2022 Volume 62 Issue 1 Pages 15-21
パーキンソン病(Parkinson’s disease,以下PDと略記)に伴う非運動症状は患者の生活の質に与える影響が強く,疼痛はその中でも頻度が高い.今後治療エビデンスを確立するうえで疼痛を的確に評価することは,重要な課題である.2015年にPDの疼痛に特異的な評価スケールとしてKing’s Parkinson’s Disease Pain Scale(KPPS)が報告され,評価者ベースのKPPSに対応して2018年に患者ベースの質問票であるKing’s Parkinson’s Disease Pain Questionnaire(KPPQ)が報告された.今回我々は,KPPSとKPPQの言語的妥当性を担保した日本語版を作成した.
Pain is one of the most frequent non-motor symptoms associated with Parkinson’s disease (PD) and it has a great impact on patient’s quality of life. Thus, its quantitative evaluation is critical in establishing therapeutic evidence. The King’s Parkinson’s Disease Pain Scale (KPPS) was introduced as a scale of pain specific to PD in 2015. As a follow-up to the evaluator-based KPPS, the patient-based questionnaire, the King’s Parkinson’s Disease Pain Questionnaire (KPPQ), was introduced in 2018. We developed a linguistically validated Japanese version of the KPPS and KPPQ, and the process of its construction is reported in this study.
パーキンソン病(Parkinson’s disease,以下PDと略記)は孤発性の神経変性疾患であり,その頻度はアルツハイマー型認知症に次いで多く,日本でも20万人程度の患者が存在すると考えられている1).運動緩慢,静止時振戦,筋強剛,姿勢保持障害を主症状とするが,嗅覚異常,意欲の低下,認知機能障害,幻覚,妄想,睡眠障害,自律神経障害,疼痛やしびれなど様々な非運動症状を伴うことが知られている.PD患者の疼痛の合併頻度は高く,40~85%と報告により様々である2)~4).運動症候より先行して出現する疼痛も知られており5),また病期が進行するにつれて,ジスキネジア,ジストニアや姿勢異常に伴う疼痛も加わり,様々な要因が関連する.疼痛には一般に中枢性,末梢性疼痛の分類があるが,PDに関連する疼痛に関してはFordによる分類6)がよく用いられてきた.2015年PD患者特異的な疼痛のスケールとして,King’s Parkinson’s Disease Pain Scale(KPPS)7)が報告され,また評価者ベースのKPPSに対応して,2018年患者ベースの質問票であるKing’s Parkinson’s Disease Pain Questionnaire(KPPQ)8)が報告され,その妥当性が示された.KPPS/KPPQはPD患者の有する様々な種類の疼痛を評価するのに,信頼性が高いスケールである.今回我々は,KPPS/KPPQの原作版を日本語に翻訳し,言語的妥当性を担保した日本語版を作成したので報告する.
KPPS及びKPPQ原作版は原作者より許諾を得て入手した.日本語版の作成は,言語的に妥当な翻訳版を作成する際に標準的に用いられる手順9)と,International Parkinson and Movement Disorder Societyが推奨するTranslation Program10)に沿って行われた.その手順をFig. 1に示す.本研究は福岡大学倫理委員会の審査を受けて承認された(U21-04-001).

This figure shows the procedure from the original versions to the completion of the Japanese versions of KPPS and KPPQ. The Japanese versions were made through translation, back-translation, review by the original authors, cognitive pre-testing, and creating and modifying of the Japanese draft.
KPPS及びKPPQの原作者に日本語版作成の許可を得た後,英語の原作版から日本語への順翻訳を実施した.日本語を母国語とする,英語圏への長期留学経験があり,英語が堪能な2名の神経内科専門医を順翻訳者とした.選出された2名はお互いに協議することなく,各自で翻訳作業を行った.これら二つの順翻訳を著者らが統合し,自然な日本語になるように修正した.順翻訳者二人の同意を得たものを順翻訳版とした.
〈逆翻訳作業〉順翻訳版から英語訳への逆翻訳を実施した.順翻訳者とは異なる神経内科専門医で,英語圏への長期留学経験があり,英語が堪能な2名を逆翻訳者とした.逆翻訳者には英語原版の情報は入手しないよう依頼し,了承を得た.選出された2名はお互いに協議することなく,各自で逆翻訳作業を行った.これら二つの逆翻訳を統合し,逆翻訳者2人の同意を得たものを逆翻訳版とした.
