Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Subacute cognitive impairment and urinary retention due to primary central nervous system post-transplant lymphoproliferative disorder: a case report
Naosuke YokoyamaTakamichi KanbayashiShunsuke KobayashiTsuyoshi IshidaMasahiro Sonoo
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2021 Volume 61 Issue 11 Pages 750-755

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要旨

症例は66歳男性.64歳時に生体腎移植を施行し,術後は免疫抑制剤の内服にて安定して経過していたが,2年後に亜急性の経過で見当識障害と尿閉が出現し,精査目的に当科へ入院.認知機能低下,尿閉を呈し,頭部MRIにて左前頭頭頂弁蓋部,脳梁膝部・膨大部に一部リング状造影効果を伴う多発病変を認めた.診断に難渋したが,脳生検を施行し,病理所見から中枢神経原発の移植後リンパ増殖性疾患(post-transplant lymphoproliferative disorder,以下PTLDと略記)と診断.免疫抑制剤減量およびステロイドパルスにて症状は改善傾向となり,化学療法のために転院となった.中枢神経原発PTLDは稀ではあるが,移植後に中枢神経症状を呈した際に鑑別すべき重要な病態である.

Abstract

We report a 66-year-old man with primary central nervous system post-transplant lymphoproliferative disorder (PCNS-PTLD). He had received a living-donor kidney transplantation at the age of 64 years. Although he had a good postoperative course by continuing to take oral immunosuppressive agents, he was admitted to our hospital for subacute cognitive impairment and urinary retention two years after the transplantation. Brain MRI revealed high-intensity lesions on FLAIR and T2-weighted images in the left parietal operculum, deep white matter around the anterior horn of the lateral ventricle, and the genu and splenium of the corpus callosum. A part of these lesions showed ring enhancement. The cerebrospinal fluid examination revealed lymphocytic pleocytosis, elevation of protein level, and mild hypoglycorrhachia. Blood tests showed no abnormalities except for positive serum VCA-IgG antibody of Epstein–Barr virus. A brain biopsy was performed and diagnosis of PCNS-PTLD was made. There was no evidence of systemic PTLD. We reduced the dose of immunosuppressive agents and started the initial treatment with methylprednisolone pulse therapy. The patient showed a partial response to the treatment and transferred to another hospital for subsequent chemotherapy. PTLD is an important post-transplant complication that can affect the patient’s prognosis. The incidence of PTLD is increasing with the growing numbers of transplantations and older age of donors and recipients. Although CNS involvement is known to be rare, PCNS-PTLD is an important differential diagnosis when symptoms of CNS origin develop in post-transplant patients.

はじめに

移植後リンパ増殖性疾患(post-transplant lymphoproliferative disorder,以下PTLDと略記)は,臓器や幹細胞移植後に発症し,患者の生命予後に影響を与える重要な移植後合併症の一つである1.WHO分類ではPTLDには形質細胞過形成なども含まれるが,報告の多くは通常の非ホジキンリンパ腫に従い病理組織分類される腫瘍性病変である2.中枢神経原発PTLD(primary central nervous system-PTLD,以下PCNS-PTLDと略記)もPTLD全体の約5~15%に報告されている34.中枢神経病変の有無はPTLDの予後不良因子の一つとされ5,早期の診断および対応が重要であり,移植後患者に中枢神経症状がみられた場合には原因として考慮すべき疾患である.

今回我々は,生体腎移植後に亜急性の認知機能低下,尿閉にて発症し,診断に難渋したが最終的に脳生検にてPCNS-PTLDと診断した1例を経験したため,文献的考察を加え報告する.

症例

症例:66歳,男性

主訴:物忘れ,尿閉

既往歴:糖尿病性腎症,生体腎移植後.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2018年に糖尿病性腎症に対して妻をドナーとした生体腎移植術を施行.その後はタクロリムス4.5 mg/day,ミコフェノール酸モフェチル1,250 mg/day,メチルプレドニゾロン4 mg/dayの内服で経過は良好であった.2020年4月下旬から一度伝えたことをしばらくすると忘れてしまうことや,職場で郵送手配を頼まれた物の郵送を忘れてトラブルになってしまうなどの物忘れがめだつようになった.もともと穏やかな性格であったが,些細なことで怒りだすなど易怒性もめだつようになった.しかし食事摂取,着替えなどの日常生活は問題なく行い,職場への通勤もできていた.5月上旬には尿閉が出現し,A病院腎臓内科に入院.血液検査では特に腎機能の増悪などは認めなかったが,5月下旬にかけて認知機能障害が進行し,頭部MRIにおいて大脳半球に多発する高信号病変を認めたために精査加療目的に当科へ転院となった.

