2021 Volume 61 Issue 4 Pages 219-227
医師のバーンアウトの現状と対策を検討するため日本神経学会の全学会員8,402名に対しアンケート調査を行い,15.0%にあたる1,261名から回答を得た.本論文では男性医師と女性医師の比較結果について報告する.勤務・生活状況では既婚者のみに有意な差が認められた.労働時間など勤務状況では男性のほうが厳しい条件で勤務していること,家事分担では女性の負担が重いことが確かめられた.日本版バーンアウト尺度による分析では,全体の得点では性差は認められなかったが,バーンアウトと関連する要因については,男女に共通した要因にくわえて,男性あるいは女性特有の要因が明らかとなった.
A questionnaire survey was conducted on 8,402 members of the Japanese Neurological Society to examine the current status and countermeasures for physician burnout, and 1,261 respondents (15.0%) responded. In this paper, we report the results of a comparison between male and female physicians. There was a significant difference in working and living conditions only for married people. It was confirmed that men work under stricter conditions in terms of working hours, and that the burden on women is heavier in the division of housework. Analysis using the Japanese Burnout Scale revealed no gender differences in overall scores, but as for factors related to burnout, in addition to factors common to both men and women, factors specific to men or women were clarified.
これまでのバーンアウト研究の対象は,ヒューマン・サービス従事者,看護師や教員などプロフェッションでありながら職務の自律性や責任の範囲に制限のあるセミプロフェッションと呼ばれる職種が中心であった.しかし,近年その状況は一変している.今までバーンアウトとは無縁と考えられてきた(少なくとも研究の対象とされてこなかった)職種でバーンアウトの事例が報告されるようになり,とりわけ医師のバーンアウトは極めて深刻な事態としてその対策が論じられるようになってきた1).
その中で日本神経学会では2019年10月,全学会員を対象としたバーンアウトに関するアンケート調査を実施した.調査結果全般については第1報として報告済みである2).今回は,同じデータを用いて,男性医師と女性医師の比較を行った.
バーンアウトの性差についてはこれまでも数多くの研究で取り上げられてきたが,一貫した結果は得られていない3).公刊されている183の研究のデータをもとにバーンアウトの性差についてメタ分析を行った研究においても,女性は男性よりも情緒的消耗感は高い一方,脱人格化においては男性のほうが女性よりも高いという傾向はあるが,女性(あるいは男性)のほうがバーンアウトしやすいという点については明確な性差は認められなかった4).
医師のバーンアウトに関する研究をレビューした論文でも,女性医師のほうが男性医師よりもバーンアウトする率が高いと報告している研究がいくつかあるが,年齢要因を考慮すれば性差については一貫した結果が得られていないことが述べられている5).また,脳神経内科医を対象とした調査でも,男性医師と女性医師の間でバーンアウトの程度(得点)に差が認められるが,年齢要因を調整変数として加えれば差が消失することが報告されている6).すなわち,一定の年齢を越えるとバーンアウトのリスクは低減するが,女性医師の年齢分布は男性医師よりも若いほうに偏っているため,年齢要因を考慮しないまま比較すると女性医師のバーンアウト得点が高くなるのである.
このように,医師においても男性医師と女性医師との間でバーンアウトする率が異なるかについては一貫した結果が得られていないが,バーンアウトを引き起こす要因については性差が報告されている.男性医師では,過重労働,医療過誤の当事者(「第二の被害者(second victim)」)となることなど,女性医師では仕事と家庭の葛藤,週末の回診数,職場での性差別的経験などが,性差が顕著に認められる要因として指摘されている5)~7).
本論文では,勤務・生活の状況,バーンアウトの程度,バーンアウトのリスク要因について男性医師と女性医師の比較を行った.
