Rinsho Shinkeigaku
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Review
Comorbidity in migraine
Hisao Tachibana
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2022 Volume 62 Issue 2 Pages 105-111

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要旨

片頭痛は遺伝的基盤を持つ頻度の高い疾患であり,しばしば生活に支障をもたらす.片頭痛には多くの共存症が報告されており,それらは慢性片頭痛へと進展する危険因子とされている.共存疾患の各々は独自の遺伝的荷重を有し,片頭痛といくつかの共通する特徴を有している.片頭痛共存症の同定は疾患間に共通する遺伝学的や生物学的機序を明らかにする助けとなる可能性がある.片頭痛患者の治療には多面的アプローチが必要であり,リスク因子や共存因子を同定し,減少させることを目指さなければならない.このアプローチは片頭痛の慢性化への進展を阻止し,さらに薬物に対する治療抵抗性を回避することになる.

Abstract

Migraine is a common and often disabling disease with a prominent genetic basis. There are many comorbidities associated with migraine which have been identified as risk factors for progression to chronic migraine. Each of these has its own genetic load and shares some common characteristics with migraine. The identification of migraine comorbidities may help clarify common underlying genetic and biological mechanisms of diseases. The treatment of migraine should involve a multifaceted approach, aimed at identifying and reducing possible risk and comorbidity factors. This may prevent the evolution toward a chronic form and then toward pharmacological resistance.

はじめに

片頭痛は有病率の高い疾患であり,ほかの有病率の高い疾患と共存していることも少なくない.共存症と片頭痛の関係は偶発的な共存,共存症が片頭痛を起こす,あるいは片頭痛が共存症を起こす(一方向性),共通のリスク要因(遺伝子的あるいは環境的)により,片頭痛および共存症が起こる(双方向性),などが考えられる.片頭痛共存症を同定することは重要で,両疾患に共通のあるいは合併する基盤にある遺伝学的あるいは生物学的機序を明らかにする助けとなる可能性がある.また,共存症は治療選択にも影響をおよぼす.例えば共存症が心血管疾患の場合トリプタン使用を制限しなければならないというように相互に影響を及ぼさない治療薬を選択しなければならない.さらに,共存症は薬剤使用過多による頭痛(medication-overuse headache,以下MOHと略記)や慢性片頭痛(chronic migraine,以下CMと略記)の危険因子となることが示されている‍1)~3.以上のごとく片頭痛の共存症を理解することは片頭痛の病因,病態や治療を考える上で重要である.本稿では片頭痛の共存症として報告されている疾患を検索し,最近の文献を中心として,片頭痛と共存症との関連を考察する.

片頭痛共存症の種類

Buseら‍4は片頭痛患者15,133名と非片頭痛患者77,453名に対し,あらかじめ提示された21疾患や病態について有しているか否かを判定させた.その結果,特に不眠,うつ,不安症,胃潰瘍・消化管出血,末梢血管疾患,アレルギー,狭心症,てんかんが非片頭痛患者に比し,片頭痛患者で多く見られ(odds ratio: OR 2.0以上),頭痛の強度は共存症と関連し,さらに,頭痛頻度の増加は共存症がリスクになることが認められた.これらの疾患が片頭痛と双方向的な関係にあるのかは明らかではないが,共存症の存在により,頭痛頻度,程度に影響を与えるということは何らかの関係を示唆するものである.これまで心血管疾患,精神疾患,内分泌代謝疾患,神経疾患,睡眠障害,胃腸疾患,免疫疾患などで多くの共存症が報告されている‍5.また,米国のCaMEO研究‍3では共存症(呼吸器疾患,精神疾患,疼痛疾患,心血管性疾患)を有する患者を八つのグループに分け,反復性片頭痛(episodic migraine,以下EMと略記)からCMへの進展のリスクにつき検討した.その結果,ほとんどの共存症を有する患者はほとんど共存症を有さない患者に比し,ハザード比は5.34であり,呼吸器疾患(アレルギー,気管支炎,急性気管支炎,副鼻腔炎)を有する患者では1.53とCMに進展する率は有意に高かったことを報告している.

