Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of Emery-Dreifuss muscular dystrophy with slight joint contracture
Shintaro FujiiKatsuki EguchiChika SatoYoshihiko SaitoLuh Ari IndrawatiShinichi ShiraiIchizo NishinoIchiro Yabe
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2020 Volume 60 Issue 8 Pages 554-559

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要旨

症例は42歳,男性.2度の冠動脈塞栓症の既往があり,筋疾患の精査目的に当科紹介となった.40歳頃から筋力低下を自覚し,肩甲周囲,上腕,下腿の筋萎縮を認めた.筋生検標本の免疫染色でエメリン蛋白の完全欠損を認め,遺伝子検査でemerin(EMD)遺伝子に病原性変異を確認しEmery-Dreifuss型筋ジストロフィー(Emery-Dreifuss muscular dystrophy; EDMD)と診断した.EDMDは発症早期の関節拘縮,肩甲上腕下腿型の筋萎縮,心機能障害を3徴とする.本症例では明らかな関節拘縮を認めなかったが,経過や臨床症状は症例により様々であり,早期診断することで心臓突然死を防ぎ得る.臨床診断に難渋した場合は当疾患も念頭に置き筋生検,遺伝子検査を行う必要がある.

Abstract

A 42-year-old man with a history of two previous coronary embolisms was referred to our hospital. He had been experiencing muscle weakness since he was around 40 years old. He had muscle atrophy of the scapula, upper arm, and lower extremities, and electromyography revealed myogenic changes in the limb muscles. Histopathological analysis of the muscle biopsy specimen revealed a complete deficiency of emerin protein, and genetic examination revealed a mutation in the emerin (EMD) gene, resulting in a diagnosis of Emery-Dreifuss muscular dystrophy (EDMD). EDMD is a muscular disorder with three symptoms: joint contracture at early onset, muscle weakness and atrophy, and cardiac dysfunction. Although this patient showed no obvious joint contracture, the course and clinical symptoms vary among patients. Therefore, in patients in whom clinical diagnosis is difficult, muscle biopsy and genetic testing should be performed for EDMD in order to prevent sudden death due to this disease.

はじめに

Emery-Dreifuss型筋ジストロフィー(Emery-Dreifuss muscular dystrophy; EDMD)は本邦における筋ジストロフィー関連疾患の中でも稀な疾患であり,核膜関連蛋白をコードする emerin(EMD)遺伝子変異によって発症する.臨床症状として①筋力低下に先行して認める関節拘縮,②肩甲上腕下腿型の筋萎縮・筋力低下,③重篤な心伝導障害を伴う心筋症,の3徴が知られており1,典型的な経過をとる場合,筋力低下が明らかになる以前に関節拘縮を呈し,その後筋萎縮・筋力低下,心機能障害が出現する.心機能障害による突然死が当疾患の予後規定因子とされており,早期発見・早期診断を行うことが重要であるが,臨床経過は症例によって様々であり,特に関節拘縮が前景に立たない場合は診断に難渋する.今回,我々は関節拘縮が軽微であったEDMDを経験したので報告する.

症例

症例:42歳,男性

主訴:四肢筋力低下

既往歴:心房静止,冠動脈塞栓症(2016年9月:39歳時,2019年1月:42歳時).

家族歴:父:白血病で死亡.母:70歳,健康であり心疾患の既往はなし.同胞2名の第1子であり,妹は脳腫瘍で死亡.子供は長女,長男の2人であり,長男は食道閉鎖症に対する手術歴あり.筋疾患,膠原病の家族歴なし.家系内に類症を認めない.

生活歴:喫煙歴なし,飲酒歴なし,アレルギーなし.

成長・発達歴:出生時から現在まで異常を指摘されたことはない.学生時代の運動能力は中の上程度であり,4年制大学を卒業し,現在は公務員として主にデスクワークを行っている.

