Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Central nervous system involvement of graft versus host disease after allogeneic hematopoietic stem cell transplantation for adult T cell leukemia
Toshihiro IdeKotaro IidaHiroo KatsuyaHiroshi ItoShinichi AishimaHideo Hara
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2022 Volume 62 Issue 1 Pages 33-38

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要旨

症例は54歳女性.2015年11月に急性型成人T細胞白血病(adult T cell leukemia,以下ATLと略記)を発症し,翌年3月に同種造血幹細胞移植を受けた.2019年5月に急激に認知機能障害が出現し,頭部MRIで大脳白質病変を認めた.髄液検査では蛋白の上昇を認めた.脳生検ではCD8陽性のT細胞を主体とする炎症細胞が白質へ浸潤していた.肺・腸管の慢性移植片対宿主病(graft versus host disease,以下GVHDと略記)の既往と病理所見から慢性GVHDの中枢神経病変(central nervous system involvement of GVHD,以下CNS-GVHDと略記)と診断した.ステロイドとミコフェノール酸モフェチルによる免疫療法を行い,認知機能障害と髄液所見の改善を得た.本症例はATLにおけるCNS-GVHDの初の報告であり,脳生検による診断の重要性と免疫療法の有効性を示した.

Abstract

A 54-year-old woman was diagnosed with acute adult T-cell leukemia (ATL) in November 2015 and underwent allogeneic hematopoietic stem cell transplantation in March 2016. Cognitive impairment appeared suddenly around May 2019, and MRI of the brain showed cerebral white matter lesions. Cerebrospinal fluid examination showed no significant findings other than elevated protein. Brain biopsy showed inflammatory cells, (mainly CD8-positive T lymphocytes), infiltrating the white matter. Based on the pathological findings and the history of chronic graft versus host disease (GVHD) in the lungs and intestines, we diagnosed central nervous system involvement of GVHD (CNS-GVHD). Immunotherapy with steroids and mycophenolate mofetil resulted in improvement of the cognitive dysfunction and inflammatory findings in the spinal fluid. This case is the first report of CNS-GVHD in ATL, suggesting the importance of diagnosis by brain biopsy and the efficacy of immunotherapy.

はじめに

慢性移植片対宿主病(graft versus host disease,以下GVHDと略記)は同種造血幹細胞移植後に発症する晩期合併症の一つであり,様々な臓器に影響を及ぼし,多彩な臨床症状を示す‍1.慢性GVHDによる中枢神経病変(central nervous system involvement of GVHD,以下CNS-GVHDと略記)はまれではあるものの重篤な臨床的問題を引き起こすことがある.今回我々が経験した症例は同種造血幹細胞移植後3年と長期間を経て発症している点が特徴的であった.またこれまで成人T細胞白血病(adult T cell leukemia,以下ATLと略記)に対する同種造血幹細胞移植後にCNS-GVHDを発症した症例は渉猟した限りなく,貴重な症例と考えられたため報告する.

症例

患者:54歳,女性,無職

主訴:認知機能障害

既往歴:急性型ATLに対して同種造血幹細胞移植後.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2015年11月に急性型ATLを発症した.化学療法後2016年3月に同種造血幹細胞移植(骨髄バンク,HLA血清型一致,DNA型A座一座不一致)を受けた.2016年4月に提出したキメリズムはすべてドナータイプであった.移植後2週間で皮膚の急性GVHDを認めた.同年7月より下痢が出現し,腸管の慢性GVHDと診断された.また2018年11月には胸部CTで間質陰影を認め,肺のGVHDと診断された.移植後にサイトメガロウイルス抗原血症,ニューモシスチス肺炎を繰り返しており,免疫抑制剤の投与はプレドニゾロン2.5 mg,タクロリムス0.2 mgと少量にとどまっていた.2019年5月より急激な認知機能低下があり(MMSE 5点),6月下旬に当院紹介受診となった.

