Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Atezolizumab-induced Guillain–Barré syndrome-like acute demyelinating polyneuropathy responsive to steroid therapy: a case report
Nanami YamanakaMariko OishiFumitaka ShimizuMichiaki KogaTakashi Kanda
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2021 Volume 61 Issue 10 Pages 653-657

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要旨

76歳男性.小細胞肺癌に対してアテゾリズマブを投与した21日後から四肢遠位優位の筋力低下と感覚障害が出現した.神経伝導検査では脱髄型末梢神経障害を認め,アテゾリズマブ誘発性の急性脱髄性ポリニューロパチーと診断した.免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記)に加えてステロイドパルスと経口ステロイドを追加し,筋力低下は軽快した.免疫チェックポイント阻害薬の副作用として発症したギラン・バレー症候群様末梢神経障害では,IVIgにステロイドパルスを追加することが推奨されており,programmed cell death 1- ligand 1抗体誘発性の急性脱髄性ポリニューロパチーに対してもステロイド治療が有効であると考えられた.

Abstract

A 76-year-old man, who received atezolizumab for the treatment for small cell lung cancer, acutely developed limb weakness with sensory disturbance after the third course of the treatment. Nerve conduction studies were consistent with demyelinating polyneuropathy and acute demyelinating polyneuropathy caused by atezolizumab was suggested. Atezolizumab was immediately withdrawn, and intravenous immunoglobulin (IVIg) and methylprednisolone pulse therapies with subsequent oral administration of prednisolone were initiated, after which neurological deficits steadily improved. Although Guillain–Barré syndrome-like neuropathy caused by immune checkpoint inhibitor (ICI) was occasionally reported, this is the first case of acute demyelinating polyneuropathy triggered by atezolizumab, monoclonal antibody targeting programmed death-ligand 1. This case suggests that combined treatments with IVIg and corticosteroids are effective for neuropathy induced by atezolizumab as same as those by other ICI.

はじめに

免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor,以下ICIと略記)が多くの悪性腫瘍に対して適応が拡大される一方で,ICIによる免疫関連副作用(immune-related adverse events,以下irAEと略記)が種々報告されている.末梢神経障害を生じるICI関連irAEの重症例ではギラン・バレー症候群(Guillain–Barré syndrome,以下GBSと略記)に類似した臨床症状を呈する1)~3.ICIとして現在,cytotoxic T-lymphocyte antigen 4(CTLA-4),programmed death receptor-1(PD-1),programmed cell death 1- ligand 1(PD-L1)に対する阻害抗体が臨床的に用いられている.今回我々はアテゾリズマブ(PD-L1抗体)投与後にGBSに類似した急性脱髄性ポリニューロパチーの1例を治療する機会を得た.本例はアテゾリズマブによってGBSに類似した脱髄性ポリニューロパチーをきたし,初めてその詳細な臨床所見や治療経過を報告したものである.

症例

症例:76歳,男性

主訴:四肢の脱力とじんじん感

既往歴:胃癌(2013年),小細胞肺癌(2019年).

現病歴:2019年8月上旬に小細胞肺癌(Stage IVa, T1cN3M1a)と診断され,10月からカルボプラチン(carboplatin,以下CBDCAと略記)+エトポシド(etoposide,以下ETPと略記)+アテゾリズマブ(1,200 mg)が開始された.2019年12月初旬に3コース目を施行され,CTで腫瘍の縮小を確認され自宅退院した.化学療法3コース投与から21日後(第1病日)から,両手指と足関節以遠に左優位のじんじん感と足先の脱力感が出現した.第3病日には立ち上がれなくなり,第6病日には両上肢の筋力低下が出現し体動困難となったため前医に入院した.第11病日には呼吸困難があり痰の喀出が困難であった.第13病日から両手指の筋力低下が改善傾向になり,第17病日に当院に転院した.

