Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of facial-onset sensory and motor neuronopathy (FOSMN) with cerebellar ataxia and abnormal decrement in repetitive nerve stimulation test
Daisuke YamamotoMinoru YamadaBo CaoSyuuichirou SuzukiShin HisaharaShun Shimohama
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2021 Volume 61 Issue 2 Pages 115-119

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要旨

59歳女性.緩徐に増悪する左顔面感覚障害を認め,次第に顔面筋力低下,構音障害,舌萎縮,舌線維束性収縮を伴った.さらに左上下肢の運動失調と画像検査で小脳萎縮および血流低下を認め,左鼻筋と僧帽筋の神経反復刺激試験(repetitive nerve stimulation,以下RNSと略記)では異常減衰を認めた.臨床経過からfacial-onset sensory and motor neuronopathy(FOSMN)と診断した.FOSMNでの小脳失調は一般的ではないが,小脳白質にTDP-43陽性神経膠細胞質封入体を認めた症例もある.また筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)では僧帽筋でのRNS陽性率が高いが,本疾患でもALSと同様の病態で罹患筋の異常減衰を認めると推定される.

Abstract

A 59-year-old woman presented with a 7-year history of facial numbness on the left side, and gradual worsening of symptoms. Over several years, facial muscle weakness, dysarthria, tongue atrophy and fasciculation had progressed. Then, she developed cerebellar ataxia affecting the left extremities, in addition to earlier symptoms. Brain MRI revealed cerebellar atrophy, and 99mTc-SPECT depicted cerebellar hypoperfusion. A repetitive nerve stimulation test (RNS) indicated abnormal decrement in the nasalis and trapezius muscles on the left side. Facial-onset sensory and motor neuronopathy (FOSMN) was diagnosed. Administration of intravenous immunoglobulin resulted in improvement of some symptoms. Although cerebellar ataxia is not a common symptom of FOSMN, a case showing TDP-43-positive glial cytoplasmic inclusions in cerebellar white matter has been reported. Therefore, it is possible that FOSMN may cause cerebellum impairment in some patients. Furthermore, RNS positive rate in the trapezius muscle is known to be high in amyotrophic lateral sclerosis (ALS) patients. It is speculated that RNS of the affected muscles in FOSMN may show abnormal decrement by the same mechanisms as ALS.

はじめに

2006年にVucicらが,口囲の感覚障害が発症したのちに,緩徐に顔面,頭部,背部,上肢,前胸部に広がり,さらに球症状や筋力低下の進行を認めた4例を報告し,新たな症候群としてfacial-onset sensory and motor neuronopathy(FOSMN)と名付けた1.その後50例を超えるFOSMNが報告され,本邦からも数例の報告がある2)~4.その病態は明らかではないが,病理学的検討から三叉神経や後根神経節(dorsal root ganglion,以下DRGと略記),顔面神経を含む神経変性疾患と考えられており,TDP-43陽性細胞内封入体を伴うことから,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,以下ALSと略記)の同一スペクトラム疾患との考えもある56.また,近年ALSの原因遺伝子であるSOD17VCPTARDBPCHCHD10変異例8,ALSの家族歴89を伴う症例報告も散見される.我々は小脳失調および小脳萎縮を伴うFOSMNの症例を経験し,顔面筋および僧帽筋の神経反復刺激試験(repetitive nerve stimulation,以下RNSと略記)で異常減衰を認めた.過去に小脳失調を伴うFOSMNの報告はない.またRNSの異常減衰についてもこれまで言及されておらず,その生理学的,病理学的考察を行う.

症例

症例:59歳,女性

主訴:左顔面痛,構音障害

既往歴・家族歴:特記事項なし.

現病歴:2012年に左頬部のピリピリとした異常感覚を自覚し,緩徐に増悪した.2017年10月頃に左顔面全体と頭部に広がったため,同年12月に前医を受診し,感覚障害の他に左口輪筋筋力低下が指摘された.感覚障害への対症薬物療法の効果は限定的であった.2018年10月頃から構音障害を自覚するようになり,2019年2月には舌左側の萎縮と線維束性収縮が指摘された.同年10月に当科を紹介受診し,精査のため入院した.

