Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
Print ISSN : 0009-918X
ISSN-L : 0009-918X
Brief Clinical Notes
Wernicke encephalopathy with lesions in the bilateral abducens nuclei: a case report
Daisuke KuzumeYuko MorimotoMasahiro YamasakiNaohisa Hosomi
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 62 Issue 11 Pages 869-872

Details
要旨

35歳男性.アルコール依存症の加療歴あり.来院する2週間前よりふらつき,その後複視を認めたため当院を受診した.神経学的所見では両側外転神経麻痺,四肢腱反射低下,体幹失調あり.生化学検査ではビタミンB1 16 mg/dlと低値であった.頭部MRI FLAIRでは両側外転神経核,視床内側,乳頭体に病変を認め,Wernicke脳症(Wernicke encephalopathy,以下WEと略記)と診断した.入院当日よりフルスルチアミンによる点滴治療を開始し,神経症状と頭部MRI画像所見は改善した.入院第10病日に当科を退院した.WEの早期診断及び治療のために非典型的なMRI画像所見を把握する必要がある.

Abstract

A 35-year-old Japanese man had been treated for alcoholism until 6 months before coming to our hospital, after which he discontinued treatment for alcoholism. He noticed dizziness from two weeks ago. He visited our hospital because his dizziness was worsened and he noticed diplopia from two days ago. Physical examination revealed bilateral abducens nerve palsy, decreased limb tendon reflex, and ataxia. His blood vitamin B1 level was 16 ng/ml (normal range 24–66 ng/ml). FLAIR images on brain MRI showed high signal intensity lesions in the bilateral abducens nuclei and mammillary body. We diagnosed him as Wernicke encephalopathy (WE) with lesions in the bilateral abducens nuclei. Treatment with thiamine rapidly resulted in improvement of his neurological symptoms and MRI findings. He was discharged from our department on the 10th hospitalization day. Previous reports have shown that abducens nerve palsy and horizontal gaze evoked nystagmus may occur in the early state of WE. This case report highlights the importance to comprehend the atypical MRI findings of WE to treat a patient at the early stage.

はじめに

ビタミンB1欠乏によってWernicke脳症(Wernicke encephalopathy,以下WEと略記)を引き起こすことが知られている.意識障害,外眼筋麻痺,歩行障害の「古典的三徴」が特徴であるが,この「古典的三徴」を呈する割合は16~38%とされている1.WEにおける頭部MRI画像所見として,視床,乳頭体,中脳水道に左右対称な病変を認めることが多いが,非典型的な病変として小脳半球,小脳虫部,脳神経核,赤核,歯状核,尾状核,脳梁膨大部及び大脳皮質に病変を認めることがある1

我々は両側外転神経核に病変を認めたアルコール性WEを経験したので報告する.

症例

症例:35歳男性

主訴:複視,ふらつき

既往歴:特記事項なし.

現病歴:当院来院する6ヶ月前までアルコール依存症で加療されていたが,その後自己中断した.これ以降,缶酎ハイ500 ml × 6~8本/日ぐらいの飲酒を続けていた.来院する2週間前よりふらつきを自覚するようになった.2日前よりふらつきが悪化し,複視を認めるようになったため,当院救急外来を受診した.

入院時現症:体温37.0°C,血圧122/85 mmHg,脈拍数99回/分・整,SpO2 98%(室内気).心肺腹部に異常はなく,両側下腿に浮腫は認めなかった.神経学的所見では意識清明,構音障害はなかった.正面視で両側眼球が内転し,左右を注視させると外転ができなかったが,その他の脳神経系に異常は認めなかった.四肢の腱反射の低下,体幹失調を認めるが,四肢の筋力低下やBabinski徴候はなく,感覚系や四肢に失調に異常は認めなかった.

入院時検査:生化学検査ではAST 89 U/l,ALT 65 U/l,γ-‍GTP 528 U/l,BNP 98 pg/ml(正常値 <18.4)と高値であるが,Na 134 mEq/l,K 3.2 mEq/l,Mg 1.5 mg/dl(正常値1.6~2.5),P 2.4 mg/dl(正常値2.7~4.6),ビタミンB1 16 mg/dl(正常値24~66)と低値であった.入院時経胸壁心エコーではleft ventricular ejection fraction(LVEF)は50%であった.頭部MRI拡散強調画像では両側外転神経核に高信号病変を認め(Fig. 1A),FLAIR画像では両側外転神経核,乳頭体に高信号病変を認めた(Fig. 1B, C).

Fig. 1 Diffusion-weighted image (DWI) and FLAIR images on brain MRI.