現症:身長163 cm,体重50 kg,体温36.6°C,血圧121/58 mmHg,心拍数109回/分,呼吸数20回/分で努力呼吸がみられた.SpO2 95%(room air)で,一般身体所見に異常はなかった.神経学的所見は瞳孔径両側2.0 mmと縮瞳し,両側軟口蓋の挙上が軽度不良で,咽頭反射の減弱がみられた.腱反射は四肢で消失し,徒手筋力検査(manual muscle test,以下MMTと略記)は左右とも上肢近位筋4,遠位筋3,下肢0~1で,四肢遠位筋優位に左右対称性の筋力低下がみられた.感覚系は両側手首以遠と膝関節以遠に8/10程度の触覚低下があり位置覚と振動覚も低下していた.尿意と便意の低下がみられた.

検査所見:一般血液検査は白血球8,930/μl,CRP 0.44 mg/dl,赤血球沈降速度(1時間値)24 mmで,AST 33 U/l,ALT 30 U/l,γ-GTP 21 U/l,CK 33 U/l,TSH 0.83 μIU/ml,fT3 1.7 pg/ml,fT4 1.4 ng/dl,各種自己抗体は陰性,腫瘍マーカーはNSEが47.5 pg/mlと上昇し,入院時のIgG型cytomegalovirus(CMV)抗体陽性(219.00 AU/ml:基準値0~5.9 AU/ml),IgM型CMV抗体陽性(15.28 S/CO:基準値0.00~0.84 S/CO)で入院2週間後はIgG型CMV抗体(408.70 AU/ml),IgM型CMV抗体(5.73 S/CO)であった.抗糖脂質抗体(GM2, GM1, GM1b, GD1a, GalNAc-GD1a, GD1b, GT1a, GT1b, GQ1b, GM1/GD1a複合体,GM1/GT1a複合体,galactocerebroside:いずれもIgG型+IgM型抗体)と傍腫瘍性神経症候群関連抗体(gAChR Ab, Amphiphysin Ab, AGNA, ANNA, CRMP-5 IgG, VGKC Ab, N-type VGCC Ab, P/Q-type VGCC Ab, Striational Ab, CASPR2-IgG, LGI1-IgG)は検出されなかった.脳脊髄液検査では細胞数2/μl,蛋白211 mg/dl,IgG Index 0.71でオリゴクローナルバンドは陰性であった.神経伝導検査では右正中神経・尺骨神経で著明な潜時延長と速度低下,右脛骨神経では伝導ブロックを認め,F波の出現率低下がみられた.感覚神経では右正中神経で波形が導出されず,右尺骨神経と腓腹神経で著明な潜時延長と速度低下を認めた(Table 1).

Table 1  Nerve conduction study.
MCS DL
(ms)
CMAP proximal/distal
(mV)
Velocity
(m/s)
F-Latency
(ms)
F-Velocity
(m/s)
F-Frequency
(%)
Rt. Median 7.8 2.2/3.6 37.5 N.E. N.E. 0/16 (0%)
Rt. Ulnar 4.1 1.4/2.2 33 34.1 51.2 5/16 (31%)
Rt. Tibial 6.7 0.3/1.9 18.2 52.8 45.4 5/16 (31%)
SCS PL
(ms)
SNAP
(μV)
Velocity
(m/s)
Rt. Median N.E. N.E. N.E.
Rt. Ulnar 8.9 6 17.5
Rt. Sural 8.5 2 18.6

MCS: motor conduction study, SCS: sensory conduction study, DL: distal latency, CMAP: compound muscle action potential, F-Latency: F wave latency, PL: peak latency, SNAP: sensory nerve action potential, N.E.: not evoked, Rt: right

