Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Migraine with multiple visual symptoms and out-of-body experience may mimic epilepsy
Kyoko HosokawaUsami KiyohideShunsuke KajikawaAkihiro ShimotakeYoshihisa TatsuokaAkio IkedaRyosuke Takahashi
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2021 Volume 61 Issue 8 Pages 530-536

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要旨

18歳男性,右利き.17歳より,視野全体に長く一本の斜線が入り,その上下で視野がずれて見える,両視野の眼前の光景が波状に見える,視野全体に大きな数個の斑状暗点が出現するなど多彩な視覚症状が生じ,その後に体外離脱体験(out-of-body experience,以下OBEと略記)として,“自分の姿を左後ろから見ている状態”が生じた.症状は1時間持続し頭痛が後続した.頭部MRIで両側後頭葉の軽度萎縮を認めた.本症例は多彩な視覚症状とOBEを呈し,部分てんかん発作との鑑別を要したが,症状が多彩で持続が長いことから前兆のある片頭痛と診断し,少量のバルプロ酸が著効した.OBEを伴う片頭痛は稀に存在する.

Abstract

The patient was an 18-year-old man who had suffered from various visual symptoms as follows since he was 17 years old: 1) a diagonal line appeared in his visual field, shifting his upper field of view to the right and his lower field of view to the left; 2) his whole vision seemed distorted with ripples; and 3) black spots covered parts of his visual field and moved up and down. These visual symptoms were followed by out-of-body experience (OBE), which he felt as seeing his own body apart from his left back. Headache attacks followed these symptoms. On brain MRI, bilateral occipital atrophy was suspected. An electroencephalogram showed intermittent irregular delta in the bilateral occipital area. No epileptiform discharges were observed. We finally diagnosed him as having migraine with multiple visual auras and OBE. He was very well treated with a small dose of valproic acid which he tolerated well. OBE rarely occurs in migraine and should be distinguished from epilepsy.

はじめに

前兆のある片頭痛における前兆は,頭痛に先行する可逆性の陽性症状と陰性症状が混在する局在神経症状からなる(Table 11.発作性に視覚症状や感覚症状,言語症状など多彩な神経症状を示し,しばしばてんかん発作,一過性脳虚血発作等との鑑別を必要とする.

Table 1  Diagnostic criteria for migraine with aura1).
Migraine with aura Diagnostic criteria
A. At least two attacks fulfilling criteria B and C
B. One or more of the following fully reversible aura symptoms:
  1. visual
  2. sensory
  3. speech and/or language
  4. motor
  5. brainstem
  6. retinal
C. At least three of the following six characteristics:
  1. at least one aura symptom spreads gradually over ≥ 5 minutes
  2. two or more aura symptoms occur in succession
  3. each individual aura symptom lasts 5–60 minutes
  4. at least one aura symptom is unilateral
  5. at least one aura symptom is positive
  6. the aura is accompanied, or followed within 60 minutes, by headache
D. Not better accounted for by another ICHD-3 diagnosis.

また,体外離脱体験(out-of-body experience,以下OBEと略記)は,“自己身体の外の位置から自己身体を見る,あるいは感じる”という症状で,てんかんの発作症状等として稀に報告があり,側頭頭頂接合部(temporo-parietal junction,以下TPJと略記)との関連が示唆される2.今回我々は,頭痛に先行して多彩な視覚症状とOBEを呈し,てんかん発作との異同が問題となったが,症状の詳細な検討等から最終的に前兆を伴う片頭痛と診断し,バルプロ酸(Valproic acid,以下VPAと略記)が著効した症例を経験した.片頭痛の前兆としてOBEを呈する症例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:18歳,男性,右利き

主訴:発作性の多彩な視覚症状,自分自身を外から見ている体験,後続する頭痛

既往歴:ムンプス性髄膜炎(小学2年生時),無症候性血尿.

家族歴:類症,精神科疾患なし.

生活歴:てんかん発作の閾値が低下する常用薬の使用歴なし.