当科転院時現症:身長170 cm,体重60 kg,体温36.7°C,血圧130/70 mmHg,脈拍数70回/分,SpO2:98%(room air).眼瞼結膜に貧血なし,頸部や鼠径部のリンパ節腫脹なし,胸腹部に特記すべき異常を認めなかった.

神経学的所見:意識状態は清明.自発動作は俊敏で発話量は保たれ,以前従事していた仕事の内容を細かく説明することができた.一方で日付や場所に対する質問および開閉眼や離握手などの簡単な従命に対して反応の遅延があり,MMSEは13/30(時間および場所の見当識で−5点ずつ,計算−5点,遅延再生−2点),レーヴン色彩マトリックス検査はSet Aの成績が9/12で10分を要し,以降のsetは施行不能で中止した.発語は流暢で,物品呼称,言語理解,復唱も問題なく失語症状なし.視覚性失認,観念運動性失行,観念性失行,構成障害,半側空間無視,触覚性・視覚性消去現象は認めず.手指パターンの左右伝達障害,左手の失書,左手の触覚性呼称障害などの脳梁離断症状も認めなかった.脳神経,運動・感覚系,協調運動,腱反射に特記すべき所見はなく,自律神経症状として尿閉を認めた.

当科転院時検査所見:血液検査では血算,生化学検査に異常所見は認めず.抗核抗体やMPO-ANCA,PR3-ANCAなどの自己抗体は陰性で,T-SPOTやクリプトコッカス抗原,抗アクアポリン4抗体も陰性であった.可溶性IL-2受容体(soluble interleukin-2 receptor,以下sIL-2Rと略記)は531 U/ml(正常値:122 U/ml~496 U/ml)と軽度上昇していた.Epstein-Barr virus(EBV)の抗体価は抗VCA-IgG抗体は20倍と陽性で,抗VCA-IgM抗体,抗EBNA抗体は10倍未満,血中のEBV-DNA PCR定量検査は検出感度以下であった.タクロリムスとミコフェノール酸モフェチルのトラフ値はそれぞれ4.9 ng/ml,1.3 μg/mlであり,いずれも血中濃度は高くはなかった.髄液検査では,初圧は90 mmH2Oと正常範囲内で,細胞数:178/μl(単核球99%),蛋白:289 mg/dl,糖:56 mg/dl(同時血糖:170 mg/dl)と単核球優位の細胞数上昇と髄液蛋白の増加,髄液糖/血糖比の低下を認めた.オリゴクローナルバンドは陰性で,IgG indexは1.56,MBPは1,540 pg/mlと高値.髄液中のsIL-2Rは486 U/mlであった.髄液JCウイルス-DNA PCRと髄液トキソプラズマPCRは陰性.髄液細胞診はclass IIIの所見であった.髄液中のEBV-DNA PCR定量検査およびフローサイトメトリーは施行していない.心電図は正常洞調律で特記すべき所見なし.

当院転院時に施行した頭部造影MRIでは,T2強調像およびFLAIRにおいて左前頭頭頂弁蓋部,両側側脳室前角周囲,脳梁膝部・膨大部に多発する高信号病変を認め,病変の一部はリング状の造影効果を呈していた.拡散強調像では側脳室前角周囲や脳梁膨大部病変の一部に高信号を認めた(Fig. 1).胸腹部CTにおいては明らかな異常所見を認めなかった.脳波検査では背景活動としてslow α波がびまん性に出現し,散発性に5~6 Hz程度の徐波が比較的高頻度で混入しており軽度異常と考えられた.突発異常波などは認められなかった.

Fig. 1 Brain MRI findings on admission to our hospital.

FLAIR (3.0 T, TR 8,800 ms, TE 101.1 ms) and contrast-enhanced T1-weighted (3.0 T, TR 7.1 ms, TE 3.1 ms) images revealed high-intensity lesions with ring enhancement in the left parietal operculum, deep white matter around the anterior horn of the lateral ventricle, and the genu and splenium of the corpus callosum (A, B, D, E). Diffusion-weighted images (3.0 T, TR 8,000 ms, TE 72.0 ms, b value = 1,000 sec/mm2) showed high-intensity lesions in a portion of lesions of the corpus callosum (C, F).