日本神経学会の全学会員に対し,2019年10月1日から1か月間,インターネットを用いたアンケートを行った.アンケートは米国神経学会が使用した設問8)と,日本神経学会キャリア形成促進委員会が作成した独自の設問とし,前者は許諾を得た上で日本語訳し,翻訳業者に依頼して英語に逆翻訳したものを原文と比較し,日本語翻訳版の妥当性を確認した.バーンアウトの評価尺度には,日本版バーンアウト尺度を用いた9)10).なお,調査票の詳細については第1報2)に記載がある.データの分析にはIBM SPSS Statistics 25を用いた.
日本神経学会員8,402名の15.0%にあたる1,261名から回答が得られた.また748名より,統計学的解析に必要な設問(設問1~31)のすべてに回答が得られた.回答者の基本的な情報ならびに統計分析結果については第1報2)で報告している.第1報に記載した属性の分布より,全学会員の属性と分析対象者の属性とでは大きな違いはなく,サンプルによる大きな偏りはないと判断した.ここでは,男性医師と女性医師の比較についての分析結果を報告する.
Table 1に勤務・生活の状況ならびに仕事に対する態度の項目について,既婚,未婚に分けて男性医師,女性医師の平均値を示した.「労働時間(週単位)」の平均値は,既婚条件で男性医師が56.56時間,女性医師が48.33時間,未婚条件で男性医師が60.84時間,女性医師が55.05時間であり,脳神経内科医の長時間労働の実態が明らかとなった.男性医師と女性医師との間で平均値比較(t検定)を行った結果,既婚条件で統計的に有意な差が認められたのは,「労働時間(週単位)」,「外来患者診察数(週単位)」,「宿直回数(月単位)」,「日直回数(月単位)」,「週末の回診数(年単位)」,「家事に費やす時間(日単位):平日」,「家事に費やす時間(日単位):休日」の7項目であった.勤務に関わる前5項目では男性医師の平均値が女性医師よりも高く,生活に関わる後2項目では女性医師の平均値が男性医師よりも高かった.未婚条件で有意な差が認められたのは,「再び脳神経内科医になることを選ぶ」,「家事に費やす時間:平日,休日」の3項目であった.これらの項目では女性医師の平均値が男性医師よりも高かった.
既婚 | 未婚 | |||
---|---|---|---|---|
男性(491名) 平均年齢47.5歳 |
女性(124名) 平均年齢45.3歳 |
男性(64名) 平均年齢38.6歳 |
女性(55名) 平均年齢40.1歳 |
|
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
|
労働時間/週(素データ) | 56.56 | 48.33** | 60.84 | 55.05 |
19.895 | 18.181 | 21.058 | 16.716 | |
睡眠時間 | 5.95 | 6.02 | 5.89 | 6.05 |
0.923 | 0.931 | 0.906 | 0.859 | |
外来患者診察数/週 | 65.19 | 46.77** | 46.31 | 33.53 |
70.057 | 45.092 | 45.539 | 31.667 | |
入院患者回診数/週 | 19.59 | 15.03 | 19.83 | 15.09 |
27.269 | 20.320 | 26.567 | 19.905 | |
時間外勤務回数/月 | 3.38 | 3.30 | 4.09 | 5.07 |
5.030 | 5.853 | 5.298 | 9.078 | |
宿直回数/月 | 1.84 | 0.84** | 2.44 | 1.87 |
2.090 | 1.416 | 2.239 | 1.599 | |
日直回数/月 | 0.92 | 0.48** | 1.25 | 1.55 |
1.396 | 0.708 | 1.260 | 4.202 | |
週末の回診数/年 | 16.47 | 8.46** | 18.31 | 20.67 |
18.449 | 13.768 | 17.123 | 20.007 | |
脳神経内科を選ぶ動機となった活動に 十分時間を費やせる |
2.95 | 2.92 | 2.75 | 2.96 |
1.006 | 0.889 | 0.891 | 0.881 | |
