Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of cardiac arrest due to the appearance of Brugada-type electrocardiogram during epilepsy treatment
Satoru MiyaoYuichi KubotaNaoto NaginoSatoshi EgawaHidetoshi NakamotoSatoko FukuchiTakakazu Kawamata
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2021 Volume 61 Issue 7 Pages 466-470

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要旨

てんかん診療における不整脈の出現は突然死へとつながる可能性を有する.今回,致死性不整脈から心停止に陥り蘇生した1例を経験し,外来,急変前後,蘇生後,回復期まで,経時的な心電図変化を捉えた.心電図の経時的変化では,QT延長やブルガダ型波形が確認された.心電図変化を誘発する可能性を持つNaチャネル遮断薬,向精神薬との薬理作用,及び薬物動態的相互作用の認識の重要性に注目し,てんかん診療における心電図の重要性を強調した.

Abstract

The appearance of arrhythmias in epilepsy practice can lead to sudden death. This time, we experienced a case of cardiac arrest caused by lethal arrhythmia and resuscitation, and captured changes in the electrocardiogram over time from outpatient, before and after sudden change, after resuscitation, to convalescent period. QT prolongation and Brugada-type waveforms were confirmed in the changes over time in the electrocardiogram. Focusing on the importance of recognizing the pharmacological and pharmacokinetic interactions with Na channel blockers and psychotropic drugs that may induce electrocardiographic changes, we emphasized the importance of electrocardiogram in epilepsy treatment.

はじめに

てんかんは,有病率の高さゆえに,必ずしもてんかん診療拠点機関やてんかん専門医のみならず,急性期,慢性期の内服管理や点滴管理は一般診療医にも求められる12.新規抗てんかん薬(antiepileptic drug,以下AEDと略記)の普及により,Naチャネルブロッカーの位置づけは見直されてきているものの,薬理学的,薬物動態学的認識は重要である.

今回てんかん外来通院患者で致死的不整脈を呈し,早急に蘇生措置を施し,生還した1症例を経験したため,その臨床的特徴を報告し考察する.なお論文発表に際し,患者本人からの同意を得ている.

症例

症例:53歳,女性

主訴:頭痛,嘔気

既往歴:うつ病 心疾患なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:36歳時にfocal impaired awareness seizure(FIAS)で発症し,左側頭葉てんかんとして前医で加療されていた.怠薬が多かったこともあり,月単位のFIASや,年数回の睡眠中のfocal to bilateral tonic-clonic seizureが確認されていた.

AEDは前医よりフェニトインPHT 200 mg/日,ゾニサミドZNS 300 mg/日,レベチラセタムLEV 2,000 mg/日を処方されていたが,難治に経過していたこともあり,当院てんかんセンター紹介となった.また近医の精神科よりうつ病の合併に対し,セルトラリン,スルピリドが処方されていた.心電図では明らかな異常は認めなかった(Fig. 1).

Fig. 1 ECG before introducing our hospital.

Under oral administration of PHT 200 mg, ZNS 300 mg, LEV 2,000 mg, SSRI, Sulpiride: No obvious ECG abnormal findings.

当院紹介後もFIASを主症状とする焦点性てんかんの診断として薬剤調整をする方針とした.2018年7月某日 LEVを2,000 mgに増量してから発作は落ち着いたが,2018年8月某日 眠気が強いとのことで,PHT 200 mg(血中濃度15 μg/ml)を100 mgに減量.減量3日後に,痙攣の目撃はないものの,発作後と思われる見当識障害,右不全麻痺と頭痛,嘔気にて当院救急診療部を受診し,てんかん発作の発現抑制量としてホスフェニトイン(fPHT, 18 mg/kg)を点滴投与し,脳神経外科へ経過観察入院となった.fPHTの投与量と投与速度は推奨される範囲内であった.

入院後経過:心電図モニターを装着の上,発作後の経過観察を行う方針とした.入院当日夜間に突然心肺停止に陥り,停止1分後から蘇生処置を行い,40分で有効心拍再開となった.蘇生後の変化として,肝不全,腎不全,感染症など多臓器不全に陥り,全身管理を行った.

経過観察入院時のルーチン検査では,レントゲンでは慢性心疾患を疑う所見はなく,心電図ではQT延長が確認されている(Fig. 2).また,心肺停止発生直前のモニター心電図ではVTからasystoleに陥ったことが確認された(Fig. 3).蘇生翌日の心電図ではV1~V2でcoved型のST上昇を認め,ブルガダ心電図の波形が確認されたが,経時的に心電図波形の改善が得られた(Fig. 4, 5).経過中,覚醒は得られずとも,脳波上で基礎波は観察され,画像検査上も明らかな構造変化は見られなかった.蘇生後1ヶ月程度で意思疎通可能となり,長期廃用に対しリハビリ加療を行なった.発症一年後,原因不明の両下肢痛の訴えはあるが,杖歩行可能で外来に独立歩行で通院されている.薬剤調整され発作なく経過しており,心電図異常も認めていない.