現病歴:2019年5月中旬頃,夕食前に視野の右上から左下にかけて長く一本の斜線が入り,線より上の光景が右にずれ,下の光景が左にずれて見えるようになった(発作症状#1-①,Fig. 1A).この症状は1時間ほど持続して改善した.以後,#1-①以外にも,両視野の目前の光景が波状に見える(#1-②,Fig. 1B),視野全体に大きな数個の斑状暗点が出現するという症状(#1-③,Fig. 1C)のうち,いずれかの発作性視覚症状を1週間に2,3回の頻度で認めた.また視覚症状に後続して,自分自身の姿を左後ろから見ている自分が体外にいる状態の体験,時にそれが自分の前方まで移動し自分の顔を覗き込んでいるという状態(OBE)(#2,Fig. 2)が必ず出現するようになった.いずれの症状もそれぞれ約1時間程度持続した.そして,5~6割程度の頻度で,上記症状に後続して頭痛が出現した.頭痛の性状は頭全体で,非拍動性であり,登校不能か学校で休息を取る程の強さであった.頭痛発作中に光過敏や音過敏などの随伴症状は認めなかった.同年6月に近医脳神経内科で片頭痛と診断され,ゾルミトリプタン2.5 mgが処方されたが効果がなく,気分不良のため中止となった.アセトアミノフェン600 mgは頭痛に対して効果を認めた.VPA 200 mg/dayも開始されたが,眠気とふらつきが強く継続できなかった.その後も頭痛で救急外来を受診するなど症状の改善がなく,OBEの頻度が増加したため,同年7月に上記とは別の脳神経内科を受診した.同院でてんかん発作の可能性を指摘され,カルバマゼピン200 mg/dayを開始された.その後は症状の出現頻度が2~3回/週から1回/週程度に減少したが,症状は持続し登校も困難な状況が続いたため,同年8月に精査加療のため,当科を紹介受診した.

Fig. 1 Visual symptoms drawn by the patient.

A: A diagonal line appeared in his visual field, shifting his upper field of view to the right and his lower field of view to the left. B: His whole vision seemed distorted with ripples. C: Black spots covered parts of his visual fields and moved up and down.

Fig. 2 Out-of-body experience (OBE) drawn by the patient.

He felt as seeing his own body apart from his left back. Sometimes he felt moving in front of his own body and looking into his face.

来院時現症:一般身体所見に特記事項なし.意識清明,対座法で視野と視力の異常はなくその他の脳神経領域も異常なし.その他,運動系,感覚系,反射系,協調運動にも異常なし.

検査所見:血算,一般生化学検査で特記事項なし.脳MRIでは年齢を考慮して軽度の両側後頭葉の萎縮を認めた.MRAでは特記事項なし(Fig. 3).持参ならびに当院で施行した脳波検査(睡眠脳波を含む)では後頭部優位律動10~11 Hz,両側後頭部に間欠性徐波を1回/10~30ページで認めた.光刺激では通常の光応答反応を認めたが,光突発反応はなし.これら2回の脳波検査で明らかなてんかん性放電は認めなかった(Fig. 4).

Fig. 3 Brain MRI.

Fluid-attenuated inversion recovery (FLAIR) images showed bilateral occipital atrophy.

Fig. 4 An electroencephalogram highlighted by an open red circle and a red horizontal bar.

Two samples of intermittent irregular delta regional bilateral occipital were shown (A, B). The findings can be distinguished from posterior slow wave of youth because these were also seen when posterior dominant rhythm was suppressed, i.e. during sleep or eye opening. A: during sleep, B: during eye opening.

臨床経過:本例の症状からは,視覚症状が多彩であることと,症状の持続時間が長いことから,部分てんかん発作による視覚症状として典型的ではないと考えた.またこれらの症状は頭痛に先行しており,国際頭痛分類第3版1における前兆のある片頭痛の診断基準(Table 1)のA,B,C,Dのすべての項目を満たした.次に検査結果からは,脳MRIにて両側後頭葉の軽度の萎縮を認めたが,脳波検査にて積極的にてんかん発作を示唆する所見は認めなかった.以上より,総合的に,部分てんかん発作よりも前兆を伴う片頭痛を示唆すると考えた.

