Rinsho Shinkeigaku
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Brief Clinical Notes
A case of subcortical hemorrhage due to infective endocarditis caused by Staphylococcus warneri without fever and leukocytosis
Tomone TanedaTakuya KonnoAyaka OnoTakayoshi TokutakeOsamu Onodera
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2021 Volume 61 Issue 8 Pages 563-566

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要旨

症例は僧帽弁閉鎖不全症を有する50歳男性.右前頭葉の皮質下出血を発症した.CT血管造影で微小脳動脈瘤を認め,発熱と白血球増多はなかったが,爪の線状出血とJaneway病変から感染性心内膜炎を疑い,血液培養からStaphylococcus warneriS. warneri)を検出し診断した.抗菌薬と緊急開頭クリッピング術で良好な転機を得た.S. warneriはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌で,皮膚に常在し,自己弁に感染性心内膜炎を起こすことは極めてまれである.本例は発熱や白血球増多を伴わず,皮質下出血で発症した点が特異であった.本菌は病原性が低く炎症反応に乏しいことがあり注意を要する.

Abstract

A 50-year-old man with mitral regurgitation presented with right frontal subcortical hemorrhage. Although he had no fever and his white blood cell count was in the normal range, CT angiography demonstrated a micro cerebral aneurysm, and all three blood cultures were positive for Staphylococcus warneri (S. warneri). Thus, we diagnosed him with infective endocarditis. His condition improved successfully by immediate antibiotics and cerebral aneurysm clipping. S. warneri is a member of coagulase-negative staphylococci that are low-virulence and resident flora of the skin. S. warneri rarely causes infective endocarditis on native valves. Infective endocarditis caused by S. warneri manifests insidious course without inflammatory reactions such as fever and leukocytosis, and thus, diagnosis can be delayed. Attention should be paid to a patient who develops subcortical hemorrhage without a history of hypertension or inflammatory reactions as in this case.

はじめに

感染性心内膜炎は,診断が遅れると致死的な転帰をとりうる.今回我々は,炎症所見を伴わずに皮質下出血で発症したStaphylococcus warneriS. warneri)による感染性心内膜炎の症例を経験した.S. warneriは病原性の低いコアグラーゼ陰性ブドウ球菌であり,炎症所見を伴わず潜在性の経過の感染性心内膜炎となりうるため,脳出血で発症した場合に早期診断が難しい.時機を逸さず適切に診断するために,本菌の特徴を知ることが重要であると考え,報告する.

症例

症例:50歳,男性

主訴:左上下肢が動かない,呂律が回らない

既往歴:45歳時に健診で心雑音を指摘され,48歳時に僧帽弁閉鎖不全症と診断され手術待機中であった.

家族歴:兄は38歳で胸部大動脈瘤破裂により死亡.

現病歴:2020年3月下旬,自宅の居間で座ってテレビを見ていたところ,左上肢が動かないことに気がついた.立ち上がろうとしたが左下肢が動かず立ち上がることができなかった.呂律も回らず,自ら救急要請した.発症から約1時間後に当院に救急搬送された.頭部CTで右前頭葉皮質下に高吸収域を認め,脳出血の診断で入院した.

入院時現症:身長170 cm,体重62.4 kg,BMI 21.59,体温36.6°C,心拍数126 bpm,血圧170/80 mmHg,SpO2 97%(室内気).胸部にLevine V/VI度の汎収縮期雑音を聴取した.左第3指および左第4趾の爪に線状出血を認めた(Fig. 1A, B).右足底に淡い無痛性の斑状紅斑を認めた(Fig. 1C).神経学的には,頭痛はなく意識は清明で,顔面を含む重度の左片麻痺と構音障害,嚥下障害を認めた.

Fig. 1 Physical findings and brain images.

Splinter hemorrhages of the middle finger of the left hand and of the fourth finger of the left foot (A, B, arrows). Janeway lesion on the bottom of the foot (C, arrow). Brain CT shows subcortical hemorrhage in the right frontal lobe (D). CT angiography shows a microaneurysm near the hemorrhage (E, arrow). Digital subtraction angiography shows a microaneurysm located distal to the right prefrontal artery (F, arrow).

入院時検査所見:白血球数8,380/μlと増加なく,CRP 2.69 mg/dlであった.Hb 11.7 g/dlと貧血を認めた.肝機能,腎機能には異常なく,電解質は基準範囲内であった.糖尿病,脂質異常症はなかった.BNP 28.2 pg/mlと軽度高値であった.凝固線溶系に異常はなかった.

画像所見:頭部単純CTで,右前頭葉皮質下に推定37.8 mlの内部が不均一な血腫像を認めた(Fig. 1D).

