Rinsho Shinkeigaku
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Review
Imaging diagnosis of intracranial artery dissections: visualization of the vessel walls on high-resolution vessel wall imaging
Shohei InuiAsako YamamotoKeita Sakurai
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2020 Volume 60 Issue 9 Pages 573-580

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Abstract

近年,頭痛を呈する代表的な疾患の一つである脳動脈解離の画像診断は非侵襲的かつコントラスト分解能の高いMRIが主流になりつつある.しかしながら,脳動脈解離の本態である動脈壁の異常を評価するには血流のアーチファクトに強く,壁を明瞭に描出する空間分解能の高い撮像法が必要であり,漫然とMRIを撮像しても病変を見落としかねない.本稿では脳動脈解離のMRI診断に関して,血管壁イメージングを中心に解説する.

Translated Abstract

MRI is a non-invasive imaging modality with a high contrast resolution useful in diagnosing intracranial artery dissections. However, conventional MRI techniques, including time-of-flight MR angiography or basi-parallel anatomical scanning provide only limited information because they focus on imaging findings rather than the vessel walls. A newly devised MRI technique, high-resolution vessel wall imaging (HRVWI), enables direct visualization of vessel wall and therefore more accurate diagnosis. With increasing use of HRVWI, physicians need to understand the clinical indications, MR sequences for assessment, optimization of acquisition parameters, and limitations in the interpretation of images. For precise interpretation of images, physicians should be aware of the pathological condition of intracranial artery dissection and its radiological findings. In this review, we provide an overview and principles of MRI assessment used for intracranial artery dissection paying special attention to its pathological findings and radiological presentations on HRVWI.

はじめに

近年,撮像技術の発達に伴い,脳動脈解離の画像診断は非侵襲的なMRIが第一選択の画像検査となりつつある.拡散強調像,FLAIR像,T2*強調像や磁化率強調像など多彩な撮像法及びそれらの組み合わせに基づいた高いコントラスト分解能により,MRIは急性期梗塞,くも膜下出血,壁内(偽腔内)血腫など脳動脈解離に関連した病変を検出することが可能である.さらにtime-of-flight(TOF)法による非造影magnetic resonance angiography(MRA)を用いれば,動脈内腔の形態評価も可能である.したがって,MRIは脳動脈解離の診断に非常に適していた画像検査と言える.しかしながら,脳動脈解離の病態や各種撮像法の特徴を理解せずにMRIを漫然と行い,結果的に診断に有用な情報が得られないことを時に経験する.例えば,脳動脈解離の診断にTOF-MRAやbasi-parallel anatomical scanning(BPAS)を組み合わせることが多いが,症例によっては診断に有用な情報を得られないことがある(Fig. 11.何故ならば,これらの撮像法は「動脈内腔」や「動脈外径」の評価を目的としているため,脳動脈解離の本態である「動脈壁」そのものの異常を検出することが困難であり,間接的な所見のみの評価となりうるからである.加えて,heavy T2強調像を応用したBPASは脳脊髄液の間隙が狭い部位や脳脊髄液と動脈が接していない部位,すなわち頭蓋外の病変には対応していない.このように,MRIを用いた脳動脈解離の診断には,その病態に加え,解剖学的特徴(脳動脈の細い血管径,頭蓋内外と異なる部位の走行や蛇行)や各種撮像法の理解が欠かせない.本稿では脳底動脈解離に関して,血管壁イメージングを中心としたMRI診断の解説を行う.

Fig. 1 A 50-year-old woman with left middle cerebral artery stenosis.

Time-of-flight MRA (A, B) clearly demonstrated a stenosis in M1 segment of the left middle cerebral artery (arrow). But, basi-parallel anatomical scanning (BPAS) image (C) was unable to illustrate the outer contour of the middle cerebellar artery in the part not surrounded by cerebrospinal fluid.