入院経過:免疫抑制剤投与下において亜急性の認知機能低下と尿閉を呈しており,頭部画像所見も合わせ,鑑別診断として進行性多巣性白質脳症,悪性リンパ腫,日和見感染症(サイトメガロウイルス感染症,トキソプラズマ脳症,結核,真菌感染症)などを挙げて精査を進めた.しかしながら,血液検査や髄液検査所見からは確定診断に至らず,傾眠傾向が徐々にめだつようになり症状の悪化が認められた.入院後に施行した18F-FDG PETでは,両側大脳半球の病変部は周囲脳組織と同程度の集積を認め,その他の臓器に腫瘍性病変を示唆する異常集積は認められなかった.その後,確定診断目的に6月上旬に左前頭頭頂弁蓋部の病変から脳生検を施行した.病理学的所見としてHE染色では広範な壊死組織を背景に比較的大型な異型細胞が集簇しており,異型細胞は核の大小不同を示し,やや不整形核を示す細胞や核小体を有する細胞もみられ核分裂も認めた.免疫染色では異型細胞にB細胞性マーカーであるCD20細胞が陽性を示し,細胞増殖マーカーであるKi-67陽性率(MIB-1 index)は50~60%であった(Fig. 2).脳生検組織におけるEBV-DNA PCR定量検査は1.06 × 109 copy/μlと高値を呈していた.EBV-encoded small RNA(EBER)を標的としたin situ hybridizationは施行していない.脳生検の病理診断はB細胞性のリンパ増殖性疾患であり,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫が最も疑われた.腎移植後に発症していること,EBV感染の関連が示唆されることからPCNS-PTLDと診断した.治療として免疫抑制剤の減量およびステロイドパルスを開始したところ,傾眠傾向は徐々に改善し,日中の多くを開眼状態で座位にて過ごすようになったが,無為無動が強く自発語は短文のみで,MMSEは検査不能なレベルであった.尿閉が残存し膀胱カテーテルの留置が継続された.症状の寛解には至らず,化学療法施行目的に以前に生体腎移植を施行したB病院へ転院した(Fig. 3).

Fig. 2 Histopathological findings of brain specimens.

Hematoxylin-eosin staining of a brain biopsy specimen showing diffuse proliferation of large-size atypical lymphoid cells (A, B). Immunohistochemical staining showing CD20-positive and ki-67-positive cells (C, D). Scale bars = 100 μm for A, C, D, and 50 μm for B.

Fig. 3 Clinical course.

The patient presented with subacute cognitive impairment and urinary retention two years after the living-donor kidney transplantation. A brain biopsy was performed because other tests did not lead to any definitive diagnosis and drowsy state appeared. After diagnosis of post-transplant lymphoproliferative disorder was made, the doses of immunosuppressive agents were reduced and methylprednisolone pulse therapy was initiated. Finally, he was transferred to another hospital to receive chemotherapy. MMF: mycophenolate mofetil, mPSL: methylprednisolone.

考察

本症例では,生体腎移植の2年後に亜急性に進行する認知機能低下と排尿障害を呈し,脳生検によりPCNS-PTLDと診断した.両側大脳半球深部白質・脳梁を含む多発性病変により皮質下性認知症と神経因性膀胱が進行したと考えられた.PTLDの発症頻度はまれであるものの,臓器や幹細胞移植後の生命予後を左右する重篤な合併症として注目されている.1968年にDoakらが腎移植後の数年後に全身性リンパ増殖性疾患を呈した2例を報告し6,その後,1969年にPennらによって5例の固形臓器や幹細胞移植後に悪性リンパ腫を発症した5例が報告され,重要な移植後合併症として認識されるようになった7

PTLDの発症率は移植臓器によって異なるものの,一般に移植後患者の1~10%程度に発症し,その死亡率は50%にも達するとされる8.組織型としては本症例のようなびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が最も多く910,そのほかにT細胞やNK細胞を起源とするPTLDも報告されている11.また,移植後1年未満に発症するPTLDはearly-onset PTLD,移植後1年以降に発症するPTLDはlate-onset PTLDと分類されている12.Early-onset PTLD発症に関わる重要なリスク因子としてEBV感染が挙げられ,特に移植後1年未満で発症するearly-onset PTLDの発症に強く関係しているとされ,EBV既感染ドナーから未感染レシピエントの移植の場合にはさらにハイリスクとなる1314.本症例は生体腎移植から2年後にPTLDを発症しており,late-onset PTLDと考えられた.Late-onset PTLDの発症リスク因子としては,レシピエントが高齢であること,免疫抑制剤の使用期間,非ヒスパニック系であることなどが報告されている15