個人/家族生活のための十分な時間を取れる | 2.55 | 2.75 | 2.63 | 2.56 |
1.059 | 1.094 | 1.047 | 1.050 | |
再び医師になることを選ぶ | 3.56 | 3.53 | 3.22 | 3.40 |
0.951 | 0.878 | 0.934 | 1.029 | |
再び脳神経内科医になることを選ぶ | 3.50 | 3.46 | 3.28 | 3.62* |
0.988 | 0.859 | 0.917 | 0.892 | |
家事に費やす時間/日(平日) | 1.14 | 3.20** | 1.16 | 2.10** |
1.531 | 2.368 | 1.360 | 1.534 | |
家事に費やす時間/日(休日) | 3.07 | 6.13** | 2.05 | 4.10** |
3.310 | 3.925 | 1.638 | 2.790 | |
情緒的消耗感 | 2.81 | 2.74 | 3.10 | 3.29 |
0.951 | 0.872 | 0.720 | 0.846 | |
脱人格化 | 2.20 | 2.06 | 2.42 | 2.36 |
0.861 | 0.822 | 0.777 | 0.889 | |
個人的達成感の低下 | 3.14 | 3.10 | 3.46 | 3.32 |
0.797 | 0.755 | 0.711 | 0.631 |
注1)**P < 0.01,*P < 0.05.
注2)「家事に費やす時間/日(平日)」では欠損値のため,既婚男性医師485名,女性医師123名,未婚男性医師64名,女性医師54名.「家事に費やす時間/日(休日)」では欠損値のため,既婚男性医師485名,女性医師124名,未婚男性医師64名,女性医師54名.
Table 2に勤務・生活状況についてのカテゴリー変数について,既婚,未婚に分けて性別との間でのクロス集計結果を示した.各項目と性別との関連性の検定(χ2検定)を行った結果,既婚条件で「子の有無」,「家事の担当」,「勤務形態」,「身分」の4項目において「性別」との関連が統計的に有意となった.すなわち「子の有無」では男性医師のほうが「子供のいる」割合が高いこと,「家事の担当」では女性医師のほうが「自分が家事を担当」している割合が高いこと,「勤務形態」では男性医師のほうが「常勤」の割合が高いこと,そして,「身分」では男性医師のほうが「指導医」や「施設の長」の割合が高いことが,性差として統計的に示された.未婚条件で「性別」との関連が統計的に有意となった項目はなかった.
既婚 | 未婚 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 (491名) |
女性 (124名) |
合計(行) 行の% |
男性 (64名) |
女性 (55名) |
合計(行) 行の% |
|||
子の有無 | なし | 度数 | 71 | 39 | 110 | 64 | 55 | 119 |
既婚:P < 0.01 | 性別の% | 14.5% | 31.5% | 17.9% | 100.0% | 100.0% | 100.0% | |
未婚: | あり | 度数 | 420 | 85 | 505 | 0 | 0 | 0 |
性別の% | 85.5% | 68.5% | 82.1% | |||||
介護が必要な家族 | なし | 度数 | 420 | 112 | 532 | 59 | 47 | 106 |
既婚:n.s. | 性別の% | 85.5% | 90.3% | 86.5% | 92.2% | 85.5% | 89.1% | |
未婚:n.s. | あり | 度数 | 71 | 12 | 83 | 5 | 8 | 13 |
性別の% | 14.5% | 9.7% | 13.5% | 7.8% | 14.5% | 10.9% | ||
家事の担当 | 自分 | 度数 | 11 | 70 | 81 | 56 | 50 | 106 |
既婚:P < 0.01 | 性別の% | 2.2% | 56.5% | 13.2% | 87.5% | 90.9% | 89.1% | |
未婚:n.s. | パートナー | 度数 | 402 | 9 | 411 | 1 | 0 | 1 |
性別の% | 81.9% | 7.3% | 66.8% | 1.6% | 0.0% | 0.8% | ||