入院時現症:血圧140/82 mmHg,脈拍83/分,体温36.9°C,SpO2 98%.一般身体所見に異常を認めなかった.意識清明で,髄膜刺激徴候を認めなかった.眼底所見に異常を認めなかった.左顔面全体および頭部に異常感覚を認め,左角膜反射は消失していた.両側口輪筋筋力低下を認めた.嚥下困難感を自覚し,構音障害を認めた.両側胸鎖乳突筋の筋力低下を認め,左側は筋萎縮を伴った.左側優位の舌萎縮と,豊富な線維束性収縮を認めた.四肢は,左上肢近位筋でMMT4の筋力低下を認めたが,筋萎縮や線維束性収縮を認めなかった.握力は右16.8 kg,左13.5 kgと軽度の低下を認めた.四肢腱反射は亢進していたが,病的反射は陰性であった.左指鼻指試験,回内回外試験が拙劣であったが,体幹失調は認めなかった.血液検査では,血算,肝機能,腎機能,甲状腺機能に異常を認めず,炎症反応は陰性であった.各種自己抗体(抗核抗体,リウマトイド因子,SS-A,SS-B,TPO,TG,GM1 IgG,GQ1b IgG,AChR,MuSK,VGKC,MPO-ANCA,PR3-ANCA,抗神経抗体)は陰性で,ACE,リゾチーム,sIL-2Rの上昇も認めなかった.HIV,HTLV-1,VZV,HSV,EBV,ボレリア等の感染症関連抗体は陰性だった.脳脊髄液検査では,糖,蛋白,細胞数は正常で,OCB陰性,MBP < 31.3 pg/mlと正常所見で,細胞診では悪性所見を認めなかった.末梢神経伝導検査(nerve conduction study,以下NCSと略記)では,上肢の複合筋活動電位(compound muscle action potential,以下CMAPと略記)および感覚神経活動電位(sensory nerve action potential,以下SNAPと略記)の振幅が軽度低下していた.RNSでは左鼻筋,左僧帽筋でそれぞれ19%,31%の異常減衰を認めた(Fig. 1).針筋電図では,舌,左僧帽筋,左上肢筋からfasciculation potentialやfibrillation potentialといった自発電位と神経再支配所見を認め,傍脊柱筋や下肢筋からも軽度の慢性神経原性変化を認めた.画像検査では,胸腹部CTで悪性所見を認めず,頭部MRIで両側小脳半球の萎縮および第四脳室の拡大,脳幹背側の軽度萎縮を認めた(Fig. 2A, B)が,異常信号は認められなかった.脊髄MRIでは異常を認めなかった.99mTc-ECD脳血流シンチグラフィーでは両側小脳半球の血流低下を認めた(Fig. 2C, D).臨床経過,症状および検査結果からFOSMNと診断し,保険適応外であるが患者に十分な説明と同意を得た上で免疫グロブリン静注療法(intravenous immunoglobulin,以下IVIgと略記)を行い,一時的に左顔面の感覚障害,構音障害,咀嚼が改善したが,左角膜反射は消失したままだった.2020年2月に増悪し,新たに右顔面感覚障害,右上肢および両下肢近位筋筋力低下を認めた.NCSの再検では,上肢のCMAPおよびSNAPが低下傾向にあった.Blink Reflexでは,左刺激のR1波,両側R2波は消失し,右刺激では両側R2潜時の延長を認めた.再度IVIgを行い,顔面感覚障害,構音障害,咀嚼障害,四肢筋力に改善を認めたが,治療前後でのNCSやBlink reflex,RNSの結果に変化を認めなかった.

Fig. 1 Results of repetitive nerve stimulation tests conducted at the left nasalis (A) and left trapezius (B) muscles.

In both muscles, unstable abnormal decrement is observed (A: 19%, B: 31%).

Fig. 2 Brain MRI (A, B) and 99mTc-ECD SPECT (C, D) findings.

Fat-saturated fluid attenuated inversion recovery (FLAIR) images (A: axial, 3 T: TR 10,000 ms, TE 130 ms; B: sagittal, 3 T: TR 10,000 ms, TE 120 ms) show atrophy of the cerebellum and dorsal brain stem. 99mTc-ECD SPECT images (C; axial, D; sagittal) depict hypoperfusion in the cerebellum.