片頭痛共存症と片頭痛との関係

1. 脳・心血管障害

19年間のコホート研究では片頭痛は心筋梗塞,脳卒中(虚血性,出血性),静脈性血栓塞栓症,心房細動,心房粗動の危険因子であったとし,その関連は女性と前兆のある片頭痛(migraine with aura,以下MAと略記)患者で強かったと報告されている‍6.Table 1のごとく,メタ解析では虚血性脳卒中の相対リスクはMA,前兆のない片頭痛(migraine without aura: MO)ではそれぞれ1.56~2.51,1.02~1.83であり,特に45歳未満の女性,経口避妊薬服用中の女性では頻度が高い‍7)~11.片頭痛と脳出血との関連も示唆されているが,その関連を否定する報告もある‍12.心筋梗塞については片頭痛患者では心筋梗塞の相対危険度は1.12~1.23であった.片頭痛と心筋梗塞の間には関連があるが片頭痛自身が心疾患のリスクを増すのか,あるいは他の根本的な原因のマーカーであるのかは明かではない‍12.なお,共存症が心血管疾患の場合,トリプタン使用は控えなければならないが,lasmiditanは5-HT1F受容体作動薬であり,5-HT1B/1D受容体に作用するトリプタンに比較して血管収縮作用がないことから心血管系危険因子を有する片頭痛患者の急性期治療薬として期待されている‍13

Table 1  Relative risk (95% C.I.) between migraine and stroke or myocardial infarction in five meta-analyses.
Etminan et al‍7) Schürks et al‍8) Spector et al‍9) Hu et al‍10) Mahmoud et al‍11)
No of studies (total) 14 25 21 11 16
1. Ischemic stroke 2.16 (1.89–2.46) 1.73 (1.31–2.29) 2.04 (1.72–2.43) 1.64 (1.22–2.20) 1.29 (1.08–1.54)
 Women 2.08 (1.13–3.84) 1.38 (1.17–1.61)*
 Men 1.37 (0.89–2.11) 1.36 (1.10–1.69)*
 Women < 45 years 2.76 (2.17–3.52) 3.65 (2.21–6.04)
 Oral contraceptives 8.72 (5.05–15.05) 7.02(1.51–32.68)
Migraine with aura 2.27 (1.61–3.19) 2.16(1.53–3.03) 2.51 (1.52–4.14) 2.14 (1.33–3.43) 1.56 (1.30–1.87)*
 Oral contraceptives☆ 10.0(1.4–73.7)
Migraine without aura 1.83 (1.06–3.15) 1.23 (0.90–1.69) 1.29 (0.81–2.06) 1.02 (0.68–1.51) 1.11 (0.94–1.31)*
2. Hemorrhagic stroke 1.15 (0.85–1.56) 1.43 (1.03–1.99)
3. Myocardial infarction 1.12 (0.95–1.32) 1.23 (1.03–1.43)
 Women 1.44 (1.26–1.64)
 Men 1.03(0.63–1.70)

*Hemorrhagic and ischemic stroke. Two studies on ischemic stroke only ☆Oral contraceptives and smoke

虚血性脳卒中と片頭痛の病態生理学的関連は多様である(Table 2).血管内皮の長期的障害が片頭痛患者で血管障害を起こす原因になるとされる‍1415.炎症促進性あるいは凝固促進性状態が特に,MA,CM,閉経期前の女性で示されており,それによる一過性還流障害により脳梗塞を誘発する可能性がある‍16.また,エストロゲン髙値‍17や,血小板活性化‍18も血管障害を引き起こす要素となることも示唆されている.卵円孔開存(patent foramen ovale,以下PFOと略記)の存在により,奇異性塞栓を引き起こすことがある‍19.MA患者はPFOの頻度が高く,一方,片頭痛はPFOを有する人で頻度が高い.PFOの閉鎖が片頭痛発作を減少させたとの報告があるが,否定的な報告もある‍12.頸部動脈解離(cervical artery dissection: CeAD)も片頭痛と虚血性脳卒中に関連があり,二次性に片頭痛発作を引き起こす可能性があると報告されている‍20.また,両者には共通する遺伝子感受性の存在も報告されている‍21

Table 2  Potential underlying mechanism linking migraine to ischemic cerebrovascular disease.
1. Alterations in endothelial and arterial function
2. Hypercoagulable state
3. High estrogen state
4. Increased platelet aggregation
5. Patent foramen ovale (PFO)… paradoxical embolism
6. Cervical arterial dissection
7. Cortical spreading depression (CSD)
8. Impaired vasomotor reactivity
9. Energy failure
10. Susceptibility of the migraine brain to milder ischemic conditions
11. Shared genetic predisposition