〈原作者によるレビュー〉逆翻訳版は原作者らにレビューされた.レビューされた逆翻訳版を基に,順翻訳者らと著者により順翻訳版を改正した.この順翻訳版改正,逆翻訳版作成,原作者らによるレビューの工程を2回行い,原作者の了承を得て日本語版原案を作成した.
2. 患者調査2021年4月から5月の間に,当院に通院するPD患者を対象に,日本語版原案の個別の患者調査を行った.患者は日本語を母国語とする,明確な他の原因によって説明のつかない痛みがあるPD患者10例とした.患者年齢,罹病期間,疾患重症度が出来るだけ異なるように対象の選択を行った.対象患者へは調査の目的や内容を説明し,事前に文書による同意を得た.
KPPQ日本語版原案の回答とKPPS日本語版原案の評価が終了した後に,全体に関する感想,各質問項目について理解しにくいところはないか,難解な言葉が含まれていないか,あいまいな表現はないか,不適切と感じた表現はないか,解答の選択肢が適切であるか,などについて聞き取りを行った.
3. 日本語版最終版の作成患者調査で患者から指摘された箇所に関して,著者らが意見をまとめ,日本語版原案の修正を行った.また逆翻訳者らにより修正箇所の逆翻訳を行った.修正した逆翻訳版は原作者らにレビューされ,許可を得たものを日本語版最終版とした.
英語の原作版と日本語版原案の対比表をTable 1に示し,検討した主な内容を下記に示す.前文としてスケールの説明の後,重症度を0~3点の4段階,頻度を0~4点の5段階で表すことを表記しており,そのまま翻訳した.“pain”は全て「痛み」と明記することとした.項目2の“pain deep within the body”は「体の深くに痛み」と「体の深部に痛み」の翻訳候補が挙げられたが,「体の深部に痛み」とすることで意見の一致を得た.項目4の“dyskinetic pain”は「ジスキネジアに関連した痛み」と明記した.項目5の“Does the patient experience “off” period dystonia in a specific region?”ではpainの表記がないが,順翻訳時に「患者さんは特定の部位にオフ時のジストニアに伴う痛みがありますか?」と明記した.逆翻訳は“Does the patient have a pain associated with off-time dystonia in a specific part of body?”とし,原作者に許可を得た.項目6の“generalized “off” period pain”は「オフ時に全体的な痛み」と「オフ時に全身の痛み」の翻訳候補が挙げられたが,より具体的である「オフ時に全身の痛み」と明記した.項目14の“a shooting pain/pins and needles down the limbs”は1回目の翻訳時に「突き刺すような痛み/ピンや針が手足に刺さる感じ」としたが,原作者より“the pain would need to be described as shooting or tingling pain (we mean paresthesia here).”とのコメントがあり,「手足に放散する痛み/ピリピリした痛み」に修正した.逆翻訳は“a spreading pain/tingling pain on the limbs”とし,原作者に許可を得た.
| 前文 | ||
|---|---|---|
| This scale is designed to define and accurately describe the different types and the pattern of pain that your patient may have experienced during the last month due to his/her Parkinson’s disease or related medication. | このスケールはあなたの患者さんがこの1ヶ月間に経験した,パーキンソン病もしくは薬物療法に関連した異なるタイプやパターンの痛みを,分類し正確に記載するために考案されました. | |
| Each symptom should be scored with respect to | 各症候は下記のように重症度と頻度を元に点数化されます. | |
| Severity: | 重症度: | |
| 0 = None, | 0=なし | |
| 1 = Mild (symptoms present but causes little distress or disturbance to patient), | 1=軽度(症状はあるが患者さんにとって苦痛や障害はほとんどない) | |
| 2 = moderate (some distress or disturbance to patient), | 2=中等度(患者さんにとって若干の苦痛もしくは障害がある) | |
| 3 = Severe (major source of distress or disturbance to patient). | 3=重度(患者さんにとって苦痛もしくは障害の主な原因となっている) | |
| Frequency: | 頻度: | |
| 0 = Never, | 0=なし | |
| 1 = Rarely (<1/wk), | 1=稀にある(週に1回未満) | |
| 2 = Often (1/wk), | 2=しばしばある(週に1回) | |
| 3 = Frequent (several times per week), | 3=頻繁にある(週に数回) | |
| 4 = Very Frequent (daily or all the time). | 4=とても頻繁にある(毎日もしくは常時) | |
| 質問 | ||