考察

FOSMNは顔面の感覚障害で発症し,嚥下・構音障害を伴い,運動感覚障害が四肢に広がる稀な神経変性疾患と考えられており,2006年にVucicらによって提唱された1.平均発症年齢は54.1歳だが小児や高齢発症例も見られ,やや男性に多く,生存者も含めた報告時点での平均罹病期間は8.5年(最長29年)と比較的長いが,死亡例のみに限った生命予後は平均5.7年であり,進行が早く発症後1~3年で死亡する例もある10.死因は肺炎が多い.したがってFOSMNの予後規定因子は嚥下および呼吸障害と考えられている10.筋力低下に関しては筋萎縮や線維束性収縮を認めることから下位運動ニューロン障害が中心と考えられるが,本例のように腱反射亢進や病的反射といった上位運動ニューロン障害をきたすこともある3511.その病態は不明な部分が多いが,抗核抗体1213や抗スルファチド IgG抗体111,抗MAG抗体および抗SGPG抗体3などの自己抗体陽性例の報告や,免疫治療,特にIVIgに反応して臨床症状の改善23513,SNAPの振幅増大2やBlink ReflexでR2波の出現や潜時短縮414を認める場合があること,剖検例でDRGへの炎症細胞浸潤を認めたこと3から炎症の関与が疑われている.本例も2回のIVIgで症状の改善を認めたが,電気生理学的検査では変化を認めなかった.一方で免疫治療に対して無効例1571115も存在することや,免疫治療が有効であったとしても効果が一過性であり緩徐進行性疾患であることから神経変性疾患であると考えられており16,病理学的には三叉神経や顔面神経,舌下神経核,頸髄前角細胞やDRGの神経変性や脱落,グリオーシスを認め1311,TDP-43陽性細胞内封入体を伴うという報告もある31516.錐体路徴候を伴うTDP-43 proteinopathyであるならばALSとの関連が推察され,実際にALSの原因遺伝子であるSOD1 7TARDBP 817VCPCHCHD10変異例8,家族例89の報告がある.しかし本疾患を提唱したVucicは,SOD1 D90Aヘテロ変異を認めた報告例7について,ヘテロ変異の場合はALS非発症家族にも認められる18ため,この変異自体がFOSMN発症に関係しているのか不明であることに加え,彼らの自験例においてTDP-43陽性細胞内封入体やBunina小体,ユビキチン封入体を認めなかった110ことから,FOSMNがALSの亜型であるかは今後の検討課題であると述べている19

本例の特徴として,RNSで顔面筋および僧帽筋に異常減衰を認めた.RNSは神経筋接合部障害を検出する検査として,重症筋無力症(myasthenia gravis,以下MGと略記)やLambert-Eaton 筋無力症候群で用いられるが,ALSでもしばしば異常減衰を認めることが知られている2021.MGとALSでは筋によって異常検出率が異なり,顔面筋での陽性率はMGで高くALSで低いが,僧帽筋や三角筋ではむしろALSの方が高感度である20.ALSでは初期から顔面筋が侵されることが少ないためであると考えられる.異常減衰が生じる病態も異なり,MGがシナプス後膜に障害があるのに対し,ALSでは再生軸索でのsafety factorが低下した未成熟な神経筋接合部にあると考えられている22.従って,MGでの異常減衰は4~5発目が最低振幅のU-shape(もしくはJ-shape)をとるのに対し,ALSにおいてはしばしば持続減衰や不安定型を示すことがある23.本例でも複数回の検査で不安定型の異常減衰を示した(Fig. 1).FOSMNでのRNSの検討は過去になされていないが,ALSと異なり初期から顔面筋が罹患する疾患であり,ALSと同様の機序で顔面筋でも異常減衰が認められたと推察される.顔面筋では一般的に針筋電図は行われないことが多いため,顔面筋のRNSは顔面神経のNCSとともに顔面筋障害の評価に役立つ可能性があるが,他症例での検討が必要である.

本例のもう一つの特徴が小脳失調を合併していた点である.本例は典型的なFOSMNの臨床経過を示していると考えられるが,頭部MRIで両側小脳半球の萎縮を認め,左上下肢の小脳性運動失調を認めた.小脳萎縮や小脳失調を伴う運動ニューロン疾患(motor neuron disease,以下MNDと略記)としてMadras MND(MMND)があり24,南インドに多い他,韓国25や中国26からも報告がある.しかしこれまで本邦からの報告はなく,MMNDには下位脳神経麻痺や視神経障害を合併するが,顔面感覚障害を認めないという点から本例では否定的である.また構音障害や四肢筋力低下を合併した脊髄小脳変性症の2例が報告されている27が,顔面感覚障害で発症し,運動感覚障害が約7年で緩徐に尾側に進展している経過と,小脳失調は他の神経症候に比較して軽度であることを考えると,顔面感覚障害を合併した非典型的な脊髄小脳変性症ではなく,小脳の変性を伴ったFOSMNと考える.その他,傍腫瘍症候群やサルコイドーシス,延髄/脊髄空洞症,シェーグレン症候群に伴う三叉神経障害などの鑑別も必要である16が,血液検査や画像検査から否定的である.RosserらのFOSMN剖検例では小脳失調や小脳画像異常を認めていなかったが,小脳白質にTDP-43陽性神経膠細胞質封入体が認められた16ことから,本疾患では小脳も障害される可能性がある.少数ではあるが味覚障害4や構音障害814で発症する非典型例も報告されており,FOSMNは多彩な症候を呈しうる疾患群と考えられる.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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