皮質拡延性抑制(cortical spreading depression,以下CSDと略記)は脳皮質神経細胞に一過性脱分極が生じ,続発して電気的抑制状態が後頭葉から前方に拡がっていく現象であり,片頭痛前兆に関連する機序と考えられている‍22.CSDにより20~30%血流が低下するが正常状態では脳障害を起こすには不十分である.しかし,MAでは前兆の時期に脳血管反応性や自動調節能が障害されているとされており‍2324,虚血に対しより脆弱になっている可能性がある.ミトコンドリア障害(たとえばミトコンドリア病)と片頭痛が共存する場合,エネルギー不全状態が片頭痛発作の誘因となる可能性がある‍5.片頭痛脳のエネルギー脆弱性は虚血性障害に特に敏感である.従って特にMA患者における軽度の虚血状態でも脳梗塞に進展する可能性がある.片頭痛と脳卒中に共通する遺伝的感受性がゲノムワイド関連解析で報告されている‍2025.さらに,片頭痛と脳卒中を特徴とする遺伝性疾患(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy: CADASIL, Retinal vasculopathy with cerebral leukodystrophy: RVCL, mitochondrial encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episodes: MELAS)も遺伝的結びつけを示唆している.

片頭痛を持つ患者(小児でも)では深部あるいは脳室周囲の白質において,小さな点状の高信号域が存在すること‍26や,小脳や深部脳を含む脳梗塞様病変が報告されている‍2728.白質変化の出現については脳血管反応性の異常,血管内皮機能障害,心障害(PFOや心房中隔欠損症を含む)などとともに神経活性亢進,神経性炎症,代謝性機能障害も関与している可能性がある.一方,心血管系リスクを持つ片頭痛患者で白質変化のリスクが高いとの報告もあり,片頭痛以外の因子が白質病変の原因である可能性も示唆されている‍28

2. 内分泌代謝疾患

CM患者はEM患者や正常者よりインスリン抵抗性である‍29.インスリン受容体遺伝子の遺伝子多型は片頭痛と関連があると報告されており‍30,インスリン代謝に関連する代謝経路の改善が片頭痛予防に寄与するかもしれない.また,MA患者はメタボリック症候群のリスクが高く(OR = 3.45),メタボリック症候群はCM,MOH患者で有意に頻度が高い(OR = 12.68)‍31.肥満患者では片頭痛のリスクは27%増加するとされている(OR = 1.27)‍32.血漿アディポネクチン濃度がEM,CM患者で明らかに高く,このことは肥満と片頭痛の共存に炎症促進性メディエーターが関与していることを示唆する‍33.片頭痛と肥満の共存の場合片頭痛の予防に食事内容を検討するべきと考える.甲状腺機能低下症患者ではEM患者に対しCM患者で明らかに罹患率が高い‍34.片頭痛患者は甲状腺機能低下症を発症するリスクが41%増加すると報告されている‍35.以上のごとく両疾患は双方向性の関係にある.最近のメタ解析では子宮内膜症では片頭痛のリスクはOR 1.56と報告されている‍36.子宮内膜症の中では卵巣子宮内膜症と深部浸潤性子宮内膜症が有意に片頭痛患者で頻度が高い(対照群に比しOR = 2.78)‍37.この機序は不明であるが,最近のゲノムワイド関連解析で両者間に遺伝子的関連が報告されている‍38

3. てんかん

片頭痛患者ではてんかんの頻度は1~17%で一般人口の0.5~1%より高く,てんかん患者の片頭痛頻度はてんかんのない人より高い‍39.良性ローランドてんかん,後頭部に突発波を持つ小児良性後頭葉てんかんのような特異な小児てんかん症候群では片頭痛の頻度はより高い‍40.グルタミン,セロトニン,ドパミン,イオンチャンネル(Na,K,Cl)機能が両疾患で障害されている可能性がある‍5.また,両疾患共存には神経興奮の増加とCSDが関与している可能性もある.Huangら‍41は両者共存患者において内側毛帯と小脳脚の微小構造の変化を示し三叉神経,小脳変化がてんかん患者における片頭痛出現を説明するかもしれないと示唆している.てんかんに関連する頭痛としてmigralepsiaという言葉があるが,これはけいれん発作が片頭痛の前兆と同時または直後に起きるまれな現象を言い,ICHD-3では「片頭痛前兆により誘発されるけいれん発作」(1. 4. 4)とコード化されている‍42