過去の投薬歴から副作用の出現が懸念されたため,ごく少量のVPA 50 mg/dayから加療を開始した.治療開始後とくに有害事象の出現はなく,頭痛の程度は10段階のNumerical Rating Scale(NRS)で以前の強さを10とすると,6程度まで改善した.治療開始当初はOBEや視覚症状の頻度は変わりなかったが,約2ヶ月後にVPAを 50 mg/dayから100 mg/dayまで増量し,OBEは残存しているものの,#1-①~③の視覚症状については消失した.頭痛の程度についてもNRSにて10から2まで改善を認めた.さらに1年後には症状の出現頻度は2ヶ月に1回以下まで減少した.

考察

片頭痛は時に多彩な神経症状を呈し,しばしばてんかん発作等の他疾患との鑑別が問題となる.本症例は,頭痛発作に先行して多彩な視覚症状とそれに後続するOBEを呈し,診断のためにてんかん発作との異同について詳細な検討を必要とした.また,特徴的な前兆症状からその病態や解剖学的責任部位についても推察された.これらに関して考察する.

1)多彩な視覚症状と診断に関して

一般的に,片頭痛に先行する前兆は,診断基準(Table 1)に示されるように,5分以上かけて徐々に進展するか,二つ以上の前兆が引き続き生じ,それぞれの症状が5分~60分持続する1.それに対して,てんかん発作の持続時間は通常3~5分程度,もしくは1分以内のことも多く,片頭痛の前兆と比較して短い.部分てんかん発作としての視覚症状と,片頭痛における視覚性前兆を比較した既報では,症状の持続時間の中央値はてんかん発作では56秒であったのに対し,片頭痛では20分であり,有意にてんかん発作で短かったという報告がある3.本症例で認めた視覚症状はいずれも1時間程度持続したため,てんかん発作よりも片頭痛の前兆であることが示唆された.また,本症例では視覚症状とOBEの二つの症状が引き続き生じており,これは診断基準上,片頭痛における前兆に合致すると考えられた.一般的にてんかん発作症状は常同性が高く,同一患者においては,一焦点の場合は同一症状が同一進展様式で再現性を持って出現する.本症例では同一患者において様々な視覚症状を呈したことも,一焦点のてんかん発作よりも片頭痛の前兆を示唆すると考えた.

本症例では,脳MRIにて両側後頭葉の萎縮が示唆された点や,小学2年生時にムンプス髄膜炎の既往があることから,これらが上記症状に関与する可能性も考慮された.急性髄膜炎後に片頭痛を新たに生じた症例については報告があるが4,ムンプス髄膜炎は基本的に良性であり,後遺症のリスクは通常はないとされている.ムンプスで脳炎を合併した場合でも後遺症の報告は稀であり,難聴,顔面神経麻痺,失調等の報告はあったが5,本症例に類似した発作性の神経症状や頭痛発作を呈する症例についての報告は,検索し得た範囲ではなかった.また,髄膜炎後の器質的な病変を原因とした特に独立多焦点の部分てんかん発作の可能性についても検討した.独立多焦点の部分発作では,病変に対応する複数の発作型を有し,脳波では背景活動不良や広範な独立多焦点の明瞭なてんかん性異常,広範な徐波化を示すが,本例ではそれらは認めず,症状の持続時間等と総合的に勘案すると,独立多焦点の部分発作の可能性は極めて低いと判断した.

さらに,本症例で少量のVPAが著効したという治療経過も,片頭痛の診断を支持するものと考えた.VPAは脳内でのGABAレベルの増加6の他,片頭痛の病態に関与するとされる三叉神経血管系の神経原性炎症の抑制7や,主に前兆に関与する現象とされ背景脳波活動の抑制を伴う巨大陰性徐波である皮質拡延性脱分極(cortical spreading depolarization,以下CSDと略記 ※本邦では未だ定まった訳語はないと考えられる)の抑制8などの報告があり,これら複数の機序から片頭痛に治療効果を有すると理解されている.