現病歴:2016年9月,急な胸痛を主訴に他院循環器内科に救急搬送された.冠動脈造影検査では左前下行枝#9の血栓閉塞を認めたが,左室造影検査では心尖部を中心とした広範な領域の収縮低下を認め,主病態としてたこつぼ心筋症が疑われたため血行再建は施行されなかった.経過観察で左室収縮はほぼ正常化し,その後の定期受診でも再燃は見られなかった.2017年頃から四肢の筋力低下を自覚した.2019年1月,胸痛を主訴に前医循環器内科を受診し,冠動脈造影検査で左前下行枝#8末梢の血栓閉塞を認めた.12誘導心電図で心房静止の所見があり,血栓症をきたす他の基礎疾患が存在しないことから,左房内血栓形成に伴う冠動脈塞栓症が疑われ,抗凝固療法が開始された.心臓超音波検査で拡張型心筋症の所見も認め,上記のような心筋症,心伝導障害をきたす筋疾患の精査目的で当科紹介入院となった.

入院時一般身体所見:身長177.2 cm,体重69.2 kg,BMI 22.0,血圧113/66 mmHg,脈拍40 bpm・整,体温36.6°C,SpO2 98%(room air).

入院時神経学的所見:開鼻声,口輪筋筋力低下,高口蓋を認め,その他の脳神経系に明らかな異常は認めなかった.運動系では両側肩甲骨周囲,両側上腕,右下腿に筋萎縮を認めたが,明確な翼状肩甲は認められなかった.両側大胸筋,前脛骨筋,下腿三頭筋で徒手筋力検査(MMT)4程度と下腿筋を中心に軽度筋力低下を認めたが,その他の部位の筋力は保たれていた.下腿の仮性肥大は認めず,percussion myotoniaやgrip myotoniaも認めなかった.四肢の深部腱反射は減弱しており,異常反射は認められなかった.明らかな関節拘縮は認められず,内反尖足やpes cavus,側弯,斜頸,漏斗胸など骨格の異常は認められなかった.

検査所見:血液検査ではCK 632 IU/l(基準値:59~248 IU/l),アルドラーゼ9.4 IU/l(基準値:2.0~5.8 IU/l)と筋逸脱酵素の上昇を認めたが,その他に特記すべき所見は認めなかった.抗ARS抗体など種々の筋炎特異自己抗体や,αグルコシダーゼ活性の低下は認められなかった.冠動脈塞栓症に対しワーファリンを内服しているため,PT-INR 1.99と延長が見られたが,APTT,D-ダイマーなど他の凝固機能系の異常は認めなかった.前医での血液検査で,血栓素因に関連する因子(アンチトロンビンIII活性,プロテインC・S活性,抗カルジオリピン抗体)は基準範囲内であった.ジストロフィン遺伝子解析(multiplex ligation-dependent probe amplification; MLPA法)は陰性であった.

胸部レントゲン写真(Fig. 1A)では,心胸郭比58%程度の心拡大を認めた.12誘導心電図(Fig. 1B)では心拍数38 bpm程度の徐脈であり,またP波欠損とそれに伴う接合部補充調律を認め,心房静止の所見であった.呼吸機能検査では%VC 101.8%と拘束性換気障害は認めなかった.心臓超音波検査ではEF 50%と左室駆出率の低下と,心尖部下壁領域の壁運動低下,菲薄化を認め,冠動脈塞栓部位と一致する結果であった.

Fig. 1 A) Chest radiograph and B) electrocardiogram (ECG) of the patient.

A) Chest radiograph shows cardiac hypertrophy (cardiothoracic ratio [CTR]: 58%). B) ECG shows bradycardia (heart rate [HR]: 38 bpm) and the absence of P-wave and junctional escape rhythm. This finding suggests atrial standstill.

画像検査:筋MRIでは,T1強調画像・T2強調画像で両側ヒラメ筋の高信号を認めた.同部位はshort-TI inversion recovery(STIR)で等信号であり,高度の脂肪変性が疑われた.筋CTでは傍脊柱筋,両側ヒラメ筋の萎縮を認めた(Fig. 2).脳MRIでは,明らかな脳梗塞の所見は認められなかった.