入院後経過:カルシウム拮抗薬で収縮期血圧150 mmHg以下にコントロールした.発症第2日目に撮影したCT血管造影で,血腫の近傍に微小脳動脈瘤を疑う結節性造影病変を認めた(Fig. 1E).発熱や白血球増多はなかったが,手術適応のある弁膜症と,爪の線状出血,足底のJaneway病変から,感染性心内膜炎による感染性脳動脈瘤破裂を疑った.同日,血液培養を3セット提出しメロペネム6.0 g/日を開始した.発症第3日目に血液培養3セット全てからS. warneriを検出した.同日よりバンコマイシンを併用した.同日の血管撮影で右前前頭動脈の遠位に約2 mmの微小脳動脈瘤を認め(Fig. 1F),同日中に緊急開頭クリッピング術をおこなった.動脈瘤の病理所見は,動脈壁の破壊と内弾性板の欠失,不整に肥厚した膠原線維による血管壁の変性を認め,感染性脳動脈瘤として矛盾しなかった.術中に行った経食道心エコーで,僧帽弁前尖の逸脱と弁瘤形成および同部位からの逆流を認めた.発症第5日目に,起因菌の薬剤感受性にもとづき抗菌薬をペニシリンG 2,400万単位/日へ変更した.発症第10日目に提出した血液培養は3セットとも陰性であった.発症第26日目の血管撮影で,出血の責任部位であった脳動脈瘤は消失し,新規の脳動脈瘤も生じていないことを確認した.ペニシリンGは血液培養陰性化から約6週間継続した.構音障害,嚥下障害ともに改善し,左上肢に麻痺が残存したものの,左下肢の麻痺は著明に改善し歩行可能になった.発症第45日目にリハビリテーション目的に転院した.

考察

本症例は,高血圧症の既往のない比較的若年者に生じた皮質下出血の症例である.身体所見と頭部画像所見から感染性心内膜炎による感染性脳動脈瘤破裂を疑い,血液培養でS. warneriを検出した.感染性心内膜炎としては発熱や白血球増多といった感染徴候を欠いていたことが特徴的であった.

S. warneriはコアグラーゼ陰性ブドウ球菌の一種で,健康な成人の50%に見られる皮膚の常在菌である1.2,781例の感染性心内膜炎症例を前方視的に解析した研究では,起因菌としてコアグラーゼ陽性ブドウ球菌であるStaphylococcus aureusS. aureus)が31%と最多で,Streptococcus viridansS. viridans)が17%と次いで多く,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の頻度は10%程度である2.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の病原性は低く,人工弁や心内デバイス関連感染性心内膜炎の起因菌となるが,自己弁症例で検出されることはまれである.中でもS. warneriは極めてまれであり,自己弁感染性心内膜炎(native valve endocarditis,以下NVEと略記)1,504例の前方視的研究では,99例(6.6%)でコアグラーゼ陰性ブドウ球菌を検出しているが,S. warneriは1例もなかった3

S. warneriによるNVE症例は渉猟した限りこれまでに7例報告されている(Table 1).一般に,感染性心内膜炎では9割以上の症例で38°C以上の発熱を2,約半数で白血球増多を認めるが,既報のS. warneriによるNVE 7例のうち,発症時に発熱を伴った症例,10,000/mm3以上の白血球増多を認めた症例は,ともに2例(28.6%)のみであり4)~6,感染徴候に乏しい.本例も,発熱および白血球増多がなく既報例の特徴と一致する.また,7例中4例(57.1%)は皮膚切開や人工物の挿入を伴う手術歴を有した5)~8.このうち2例は手術からNVE発症までに1年以上の期間があり57,手術が感染の契機であったとすると,S. warneriによるNVEは緩徐な進行を呈する場合がある.一方で,本例のように手術歴,体内人工物,易感染性がない症例は少ない(7例中2例)19.本例の感染契機や細菌の侵入門戸は不明だが,僧帽弁閉鎖不全症と弁逸脱症があり,弁逆流による心内膜損傷が感染の温床となった可能性がある.なお,脳出血で発症した報告は本例のみであった.

Table 1  Histories and laboratory findings of native valve endocarditis caused by Staphylococcus warneri.
Age (y) Sex Medical histories Time from last surgery
to onset
Fever
at onset
Leukocyte count
(/mm3)
Reference
79 M Degenerative valve disease n.a. None 9,710 1)
64 M Cirrhosis of liver n.a. + n.a. 4)
48 M Implantation of a disc prosthesis 2 years + 12,500 5)
32 M Vasectomy 6 weeks Nonea 12,300 6)
66 M Colon resection for villous adenoma
Total hip replacement
1 year Noneb 9,400 7)
59 M Nephrectomy for renal cell carcinoma
Hardware placed in his ankles
Scalp laceration that required suturing
2 weeks None n.a.c 8)
78 F None n.a. None n.a. 9)
50 M Mitral regurgitation n.a. None 8,380 Our case

F = female; M = male; n.a. = not applicable/not available. aDeveloped a week after symptom onset. bDeveloped over the next several days after symptom onset. cLeukocytosis was not observed in this case.

S. warneriは皮膚の常在菌であることから,血液培養で検出された場合にコンタミネーションと誤認されうる.感染性心内膜炎を起こしても感染徴候に乏しく,潜在性の経過をとりうるため,気づかれにくい.コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は病原性が低いにも関わらず,NVEの死亡率は,S. aureusS. viridansによるNVEと同等かそれ以上であり,診断の遅れが不良な予後をもたらしている可能性がある10S. warneriによる感染性心内膜炎は非典型的な臨床像を呈し早期診断が困難な場合があり,本例のように中枢神経合併症で発症した場合には特に注意を要する.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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