4. 精神疾患(Table 3

片頭痛患者は精神症状を高い頻度で有し,片頭痛発作回数が増加するとともに増加する.14日以上片頭痛を有する患者は修正OR 6.4でうつと,OR 6.9で不安障害と共存している‍43.精神疾患の高い共存率はこれら疾患の病態生理に共通の機序のあることを示唆している.片頭痛発作時血中セロトニンは上昇し,発作間欠期には低下する.片頭痛患者もうつ患者も血中セロトニンレベルが変化する.また,うつを有するCMは髄液ガンマアミノ酪酸(GABA)レベルが低下している‍44.このようなことから神経伝達物質が共存に関与していることが示唆される.また,片頭痛患者では約10倍不安障害,特に全般性不安障害,やパニック障害と共存している‍45.片頭痛患者では海馬や視床の機能的変化は不安と関連していたと報告されている‍4647.片頭痛患者の55%が双極性障害,特にtype 2双極性障害(躁が軽度)患者に関連していているとされ‍45,一方,双極性障害の1/3は片頭痛を有する‍48.片頭痛と双極性障害を有する患者はカルシウム,カリウムチャンネル上の遺伝子変異を共有しており,このことがバルプロ酸のような抗てんかん薬に両者が反応することを説明すると考えられている‍49.また,CMと強迫神経症とも関連があるとされており,強迫神経症を有するCM患者では治療反応性が悪くなり,早期に再発の見られる率が高くなるとされている‍5051.Attention deficit hyperactivity disorder(ADHD)も片頭痛と関連があるとされ‍5253,両疾患が共存する機序については環境因子よりも複数の遺伝的要素が関与していると考えられている‍54.小児における本疾患共存は学業に影響を及ぼし,家族にとっても大きな負担となる.従って共存を早期に診断し,治療することが予後を改善する可能性を高くすることとなる.

Table 3  Psychiatric comorbidity
1. Depressive disorders
2. Bipolar disorders
3. Anxiety disorders
4. Obsessive-compulsive disorders
5. Post-traumatic stress disorders
6. Substance use disorders
7. Somatic symptom disorders
8. Attention deficit hyperactivity disorder (ADHD)

5. 睡眠関連疾患

睡眠障害と片頭痛共存の機序については片頭痛,睡眠とも視床下部,脳幹,視床-大脳皮質回路が関与し,オレキシン,セロトニン,ドパミンなどの神経伝達物質が重要な役割を持つと考えられる‍5.片頭痛と不眠の関連は双方向的であり,不眠はうつや不安症と共存しているので不眠の存在は片頭痛患者におけるうつや不安の有用な予測因子となる.片頭痛とむずむず脚症候群(restless legs syndrome,以下RLSと略記)の間にも関連が見られ‍55,特にMAではより強い傾向がある.最近の画像研究で黒質のドパミンニューロン異常,中前頭回の体積変化や,感覚運動・注意・辺縁系脳ネットワークの障害も片頭痛,RLSに共通してみられており‍56,この2病態が共通の病態生理学的な機序を有することが示唆されている.

6. 胃腸疾患(Table 4

片頭痛患者では胃腸疾患の頻度は極めて高く,Table 4のごとく,多くの疾患が共存症として報告されている.逆流症状,下痢,便秘,嘔気を有する患者はそれらを有さない人に比し,片頭痛の頻度が高い‍57.消化管通過の変動は片頭痛発作前,後ステージの自律神経症状の一部である.片頭痛患者の共存症は口腔から大腸までいろいろな臓器で見られる‍5.胃腸疾患と片頭痛共存の病態生理学的基盤については,腸と自律神経系との関与,炎症性サイトカインの生成,dysbiosisなどが関与している可能性がある‍5

Table 4  Gastrointestinal disorders
1. Periodontitis
2. Gastroesophageal reflux disease (GERD)
3. Epigastric pain syndrome
4. Postprandial distress syndrome
5. Helicobacter pylori infection
6. Hepatobiliary disorder
7. Non-alcoholic fatty live disease
8. Celiac disease
9. Irritable bowel syndrome
10. Inflammatory bowel disease—Crohn’s disease, ulcerative colitis
11. Constipation