パートナーと分担 | 度数 | 74 | 35 | 109 | 1 | 1 | 2 | |
性別の% | 15.1% | 28.2% | 17.7% | 1.6% | 1.8% | 1.7% | ||
その他 | 度数 | 4 | 10 | 14 | 6 | 4 | 10 | |
性別の% | 0.8% | 8.1% | 2.3% | 9.4% | 7.3% | 8.4% | ||
勤務機関 | 一般病院 | 度数 | 260 | 76 | 336 | 34 | 29 | 63 |
既婚:n.s. | 性別の% | 53.0% | 61.3% | 54.6% | 53.1% | 52.7% | 52.9% | |
未婚:n.s. | 大学・研究機関 | 度数 | 187 | 34 | 221 | 29 | 24 | 53 |
性別の% | 38.1% | 27.4% | 35.9% | 45.3% | 43.6% | 44.5% | ||
開業 | 度数 | 29 | 9 | 38 | 0 | 1 | 1 | |
性別の% | 5.9% | 7.3% | 6.2% | 0.0% | 1.8% | 0.8% | ||
その他 | 度数 | 15 | 5 | 20 | 1 | 1 | 2 | |
性別の% | 3.1% | 4.0% | 3.3% | 1.6% | 1.8% | 1.7% | ||
勤務形態 | 常勤 | 度数 | 421 | 93 | 514 | 49 | 43 | 92 |
既婚:P < 0.01 | 性別の% | 85.7% | 75.0% | 83.6% | 76.6% | 78.2% | 77.3% | |
未婚:n.s. | 非常勤 | 度数 | 20 | 17 | 37 | 4 | 3 | 7 |
性別の% | 4.1% | 13.7% | 6.0% | 6.3% | 5.5% | 5.9% | ||
専攻医・研修医・ 大学院生 |
度数 | 45 | 9 | 54 | 11 | 7 | 18 | |
性別の% | 9.2% | 7.3% | 8.8% | 17.2% | 12.7% | 15.1% | ||
その他 | 度数 | 5 | 5 | 10 | 0 | 2 | 2 | |
性別の% | 1.0% | 4.0% | 1.6% | 0.0% | 3.6% | 1.7% | ||
身分 | 研修医・専攻医 | 度数 | 48 | 17 | 65 | 17 | 14 | 31 |
既婚:P < 0.01 | 性別の% | 9.8% | 13.7% | 10.6% | 26.6% | 25.5% | 26.1% | |
未婚:n.s. | 脳神経内科専門医 (非指導医) |
度数 | 124 | 50 | 174 | 21 | 27 | 48 |
性別の% | 25.3% | 40.3% | 28.3% | 32.8% | 49.1% | 40.3% | ||
指導医 | 度数 | 192 | 38 | 230 | 22 | 9 | 31 | |
性別の% | 39.1% | 30.6% | 37.4% | 34.4% | 16.4% | 26.1% | ||
施設の長(教授・ 診療部長など) |
度数 | 87 | 8 | 95 | 2 | 2 | 4 | |
性別の% | 17.7% | 6.5% | 15.4% | 3.1% | 3.6% | 3.4% | ||
開業医 | 度数 | 27 | 7 | 34 | 0 | 1 | 1 | |
性別の% | 5.5% | 5.6% | 5.5% | 0.0% | 1.8% | 0.8% | ||
その他 | 度数 | 13 | 4 | 17 | 2 | 2 | 4 | |
性別の% | 2.6% | 3.2% | 2.8% | 3.1% | 3.6% | 3.4% |
注1)「家事の担当」,「勤務機関」,「勤務形態」,「身分」において,一部のセルで期待度数が5未満.
Table 3に日本版バーンアウト尺度の三つの下位尺度(情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下)について,既婚,未婚に分けて男性医師,女性医師の平均値を示した.男性医師と女性医師との間で平均値比較(t検定)を行った結果,既婚条件,未婚条件ともに有意差は認められなかった.