入院時現症:体温36.2°C,脈拍112/分,血圧98/52 mmHg,呼吸数15/分.一般身体所見では眼瞼結膜に貧血を認める他に特記すべき異常所見はなかった.神経診察では見当識障害を認め,MMSEは5点,FAB 3点と全般的に低下していた.脳神経には異常を認めなかった.四肢運動系では頸部・四肢で筋トーヌスの亢進を認めた.感覚系・協調運動に異常なく,深部腱反射は両側の上腕二頭筋反射・腕橈骨筋反射・三頭筋反射・膝蓋腱反射が亢進しており,Hoffmann反射・Babinski反射・Chaddock反射が左で陽性であった.項部硬直,Kernig徴候はなかった.

検査所見:血液検査ではHb 11.5 g/dlと軽度の貧血と,軽度の肝機能障害(AST 35 U/l, ALT 50 U/l)を認めたが,腎機能,電解質,凝固・線溶系は正常であった.CRPは軽度上昇(1.32 mg/dl)していたが,血清リウマチ因子,抗核抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCAなど自己免疫系マーカーは陰性であった.感染症関連検査ではHSV抗体,VZV抗体,CMV抗体はいずれも既感染パターン,梅毒PRP法,HIV抗原抗体,アスペルギルス抗原,クリプトコッカス抗原,βグルカンは陰性であり,結核菌特異的INF-γ測定も陰性であった.HTLV-1抗体はPA法で256倍以上であった.ACE,sIL-2Rは正常範囲内であった.心電図,胸部X線では異常所見を認めなかった.頭部造影MRIでは基底核~放線冠,右後頭葉深部~脳梁膨大部右側,左放線冠,両側側頭極,両側扁桃体~淡蒼球,橋に境界不明瞭な淡いT2延長病変を認めた.同病変は拡散強調画像でも淡い高信号であったが,明らかなADC値の低下はなかった.造影後は右側脳室前角周囲~右放線冠病変の辺縁に淡い増強効果を認めた(Fig. 1).脳脊髄液検査では初圧・細胞数の上昇はなかったが(0/μl),蛋白は86 mg/dlと上昇を認めた.β2 MG 7.19 μg/ml,IgG 10.9 mg/dlと増加していたが,MBP,NSEは正常範囲内でオリゴクローナルバンドは陰性であった.髄液細胞診にて異常リンパ球の出現はなかった.髄液中のHTLV-1 DNAは2 × 10‍2未満,JCV抗体は2 × 10‍2未満であった.

Fig. 1 Brain MRI.

High-signal lesions are seen in the deep white matter on FLAIR imaging (A, 1.5 T; TR 9,000 msec; TE 100.0 msec). The same lesions also show faint high signal on diffusion-weighted imaging (B, 1.5 T; TR 4,710 msec; TE 55.0 msec). T1-weighted Gd-enhanced imaging shows an area of faint enhancement in the right corona radiata (C, 1.5 T; TR 21 msec; TE 6.5 msec). FLAIR imaging obtained on the Day 10 of hospitalization shows progression of the white matter lesion (D, 3 T; TR 10,000 msec; TE 115.0 msec).