神経生理学的検査:針筋電図検査では,四肢筋で早期動員,低振幅・多相性の運動単位電位を認め,強収縮で干渉良好であるなどの筋原性変化を疑う所見を認め,特に下腿三頭筋で顕著であった.四肢の神経伝導検査は正常所見であった.

Fig. 2 MRI and CT findings of the lower thigh of the patient.

A: MRI, T1-weighted image (1.5 T; TR, 711 ms; TE, 11 ms) and B: MRI, T2-weighted image (1.5 T; TR, 4,590 ms; TE, 106 ms) show high-intensity signals, and C: MRI, short-TI inversion recovery image (1.5 T; TR, 4,230 ms; TE, 64 ms) shows iso-intensity signals in both the soleus muscles. D: Plain CT image shows low density in both the soleus muscles. R: right; L: left.

臨床経過や身体所見,各種検査結果からは筋ジストロフィー関連疾患が疑われた.心機能障害の合併から肢帯型筋ジストロフィー,筋萎縮の分布から顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーや遠位型ミオパチーなどを疑ったが,臨床所見のみでは鑑別困難であり,左上腕二頭筋から筋生検を施行した.筋生検標本では全体に筋の大小不同が見られ,壊死線維はないが小径の再生線維を少数認めた.Myosin ATPaseではtype 1 fiber atrophyが認められ,modified Gomori trichrome染色では疾患特異的な所見は見られなかった.免疫染色では,核膜局在蛋白質であるエメリンの完全欠損を認めた(Fig. 3).また本人・家族の同意を得て施行した遺伝子検査では,EMD遺伝解析にてexon 3に位置するc.251_255del(p.Leu84fs)がヘミ接合性に認められた.この変異は既報病原性変異であり23,American College of Medical Genetics(ACMG)guideline においても,その病原性がvery strong(PVS1)に該当することから4,本症例をEDMDと診断した.当科外来再診時に改めて診察を行ったが,関節拘縮は後頸部に僅かに認めるのみであった(Fig. 4).

Fig. 3 Histopathological findings of the muscle biopsy specimen from the left biceps muscle of the arm.

(A) On hematoxylin & eosin (H&E) staining, marked variation is observed in fiber size. Although necrotic fibers are absent, some regenerating fibers are seen. Some fibers with internal nuclei are also observed. Mononuclear cell infiltration is not seen in the endomysium. Perifascicular atrophy is also not seen. Endomysial fibrosis is minimal to mild in the specimen. Bar = 100 μm. (B) On modified Gomori trichrome (mGT) staining, no ragged-red fibers, fibers with rimmed vacuoles, or nemaline rods are seen. Bar = 50 μm. (C) On ATPase staining, type 1 fiber atrophy is seen. Bar = 100 μm. (D) Immunohistochemical analysis with an anti-emerin antibody shows the complete absence of nuclear staining. The insert shows normal nuclear emerin staining on a control muscle. Bar = 50 μm.

Fig. 4 Patient photographs.

(A) No joint contractures are observed in the elbow and ankle joint (arrows). (B) Mild joint contracture is observed in the neck (arrow). Fig.4 is published with patient’s permission.

考察

EDMDは,本邦における筋ジストロフィー関連疾患のうち1%程度にしか見られない稀な疾患であり,発症早期からの関節拘縮,肩甲上腕下腿型の筋萎縮・筋力低下,伝導障害を伴う心筋症を3徴とする.遺伝形式はX染色体劣性のEDMD1,常染色体優性のEDMD2など多様であるが,いずれの病型の責任遺伝子も核膜関連蛋白を翻訳することが知られている.EDMD1はEMD遺伝子変異による核膜のエメリン欠損,EDMD2はラミンA/CをコードするLMNA遺伝子変異で診断される.本症例は既知のEMD p.Leu84fs変異を有しており,EDMD1の症例となる.