脳動脈解離の基礎事項

① 病態

何らかの原因による動脈の内膜(もしくはより外層)の損傷が動脈壁内の出血を来し,離開及び偽腔形成を生じた状態である2.内膜と中膜の間に生じる内膜下解離は内方への膨隆による動脈内腔の狭窄や閉塞を来し,外膜と中膜の間に生じる外膜下解離は外方への膨隆による瘤形成を来しうる.特に頭蓋内の動脈は中膜が薄く外弾性板を欠くという特徴があり,頭蓋外と比較して,動脈瘤を形成しやすい.頭蓋外の内頸動脈解離を最多とする欧米圏と異なり,本邦を含めた東アジア圏では頭蓋内の椎骨脳底動脈解離の頻度が多いとされる3

基礎疾患として,各種結合織疾患が知られている.代表的なものとして,線維筋形成異常,囊胞性中膜壊死,遺伝性疾患として,Marfan症候群,Ehlers-Danlos症候群,α1-アンチトリプシン欠損症,骨形成不全症,弾性線維性仮性黄色腫,家族性多発囊胞腎,等が挙げられる4.これらの基礎疾患を有さずとも,頸動脈解離を有する症例において,皮膚や浅側頭動脈の生検を行うと膠原線維や弾性線維等の結合織異常が55%程度の症例に認められうると報告されている5.カイロプラクティス,各種スポーツ(ゴルフ,野球,腕立て伏せ等),咳嗽,嘔吐など軽微な外因で発症しうることを考慮すると,背景に何らかの結合織異常が潜在的に存在する可能性はある.また,PHACTR1など疾患感受性遺伝子も発症に影響している可能性があるのかもしれない6.その他に高ホモシステイン血症,片頭痛が脳動脈解離の危険因子になりうることが知られている7

② 症状

発症様式として,出血性発症,虚血性発症,その他の症状,無症候に分けられる.出血性発症ではくも膜下出血,稀に脳出血を呈し,虚血性発症では脳梗塞や一過性脳虚血発作を呈する.その他の症状としては,頭痛や頸部痛,解離自体の圧迫による局所症状などがある.なかでも,突発する激しい頭痛や頸部痛は動脈解離の大きな特徴の一つと言える.ただし,頭痛の程度が軽度もしくは欠く症例も存在しうるため,画像診断での正確な診断は欠かせない38

脳動脈解離の画像診断

脳動脈解離の診断には,脳血管造影,超音波,3 dimensional-computed tomography angiography(3D-CTA)など各種画像検査が用いられている910.いずれも脳動脈解離の診断における有用性が知られているが,それぞれの長所や短所と脳動脈解離の病態を結びつけて考える必要がある.脳動脈解離に限らず,「想定される病態」と「画像検査」を安易に結びつけるべきではない.「背景に潜む病態」を考慮し,「その検出に最適な画像検査」を選択する,という思考法を身につけるべきである.例えば,脳血管造影は空間分解能及び時間分解能が高く,動脈内腔の微細な異常や血行動態の評価に適している.しかしながら,内腔のみの評価となるため,脳動脈解離の本態である動脈壁そのものの異常を検出することが難しい.結果,間接的な評価のみとなる危険性がある.超音波は動脈内腔及び動脈壁の評価を行うことが可能であり,非侵襲的であるため,検査を繰り返して行うことができる.ただし,術者の技量の左右されやすく,客観性に劣るという弱点がある.3D-CTAは頭頸部に加え,全身の動脈が評価可能であり,動脈内腔に加え,動脈壁もある程度は評価が可能である.しかしながら,造影剤や被曝による侵襲は無視できない問題である.また,MRIに比してコントラスト分解能が低く,微細な動脈壁の評価が困難であるという弱点がある.

一方,MRIには長い撮像時間という短所があるものの,MRAによる動脈内腔,拡散強調像による急性期梗塞,FLAIR像によるくも膜下出血,T2*強調像や磁化率強調像による出血など多彩な病態が非侵襲的に検出可能である.すなわち,動脈壁の異常という脳動脈解離の直接所見に加え,付随する虚血,出血という間接所見を非侵襲的に検出可能であるあるという利点を有する.しかしながら,適切な撮像法を選択しない場合,MRIの利点を生かし切れず,アーチファクトを有意な所見と誤った解釈を行ったり(偽陽性),病変を見落としかねないため(偽陰性)11,脳動脈解離の画像所見に加え,各種撮像法の特徴を理解しておく必要がある.