入院後経過:骨髄移植より3年と長期間経過しているものの,皮膚の急性GVHDや肺・腸管の慢性GVHDの既往からCNS-GVHDの可能性を考え,入院第16日目に右後頭葉より脳生検を行った.脳生検では大脳白質の小血管周囲に小型リンパ球が浸潤しており,脳実質に空胞状の変性を認めた.免疫染色にて小型リンパ球はCD3陽性,CD8(+) > CD4(+)であり,CD20,EBER,CMV陽性細胞はいずれも認めなかった.CD68陽性のマクロファージも少量認めた.クリューバー・バレラ染色で脱髄は認めなかった.CCR4陽性細胞がわずかに見られたが,小型かつ異型に乏しいこと,脳組織の破壊性浸潤を伴わないことからATL細胞の浸潤ではないと判断した.病理組織所見として明らかな腫瘍細胞による脳実質の破壊性浸潤がないこと,CD8陽性を主体とするT細胞浸潤が見られることから,CNS-GVHDとして矛盾ないものであった(Fig. 2).また末梢血単核球を用いたフローサイトメトリー解析では,CD4陽性細胞中のTSLC1陽性かつCD7陰性のATL細胞の増加は認めなかった(Fig. 3).以上より入院第28日からステロイドパルスによる免疫抑制療法を開始した.メチルプレドニゾロン1 g/日×3日間によるステロイドパルス療法を2回行い,後療法としてプレドニゾロン30 mg/日の内服を開始した.元々内服していたタクロリムスは薬剤性脳症を引き起こす可能性を鑑み,ステロイドパルスに際し中止した.治療開始後約1か月でMMSEが5点から15点へと認知機能障害の改善を認めた.また髄液検査も治療開始後約1か月で蛋白86 mg/dlから44 mg/dl,β2MG 7.19 μg/mlから3.74 μg/ml,IgG 10.9 mg/dlから3.3 mg/dlへといずれも改善した.肺・腸管に慢性GVHDを発症していること,脳病理にて腫瘍細胞浸潤や脱髄,血管炎などの所見を認めず,CD3・CD8陽性の細胞障害性T細胞の浸潤を認めていること,髄液検査で治療開始前髄液蛋白高値であったこと,画像所見およびステロイドへの治療反応性からOpenshawの診断基準‍2に照らし合わせてCNS-GVHDと最終診断した.治療開始後もMRI所見の改善が乏しかったことからT細胞・B細胞の活性化を阻害する目的で入院第70日目よりミコフェノール酸モフェチル1,000 mgを追加した.第95日目にプレドニゾロンを30 mgから段階的に20 mgまで漸減した後もMMSEは改善した状態を維持できており,当院入院時には従命不能な状況であったが,言語理解や歩行状態の改善を認めた.最終的にMMSEは22点まで改善し,第106日目に紹介元の病院に転院した(Fig. 4).

Fig. 2 Brain biopsy specimens obtained from the right occipital lobe.

There is infiltration of small lymphocytes around small blood vessels in the cerebral white matter, and the brain parenchyma shows vacuolated degeneration (A). Klüver- Barrera staining reveals no speckled staining or no clear demyelination (B). The infiltrating lymphocytes were CD8 (+) > CD4 (+) (C and D). The histological image was suspicious for encephalitis and consistent with autoimmune encephalitis-type graft versus host disease. (A, hematoxylin and eosin staining, scale bar = 50 μm; B, Klüver-Barrera staining, scale bar = 100 μm; C, CD8 immunostaining, scale bar = 100 μm; D, CD4 immunostaining, scale bar = 100 μm).

Fig. 3 Flow-cytometric analysis of cell populations in peripheral blood.

Plots of the expression patterns of CD7 and TSLC1 in CD4 (+) cells show that most of the cells in the peripheral blood were positive for CD7 but negative for TSLC1. The CD4 (+) cells do not conform to an apparently advanced adult T cell leukemia profile.

Fig. 4 Clinical course.

Abbreviations: MMSE, Mini-Mental State Examination; IVMP, intravenous methylprednisolone; m-PSL, methyl-prednisolone; PSL, prednisolone; MMF, mycophenolate mofetil.

The patient presented with rapid cognitive impairment. Brain MRI showed diffuse cerebral white matter lesions. Brain biopsy performed on Day 16 showed infiltration of cytotoxic T cells around small blood vessels in the cerebral white matter, and chronic central nervous system involvement of graft versus host disease was diagnosed. Steroid pulse therapy with methylprednisolone was performed twice. The cognitive dysfunction and CSF inflammatory findings gradually improved after initiation of prednisolone and mycophenolate mofetil.