経過(Fig. 1):第17病日から免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記:0.4 g/kg/日×5日間)の投与を開始した.四肢筋力低下は緩徐に改善傾向を示したが,両下肢筋力低下が残存していたため第30病日からステロイドパルス[メチルプレドニゾロン1,000 mg/日×3日間]を行い,第33病日からプレドニゾロン(prednisolone,以下PSLと略記)20 mg/日の内服を開始した.入院中に施行した造影CTで縦隔と大動脈周囲のリンパ節の増大と上大静脈への浸潤があり小細胞肺癌の病勢悪化と考え,早期に化学療法を再開すべきと判断し,今回の被疑薬であるアテゾリズマブを除いたCBDCA + ETPによる化学療法目的で第35病日に前医に転院した.転院後もPSL 20 mg/日の内服継続とステロイドパルスを合計3コース施行し,第71病日には筋力は上肢手内筋でMMT 4,下肢でMMT 4~5にまで改善し,脳脊髄液検査で蛋白74 mg/dlと低下を確認した.同日施行した神経伝導検査(Table 2)では,入院時と比較して正中神経と尺骨神経では悪化はなかったが,脛骨神経の遠位潜時延長とcompound muscle action potential低下がみられ腓腹神経は導出不能であった.その後も筋力低下や感覚障害の再燃はなくPSLは漸減され,第80病日に杖歩行で自宅退院した.退院後,第123病日でPSLは中止され,第162病日(PSL中止から39日間)まで再燃はなく経過していた.第165病日,食欲不振と意識レベルの低下をきたし前医に緊急入院となった.小細胞肺癌の脳転移がみつかり全脳照射が行われたが,意識レベルは改善せず第193病日に死亡した.

Fig. 1 Clinical course.

76-year-old man who received atezolizumab for the treatment of small cell lung cancer developed quadriparesis and dysesthesia 21 days after the third course of treatment. The unusual clinical course including short nadir period indicated the diagnosis of Guillain–Barré syndrome-like acute inflammatory demyelinating polyneuropathy caused by atezolizumab. Immediate withdrawal of atezolizumab followed by IVIg, methylprednisolone with subsequent oral prednisolone quickly recovered his weakness, and he discharged ambulatory after 80 days.

Table 2  Nerve conduction study.
MCS DL
(ms)
CMAP proximal/distal
(mV)
Velocity
(m/s)
F-Latency
(ms)
F-Velocity
(m/s)
F-Frequency
(%)
Rt. Median 7.7 3.0/3.8 33.5 50.2 34.5 11/16 (69%)
Rt. Ulnar 4.9 1.7/2.1 26 55.2 29.7 7/16 (44%)
Rt. Tibial 9.6 0.1/0.2 21 N.E. N.E. 0/16 (0%)
SCS PL
(ms)
SNAP
(μV)
Velocity
(m/s)
Rt. Median N.E. N.E. N.E.
Rt. Ulnar 7.3 6 24.1
Rt. Sural N.E. N.E. N.E.

MCS: motor conduction study, SCS: sensory conduction study, DL: distal latency, CMAP: compound muscle action potential, F-Latency: F wave latency, PL: peak latency, SNAP: sensory nerve action potential, N.E.: not evoked, Rt: right.

考察

アテゾリズマブはPD-L1に対するモノクローナル抗体であり,本邦では2018年1月より非小細胞肺癌,進展型小細胞肺癌,乳癌に対して用いられ,癌細胞に発現するPD-L1に結合し,癌細胞に対するTリンパ球の免疫応答を増強することで抗腫瘍作用を有する.本例はアテゾリズマブ誘発性でGBSに類似した脱髄性ポリニューロパチーをきたし,その詳細な臨床所見や治療経過を記述した初めての報告である.ICIによる慢性・急性を含めた末梢神経障害はPD-1抗体,PD-L1抗体,CTLA4抗体使用者の3%未満でみられ,多くの症例は軽症から中等症でICIの中止やステロイドなどの免疫治療は必要としない4.ただし,一部にGBSに類似した重症な経過を辿る末梢神経障害を呈した報告1)~3があるため,重症例では早期の診断と治療介入が必要である.2008年から2018年の間に個別症例安全性報告としてWHOのVigibaseにICI関連GBSと報告された122例のICIの内訳は,PD-1抗体が49.2%,CTLA-4抗体が30.3%,PD-1抗体とCTLA-4抗体の併用が17.2%,PD-L1抗体が3.3%であり,PD-L1抗体に関連した症例は少ない5.しかし,PD-L1抗体関連GBSの割合が少ない理由はPD-L1抗体の使用症例数自体が少ないことが大きいと考えられ,PD-L1抗体が他のICIよりも安全というわけではない.PD-L1抗体の作用機序は,PD-1抗体と同様にPD-L1とPD-1の結合を阻害しT細胞への抑制性シグナルを減少させることで,悪性腫瘍に特異的なT細胞の活性化を促し腫瘍増殖を抑制することである6.そのため,irAEの発症はPD-1抗体とPD-L1抗体で同様の病態であることが想定される.一方で,PD-L1は悪性腫瘍だけでなく,活性化免疫細胞や末梢組織の正常細胞にも発現しており,末梢神経や後根神経節でも発現が確認されている7.アテゾリズマブはヒト化IgG1モノクローナル抗体であり,T細胞活性化の他に補体介在性に抗体依存性細胞傷害を起こすことによって末梢神経や後根神経節を傷害する機序の可能性も考えられた.