適切な撮像法を選択するには,脳動脈解離の病態を理解する必要がある.脳動脈解離の形態変化は動脈壁内の出血及び離開,動脈内腔の狭窄や拡張,外方への膨隆による瘤形成であり,「動脈壁の異常」,「動脈内腔の異常」,「動脈外径の異常」を反映している.これらは異なる形態変化であるため,その評価に適する撮像法も自ずと異なる.その中でも特に重要となるのは動脈壁の微細な変化を捉えることである.中大脳動脈や脳底動脈の壁の厚さは通常0.2~0.3 mmであることを考慮すると,微細な病変を捉えるためには,高い面内分解能に加え,partial volume effectによる偽陰性化を防ぐ高いスライス間分解能が必要となる12.また,動脈内腔の乱流や流入効果による偽陽性化などのアーチファクトが無視できない因子となる.故に,血流のアーチファクトに影響を受けにくく,かつ,動脈壁の微細な病変を評価することが可能な空間分解能の高い血管壁イメージングが必要となる.

従来から心電図同期や前飽和パルス,double inversion recovery(DIR)法を併用したtwo-dimensional(2D)のT1,T2及びプロトン密度強調像が用いられてきた.この方法では,血管壁の微細な異常を明瞭に捉えることが可能であり,脳動脈解離に限らず,脳動脈硬化,血管炎など各種血管病変の評価に有用とされてきた13.2D撮像法は面内分解能が高く,側頭動脈などより細い動脈壁の詳細な評価が可能である(Fig. 21415.ただし,低いスライス間分解能に起因したpartial volume effectによる小病変の偽陰性化,心電図同期による撮像時間の延長,信号の不安定化などの問題がある.加えて,撮像断面や撮像範囲の制限が最大の問題点となる16.結果,TOF-MRAなどで病変部位が同定できない場合や病変部位が蛇行していた場合,撮像部位や断面の決定に苦慮することとなる.

Fig. 2 A 70-year-old woman with giant cell arteritis.

Time-of-flight MRA (A) showed only a minor irregularity along the right superficial temporal artery (arrowheads). 2D black blood fat-saturated T2WI (B) and 2D fat-saturated post-contrast T1WI (C) clearly illustrated arterial wall thickening and enhancement (arrows) with surrounding fascial enhancement.

かつては広範囲の撮像範囲に起因した血流信号の抑制不良や長いエコートレイン数に起因した画質の低下,比吸収率の上昇により,3D撮像での血管壁イメージングの施行は困難であった.しかしながら,近年,登場した可変フリップ角(variable refocusing flip angle; VRFA)を用いた3D turbo spin echo(VRFA-3D-TSE)法は前述した撮像面での課題を解決した.この手法ではフリップ角を調整することにより任意のコントラストを得ることができるため,T2減衰に伴うblurringが抑制された高解像度の画像を得ることが可能である.さらに,長いエコートレイン数による比吸収率の上昇もフリップ角を漸減させることで解決された17.また,TSE法であるため,磁化率アーチファクトに強いことも特徴の一つである(Fig. 3).撮像法の呼称はMRIのベンダーによって異なり,フィリップス社ではVISTA(volume Isotropic turbo spin-echo acquisition),シーメンス社ではSPACE(sampling perfusion with application-optimized contrasts by using different flip angle evolutions),ゼネラル・エレクトリック社ではCUBE,日立製作所ではisoFSE等と呼称されている.これらの撮像法により,一般臨床でも容易に3Dの高分解能血管壁イメージングによる頭蓋内動脈の評価が格段に容易となった1819.3D撮像であるVRFA-3D-TSE法は高分解能かつ広範囲の画像を収集可能であるため,椎骨脳底動脈に限らず,前,中大脳動脈や後下小脳動脈を含めた頭蓋内動脈の詳細な評価に適している.3D撮像法はスライス方向の空間分解能が高く,multiplanar reconstruction(MPR)やcurved planar reconstruction(CPR)による再構成を適用できるため,任意の断面で病変を評価することが可能である.故に,小病変の検出,脳動脈解離の全体像の把握など脳動脈解離の診断に非常に適している(Fig. 3, 420)~23