Fig. 2 ECG on admission due to post ictal state.

QTc 503 ms (>440 ms) : Long QT is confirmed.

Fig. 3 ECG during sudden change.

VT→asystole.

Fig. 4 ECG the day after return of spontaneous circulation.

Coved type ST elevation is confirmed at V1–V2. Predisposition to Brugada syndrome is suspected.

Fig. 5 ECG after drug discontinuation, 10 days after admission.

QTc 427 ms (<440 ms): Improved Long QT is confirmed.

考察

てんかん患者の突然死は剖検上異常のないものはsudden unexpected death in epilepsy(SUDEP)として知られているが,中にはQT延長症候群を有するものなどはdefinite SUDEP plusと分類され,突然死における不整脈の関連も示唆されている3.本症例はSUDEPの定義には当てはまらないものの,てんかん診療における突然死を考える上では重要な事項が含まれていると考えている.

本症例では,PHTの減量後にQT延長,fPHT点滴後に致死性不整脈発現しているが,その背景には,

①AEDと向精神薬の薬物動態的相互作用(PHT減薬後CYP2C9,CYP2C19を介した向精神薬血中濃度上昇)

②fPHTや向精神薬自体の心臓に対する薬理学的リスク(ブルガダ波形,QT延長の惹起)

などが考えられ,致死的不整脈の基盤という意味では高リスクであると言わざるを得ないと考察される(Fig. 6).

Fig. 6 Possible pathomechanism of lethal ECG pattern.

Out patient ECG should have been considered to avoid long QT syndrome. The effects of Na channel blockers on ECG, such as the emergence of Brugada ECG, should have been considered.

①に関して,もともと外来においてQT延長の原因となりうる向精神薬の内服があったが,外来の時点では心電図異常は認めなかった.AED副作用コントロールのためPHT減量3日後,post ictalが疑われる嘔気状態で発見され入院となり,入院時心電図ではQT延長の所見が見られていた.CYP酵素誘導薬であるPHTの減量によって,CYP2C19,CYP2C9の濃度が低下したことにより,同酵素により代謝される向精神薬の濃度が上昇した結果,副作用としてのQT延長が顕在化した可能性が推察された.

②に関して,一般人口におけるブルガダ型心電図検出率は0.10~0.15%と言われているが4)~7,抗不整脈薬として用いられるNaチャネル遮断薬(ピルジカイニド,フレカイニド)の負荷試験によって普段見られないブルガダ波形が顕在化する症例の存在も知られている8.実際,AED内服に伴いブルガダ型心電図の検出率9.6%に上がったという報告9もあり,特にPHTなどNaチャネル遮断薬によるブルガダ波形の誘発が示唆されている9

蘇生処置後,薬剤の中止に伴い,ブルガダ波形を残しながら,QT延長が改善した経過からは,ブルガダ型心電図の出現が単に薬剤性の変化なのか,あるいはブルガダ症候群としての素因があったのかの判断はしかねるものの,背景としてQT延長に向精神薬が関与していた可能性は強く推察される.AEDの選択の際は,特にNaチャネル遮断薬は薬理学的な心臓への影響にも留意し選択される必要があるが,しばしばてんかんに合併する精神疾患に対する向精神薬も同様に慎重に選択されなければならない.

心伝導系に電気生理学的変化を生じ,症候化したことは,薬理学,薬物動態学の重要性を示唆するのみならず,薬剤調整の結果として生じるかもしれない心電図変化にも注意は向けられるべきであり,てんかん診療における心電図の位置づけは再認識されるべきである.向精神薬を内服されている患者に関しては,外来での薬剤調整,救急外来での初期対応は慎重に検討されるべきである.また,ビデオ脳波入院における内服の休薬,再開に関しても,心伝導系に副作用を有する薬剤との相互作用は十分に配慮される必要がある.

また,平常時の心電図としてブルガダ所見が見られず,Naチャネル遮断薬負荷試験をしないと所見が顕在化しない症例もあり,必ずしも心電図に精通していないてんかん診療医がてんかん診療の場で,どこまで追いかけて検査するかの判断は難しいが,少なくとも,心電図というツールを積極的に用いて循環器医の目を通す必要性のある患者の症例選択をすることは,てんかん診療における突然死を避ける一助となり得る.

結語

てんかん診療において,Naチャネル遮断薬や向精神薬の調整はしばしば行われるが,突然死の回避という観点から,心電図変化も十分に留意された上での診療がなされるべきである.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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