優位であった.10月には四肢のMMTは5,握力は初診時を除けば全経過で最高値の右32.9 kg/左41.2 kgであり,振動覚は13~15秒と改善し,四肢の協調運動はおおむね正常となった.消失していた反射も,上肢で低下しているものの出現しており,PSL 10 mg/dayまで漸減されたが,再燃なく経過している.

Fig. 1 The patient’s clinical course.

The patient presented with three acute exacerbations of disease related weakness and ataxia and received intravenous immunoglobulin (IVIg), methylprednisolone (mPSL) pulse, and plasma apheresis treatment. However, first line therapy showed a little effect. Oral prednisolone was reduced gradually but the disease continued to progress slowly. Oral cyclosporine A improved symptoms drastically and succeeded in reducing prednisolone. Abbreviation: TB (Triceps brachialis), Wrist (wrist flexor and extensor), IP (Ilioposas), Quad (Quadricep), TA (Tibialis anterior).

考察

CIDPと抗NF155抗体について,抗体陽性例は若年発症であり,深部感覚性失調(P < 0.001; OR = 14.7; 95% CI = 5.9~36.1)や振戦(P < 0.001; OR = 8.6; 95% CI = 3.1~23.7)を伴うとされる5.また,髄液蛋白濃度が高値である6.加えて,急性発症の経過をとり,男性に多い傾向がある5.ELISAでの抗体陽性率は低い(2.5~3.8%)が,flow cytometryを用いた方法では22%とより鋭敏であり6,サブクラス解析では通常IgG4優位である3.抗体陰性例で54~63%に効果があるIVIgは,抗体陽性例では20%(5人/25人)にのみが効果があったという報告もあり,IVIgに抵抗性である(P < 0.001; OR = 5.74; 95% CI = 1.9~17.5)5.また,リツキシマブが奏効した報告もある7.臨床症状と抗体価,神経伝導検査の所見は相関するとされ78,特にF波最小潜時が最も抗体価と相関するという報告もあるが,一部例外もある7.本例は初期に亜急性の経過をとり,経過が慢性化するとともにtypical CIDPと考えられたが,経過中に振戦と感覚性運動失調が顕在化し,抗NF155抗体陽性と判明している.同抗体陽性例の平均発症年齢である25~32歳3より高齢発症であり,初期には明瞭でなかった振戦や感覚運動性失調が経過中に明瞭化する点は非典型的と考えられた.また,本例ではELISA法で経時的に抗体価が低下しており,治療後の抗体価の推移と考えられた.一方で神経伝導検査の所見はCMAP振幅や伝導速度で改善,腓腹神経のSCSも導出可能となるなど改善はみられているものの,現時点ではF波最小潜時が延長している点は臨床症状や抗体価と相関せず,今後の慎重な観察を要すると考えられた.また,遠位潜時や伝導速度に比べてCMAP振幅は最も改善が著しく,Koikeらの報告と同様に伝導ブロックは他の電気生理学的所見よりも早期に改善する可能性がある9.本例で症状増悪時にみられたCMAP振幅低下は時間的分散の増大を伴わず,ギラン・バレー症候群における可逆的な伝導ブロックに類似の経過であると考えられた910.治療については,症状増悪期のステロイドパルス療法,大量ガンマグロブリン療法,単純血漿交換は一定の治療効果があった.維持療法については,免疫グロブリン単独では十分な進行抑制は困難であり,さらにステロイド内服も併用されたが,PSL 10 mg/day以下の低用量では十分な進行抑制は困難であった.PSL 10 mg/day以上の量では進行抑制効果については判断が難しいが,今後も半永続的に維持療法を要するために合併症の観点からは推奨されないと判断した.また,血液浄化療法については,当時同抗体陽性と判明していなかったために,単純血漿交換を3回施行したのちに,凝固因子の低下を理由に免疫吸着療法へと変更した.単純血漿交換の施行直後より握力と振動覚は軽度改善したが,その他の所見は著変なかった.免疫吸着療法については明らかな効果は確認できなかったが,これは抗NF155抗体がIgG4サブタイプを主体とすることに一因があると考えられた.結果として,血液浄化療法は本人に負担が大きいと判断されたために,維持療法として継続不可能であった.CyAは長期の継続で握力や振動覚,感覚性運動失調が最も改善しており,症状の進行抑制が達成されているという点で,効果的と考えられた.過去に抗NF155抗体陽性例におけるCyAの使用報告はあったが,反応例と悪化例がそれぞれ存在した8.CyAがカルシニューリンを阻害することでIL-2やその他のサイトカインの発現が低下し,主としてヘルパーT細胞が抑制され,その結果として抗体産生B細胞も抑制される.抗NF155抗体陽性例の病態はいまだ不明な点が多く,本例ではfirst line therapyでは十分な進行抑制効果が得られなかったが,CyAが選択的にヘルパーT細胞を介する免疫反応を抑制し,疾患自体の進行抑制および抗体価の低下に関与した可能性が考えられた.初期にはtypical CIDPとされた症例でも,経過中に振戦や感覚性運動失調が明瞭化することがあり9,そのような場合には抗NF155抗体の測定や治療法の再検討を要すると考えられる.また,血液浄化療法やリツキシマブは効果の面で有用と考えられる一方で,免疫抑制剤の内服は費用や利便性の観点でより選択,継続しやすいという側面があり,今後のさらなる報告が期待される.

Notes

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体

○開示すべきCOI状態がある者

楠  進:講演料:CSLベーリング,帝人

○開示すべきCOI状態がない者

佐藤大祐,緒方英紀,桑原 基,吉良潤一,鈴木義広

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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