Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Evaluation of cerebral hemodynamics using arterial spin labeling perfusion MR imaging in a patient with cervical internal carotid artery vasospasm
Takao MoritaShoji ArihiroYuichiro TsurusakiShota SakaiSei Haga
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2022 Volume 62 Issue 3 Pages 178-183

Details
要旨

症例は57歳女性.脳梗塞後遺症である左片麻痺が増悪し入院した.頸動脈超音波で右内頸動脈(internal carotid artery,以下ICAと略記)は細径化し,頭部MRAでは右ICAは描出されず,arterial spin labeling(ASL)では早期相で両側ICA領域の信号は低下していた.翌日には症状は改善し,第3病日の頭部MRAでは両側ICAは良好に描出されASLも正常化していた.頸部MRAや脳血管造影の所見から頸部内頸動脈攣縮症と診断した.3ヶ月後に再発をきたし,ASLは攣縮時およびその回復過程における血行動態の経時的評価に有用であった.

Abstract

57-year-old woman with sequelae of cerebral infarction was admitted to our hospital because her left-sided hemiparesis was worsened. The right internal carotid artery (ICA) was not visualized by carotid duplex sonography and brain MRA. Arterial spin labeling (ASL) perfusion MR images showed reduced signals in the bilateral ICA territories at post labeling delay 1,525 ms. Her neurological symptoms improved on the day after hospitalization. On day 3, the bilateral ICAs were well visualized on MRA, while cerebral perfusion in the ICA territories appeared to be normalized on ASL. We diagnosed cervical ICA vasospasm, based on the findings of cervical MRA and cerebral angiography. Three months later, the recurrence of ICA vasospasm occurred. ASL was useful for the serial non-invasive evaluation of cerebral hemodynamics from the onset to improvement in a patient with ICA vasospasm.

はじめに

頸部内頸動脈攣縮症は若年発症で繰り返すことが多く,冠攣縮性狭心症の合併や喫煙との関連が指摘されており‍1)~4,その病態機序として交感神経説が有力視されている‍5.頸部内頸動脈攣縮症は軽症例の報告が多い中で,両側内頸動脈領域に広範梗塞をきたした重症例も報告されている‍6.一方,攣縮の持続時間が数時間から数日と短いことから脳血流に関連する報告は少ない‍7)~10.今回,arterial spin labeling(ASL)法による頭部MR灌流画像を用いて,頸部内頸動脈攣縮症における脳血流評価を行った症例を経験したので報告する.

症例

症例:57歳,女性

主訴:左半身の脱力,左足の疼痛

既往歴:40歳時に右放線冠の脳梗塞を発症し,左不全片麻痺が後遺していた.

内服薬:クロピドグレル75 mg/日,イフェンプロジル60 mg/‍日.

喫煙歴:10本/日,同居する夫も喫煙者(20本/日).飲酒歴:なし.

家族歴:脳血管障害,片頭痛,心臓病を含めて特記すべきことはない.

現病歴:46歳時に左半身の脱力を症状とする10時間の一過性脳虚血発作があり,以降も数時間で改善する左半身の脱力を繰り返していたが,意識減損や痙攣を伴うことはなく,医療機関を受診していなかった.2020年5月某日(第1病日)の起床時より後遺症の左片麻痺が増悪し転倒した.左足の疼痛のため同日19時に当院に搬送された.

来院時現症:身長155 cm,体重48 kg,血圧180/130 mmHg,脈拍90回/分・整,体温36.9°C.理学所見では,左足関節は内旋変形し,内外果に腫脹を認めた.神経学的には,意識は清明で高次脳機能障害はなく,運動系では左下部顔面麻痺と構音障害,徒手筋力テスト(MMT)で左上肢3/5,左下肢4/5と低下していた.左Babinski徴候は陽性であった.その他の脳神経,感覚,協調運動,反射,自律神経に異常はなく,NIHSS 4点と評価した.