7. 免疫疾患(Table 5

幾つかの免疫系の異常も片頭痛の病態生理に関連しているとされている‍5859.多発性硬化症(multiple sclerosis,以下MSと略記)では片頭痛は19.8~78%に見られると報告されている‍6061.メタ解析‍62では片頭痛とMSとの関連ORは2.60であり,多規模コホート研究では片頭痛の既往はMS進展のリスクを増加させたとしている.片頭痛を有するMSは若く,重症度が低い傾向にあるが,一方再発が多い.発作が頻回か,あるいは重度である患者の85%はMS増悪期に頭痛も増悪すると訴えている‍60.MS患者の片頭痛は疾患の症状進行と関連していたが生活重症度やMRI上のT2病変とは関連がなかったと報告されている‍60.シェーグレン症候群では炎症促進関連機序や脳の微小循環における血管内皮障害により頭痛とレーノー現象を発現させると考えられている‍63.気管支喘息と片頭痛の関連は特に女性で報告されており,気管支喘息は新規発症CMに対する危険因子と指摘されている‍64.血小板活性化因子の産生亢進や血管活性化ニューロペプチドの遊離も喘息や片頭痛の誘発に関連している‍65.両親が片頭痛の既往を有する場合喘息のリスクも高いことが示されており,遺伝的素因も否定できない‍66

Table 5  Immunological disorders
1. Multiple sclerosis
2. Systemic lupus erythematosus
3. Antiphospholipid syndrome
4. Primary Sjögren syndrome
5. Rheumatoid arthritis
6. Atopic disease—hay fever, rhinitis, dermatitis
7. Asthma

8. その他

疼痛症候群

片頭痛と月経不順を伴う慢性腰痛‍67,顎関節症‍68,線維筋痛症などの疾患との間に双方向性の関係があると報告されている.線維筋痛症は片頭痛特にCMと強く関係しており,片頭痛には線維筋痛症が高頻度(5~30%)に共存することが報告されている‍69.片頭痛患者において線維筋痛症を同定することは生活支障度が高く,QOLが低下している重症片頭痛患者を個別化し,治療するのに役立つと考えられる.

降雪視症候群

降雪時の風景やテレビ画面のホワイトノイズのようなものが全視野に見られるのに加えて,光過敏,視覚保族続,増強する眼内現象,夜間視力障害などが合併する症候群である.片頭痛の視覚前兆とは別の現象であるが片頭痛に関連する病態として注目されている.PET研究で右側舌状回の糖代謝が亢進し,左側頭回と左下頭頂小葉では代謝低下していることが示され‍70,またSPECTにて後頭葉~下側頭回の血流低下が示され‍71,本症候群における視覚連合野の役割を示唆している.視覚連合野の機能亢進は片頭痛における光過敏に直接関連するとされている領域に類似していることから二つの病態生理に重なる点があることが示唆されている‍72

メニエール病(Meniere’s disease,以下MDと略記)

MDの51%は片頭痛を有し‍73,45%の患者は発作時片頭痛症状を経験している‍74.また,両者には家族性集積があることも両者の関連を支持している.Sarnaら‍75はMDが蝸牛と前庭において片頭痛関連変化として生ずる蝸牛前庭性片頭痛の臨床症状であるとの仮説を立てている.すなわち,内リンパ水腫内耳はホメオスタシスを維持する能力が障害され,頻回の頭痛発作により誘発された変化に対し自動調節することが困難となっている.そのため,最終的にMDを発症するとするものである.ホメオスタシスの乱れに対する脆弱性がMDと片頭痛の共通する誘発因子となるとしている.

終わりに

片頭痛は多くの病態と共存しており,両者の関係は多くは双方向的である.機序については遺伝子という変更不可因子とともに,情緒の制御障害,覚醒睡眠リズムの変化,体重を増加させる可能性のある不適切な食事,ホルモンのアンバランス,筋骨格系変化,異常な仕事のリズム,物質乱用などの変更可能な因子も重要な役割を持っている可能性がある.そのため片頭痛の治療にあたっては常に多面的アプローチを考えなければならない.すなわちリスクとなりうる因子,共存症を同定し,できるだけ早く,片頭痛が発作性であるうちに管理する必要がある.このようなアプローチは発作や予防に対する薬剤反応性に良い影響を与えるばかりではなく,個々の患者により治療をテーラーメイド化することが期待できる.

Notes

※著者に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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