通常の筋ジストロフィーにおける関節拘縮は,関節周辺の筋萎縮が進行した疾患の後期段階で認めることが多いが,EDMDにおいては筋萎縮や筋力低下に先行して関節拘縮を認めることが多く,他疾患との鑑別を行う上で重要な臨床症状の一つとなる.発症年齢は5~20歳前後であり,多くの症例で関節拘縮を伴うと報告されている56.本症例の初発症状は心房静止に伴う冠動脈塞栓症であり,関節拘縮は僅かに認める程度であったが,同様に関節拘縮が軽微な症例や,まったく認められなかった症例も散見される7.また,50歳代で初診した比較的高齢発症の症例も報告されており8,臨床経過は多様である.

また,筋力低下や筋萎縮の程度に比して心機能障害が重症であることがEDMDの臨床的特徴であり,心房静止やそれに伴う左房内血栓形成による冠動脈塞栓症,心伝導障害に伴う徐脈性不整脈,心筋症に伴う収縮能低下や心室性不整脈などによる突然死も多く,予後規定因子とされている9.剖検例では心房筋に脂肪変性,線維化などの変化が強い例が多く報告されており,心房筋から房室結節,心室筋の順に変性が進んでいくものと推定されている10.EDMD1では心房静止や房室伝導遅延による徐脈性不整脈,それに伴う左房内の血栓形成による冠動脈血栓症が多く,心筋症や心室性不整脈の出現は比較的少ないと報告されている.そのため,ペースメーカー留置により突然死減少が期待できる11.一方EDMD2ではペースメーカー留置のみでは突然死は減少せず,心室性不整脈が死因と考えられており,植え込み型除細動器が突然死の予防に有効とされている10

本症例では,心房静止と2度の冠動脈塞栓症を契機に全身性筋疾患が疑われ,筋生検にてEDMD1の診断に至った.患者は初回の冠動脈塞栓症発症時は39歳と若年であり,動脈硬化性疾患をきたすような背景(高血圧,脂質異常症,糖尿病,喫煙歴など)や凝固機能の異常は見られないため,既報と同様に心房静止に伴う左房内血栓形成が冠動脈塞栓症の原因として考慮された.心機能障害に関しては,冠動脈塞栓症を繰り返しており突然死の危険性が高い状態と考えられたため,今後は当院循環器内科にてペースメーカー留置が検討されている.本疾患を早期診断することができれば,循環器内科的介入により,心臓突然死を予防することが期待できる.冠動脈塞栓症などの血栓塞栓症の予防においては抗凝固薬が使用される.本症例では冠動脈塞栓症のみを認めたが,心房静止や心房細動を呈しているEDMDの患者においては,脳梗塞など他臓器の塞栓症のリスクが高いことにも留意し,早期の抗凝固療法を検討すべきである10.また,本症例においては母,長女が保因者である可能性が考慮される.保因者においても,伝導障害などの心機能障害が出現することが報告されている12.我々が渉猟しえた限りでは,保因者における心機能障害の好発年齢について検討された文献は存在しなかったが,67歳と比較的高齢で完全房室ブロックを呈した症例も報告されている12.そのため,母,長女ともに慎重な循環器内科的経過観察を行うことが重要であり,遺伝カウンセリングを含めた介入を予定している.

関節拘縮が軽微であっても,心症状を伴う筋疾患の場合には,EDMDも念頭に置いたうえで筋生検や遺伝子検査などを検討するべきである.

Acknowledgments

謝辞:本症例をご紹介頂きました手稲家庭医療クリニックの藤田篤史先生に深謝いたします.

Notes

本報告の要旨は,第105回日本神経学会北海道地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

Notes

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織や団体

○開示すべきCOI状態がある者

西野一三:講演料:サノフィ株式会社

○開示すべきCOI状態がない者

藤井信太朗,江口克紀,佐藤智香,斎藤良彦,Luh Ari Indrawati,白井慎一,矢部一郎

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
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