検査所見:血液検査では白血球数10,800/μl(基準値3,300~8,600/μl)と軽度高値であり,CRPは正常範囲内であった.凝固系ではPT-INR,APTTは正常範囲内ながらD-dimer 2.04 μg/ml(基準値 <1.0 μg/ml)と軽度高値であった.生化学検査では肝・腎機能障害はなく,耐糖能異常,脂質異常症,甲状腺機能異常もなかった.Protein C/S欠損はなく,抗核抗体や抗リン脂質抗体,抗ds-DNA抗体,抗SS-A/B抗体は陰性で,ANCA,可溶性IL-2レセプター抗体,腫瘍マーカーも正常範囲内であった.左足関節のX線およびCTで骨折を認めた.頸動脈超音波検査では右内頸動脈(internal carotid artery,以下ICAと略記)は近位部から細径化し血流信号を認めず,両側頸動脈にプラークはなかった(Fig. 1).頭部MR拡散強調画像(DWI)で高信号域はなく(Fig. 2A),FLAIRでは右放線冠の陳旧性脳梗塞があり,両側中大脳動脈(middle cerebral artery,以下MCAと略記)末梢にhyperintense vessel signを認めた.頭部MRA(time-of-flight法)では右ICAの描出はなく,左ICAはやや淡く描出されていた(Fig. 2B).ASL(Signa HDxt 3.0T; GE healthcare, pseudo continuous ASL法)のpost labeling delay(PLD)1,525 msec(1.5 s)では両側ICA領域の信号は低下しており(Fig. 2C),PLD 2,525 msec(2.5 s)でも両側ICA領域の信号はわずかに低下していた(Fig. 2D).

Fig. 1 Carotid ultrasound examinations on day 1 in the initial hospitalization.

Right ICA was tapered in the proximal region (A), and no blood flow signal was found (B, C). Right ECA blood flow pattern changed to that of ICA (D).

Abbreviation: ICA = internal carotid artery, ECA = external carotid artery.

Fig. 2 Brain MR images on day 1 and day 3 in the initial hospitalization.

DWI showed no high intensity lesions (A). Right ICA and MCA were absent on MRA (B). Perfusion signals in the bilateral ICA territories reduced on ASL at PLD 1,525 ms (3.0 T, TR: 4,718 ms, TE 13.9 ms) (C), and remained slightly reduced even on ASL at PLD 2,525 ms (3.0 T, TR 5,423 ms, TE 13.9 ms) (D). These findings were acquired on day 1. On day 3, DWI revealed a spotty high intensity lesion in the right basal ganglia (red arrow, E), while MRA showed no abnormalities (F). Perfusion signals had also recovered on ASL at PLD 1,525 ms (G) and 2,525 ms (H).

Abbreviation: DWI = diffusion weighted image, ICA = internal carotid artery, MCA = middle cerebral artery, ASL = arterial spin labeling, PLD = post labeling delay, ms = milliseconds, T = tesla, TE = echo time, TR = repetition time.

臨床経過:後遺症である左片麻痺が増悪しており,頭部MRIでは新たな脳梗塞は確認されなかったが,頸動脈超音波および頭部MRA所見から右ICA閉塞による脳虚血症状と判断した.服用中のクロピドグレルに加え,アテローム血栓性脳梗塞に準じてアルガトロバン点滴,アスピリン内服を行った.第2病日には左片麻痺は後遺症相当まで回復したが,第3病日のDWIでは右基底核に小梗塞が確認された(Fig. 2E).頭部MRAでは右ICAを含め良好に描出されており(Fig. 2F),ASLでは両側ICA領域の信号は正常化していた(Fig. 2G, H).第5病日の頸部MRAで両側頸部ICAに短区間の狭窄が疑われ,第6病日の脳血管造影では同部位は壁不整の所見であった(Fig. 3A).第33病日の頸部MRAでは両側頸部ICAに狭窄は確認されなかった(Fig. 3B).以上の経過から頸部内頸動脈攣縮症と診断し,シロスタゾールとベラパミルによる二次予防ならびに攣縮の誘因となりうるため禁煙指導を行った.左片麻痺は増悪なく経過し,第39病日に左足関節骨折に対するリハビリテーション目的に転院した.

