Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
Hemichorea in a patient with acute cerebral infarction of the somatosensory cortex
Hiroyuki KatoTakenobu MurakamiYuki TajiriNoriya YamaguchiYoshikazu UgawaRitsuko Hanajima
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2021 Volume 61 Issue 5 Pages 325-328

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要旨

86歳,女性.左半身脱力で救急要請し,搬送中に片側舞踏運動が出現した.意識障害と左半側空間無視,感覚障害を認めた.血液検査で腎機能障害を認め,頭部MRIで右中心後回および島皮質後部に急性期脳梗塞を認めた.経静脈的血栓溶解療法を施行して片側舞踏運動は徐々に消退し,左不全片麻痺と感覚障害も改善した.本例は体性感覚野の脳梗塞による運動制御機構の機能障害に加え,腎機能障害を併発したことで,片側舞踏運動を生じた可能性があると考察した.

Abstract

A 86-year-old woman with left hemiparesis was admitted to our hospital. When visiting to our hospital, hemichorea appeared on her left extremities in an ambulance. She also had mild disturbance of consciousness, spatial disorientation, and sensory disturbance. Blood biochemical studies revealed mild renal failure. DWI MRI showed hyperintensities in the postcentral gyrus and a posterior part of the insula in the right hemisphere, but no signal changes in FLAIR. No lesions were detected in the basal ganglia. The DWI-FLAIR mismatch suggested acute cerebral infarction, and we performed intravenous thrombolysis therapy. Her neurological symptoms including hemichorea gradually improved, and she was finally discharged on foot. Two conspicuous points of the present patient are the sensory cortical infarction and an association with renal failure. In this patient, the sensory cortical infarction must produce chorea even though sensory cortical lesions rarely caused chorea. The associated renal dysfunction may play some role in the production of chorea. The double-crash of cerebral infarction and metabolic abnormality (renal dysfunction) may cause hemichorea which is rarely seen in patients with cerebral infarction of the sensory cortex and insula with no metabolic abnormalities.

はじめに

舞踏運動とは,不規則で非律動的な素早い不随意運動のことである.片側舞踏運動は,対側の尾状核や被殻の障害で起こり,高血糖等の代謝性要因や脳卒中,腫瘍が原因となる1.脳卒中に関連する不随意運動の頻度は,脳卒中全体の約1%と言われ,その中でも片側舞踏運動は0.4~0.54%と稀である23.我々は体性感覚野に急性期脳梗塞を発症し,対側の片側舞踏運動を呈した症例を経験した.体性感覚野の障害による片側舞踏運動は珍しいため,その病態機序について考察する.

症例

症例:86歳,女性

主訴:左上下肢脱力

既往歴:高血圧,2型糖尿病.

家族歴・薬剤歴:不随意運動に関連する家族歴・内服薬なし.

現病歴:元来のADLは自立しており,最終未発症確認時刻は発見前日の夕方であった.2019月10日上旬,午前5時過ぎに左半身脱力により立ち上がれない状態であり,救急要請した.当院搬送中に左半身に不随意運動が出現し始めた.午前5時45分に当院へ到着した.

入院時現症:血圧132/106 mmHg,脈拍59回/分・整,体温36.5°C.その他特記事項なし.神経学的所見では,JCS I-3の意識障害と左半側空間無視を認めた.脳神経に異常所見なし.運動系は,徒手筋力試験で左上下肢に3の不全片麻痺を認めた.左手・膝関節以遠に,不規則で比較的素早い2,3秒程度の間隔で出現する関節を捻転するような不随意運動を認めた.動きは上下肢で独立しており,安静時にも持続し,自制不可能であった.協調運動は,右上下肢では運動失調を認めなかったが,左上下肢は舞踏運動のため評価困難であった.感覚系では,左上下肢において全感覚の軽度脱失と感覚消去現象を認めた.NIHSSは9点であった.