Fig. 3 A 30-year-old woman with right vertebral artery dissection.

Coronal 3D variable refocusing flip angle (VRFA) T2WI (A) and T1WI (B: initial examination, D: 3 days later) revealed an aneurysmal dilatation and hyperintensity in V4 segment of the right vertebral artery (arrows), respectively. On the other hand, due to susceptibility artifact caused by a denture, abnormalities in the right vertebral artery were not illustrated on time-of-flight MRA (C). Fusiform shape on coronal VRFA T1WI (B, D, arrows) and semilunar shape of hyperintensity on axial reformatted image (E, arrowhead) indicated intramural hematoma. This signal intensity slightly increased on follow up images captured 3 days later (D, E).

Fig. 4 A 50-year-old man with right vertebral artery dissection.

Time-of-flight MRA (A) and coronal 3D variable refocusing flip angle (VRFA) T1WI (B) revealed a hyperintensity (arrows) corresponding to the right vertebral artery. Basi-parallel anatomical scanning (BPAS) (C) and coronal (D) and sagittal (E) reformatted image from 3D VRFA T2WI demonstrated an aneurysmal dilatation (arrowheads) with bleb-like protrusion (open arrowheads), suggesting an aneurysm formation secondary to arterial dissection.

脳動脈解離の代表的なMRI所見

脳動脈解離のMRI所見として,Spontaneous cervicocephalic arterial dissections study Japan(SCADS-Japan)の画像診断基準ではmajor criteriaとして「double lumen」もしくは「intimal flap」の描出,minor criteriaとしてMRAでの「pearl and string sign」,「string sign」や「tapered occlusion」の描出,T1強調像での「hyperintense intramural signal」の描出,additional criteriaとしてMRI,MRAでの動脈形態の変化が提唱されている(Table 124

Table 1  Spontaneous cervicocephalic arterial dissections study (SCADS) criteria.
Major criteria
1 “Double lumen” or “intimal flap” demonstrated on either DSA, MRI, MRA, CTA, or duplex ultrasonography
2 “Pearl and string sign” or “string sign” demonstrated on DSA
3 Pathological confirmation of arterial dissection
Minor criteria
4 “Pearl sign” or “tapered occlusion” demonstrated on DSA
5 “Pearl and string sign,” “string sign,” or “tapered occlusion” demonstrated on MRA
6 “Hyperintense intramural signal” (corresponding to intramural hematoma) demonstrated on T1-weighted MRI
Additional criteria
7 Change in arterial shape demonstrated on either DSA, MRI, MRA, CTA, or duplex ultrasonography
8 No other causes of arterial abnormalities
Definite dissection
Presence of one or more major criteria, or presence of one or more minor criteria and both of 2 additional criteria
Probable dissection
Presence of one or more minor criteria

Reprinted from the table in the article of 24 with permission.

1. Intramural hematoma

Intramural hematoma(hyperintense intramural signal)は偽腔内の血腫を示唆しており,脳動脈解離のMRI診断において特に重視されている所見である.T1強調像やTOF-MRAの元画像において真腔に突出する三日月状,半円形または全周性の高信号域として描出されることが一般的である(Fig. 362025.また,時期によっては拡散強調像での高信号もしくは磁化率強調像での明瞭な低信号として検出されることがある326.ある程度のサイズがあれば,TOF-MRAの元画像や2D撮像のT1強調像でも検出は可能である.しかしながら,微細な病変の場合,partial volume effectの影響により,病変の検出が困難となる.同様に,後下小脳動脈のような径が細く屈曲した動脈の場合,TOF-MRAの元画像や2D撮像のT1強調像では病変の全体像を把握しきれないという問題点がある.その点,VRFA-3D-TSE法はMPR,CPRを組み合わせることにより,多方向からの評価が可能となるため,小さなintramural hematomaの検出に非常に適している(Fig. 62223

Fig. 5 A 40-year-old man with left anterior cerebral artery dissection.