| Domain 1: Musculoskeletal Pain | 領域1:筋骨格の痛み | |
| 1. Does the patient experience pain around his/her joints? (including arthritic pain) | 1. 患者さんは関節周囲に痛みがありますか?(関節炎の痛みを含みます) | |
| Domain 2: Chronic Pain | 領域2:慢性の痛み | |
| 2. Does the patient experience pain deep within the body? (A generalised constant, dull, aching pain – central pain) | 2. 患者さんは体の深部に痛みがありますか?(全体的に持続的で,鈍く,うずくような痛み-中枢性疼痛) | |
| 3. Does the patient experience pain related to an internal organ? (For example, pain around the liver, stomach or bowels – visceral pain) | 3. 患者さんは内臓に関係した痛みがありますか?(例えば,肝臓,胃もしくは腸周囲の痛み-内臓痛) | |
| Domain 3: Fluctuation-related Pain | 領域3:症状の変動に関連した痛み | |
| 4. Does the patient experience dyskinetic pain? (pain related to abnormal involuntary movements) | 4. 患者さんはジスキネジアに関連した痛みがありますか?(異常な不随意運動に関連した痛み) | |
| 5. Does the patient experience “off” period dystonia in a specific region? (in the area of dystonia) | 5. 患者さんは特定の部位にオフ時のジストニアに伴う痛みがありますか? | |
| 6. Does the patient experience generalised “off”period pain? (pain in whole body or areas distant to dystonia) | 6. 患者さんはオフ時に全身の痛みがありますか?(全身の痛みもしくはジストニアとは離れた部位の痛み) | |
| Domain 4: Nocturnal Pain | 領域4:夜間の痛み | |
| 7. Does the patient experience pain related to jerking leg movements during the night (PLM) or an unpleasant burning sensation in the legs which improves with movement (RLS)? | 7. 患者さんは夜間に生じる下肢のけいれん様運動による痛み(周期性四肢運動)もしくは動作によって改善する下肢の不快な灼熱感(レストレスレッグズ症候群)による痛みがありますか? | |
| 8. Does the patient experience pain related to difficulty turning in bed at night? | 8. 患者さんは夜間にベッドで寝がえりをうつことを難しくさせるような痛みがありますか? | |
| Domain 5: Oro-facial Pain | 領域5:口腔顔面の痛み | |
| 9. Does the patient experience pain when chewing? | 9. 患者さんは噛む時の痛みがありますか? | |
| 10. Does the patient have pain due to grinding his/her teeth during the night? | 10. 患者さんは夜間の歯ぎしりによる痛みがありますか? | |
| 11. Does the patient have burning mouth syndrome? | 11. 患者さんは口腔灼熱症候群がありますか? | |
| Domain 6: Discolouration; Oedema/swelling | 領域6:変色;浮腫/腫脹 | |
| 12. Does the patient experience a burning pain in his/her limbs? (often associated with swelling or dopaminergic treatment) | 12. 患者さんは手足に灼けつくような痛みがありますか?(しばしば腫脹やドパミン系治療に関連する) | |
| 13. Does the patient experience generalised lower abdominal pain? | 13. 患者さんは下腹部全体的に痛みがありますか? | |
| Domain 7: Radicular Pain | 領域7:神経根の痛み | |
| 14. Does the patient experience a shooting pain/pins and needles down the limbs? | 14. 患者さんは手足に放散する痛み/ピリピリした痛みがありますか? | |
英語の原作版と日本語版原案の対比表をTable 2に示し,検討した主な内容を下記に示す.前文としてスケールの説明の後,この1ヶ月間に痛みを経験した場合は「はい」にチェックし,この1ヶ月間に痛みを経験していない場合は「いいえ」にチェックすることを表記しており,そのまま翻訳した.