Fig. 3 Cervical ICA images in the lateral views.

Digital subtraction angiography showed mild stenosis in the bilateral cervical ICAs on day 6 (A). On day 33, these stenoses became inconspicuous on MRA (B). MRA showed the left cervical ICA nearly occluded at the previously stenotic portion, on day 2 in the second hospitalization (C). On CTA performed at 2 hours after MRA, the left cervical ICA was severely stenosed (D).

Abbreviation: ICA = internal carotid artery.

〈2回目の入院〉

主訴:左半身の脱力.

現病歴:2ヶ月間のリハビリテーション中も左片麻痺の増悪はなかった.自宅退院から16日後の8月某日11時頃から左半身の脱力感が出現し,同日19時に当院を受診した.

来院時現症:血圧137/113 mmHg,脈拍105/分・整,体温38.0°C,SpO2 98%(room air).左上下肢にMMT 4/5の筋力低下があり,NIHSS 2点と評価した.

検査所見:血液検査では炎症所見はなく,体幹部CTでは発熱源となる異常所見もなかった.頭部MRIでは脳梗塞の出現はなく,頭部MRAでは右ICAは眼動脈分岐部までは描出不良で,その末梢は淡く描出されていた(Fig. 4C).前回退院時の頭部MRA(Fig. 4A)と比較して左ICAの描出も淡かった.PLD 1.5 sでは,前回入院時所見と同様に,両側ICA領域の信号は低下し(Fig. 4D),PLD 2.5 sでもわずかに低下していた.

Fig. 4 Serial evaluations on MRA and ASL-MRI at PLD 1,525 ms.

Final MRA and ASL at PLD 1,525 ms in the first hospitalization showed no abnormalities (A, B). On day 1 in the second hospitalization, MRA showed poor visualization of the right ICA and MCA, and left MCA branches (C), while ASL showed reduced signals in the bilateral ICA territories (D). On day 2, the visualization of right ICA and MCA had improved, whereas those of left ICA and MCA deteriorated (E). ASL showed increased signal in the right MCA territory and further decreased signal in the right ACA and left ICA territory (F). On day 3, the visualization of bilateral ICAs seemed to be normalized on MRA(G), while ASL revealed rather increased signal in the right ACA and left ICA territory (H).

Abbreviation: ICA = internal carotid artery, MCA = middle cerebral artery, ASL = arterial spin labeling, PLD = post labeling delay, anterior cerebral artery = ACA.

臨床経過:頸部内頸動脈攣縮症の再発と判断し,服用中であったシロスタゾールとベラパミルに加え,アルガトロバン点滴,アスピリン内服,硝酸イソソルビド貼付を行った.翌日の朝には神経症状は後遺症相当まで回復し,再入院時にみられた頻脈と高体温も改善していた.同日の頭部MRAでは右ICAの描出は改善していたが,左ICAの描出は淡くなり両側前大脳動脈(anterior cerebral artery,以下ACAと略記)の描出は不良となっていた(Fig. 4E).ASLではPLD 1.5 sで右MCA領域は信号が上昇し,左ICA領域および右ACA領域の信号はさらに低下していた(Fig. 4F).頸部MRAでは右ICA近位部には細径化した部分があり,左ICAは近位部直上から描出不良になっていた(Fig. 3C).2時間後に施行した頸部CTAでは,左ICAは高度狭窄であった(Fig. 3D).翌日(再入院3病日)の頭部MRAでは両側ICAの描出は改善し,ASL(PLD 1.5 s)では,ICA領域は左側優位の両側性に信号が上昇していた(Fig. 4G, H).頸部MRAでは,右ICA近位部の細径化は軽減しており,左ICA近位部には2ヶ所の攣縮部位が確認された.この間,左大脳半球に関連する脳虚血症状は出現することなく経過した.自律神経機能の評価として,血中・尿中カテコラミン検査,心電図の心拍変動解析や‍123I-MIBG副腎シンチグラフィーを施行したが,交感神経系の異常は確認されなかった.患者本人は初回入院時より禁煙していたが,リハビリテーション病院から自宅退院した後には夫からの受動喫煙に暴露される状態であった.夫に対する禁煙指導を追加して自宅退院となった以降は再発なく経過している.