Time-of-flight MRA (A, arrowheads) illustrated an irregularity (arrowhead) in A2 segment of the left anterior cerebral artery. Sagittal 3D variable refocusing flip angle (VRFA) T1WI (B, arrows) showed a mild hyperintensity in the corresponding region, which became apparent on the follow-up MRI 1 week later (C, open arrows).

Fig. 6 A 40-year-old woman with right posterior inferior cerebellar artery dissection.

Time-of-flight MRA showed an irregularity (arrowhead) in the right posterior inferior cerebellar artery (A). Curved multiplanar reconstruction image (B) and coronal 3D variable refocusing flip angle (VRFA) T2WI (C) revealed an aneurysmal dilatation (arrow). Coronal 3D VRFA T1WI (D, open arrow) and axial (E, open arrow) reformatted image demonstrated a hyperintensity in the corresponding region.

注意点として,intramural hematomaの経時的な信号変化が挙げられる(Fig. 3, 5).発症数日から2ヵ月程度の経過で高信号となることが一般的であるが,偽腔の閉塞状況によっては2週間以上の経過でも高信号とならない場合や数ヶ月以上も高信号が持続する場合など例外も起こりうる25.よって,脳動脈解離を疑った症例ではintramural hematomaが顕在化しうる発症2~3日後以降に必ずVRFA-3D-TSE法を含めたMRIで評価を行い,有意な所見が得られなかった場合は複数回の経過観察が欠かせない.また,頭蓋外においては,動脈周囲の脂肪がT1強調像にて高信号となるため,脂肪抑制を併用しない場合,intramural hematomaを見落とす危険性があることに留意する必要がある1112

2. Intimal flap

Intimal flapは真腔と偽腔を隔てる隔壁であり,従来はT2強調像における動脈内腔での隔壁様構造とされていた27.TOF-MRAの元画像や造影後のgradient echo法の3DT1強調像(spoiled gradient-recalled acquisition in the steady state法など)でも同様の構造を評価することが可能であるが,血流のアーチファクトが類似した所見を呈することがあり,解釈に苦慮することがある.その点,VRFA-3D-TSE法は可変フリップ角による血液の位相分散に加え,motion sensitized driven equilibrium法などを併用することにより,血流によるアーチファクトを減らすことが可能であるため,intimal flapの描出により適している28

3. Pearl and string sign

動脈内腔に異常な狭窄と拡張が併存した状態である(Fig. 5).脳血管造影や3D-CTAより劣るものの,内腔の情報はTOF-MRAにて評価することが可能である.TOF-MRAとVRFA-3D-TSE法を組み合わせることにより,狭窄と拡張に対する動脈壁病変の関与をより詳細に評価することが可能となる.

4. 動脈外径の拡大

外方への膨隆による動脈瘤の形成を示唆しており,脳動脈解離に特異的な所見ではない.しかしながら,発症直後でintramural hematomaによるT1短縮が不明瞭な症例では脳動脈解離のMRI画像診断の一助となりうる23.TOF-MRAは動脈の描出が血流の影響を受けるため,細い母血管に高度狭窄や閉塞が加わった場合,動脈外径の拡大を必ずしも評価できるとは限らない.故に,血流や血管径に関わらず,動脈の外形を描出可能な撮像法が必要となる.短時間で撮像可能かつ簡便な撮像法として,BPASが良く用いられている1.この手法は椎骨脳底動脈系を1スライスで描出しうる厚いスラブのheavy T2強調像を基にしているため,椎骨脳底動脈系の動脈外径を俯瞰することが可能である.ただし,その性質上,脳脊髄液に接していない頭蓋外の病変や前後方向に膨隆した病変の評価は困難であることを理解しておく必要がある(Fig. 1).一方,3D撮像法であるVRFA-3D-TSE法はMPR,CPRによる多方向からの評価や異なる3D画像の合成を行うことができるため,動脈形態の変化の評価にも適している(Fig. 3, 4, 629