本症例では生体腎移植後にPCNS-PTLDを発症したが,生体腎移植ではその他の臓器移植と比較してPTLDの発症率は0.8%~2.5%と最も低いことが報告されている1.その一方で,PCNS-PTLDを呈する割合はその他の臓器移植と比較して最も高いことも知られている1617.PCNS-PTLDはPTLD全体の約5~15%程度とされるが34,中枢神経病変の有無は予後不良因子の一つとされ5,早期の診断および対応が重要となる.PCNS-PTLDの臨床症状としては,片麻痺や失語などの巣症状が最も多いとされるが1819,頭痛やてんかんなども中枢神経症状として報告されており,病変部位によっても様々な症状を呈する.

本症例の頭部MRIにおいては,左前頭頭頂弁蓋部,両側側脳室前角周囲,脳梁膝部・膨大部に一部リング状造影効果を伴う多発病変を呈しており,急性経過で免疫抑制剤投与下での発症でもあったことから,日和見感染なども含めた鑑別診断が考慮され,診断に難渋した.PCNS-PTLDの頭部MRI所見の特徴として,60%以上の症例において大脳半球の特に側脳室周囲や大脳基底核領域に多発性病変を呈することや31819,病変部位は不均一なリング状造影効果を認めることなどが報告されているが20,中枢神経原発悪性リンパ腫や中枢神経感染症の特徴と類似する点も多く,画像所見のみから診断することは困難な場合が多いと考えられる.

本症例においても血液や髄液検査,画像所見などからは確定診断に至らず,診断に難渋したものの最終的に脳生検にて確定診断に至った.神経症候や画像所見のみでPCNS-PTLDと診断することが困難な例も多いと考えられ,臓器もしくは幹細胞移植歴を有し,免疫抑制剤投与が行われている例に急性あるいは亜急性に神経症状が出現した場合には,PCNS-PTLDの可能性も念頭に置きながら精査を進め,必要に応じ早期に脳生検を考慮することが正確な診断に重要と考えられた.脳生検はPCNS-PTLDの確定診断のみならず,治療方針の決定や予後判定のためにも重要と考えられるが,病理医にもPTLDを鑑別として考慮していることを共有しておくことが,より正確な診断に寄与すると思われる.

PTLDの治療としては,過剰な免疫抑制下であることが発症の契機となっているため,初期治療として移植臓器の拒絶反応に注意しながら免疫抑制剤を減量もしくは中止して細胞性免疫の回復を図ることが挙げられる21.しかしながら,特にlate-onset PTLDにおいては免疫抑制剤の減量・中止のみでは不十分で,化学療法などの追加治療が必要になることが多い22.初期治療に抵抗性の場合はCHOP療法にリツキシマブを加えたR-CHOP療法が,特にB-cell PTLDの生存率を改善させることが示されている23.本症例においても,免疫抑制剤の減量およびステロイドパルスにて症状の改善傾向を認めたものの治療効果は不十分であり,化学療法施行目的に生体腎移植を施行した病院へ転院となった.

近年の臓器移植件数の増加や,周術期の管理,免疫抑制剤の進歩による各臓器移植後患者の予後の改善に伴い,レシピエントの高齢化や長期にわたる免疫抑制剤暴露例が増えることによって,今後特にlate-onset PTLDのさらなる増加が予想される.PCNS-PTLDは移植後患者の中枢神経症状の原因の鑑別診断として脳神経内科医も考慮する必要のある疾患である.

Acknowledgments

謝辞:本症例の脳生検を執刀くださいました帝京大学医学部附属病院脳神経外科の小野田恵介先生,髄液JCウイルス-DNA PCRと髄液トキソプラズマPCRおよび脳生検組織のEBV-DNA PCRを測定くださいました国立感染研究所ウイルス第一部の中道一生先生,寄生動物部の永宗喜三郎先生,感染病理部の高橋健太先生,本症例の治療方針に関してご助言いただきました板橋中央総合病院腎臓内科の蜂須賀健先生,近藤晃先生,春口和樹先生に深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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