| 前文 | ||
|---|---|---|
| PAIN IN PARKINSON’S | パーキンソン病の痛み | |
| The movement symptoms of Parkinson’s are well known. However, other problems like pain can occur as part of the condition or its treatment. It is important that the doctor knows about the specific type of your pain, particularly if it is troublesome for you. | パーキンソン病の運動症状は良く知られています.しかし,痛みのような運動症状以外の問題は病状もしくは治療の一環として起こることがあります.医師があなたの痛みの特有のタイプを知ることは,特にそれがあなたにとって不快な場合に重要です. | |
| Several types of pain are listed below. Please: | いくつかのタイプの痛みが以下に記載されています. | |
| ・Tick the box “Yes” if you have experienced this particular type of pain during the past month. | ・もしあなたがこの1ヶ月間に特有のタイプの痛みを経験した場合は「はい」にチェックして下さい. | |
| ・If you have not experienced the type of pain in the past month tick the “No” box. | ・もしあなたがこの1ヶ月間に痛みを経験していない場合は「いいえ」にチェックして下さい. | |
| ・The doctor or nurse may ask you some additional questions to help you decide. | ・医師や看護師があなたの判断を助けるために追加の質問をするかもしれません. | |
| Please note that this questionnaire only relates to the pain you experienced in the last 30 days. | この質問票はあなたが最近30日間に経験した痛みだけに関係していることに注意してください. | |
| 質問 | ||
| 1. Pain around the joints (including pain related to arthritis) | 1. 関節周囲の痛み(関節炎に関連した痛みを含む) | |
| 2. Pain related to a specific internal organ (for example, pain around the liver, stomach or bowels) | 2. 特定の内臓に関係した痛み(例えば,肝臓,胃もしくは腸周囲の痛み) | |
| 3. Generalised non-specific pain in your stomach area | 3. 胃部に広がる痛み | |
| 4. Non-specific pain deep within the body: a generalised constant, dull, aching pain | 4. 体の奥の痛み:全体的に持続的で,鈍くうずくような痛み | |
| 5. Pain related to abnormal involuntary movements (dyskinetic pain) | 5. 異常な不随意運動に伴う痛み(ジスキネジアに関連した痛み) | |
| 6. Painful muscle cramps in a specific region during “off” periods (when your medication is not working) | 6. オフ時(薬が効いていない時間)の身体の特定の部位の痛みを伴った筋けいれん | |
| 7. Generalised pain during “off” periods (pain in the whole body or areas that are not affected by muscle cramps). | 7. オフ時の全身の痛み(全身の痛みもしくは筋けいれんに影響されていない部位の痛み) | |
| 8. Pain related to jerking leg movements during the night or an unpleasant burning sensation in the legs which improves with movement (restless legs syndrome) | 8. 夜間に生じる下肢のけいれん様運動による痛み,もしくは動作によって改善する下肢の不快な灼熱感(レストレスレッグズ症候群)による痛み | |
| 9. Pain related to difficulties when turning in bed at night | 9. 夜間にベッドで寝がえりをうつことを難しくさせるような痛み | |
| 10. Pain when chewing | 10. 噛む時の痛み | |
| 11. Pain related to grinding teeth during the night | 11. 夜間の歯ぎしりに関連した痛み | |
| 12. Burning sensation in your mouth | 12. 口の中の灼熱感 | |
| 13. Burning pain in the limbs (often associated with swelling or medication) | 13. 手足の灼けつくような痛み(しばしば腫れや薬物治療に関連する) | |
| 14. Shooting pain/pins and needles down the limbs | 14. 手足に放散する痛み/ピリピリした痛み | |
項目3の“Generalized non-specific pain in your stomach area”はgeneralized non-specific painの翻訳に苦慮し,「なんともいえない痛み」や「非特異的な痛み」とする案もあったが,順翻訳者らと協議し,患者が理解しやすいよう単に「痛み」と表現することとした.質問は「胃部に広がる痛み」と明記し,逆翻訳は“Pain spread to the stomach”とし,原作者に許可を得た.項目7の“Generalized pain during “off” periods”は「オフ時の全体的な痛み」と「オフ時の全身の痛み」の翻訳候補が挙げられたが,KPPSの項目6と同様に「オフ時の全身の痛み」と明記した.項目12の“Burning sensation in your mouth”は「口の中の灼熱感」と明記した.その他項目8はKPPSの項目7,項目9は項目8,項目10はKPPSの項目9,項目11はKPPSの項目10,項目13はKPPSの項目12,項目14はKPPSの項目14に対応しており同様に翻訳した.