2)OBEに関して

本症例で認めた“自分自身の姿を左後ろから見ている自分が体外にいる状態”はOBEと考えられた.OBEは,“自分自身が自己身体の外にいる”と感じるOBEと,“自分自身の姿を高い場所もしくは離れた場所から見ている”と感じるautoscopy(AS)に大別される2.OBEは稀な現象とされており,てんかん,片頭痛,腫瘍,脳梗塞,神経感染症およびその後遺症など様々な神経疾患や,精神疾患に関連して報告されている9.OBEの責任病巣としては諸説あるが,てんかん患者における脳内留置電極刺激などの結果から,TPJが有力と考えられている2

OBEを呈する片頭痛は稀で,OBEを呈した17例の片頭痛患者の報告では(Table 2),9例がASを呈していた10)~14.またOBEの出現が頭痛発作前は2例,頭痛発作中は症例は8例存在した.これらは診断基準上片頭痛の前兆として矛盾しないものである.本症例では,ASを伴うOBEを頭痛発作前に認め,既報の半数以上の症例と同様に前兆のタイミングに症状が出現した.さらに本症例に特徴的なことは多彩な視覚症状後にOBEが再現性をもって後続したことである.以上より,本症例の前兆症状の解剖学的責任部位として,一次視覚野のみではなく,形態や色,物体の動きおよび上下の視野情報の認識,統合などの複雑な視覚認識に関わる外線条皮質や,OBEに関与するTPJを含む体性感覚,空間認知等を司る皮質の関与が疑われた.

Table 2  Case reports of OBEs in migraine patients10)–14).
Age Sex AS Timing of OBE occurring Reference
1 N.A. N.A. During headache Oppenheim, 1898
2 37 F + Before headache Lippman, 1953, case 1
3 48 F + Before headache Lippman, 1953, case 2
4 55 F During & after headache Lippman, 1953, case 3
5 44 F + During headache Lippman, 1953, case 4
6 31 M During & after headache Lippman, 1953, case 5
7 36 F + No association with headache Lippman, 1953, case 6
8 33 F + No association with headache Lippman, 1953, case 7
9 49 M After headache Lippman, 1953, case 8
10 17 F No association with headache Todd, 1955, case 4
11 34 M During headache Lukianowicz, 1967, case 12
12 21 F During headache Lukianowicz, 1967, case 20
13 18 F + During headache Hachinski et al., 1973, case 10
14 N.A. F + No association with headache Livesley, 1973, case 2
15 66 F + No association with headache Podoll et al., 1999, case 1
16 50 F + No association with headache Podoll et al., 1999, case 2
17 18 M During headache Podoll et al., 1999, case 3

Abbreviations. AS: autoscopy, F: female, M: male, N.A.: not available, OBE: out-of-body experience, +: positive, −: negative.

3)今後の課題

1)で言及したCSDという現象は,ヒト片頭痛患者では,CSDに伴って生じると考えられるSPECTでの血流変化やfunctional MRIでのblood oxygenation level-dependent(BOLD)信号の変化等として記録される.これらが片頭痛患者の視覚前兆中に大脳後方領域から前方に向かって次第に広がっていく様子が報告されており,CSDは片頭痛の前兆に関与する可能性のある現象とされている1516.本症例における病態機序も,CSD様の何らかの活動が後頭葉からより前方にあるTPJへ伝播していったことにより,視覚症状からOBEへと症状の進展が生じたと推察される.しかし,より詳細な検証のためには,今後の同様の症状を呈する症例の蓄積と脳波・画像検査など神経生理学的知見との相関の検討が期待される.

Notes

※本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業・組織・団体

○開示すべきCOI状態がある者

池田昭夫:講演料:エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,ユーシービージャパン株式会社

池田昭夫,宇佐美清英:京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座(エーザイ株式会社,大塚製薬株式会社,日本光電工業株式会社,ユーシービージャパン株式会社との産学共同講座)に所属

○開示すべきCOI状態がない者

細川恭子,梶川駿介,下竹昭寛,立岡良久,髙橋良輔

本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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