5. 経時的変化

偽腔内血腫の増加や減少,動脈瘤の拡大,縮小により,脳動脈解離は比較的短期間に形態が変化しうる.発症1~2週以内は狭窄の進行,瘤の増大を含めた悪化がみられ,それ以降は狭窄,閉塞の改善,瘤の縮小を呈するようになることが多いとされる.ただし,早期から増悪または改善が一相性に進むこともあり,症例により経過は異なる.従って,発症から少なくとも3週間以内に経過観察をすることが望ましく,症状の変化,特に悪化がある場合にはさらに頻回に観察を行う必要がある30.動脈硬化に伴う出血性プラークがintramural hematomaに類似したT1短縮を呈することがあるが,長期間,形態変化を呈さないことが多い31.故に,脳動脈解離とその他の動脈病変(動脈硬化や血管炎など)との鑑別においても経時的変化に着目することは重要と言える.MRIは非侵襲的に検査を繰り返すことが可能である点でも優れている.

6. その他の画像所見

脳動脈解離はガドリニウム造影剤を投与することにより,「動脈壁の異常造影効果」が認められることがある8.ダイナミック造影CTでも類似した異常所見が報告されており,vasa vasorumの描出が原因として推測されている12.また,偽腔内の流速低下によるアーチファクトの影響も考えられる.動脈壁の異常造影効果は正常部位との区別に有用であるが,動脈硬化,血管炎や放射線療法後など他の病態でも類似した所見を呈するため,特異的と言い難い.その他の画像所見と合わせた総合的な評価が必要となる27

脳動脈解離診断のMRIプロトコル

上記の1~6の画像所見を捉えつつ,脳動脈解離に合併しうる急性期梗塞やくも膜下出血を検出することが可能な撮像プロトコルを組み立てる必要がある.急性期梗塞の評価には拡散強調像が欠かせない.くも膜下出血の検出にはFLAIR像やT2*強調像が有用である.磁化率強調像はくも膜下出血に加え,intramural hematomaの検出も可能なことがあるため,可能ならばT2*強調像の代わりに撮像すべきである28.TOF法のMRAは動脈内腔の情報に限られるが,病変部位の推定やpearl and string signの検出には欠かせない.Intramural hematoma,intimal flapの検出にはT1系列のVRFA-3D-TSE法,血管外径の評価にはT2系列のVRFA-3D-TSE法が必要となる.T2系列のVRFA-3D-TSE法が撮像可能である場合,BPASは必要ではないが,撮像時間が短いため,スクリーニングを兼ねて撮像しても良いかもしれない.下記に脳動脈解離診断のためのMRI撮像プロトコルの代表例を記載する.

①TOF-MRA・・・

 病変部位の推定,pearl and string signの検出など

②VRFA-3D-TSE法(T1系列)・・・

 intramural hematoma,intimal flapの検出など

③VRFA-3D-TSE法(T2系列)・・・

 動脈瘤形成を含めた動脈外径拡大の検出など

④拡散強調像・・・

 急性期梗塞,intramural hematomaの検出など

⑤FLAIR像・・・

 くも膜下出血の検出など

⑥T2*強調像もしくは磁化率強調像・・・

 intramural hematoma,くも膜下出血の検出など

まとめ

脳動脈解離の診断にMRIは必須であり,病態の本質に迫るには動脈内腔,外径のみならず動脈壁の評価を行うことが必要となる.漫然と「MRA」と「BPAS」に頼るのではなく,病態の本質に迫る血管壁イメージングを適用すべきである.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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