3. 患者調査疼痛を有するPD患者10名に患者調査を行った.患者は男性1名,女性9名で,平均年齢61.5歳(47~73歳),平均罹病期間は9.4年(最短2年,最長20年),平均Hoehn-Yahrの重症度分類は2.9 ± 0.6であった.患者ベースの質問票であるKPPQを中心に,指摘を受けた問題点を以下に示す(Table 3).
| 指摘された日本語版原案の問題点 | 人数 |
|---|---|
| 「灼熱感」の言葉の意味が分からない | 5人 |
| 「ジスキネジア」の言葉の意味が分からない | 4人 |
| 「筋けいれん」の言葉の意味が分からない | 4人 |
| 「レストレスレッグズ症候群」の言葉の意味が分からない | 3人 |
| 「薬物治療に関連する」の意味が分からない | 3人 |
| 「灼けつくような痛み」がイメージできない | 2人 |
| 「放散する痛み」がどのような痛みか分からない | 2人 |
| 腰痛がどこに該当するのか分からない | 2人 |
| 「肝臓」や「胃」の場所が分からない | 1人 |
| 「肝臓,胃もしくは腸周囲の痛み」の表現が分かりづらい | 1人 |
| 「胃部に広がる痛み」が分からない | 1人 |
| 項目2と3の2つに「胃」の記載があり違いが分からない | 1人 |
| 「下腹部」がどこか分からない | 1人 |
| 難しい言葉には注釈を付けた方が良い | 1人 |
| 頭痛に関する項目を追加した方が良い | 1人 |
項目2の「肝臓,胃もしくは腸周囲の痛み」は肝臓の部位が分からない,表現が分かりづらいとの意見があり,「胃もしくは腸の痛み」に変更した.項目3の「胃部に広がる痛み」は胃部がどこを指すか分からない,項目2にも胃の記載があり違いが分かりづらい,との意見があり,原文の“Generalized non-specific pain in your stomach area”の順翻訳を再検討し,「部位が特定できない腹部の痛み」に変更した.項目4の「体の奥の痛み」は表現が分かりづらいとの指摘があり,原文の“Non-specific pain deep within the body”の順翻訳を再検討し,「部位が特定できない体の奥の痛み」に変更した.項目5の「ジスキネジア」の言葉の意味が分からないとの意見が多く,「※ジスキネジア:薬の副作用で,体や手足が勝手に不規則に動くこと.」という注釈を最後に追記した.項目6,項目7に使用されている「筋けいれん」の言葉の意味や読み方が分からないと回答した者が4人おり,「筋肉のけいれん」に変更した.また項目6の「身体の特定の部位の痛み」の表現が分かりづらいとの指摘があり,単に「痛み」と表現することとした.項目8に使用されている「レストレスレッグズ症候群」の言葉の意味が分からないと回答した者が3人おり,より馴染みのある「むずむず脚症候群」に変更した.項目9の「夜間にベッドで寝がえりをうつことを難しくさせるような痛み」の表現が分かりづらいとの指摘があり,「夜間にベッドで寝がえりをうつのが難しいことによる痛み」に変更した.項目12の「口の中の灼熱感」については,「灼熱感」が分からないと回答した者が5人おり,「灼けるような感覚」に変更した.項目13の「手足の灼けつくような痛み(しばしば腫れや薬物治療に関連する)」については,「灼けつくような痛み」がイメージできないと回答した者が2人,「薬物治療に関連する」の意味が分からないと回答した者が3人おり,「手足の灼けるような痛み(しばしば腫れや薬物治療によるむくみに関連する)」に変更した.項目14の「放散する痛み」がどのような痛みか分からないと回答した者が2人おり,「走るような痛み」に変更した.その他腰痛がどこに当てはまるのか分からないと回答した者が2人おり,原作者に確認し,項目1に追記した.また頭痛に関する質問があった方が良い,と回答した者が1人いた.
KPPSは評価者ベースのスケールであるため,医学用語の使用は問題ないと判断し,大きな改定は行わなかった.変更した点として,KPPQと同様に項目1に腰痛を追記した.項目6の「患者さんはオフ時に全身の痛みがありますか?(全身の痛みもしくはジストニアとは離れた部位の痛み)」は「全身の痛み」が重複して分かりづらいため,「患者さんはオフ時に全身の痛みがありますか?(ジストニアとは離れた部位の痛み)」に変更した.項目8の「夜間にベッドで寝がえりをうつことを難しくさせるような痛み」はKPPQの項目9に合わせて「夜間にベッドで寝がえりをうつのが難しいことによる痛み」に変更した.項目12の「手足の灼けつくような痛み」はKPPQの項目13に合わせて「手足の灼けるような痛み」に変更した.