考察

造血幹細胞移植後の中枢神経合併症は9~14%に生じ‍3,感染症,脳血管障害,薬物中毒,Epstein–Barrウイルス関連リンパ増殖性疾患(Epstein–Barr virus associated lymphoproliferative disease,以下EBV-LPDと略記),代謝障害などが主な原因である.慢性GVHDはほとんどの臓器に障害を引き起こす可能性があるが,中枢神経病変は末梢病変よりも少なく,報告されている症例はわずかである‍2.CNS-GVHDは鑑別すべき病態も多く,脳生検まで検討するなど慎重に診断する必要がある.実際当初GVHDと考えられたもののEBV-LPDと最終診断された症例や‍4,進行性多巣性白質脳症とCNS-GVHDとの画像的類似性について指摘した報告がある‍5.本症例では入院第16日目に脳生検を行い,臨床所見と病理所見より診断に至った.CNS-GVHDの病理学的特徴は,2010年のコンセンサス会議にて脳血管障害型,脱髄型,自己免疫性脳炎型の三つに分類されている‍6.自己免疫性脳炎型では剖検を中心とする研究によって,リンパ球の血管周囲および実質浸潤,HLA-DR発現を伴うミクログリアの広範な活性化,びまん性の白質変性などが報告されている‍7)~9.また浸潤するリンパ球については単発性の白質病変にドナー由来のCD4陽性T細胞が浸潤したもの‍5や,小血管周囲に細胞障害性CD8陽性T細胞が浸潤したものが報告されている‍59.本症例では小血管周囲にCD8陽性のT細胞を主体とする小リンパ球の浸潤があり,自己免疫性脳炎型に合致するものであった.

既報によると造血幹細胞移植からCNS-GVHDの発症までの期間について中央値は385日であった.そのうち中枢神経外に慢性GVHDの既往歴のない群では移植からCNS-GVHDの発症まで81.5日であったのに対し,他臓器に慢性GVHDを有する群では549日と中枢神経外に慢性GVHDの既往がある患者の方が神経症状の出現が遅かった‍10.また中枢神経外に慢性GVHDのない症例では自己免疫脳炎型が多かったのに対し,他臓器にある症例では脳血管障害型が多かった.本症例では腸管の慢性GVHDの既往があるものの移植後3年ととりわけ長期間経過して神経症状が出現している点,自己免疫脳炎型で発症している点が特徴的であった.

CNS-GVHDの基礎疾患としてこれまで骨髄増殖性疾患,骨髄不全,慢性骨髄性白血病,慢性リンパ球性白血病,骨髄異形成症候群,急性骨髄性白血病,急性リンパ球性白血病,リンパ腫,再生不良性貧血が報告されているが‍10,ATLの報告は渉猟した限り他になく,初の報告である.ATLでは病期の進行とともに中枢神経に腫瘍細胞が浸潤することがあり,その頻度は10~25%である‍11)~13.そのためATL症例においてCNS-GVHDを検討する際には腫瘍細胞の中枢神経直接浸潤との鑑別が重要である.ATLの中枢神経浸潤に関するMRI所見の特徴として脳脊髄液に接する脳実質内の多発性腫瘤性病変,髄軟膜病変がある‍14.本症例では頭部造影MRIにて腫瘤形成や髄軟膜病変など中枢神経浸潤に特徴的な画像所見は認めなかったが,びまん性白質脳症自体非特異的なこと,中枢神経浸潤の場合の髄液細胞診の陽性率は必ずしも高くない‍1415ことから診断のため脳生検まで必要と判断した.

CNS-GVHDの治療についてまとめた報告‍10では,35例のうち34例が免疫抑制療法を受けており,ステロイドが最も多く31例に投与されていた.ステロイド以外の免疫抑制療法として免疫グロブリン静注,血漿交換,シクロホスファミド,カルシニューリン阻害剤,ミコフェノール酸モフェチル,メトトレキサートが用いられていた.我々はメチルプレドニゾロンによるステロイドパルスを2クール行った上で,プレドニゾロンとミコフェノール酸モフェチルの併用を行い,約2か月の経過で認知機能障害の改善を得た.CNS-GVHDは本症例の通り免疫療法による治療反応性も認められることから脳生検を含めて他疾患を鑑別した上で治療を行うことが重要である.

結語

ATLに対する骨髄移植後にCNS-GVHDを発症した症例を経験した.これまでATL移植後に発症したCNS-GVHDの報告はなく,初の報告である.また移植後長期間経過した症例でも中枢神経にGVHDを発症する可能性がある.疑われる場合には脳生検を検討し,免疫療法を追加する必要がある.

Notes

本報告の要旨は,第227回日本神経学会九州地方会で発表した.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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