既婚 | 未婚 | |||
---|---|---|---|---|
男性(491名) | 女性(124名) | 男性(64名) | 女性(55名) | |
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
平均値 標準偏差 |
|
情緒的消耗感 | 2.81 | 2.74 | 3.10 | 3.29 |
0.951 | 0.872 | 0.720 | 0.846 | |
脱人格化 | 2.20 | 2.06 | 2.42 | 2.36 |
0.861 | 0.822 | 0.777 | 0.889 | |
個人的達成感の低下 | 3.14 | 3.10 | 3.46 | 3.32 |
0.797 | 0.755 | 0.711 | 0.631 |
男性医師,女性医師それぞれにおいて,日本版バーンアウト尺度の三つの下位尺度(情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下)を目的変数としてStepwise法(投入基準:P < 0.05,除去基準:P > 0.10)による重回帰分析を行った.説明変数として投入された項目は,「年齢」,「睡眠時間」,「週末の回診数(年単位)」,「業務比率_臨床」,「業務比率_研究」,「業務比率_教育」,「業務比率_管理」,「業務比率_その他」,「個人/家族生活のための十分な時間を取れる」,「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」,「仕事の自己決定権を持つ」,「仕事が有意義である」,「患者ケアに直接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「効果的なスタッフが充足している」の15項目と,極端な値の影響を抑えるために値を再コード化した「労働時間(週単位)」,「外来患者診察数(週単位)」,「入院患者回診数(週単位)」,「宿直回数(月単位)」,「日直回数(月単位)」,「時間外勤務(月単位)」,「ボランティアの時間(月単位)」の7項目,そして,最頻値を基準変数としてダミー変数化した「子の有無(「無」基準)」,「介護が必要な家族(「無」基準)」,「身分(「指導医」基準)」,「勤務機関(「一般病院」基準)」,「勤務形態(「常勤」基準)」,「専門(「神経学全般」基準)」,「地域(「関東」基準)」,「家事の担当(「パートナー」基準)」,「婚姻(「既婚」基準)」9項目の,計31項目であった.
目的変数(情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下)ごとに有意な関連(P < 0.05)が認められた項目をTable 4に示した.説明率(調整済みR2)は0.3~0.4であり,ストレス調査としては容認できる値である.
男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|
情緒的消耗感 | 調整済み R2 = 0.418 |
情緒的消耗感 | 調整済み R2 = 0.429 |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
仕事が有意義である | −0.281 | 仕事が有意義である | −0.31 |
個人/家族生活のための十分な時間を取れる | −0.195 | 外来患者診察数/週 | 0.302 |
年齢 | −0.186 | 患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 | −0.254 |
効果的なスタッフが充足している | −0.135 | 身分ダミー_開業医 | −0.241 |
脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる | −0.127 | 年齢 | −0.222 |
身分ダミー_その他 | 0.106 | 個人/家族生活のための十分な時間を取れる | −0.197 |
患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 | −0.105 | 婚姻ダミー_未婚 | 0.184 |
業務比率_研究 | −0.101 | 勤務形態ダミー_非常勤 | −0.184 |
睡眠時間 | −0.067 | 地域ダミー_近畿 | 0.171 |
患者ケアに直接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 | 0.158 | ||
専門ダミー_神経修復・リハビリテーション | −0.13 | ||
地域ダミー_中国 | −0.117 | ||
脱人格化 | 調整済み R2 = 0.448 |
脱人格化 | 調整済み R2 = 0.360 |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
仕事が有意義である | −0.454 | 仕事が有意義である | −0.475 |
年齢 | −0.189 | 年齢 | −0.245 |
脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる | −0.14 | 外来患者診察数/週 | 0.231 |
効果的なスタッフが充足している | −0.113 | 勤務形態ダミー_その他 | −0.142 |
介護ダミー_介護が必要な家族有 | 0.103 | 個人/家族生活のための十分な時間を取れる | −0.141 |
患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当 | −0.084 | 地域ダミー_中国 | −0.127 |
勤務機関ダミー_その他 | 0.071 | ||
専門ダミー_神経筋疾患 | −0.065 | ||
ボランティアの時間/月 | 0.064 | ||
個人的達成感の低下 | 調整済み R2 = 0.454 |
個人的達成感の低下 | 調整済み R2 = 0.340 |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
項目 | 標準化偏回帰 係数(β) |
仕事が有意義である | −0.503 | 仕事が有意義である | −0.585 |
脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる | −0.169 | 業務比率_臨床 | 0.171 |
業務比率_臨床 | 0.139 | ||
外来患者診察数/週 | −0.095 | ||
身分ダミー_専門医(非指導医) | 0.093 | ||
家事ダミー_その他 | 0.072 | ||
時間外勤務回数/月 | −0.067 | ||
入院患者診察数/週 | −0.065 |
注1)投入された項目のF値はすべて5%水準で有意.マイナスの偏回帰係数がバーンアウトの抑制変数,プラスが促進変数を示す.