全体として,質問票の長さや分量は適切である,疼痛に関する質問票はあった方が良いと思うという意見が多く聞かれた.また質問内容に関して,不適切と感じたものや,恥ずかしいもしくは当惑したといった意見はなかった.以上の検討を踏まえて日本語版原案最終版を作成した.
4. KPPS/KPPQの日本語版の確定日本語版原案最終版の逆翻訳版は原作者らにレビューされ,許可を得た.以上によりKPPS/KPPQの日本語版を確定した(Appendix 1, 2).
疼痛はPD患者に合併する頻度の高い非運動症状の一つであり,的確に評価することは治療方針を決める上で重要な情報となる.KPPS/KPPQはPD患者の有する様々な種類の疼痛を評価することに優れており,信頼性が高く有効なスケールである7)8)11).KPPSは14項目の質問に対し,評価者が重症度と頻度をスコア化して記載する.評価者ベースのスケールであるKPPSに対し,KPPQは患者ベースの質問票であり,KPPSと対応した14項目の質問に“Yes”“No”で答え記載する.KPPSは疼痛を,1. Musculoskeletal pain,2. Chronic pain,3. Fluctuation-related pain,4. Nocturnal pain,5. Oro-facial pain,6. Discoloration, edema/swelling,7. Radicular painの七つに分類している.KPPS/KPPQにより,PDに伴う疼痛を分類し評価することが可能となり,またスコア化することで治療前後の比較や時系列での評価においても有用である.
本研究で我々は,KPPS/KPPQの言語的妥当性を担保した日本語版を作成した.日本語版の作成にあたり,原作版との整合性を維持しながらも,文化的背景や言語的な違いを考慮し,文言を整える必要がある.そのため,順翻訳,逆翻訳,日本語版原案の作成,患者事前調査,日本語版の作成といった手順を踏み,その過程で原作者に適宜確認と承認を得た.これらの一貫した作業により,原作版とほぼ同じ概念を示す,言語的に妥当な日本語版のKPPS/KPPQが完成した.またPD患者10人に患者調査を行ったことで,日本人患者に受け入れられやすい表現に整えられたものと考える.患者調査において多く聞かれた意見として「ジスキネジア」「筋けいれん」「レストレスレッグズ症候群」「灼熱感」といった医学用語や「灼けつくような痛み」といった表現が,難しいというものであった.これらに関してはより分かりやすい言葉に変換し,さらにジスキネジアに関しては注釈をつけた.単に翻訳するだけでは患者にとっては答えづらい質問票であり,患者調査の工程を経ることで,実用的なものにすることができたと考える.その他注目した意見として,頭痛の項目を追加した方が良いとの意見があった.PDと頭痛に関してはPD発症前の緊張型頭痛12)や片頭痛13)がPDの発症リスクに関与しているとする報告があるが,PD患者の頭痛の有病率は健常群と比較し低いとする報告14)がある.したがって頭痛をPDに関連した疼痛として分類するのは現在のところは難しいだろう.またKPPSはそれぞれの項目に関し頻度と重症度を判定するが,患者からは,頻度ははっきり覚えておらず,内容をある程度予告して次回受診時であれば,正確に答えることができたとの意見があった.評価を急がない場合には,予告してから一ヶ月後に評価を行うという手順も適切であると考えられる.質問票の分量や内容は適切であるという意見がほとんどであり,質問票はなくて良いとする意見はなく,PD患者の疼痛に関する評価として本質問票は十分に意義がある.
今回の検討の限界として,文化的背景の違いは質問票の翻訳過程に影響を与える可能性がある.しかし,複数の患者の意見を集約することにより,ある程度影響を取り除くことが可能であった.また質問票の翻訳過程で言語の違いによるニュアンスのずれを克服するためにわかりにくい表現を使わざるを得ないことがある.しかし,原著の作成者や患者と連携をとることで,可能な限り使いやすい調査票になったと考える.ただし,この日本語版がPD患者の疼痛評価に妥当なスケールであるかについては,さらなる検討が必要である.言語的妥当性に関しては今回の研究で担保されたものと考えるが,スケールの信頼性を検証する必要がある.現在当院主導の多施設合同研究において,日本語版のKPPS/KPPQと多数のスケールを測定しその信頼性を検討する,validation studyをすすめている.これらの検討結果を踏まえて,KPPS/KPPQ日本語版の臨床的な有用性が確立されるものと考える.
※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.