本例は急性かつ自然軽快傾向を示す運動感覚型のポリニューロパチーを呈し,神経伝導検査で脱髄を示唆する所見があり,脳脊髄液の蛋白細胞解離や血清IgM型CMV抗体陽性などから,アテゾリズマブとは関係なく発症したCMV感染後脱髄型GBSが鑑別診断の対象として挙がった.通常のCMV感染後GBSの発症年齢中央値は36歳(20~52歳)8あるいは32歳(18~66歳)9と発症年齢が若く,顔面神経麻痺の発症率は49%8あるいは80%9と高率であると報告されている.しかし,本例は76歳と高齢発症であり,顔面神経麻痺はなく,CMV感染症で合併しうる肝機能障害(51%)9や網膜炎所見はみられず,CMV感染後GBSで陽性となることが多い血清GM2-IgM抗体/GalNAc-GD1a-IgM抗体は陰性であり,CMV感染後GBSでみられやすい臨床的特徴を認めていなかった.さらにアテゾリズマブの国際共同第III相臨床研究(OAK試験)ではアテゾリズマブ単剤群609例で神経障害(37例)の副作用発現時期は平均67日(1~515日)であり,本例はアテゾリズマブの初回投与から63日後に発症していることから,CMV感染後GBSと完全に鑑別はできないが,アテゾリズマブの副作用として発症した自己免疫性脱髄性末梢神経障害である可能性が高いと考えた.また,本症例は嚥下障害や下肢の筋力がMMT 0~1になるほどの重症度の高い末梢神経障害を呈しているにも関わらず,発症から11日で症状のピークを迎え13日ですでに症状が改善傾向となっており,症状がピークに至り改善傾向となるまでの期間が短かったことは臨床的特徴の一つであると考えている.ICIによるirAEとしての末梢神経障害の詳細な病態は未解明であるが,制御性Tリンパ球が病態の主体であり10,通常のGBSの発症機序とは異なる機序で発症すると考えられている.米国臨床腫瘍学会から出されたirAEのガイドライン11には,ICI誘発性のGBSの治療として被疑薬であるICIの中止を行った上で,通常のGBSと同様にIVIgもしくは血漿交換療法を行い,ステロイドパルスを追加することが推奨されている.PD-1抗体誘発性のGBS症例でもステロイドパルスを追加した例が報告されている12.前述した通りPD-1抗体とPD-L1抗体誘発性の末梢神経障害は同様の機序で生じると考えられるため,本例でもステロイド治療を併用することでさらなる治療効果が期待された.実際に本例ではIVIg後にステロイドパルスとPSL 20 mg/日の内服を追加し良好な治療効果が得られた.

本例はアテゾリズマブによってGBSに類似した脱髄性ポリニューロパチーをきたし,その詳細な臨床所見や治療経過を記述した初めての報告である.通常のGBSと比較して症状のピークアウトが早いことが診断の一助となる可能性が考えられ,今後も本例のような症例の蓄積が望まれる.またPD-L1抗体によるirAEとしての脱髄性ポリニューロパチーであってもPD-1抗体と同様にステロイドの追加治療が奏効する可能性があるため,早期診断し適切な治療を行うことが重要である.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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