注2)ダミー変数の基準については本文中に記載.
情緒的消耗感と有意に関連のあった項目は,男性医師では,「仕事が有意義である」,「個人/家族生活のための十分な時間を取れる」,「年齢」,「効果的なスタッフが充足している」,「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」「身分ダミー_その他」,「患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「業務比率_研究」,「睡眠時間」の9項目であった.女性医師では,「仕事が有意義である」,「外来患者診察数/週」,「患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「身分ダミー_開業医」,「年齢」,「個人/家族生活のための十分な時間を取れる」,「婚姻ダミー_未婚」,「勤務形態ダミー_非常勤」,「地域ダミー_近畿」,「患者ケアに直接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「専門_神経修復・リハビリテーション」,「地域ダミー_中国」の12項目であった.
脱人格化と有意に関連のあった項目は,男性医師では,「仕事が有意義である」,「年齢」,「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」,「効果的なスタッフが充足している」,「介護ダミー_介護が必要な家族有」,「患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」,「勤務機関ダミー_その他」,「専門ダミー_神経筋疾患」,「ボランティアの時間/月」の9項目であった.女性医師では,「仕事が有意義である」,「年齢」,「外来患者診察数/週」,「勤務形態ダミー_非常勤」,「個人/家族生活のための十分な時間を取れる」,「地域_中国」の6項目であった.
個人的達成感の低下と有意に関連のあった項目は,男性医師では,「仕事が有意義である」,「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」,「業務比率_臨床」,「外来患者診察数(週単位)」,「身分ダミー_専門医(非指導医)」,「家事ダミー_その他」,「時間外勤務回数/月」,「入院患者回診数(週単位)」の8項目であった.女性医師では,「仕事が有意義である」,「業務比率_臨床」の2項目であった.
勤務・生活の状況,仕事に対する態度に関する項目における男性医師と女性医師の比較を行った.
まず「労働時間(週単位)」の平均値は,既婚条件で男性医師が56.56時間,女性医師が48.33時間,未婚条件で男性医師が60.84時間,女性医師が55.05時間であった.既婚の女性医師以外,時間外労働の上限基準である月45時間を大きく越えている.さらに未婚の男性医師に至っては過労死レベルとされている月80時間の時間外労働に到達している.この値が平均値であることを考慮すれば,相当数の医師は極めて危険な条件下で勤務を続けていることになり,早急な改善が必要な状況であることは言うまでもない.なお,米国における若い医師・研究者を対象とした調査においても,週あたりの労働時間は男性59時間,女性54時間と本研究の未婚条件に近い値が報告されている11).