検査所見:血液検査上,全血算や血液像に異常なし.生化学検査では抗ストレプトリジン-O価や甲状腺ホルモンも異常なし.BNPが811 pg/dl,D-ダイマーが4.0 μg/mlと上昇していた.空腹時血糖は153 mg/dl,HbA1cは6.0%であった.Cr 3.94 mg/dl(CCr 10.75 ml/min)と腎機能障害を認めた.12誘導心電図は正常洞調律であった.経胸壁心エコー検査,頸動脈エコー検査では特記事項を認めなかった.頭部CTでは右シルビウス溝内にhyperdense MCA signを認めた(Fig. 1A).頭部MRIでは,右中心後回と島皮質後部を含む中大脳動脈領域にDWI-FLAIRミスマッチ像を呈した急性期虚血性病変を確認したが,大脳基底核には病変を認めなかった(Fig. 1B~G).MRAでは,右M2後方枝以遠の描出が不良であった(Fig. 1H).第8病日に撮影した123I-IMP脳血流シンチグラフィーでは右中大脳動脈側方枝・後方枝領域の右前頭葉後方,頭頂葉脳回~内側部,側頭葉の血流低下が見られた.正中神経刺激による上肢体性感覚誘発電位では,皮質成分の振幅の左右差を認め,右半球でのN24-P33振幅の低下を認めた(Fig. 2).

Fig. 1 Brain images on admission.

(A) CT scan disclosed a hyperdense MCA sign in the right sylvian fissure (red arrow). (B–D) Axial DWI demonstrated hyperintensity lesions in the postcentral gyrus and a posterior part of insula in the right hemisphere. (E–G) No signal changes were shown by FLAIR. (H) MRA showed an occlusion at distal part of M2 posterior branch in the right middle cerebral artery (red arrow), whereas no stenosis or occlusion was seen in the anterior cerebral artery.

Fig. 2 Median nerve somatosensory evoked potentials (SEP).

The cortical SEP amplitudes, e.g. P24-N33, recorded from the right hemisphere were smaller than those from the left hemisphere.

入院後経過:頭部MRI検査にてDWI-FLAIRミスマッチ所見を認めたことから,経静脈的血栓溶解療法を施行し,意識障害と左半側空間無視は改善した.左上下肢の舞踏運動は,無治療にて程度・頻度・範囲ともに徐々に軽減した.左半身筋力低下と感覚障害・消去現象は第7病日には認められなくなった.退院時のNIHSSは0点となり,第23病日に独歩退院となった.

考察

舞踏運動の発症機序は,大脳皮質と基底核で構成される運動ループにおいて,抑制性経路である間接路の機能が低下し促通性経路である直接路の機能が増強することで,同側視床の脱抑制を来し,視床から大脳皮質に投射する興奮性ニューロンが増強されるためと考えられている45.脳卒中による片側舞踏運動は,基底核が直接障害されなくても発症することが知られており,前頭葉や頭頂葉,側頭葉,島皮質といった大脳皮質領域のみの血流低下によって,大脳皮質と基底核間の運動ループ内の不均衡が生じるためと考察される36

本症例では感覚障害を呈し,頭部MRIでは右M2閉塞による中心後回や島皮質後面に脳梗塞を認めた.感覚野領域の脳梗塞によって片側舞踏運動を呈することは稀であり,Chungらが検討した27例の片側舞踏運動症例のうちM2閉塞を認めたのは1例のみであった3.体性感覚野と基底核との間の神経回路は以前から報告されており7,体性感覚野からの情報が基底核に入り,その情報が基底核の出力路から視床に到達する.そして感覚野からの入力が運動ループを修飾し,運動調節の役割を果たしている.本症例は脳梗塞によって体性感覚野と基底核との神経経路が障害されることにより,感覚系による運動制御機構の機能障害が生じ,片側舞踏運動の発症に寄与した可能性があると考察した.

また,本症例では入院時の腎機能障害を認めており,これが不随意運動の出現に寄与した可能性がある.高齢者において,腎機能障害により一過性の不随意運動が出現する例が報告されている8.また,一側前大脳動脈領域の脳梗塞症例で,フェニトイン中毒により片側asterixisを呈した例も報告されている9.代謝性の要因に脳梗塞が加わると病変支配側の不随意運動が誘発されやすくなると考えられ,本症例も同様に腎機能障害による代謝的要因がある状態で脳梗塞を発症したため,片側舞踏運動を呈したのではないかと推察した.

その他に,塞栓の再開通によって過灌流となった大脳皮質領域に過剰興奮が生じて不随意運動を呈した可能性も考えられる.本症例では舞踏運動が生じた時期に脳波やperfusion MRI検査が行えていなかったため,その可能性を検討する所見を得ることはできなかった.

今回,急性期脳梗塞によって片側舞踏運動を呈した症例を経験した.体性感覚野領域の脳梗塞による運動制御機構の機能障害と腎機能障害との組み合わせによって,片側舞踏運動が顕在化した可能性を考えた.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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