考察

頸部内頸動脈攣縮症は1998年にArningらによって最初に報告された,脳梗塞の原因となる稀な疾患である‍1.初発は20~40歳代と若年で,繰り返すことも特徴とされ,冠攣縮性狭心症の合併例や喫煙歴を有する報告が多い‍2)~4.病態機序は明らかになっていないもののMoellerらが提唱した交感神経説が有力視されている‍5.また,本疾患の攣縮は左右交代性もしくは左右同時といった,“両側性” に出現する頻度が高いとされる‍3410.本例では数時間で改善する “片側性” の脱力発作を繰り返し,“両側性” にICA起始部近傍での経時的な血管描出の変化が確認された.

再発入院時には頻脈と高体温があり交感神経活性が亢進している可能性も考えられたが,検査上,交感神経系の優位性を支持する所見は得られなかった.一方,リハビリ病院から自宅退院後の早期に再発しており,受動喫煙に暴露される環境であったことや入院中には症状の再発はなかったことからは喫煙が攣縮の誘因になっている可能性は示唆された.本疾患に対する治療法は確立しておらず‍4,本例では攣縮という病態機序に対し血管拡張作用に期待してシロスタゾール,ベラパミル,硝酸イソソルビドを導入することで,新たな後遺症の出現を回避できた.近年では,本疾患に対する頸動脈ステント留置術の有用性が報告されるようになり‍511)~13,今後,再発した場合には有力な治療選択肢として考慮したい.

脳血流画像については,渉猟しえた限りでは脳血流SPECTやXenon CTを用いた4報‍7)~10のみで,ASLを用いた報告はなかった.症状の持続期間が数日と比較的長い症例では,攣縮血管領域の脳血流低下は確認されたが‍78,数時間で症状が改善した症例では,発症当日に施行した脳血流‍123I-IMP SPECTでも攣縮領域の灌流異常はとらえられなかった‍9.攣縮の持続期間は,症例によって数時間から数日と幅があり,時間経過で血管形態も大きく変化することから,従来のモダリティーではその血行動態を適時評価することには制約があるかもしれない.ASLは,放射線被曝がなく造影剤が不要であるため繰り返し施行可能であり,本例のように劇的に血行動態の変化をきたしうる血管障害では有用な評価法となりえる.

再発入院時にはASLで攣縮側のICA領域の信号が過灌流様に上昇を呈しながら回復していく過程が観察された.頸部内頸動脈攣縮の回復過程における脳血流所見について言及した報告はなく,今後の症例の蓄積が望まれる.本症例では,Ca拮抗薬や硝酸薬の投与を行ったが,頭痛や痙攣などの過灌流症候群を呈することはなかった.

ASLで脳血流を評価する上での問題点は,arterial transit timeの影響でPLDによって得られる画像が異なることである‍14.当院では虚血性脳血管障害症例に対してPLD 1.5 sと2.5 sの2相によるASL画像を活用しており,その有用性を報告してきた‍1516.高度な狭窄や閉塞に伴う血流遅延では,long PLDに設定した上で脳血流評価を行うことが必要となる.近年では,Multi-PLD dataを用いたATT補正によるASL-CBF測定の研究も行われており‍17,このPLDの差異に着目した病態解析も期待される.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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