勤務の状況については,既婚条件に限って「労働時間」,「外来患者診察数」,「宿直回数」,「日直回数」,「週末の回診数」といった点で,男性医師が女性医師よりも厳しい条件で勤務を続けていることが分かった.さらに,既婚の女性医師は既婚の男性医師に比べて「非常勤」の職に就いている割合が高く,「指導医」や「施設の長」といった組織の責任ある立場についていることが少ないことも明らかとなった.未婚条件でこれらの項目に有意差が認められなかったことを考慮すれば,女性医師は家庭とのバランスを考えて仕事を抑制せざるを得ず,その結果として時間の自由度を増やすために非常勤の職を選択し,組織の責任ある立場を避ける傾向にあることが推測できる.
生活の状況については,既婚の女性医師は家事の負担を自身が負うことが多いのに対して,男性医師は家事を配偶者に任せることが多い傾向にあることが確かめられた.女性医師の家事時間が多い傾向は,米国の若い医師研究者でも同様であった11).また,Table 1から既婚の女性医師の平日の家事時間の平均値は3時間を越えており,先に指摘した医師の長時間労働の実態を踏まえると,生活と仕事との間で深刻なコンフリクトが生じていることが懸念される.さらに言えば,既婚の女性医師の平均労働時間は,男性医師,未婚の女性医師と比べてかなり低い値となっていたが,この結果を家庭と仕事のバランスをとるためには最低限このレベルの労働負荷に抑える必要があると解釈することも可能である.
2. バーンアウト日本版バーンアウト尺度の下位尺度では,情緒的消耗感はストレス要因と強い関連があり,脱人格化は情緒的消耗感の進行にともなって生じる意識,行動の変化を反映する.個人的達成感の低下は,先の二つの下位尺度とは比較的独立した尺度でワークモチベーションと強い関連がある.本研究では,この三つの下位尺度いずれにおいても男性医師と女性医師の間での差は認められなかった.これは前述した過去の研究報告と一致する結果であった3)~6).
次に,これら三つの下位尺度を目的変数とした重回帰分析により,男性医師,女性医師のバーンアウトのリスク要因について比較,検討を行った.
まず,男性医師,女性医師いずれにおいても,三つの下位尺度すべてと強い関連が認められたのが「仕事が有意義である」という項目である.第1報2)でも指摘されているが,医師のバーンアウトを抑止する最大の要因は,仕事の有意義感だと考えられる.また,情緒的消耗感,脱人格化の二つの下位尺度において男性医師と女性医師に共通している要因が「個人/家族生活のための十分な時間を取れる」,「患者ケアに間接的に関係する事務作業に費やす時間が妥当」の2項目である.これらは典型的な繁忙要因であり,とりわけ医師の場合,あまり重要ではない(間接的な)事務作業が徒労感を高めていると考えられる.
同様に,情緒的消耗感,脱人格化の二つの下位尺度において男性医師,女性医師に共通している要因が「年齢」である.「年齢」のある段階からバーンアウト得点が低くなるのは数多くの研究で報告されている結果であり3),それは医師においても確認されている4)5).主な理由として,経験とともに仕事ならびにストレス対処のためのスキルを学習すること,地位の上昇に伴って自由裁量の余地が増すことなどが指摘されている.これらの理由は医師にもあてはまると考えられるが,医師の場合は,とりわけそのキャリアパスが関わりを持っていると推測できる.米国神経学会の報告5)でも年齢とバーンアウト得点との負の関連性が認められているが,その理由として,年齢の上昇とともに競争的環境や臨床の現場から距離をとれるようになり,労働負荷が軽減されていく医師のキャリアパスが関係している可能性が指摘されている.事情は日本においても同様であり,加えて日本ではほとんどの総合病院で主治医制度が採用されており,担当患者の容態変化で急な呼びだしを受ける場合,主にこれを担うのは主治医チームのなかでも若手医師である.特に神経疾患は命の危険と隣合わせの場合が多く,夜間の呼び出しなどによる過重労働を経験しやすい.
男性医師に特有の要因として,「効果的なスタッフが充足している」と「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」の二つの項目があげられる.前者は情緒的消耗感と脱人格において,後者は三つの下位尺度すべてにおいて有意な関連が認められていた.