A: DWI showed high signal intensities in the bilateral abducens nuclei (arrows) (3 T; TR 4,000 ms, TE 79.5 ms, b = 1,000). B, C: FLAIR (3D spin echo sequences) showed high signal intensities in the bilateral abducens nuclei and mammillary bodies (arrows) at Hospitalized day 1(3 T; TR 6,302 ms, TE 104.342 ms, TI 1,792 ms). Slice thickness was 0.7 mm. D, E: FLAIR (3D spin echo sequences) showed no high signal intensities in the bilateral abducens nuclei and mammillary bodies at Hospitalized day 3 (3 T; TR 6,302 ms, TE 104.342 ms, TI 1,792 ms). Slice thickness was 0.7 mm.

入院経過:現病歴や画像所見よりWEと考えた.これに対して,入院当日よりフルスルチアミン1,500 mg/日による点滴治療を2日間開始した.入院第2病日には両側外転神経麻痺は消失した.入院第3病日からフルスルチアミン500 mg/日による点滴治療を3日間実施した.同日実施した頭部MRIでは両側外転神経核,乳頭体に認めていた高信号病変は消失した(Fig. 1D, E).入院第5病日には四肢腱反射は正常化した.入院第7病日に再検した経胸壁心エコー検査ではLVEF 64%に改善していた.軽度のふらつきを認めたが,入院第10病日に当科を退院した.今後はアルコール依存症に対する治療目的にて,近隣の精神科に外来診療する予定となった.

考察

WEにおける非典型的な頭部MRI画像所見として,小脳半球,小脳虫部,脳神経核,赤核,歯状核,尾状核,脳梁膨大部及び大脳皮質に病変を認めることがあり1,自験例は両側外転神経核に病変を認めたアルコール性WEの症例である.

自験例と同様に,脳神経核に病変を認めたWEの症例を表にまとめた(Table 11)~8.脳神経核に病変を認めた症例の多くは非アルコール性WEであり,脳神経核に病変を認めたアルコール性WEはHaらの症例7と自験例だけであった.WEにおける脳神経核病変は外転神経核(41.9%),顔面神経核(41.9%),前庭神経核(64.5%),舌咽神経核(32.3%)で認めた.自験例のように外転神経核に病変を認めたWEはZuccoli1,Bae2,Noll3らの症例だけであった.脳神経核病変を呈したWEの症例の予後だが,Zuccoliらの報告15,Haらの報告7,Cruzらの報告8では予後に関する記載がなかったので不明であった.Nolliらの報告3では意識障害が,我々の報告では軽度の体幹失調が後遺症として残存したが,その他の報告では後遺症なく回復していた.

Table 1  The lesions of central nerve nuclei in Wernicke encephalopathy.
Authors Number
of WE
Number
of AL
Number
of NA
Cranial nerve nuclei, n (%)
Abducens Facial Vestibular Glossopharyngeal Vagal Hypoglossal
Zuccoli1) 10 0 10 10 10 10
Bae2) 1 0 1 1 1 1
Nolli3) 1 0 1 1
Zuccoli4) 1 0 1 1 1
Zuccoli5) 2 0 2 2
Liu6) 9 0 9 5
Ha7) 5 1 4 5
Cruz8) 1 0 1 1 1
Our case 1 1 0 1
Total 31 2 29 13 (41.9%) 13 (41.9%) 13 (41.9%) 10 (32.3%) 2 (6.5%)

Abbreviation: WE = Wernicke encephalopathy, AL = Alcoholism, NA = Non-alcoholism.

WEにおいて視床内側や第3脳室周囲が障害されやすい要因として,これらの領域における細胞の浸透圧勾配の維持にチアミンが関与していると推測されている9.Zuccoliらは脳神経核においても細胞の浸透圧勾配の維持にチアミンが関与し,チアミン欠乏によって脳神経核に病変を呈したと推測しているが,非アルコール性WEにおいて脳神経核に病変が出現する理由は不明である4

Zuccoliらによると,アルコールによって血液脳関門の透過性が亢進するので,造影効果を示す視床や乳頭体病変はアルコール性WEの特徴的所見であり,脳神経核病変は非アルコール性WEの典型的所見であるとも述べている1.しかしこれに関しては,自験例やHaらの症例7においてアルコール性WEでも脳神経核病変が示されており,Zuccoliらの説は一概に正しいとは言えない.またアルコール性WEであっても視床や乳頭体,中脳水道に病変がなく,小脳歯状核,オリーブ核,橋背側に病変を示したLiouらの症例もある10.これらを踏まえると,脳神経核病変が非アルコール性WEの典型的な病変かどうかに関しては,多数の症例を集積して検討を行う必要があると思われた.

結語

両側外転神経核に病変を認めたアルコール性WEの1例を経験した.ビタミンB1補充により神経学的所見は速やかに改善した.アルコール性WEでMRI上に脳神経核病変を認めることに留意しつつ,WEの早期診断及び治療のために非典型的なMRI画像所見を把握する必要がある.

Notes

本論文の要旨は,第125回日本内科学会四国地方会で(2022年6月5日,徳島)で発表した.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2022 Japanese Society of Neurology

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/deed.ja
feedback
Top