「効果的なスタッフ」による仕事の負担軽減は一般的な繁忙要因であるが,男性医師のみで関連性が認められた理由には,先の「勤務状況」の考察で指摘した組織内の地位の差が関わっている可能性がある.すなわち,組織内で責任のある地位についている人ほど「効果的なスタッフ」を使うことができるため,男性医師と女性医師の組織内での地位の差がこの結果の背景にあると推測することが可能である.
「脳神経内科を選ぶ動機となった活動に十分時間を費やせる」については,男性医師では「仕事が有意義である」と同じくバーンアウトの抑止に深く関連している要因となっているが,女性医師ではまったく関連が認められていない.この結果を文字通り解釈すれば,脳神経内科の男性医師にとって「脳神経内科医を選ぶ動機」は仕事の意義と深く関わっている(それゆえバーンアウトを抑止する要因として機能している)が,脳神経内科の女性医師にとってはそうではないことを意味する結果だと言える.「そうではないことを意味する」という表現は多義的であるが,少なくとも男性医師と女性医師との間では専門分野,ひいては職種自体を選ぶ意思決定のプロセスに違いがある可能性を示唆する結果である.この点についてさらに検討を進めるためには,量的な調査ではなく焦点を絞ったインタビュー調査などの質的なデータが必要である.
一方,女性医師に特有の要因としては,「外来患者診察数」が情緒的消耗感と脱人格において有意な関連が認められている.米国神経学会の報告5)では,女性医師が男性医師よりもメンタルヘルス的問題を抱えやすい理由として,脳神経内科の臨床において女性医師のほうに大きな負担が生じる可能性について言及している.性別に関わらず脳神経内科を自身の専門領域として選択する時点で疾患と向き合い患者を支えたいという使命感にあふれた人が多いが,特に女性医師の場合は男性医師よりも思いやりのある態度が期待されることが多い.さらに,神経疾患は進行性の難病も多く,脳神経内科医は「悪い知らせ(bad news)」を患者・家族に伝えなければならず,その後も患者・家族の精神的なケアが必要となるため,このような場面でのコミュニケーションでは患者・家族への配慮が大きな比重を占める.その際,女性患者は男性患者よりも長時間に及ぶ共感的なやり取りを求める傾向があり,その傾向は,女性医師が担当医の場合,より顕著となりやすい5).この点を考慮すれば,外来患者診察数が女性医師に特有のバーンアウトのリスク要因として抽出された背景には,脳神経内科の臨床に伴う患者とのやり取りが,女性医師にとって男性医師よりも大きな負担となっている可能性を推測することができる.
3. 本研究の限界バーンアウトに関する調査一般に言えることではあるが,調査の対象となっているのは病院あるいは大学などの研究機関で勤務している医師である.バーンアウトを経験した医師の中には,休職中あるいは退職した医師も少なくない.男性医師と女性医師にバーンアウトの程度に違いがないというのが本論文の結論の一つであるが,バーンアウトした人が早期に退職した可能性を考慮すれば,この点については今後さらなる検討が必要であろう.
脳神経内科医におけるバーンアウト調査の結果について,男性医師と女性医師の比較,検討を行った.日本神経学会会員に占める女性医師数は,1996年は1,023人(会員全体の13%)であったが,2019年には2,192人(23.9%)と倍以上に増加し,今や我が国における脳神経内科医の約4人に1人が女性である.近年,医療現場におけるジェンダーギャップが問題となっており,女性は男性に比べ賃金が低く12),アカデミックポジションにおける割合が低いことが指摘されており13)14),さらに性的ハラスメントがバーンアウトと関連していることも報告されている15).
今回の調査では,まずは脳神経内科医のバーンアウトの現状について把握することを目的としたため,ジェンダーギャップに関わる質問項目は加えなかったが,今後,わが国の医療現場においてもジェンダーギャップの実態について把握するための調査が必要となってくると同時に,その解消のための施策が検討されねばならない.
※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.