Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
ATTRv amyloidosis with early improvement demonstrated by the 6-minute walk test following Patisiran therapy: a case report
Shinya OginezawaTomohiko IshiharaYohei IwafuchiYuya HatanoKen KashimuraOsamu Onodera
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2022 Volume 62 Issue 5 Pages 375-379

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要旨

症例は65歳,男性.2年半前から両手指の痺れ感で発症し,下肢筋力低下,筋萎縮,起立性低血圧症状が緩徐に進行した.トランスサイレチン(transthyretin,以下TTRと略記)遺伝子V30M(p.V50M)変異を認め,遺伝性ATTRアミロイドーシス(ATTRvアミロイドーシス)と診断した.パチシラン投与開始後3週目から6分間歩行試験で歩行距離の改善を認めた.パチシラン治療による,治療開始早期からの臨床症状改善例として報告する.

Abstract

We report the case of a 65-year-old man who gradually developed numbness in both hands, lower limb muscle weakness and atrophy, and orthostatic hypotension over two and a half years. These symptoms indicated hereditary ATTR amyloidosis (ATTRv amyloidosis), and the final diagnosis was established through proof of TTR gene mutation (V30M). We initiated patisiran therapy, and a continuous 6-minute walking test performed 3 weeks from the start of therapy demonstrated improvement in the walking distance. This is a single case report showing the improvement in the motor and sensory function on administration of patisiran monotherapy from an early stage.

はじめに

遺伝性ATTRアミロイドーシス(ATTRvアミロイドーシス)は,トランスサイレチン(transthyretin,以下TTRと略記)遺伝子変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患である‍1.TTR蛋白由来のアミロイド沈着により末梢神経,心臓を中心に多臓器障害を来し‍1,無治療では10年生存率は50%程度の予後不良の疾患である‍2.本邦では長野,熊本に集積地がある.集積地出身の症例と非集積地出身の症例では,浸透率や一部の臨床像が異なると報告されている‍13.治療方法として,TTRの95%以上が肝臓で産生されるため,肝移植が行われてきた.また,TTRを4量体構造化し安定化させ,アミロイド形成を抑制するタファミジスが開発され,末梢神経障害‍4および心筋症‍5に対する進行抑制効果が報告されている.さらにアンチセンスオリゴ核酸により,野生型,変異型TTRを共に発現抑制するパチシランが開発され,2018年に末梢神経障害に対して,初めて症状の改善が報告された‍6.しかし,どれほど早期に症状改善が認められるかは明らかではなかった.

今回われわれはTTR遺伝子V30M(p.V50M)変異ATTRvアミロイドーシスの症例に対し,パチシラン単独投与で,治療後3週目から6分間歩行試験で歩行距離の改善を認めた症例を経験した.6分間歩行試験は,本治療の治療効果判定に鋭敏で,その効果も1カ月内外と極めて早期で得られる可能性があり,今後の本治療において重要と考えその機序についての文献的考察を加え報告する.

症例

患者:65歳男性

主訴:両手の痺れ感,力が入りづらい

既往歴:特記事項なし.

家族歴:母が64歳時に心不全で死去.明らかな末梢神経障害はなかった.

他に家族歴なし.

出生歴:本症集積地との関連なし.

現病歴:2017年1月頃から両側手指の痺れ感を自覚した.同年9月頃に両下肢の筋力低下のため階段を上りづらくなり,同時期より立ち眩みを自覚した.2018年9月頃から両足関節以遠の痺れ感が出現し,以後,四肢の筋力低下,筋萎縮,体重減少が進行した.近医整形外科で両側手根管症候群と診断され,2019年7月に右手根管開放術が施行された.右手指の異常感覚は軽度改善したが,筋力低下が進行した.同年9月頃から頻尿,便秘が出現した.同月に腎盂腎炎のため近医総合病院にて入院加療された.入院中に同院脳神経内科を受診し,症状からATTRvアミロイドーシスが疑われ,2019年11月某日,当科に入院した.

入院時現症:身長175 cm,体重60.9 kg,BMI 19.9,mBMI 816,体温36.0°C,血圧125/89 mmHg,脈拍数89/min,整.眼球に異常所見はなし.心音雑音聴取しない.神経学的には,意識は清明で認知機能低下なし.眼球運動は正常であった.舌と四肢にfasciculationを呈し,四肢に徒手筋力テスト3~4レベルの筋力低下を認めた(上腕二頭筋4/4,上腕三頭筋4/4,母指対立筋3/3,短母指伸外転筋4/4,第一背側骨間筋4/4,腸腰筋4/4,大腿四頭筋4/4,大腿屈筋3/3,前脛骨筋3/3,下腿三頭筋4/4).両大腿,両上肢に筋萎縮を認めた.握力は12 kg/16 kgであった.四肢腱反射は減弱,消失し,病的反射は陰性だった.感覚障害として,両上肢肘関節より遠位,両下腿の触覚低下,両足底の異常感覚を認めた.両側母指探し試験で陽性,上下肢で振動覚の低下があった.温冷覚の障害はなかった.両足底部で痛覚の低下が見られた.起立時のふらつき,便秘,夜間に7,8回の頻尿を呈した.

入院時検査所見:血算,肝腎機能は正常.CKも233 IU/lと正常範囲であった.BNPは65.7 pg/mlと軽度上昇していた.神経伝導検査では,右正中神経の運動神経伝導速度(motor nerve conduction velocity,以下MCVと略記)40.7 m/s,潜時(distal latency,以下DLと略記)4.6 ms,複合運動活動電位(compound muscle action potentials,以下CMAPと略記)2.52 mV,左正中神経 MCV 46.2 m/s,DL 6.5 ms,CMAP 4.66 mVと両側でMCVの低下,DL延長,CMAPの低下があった.また両側正中神経で感覚神経伝導検査(sensory nerve conduction study,以下SCSと略記)は導出されなかった.右脛骨神経でMCV 34.3 m/s,DL 9.0 ms,CMAP 0.54 mV,右腓腹神経でSCSは導出されなかった.二分画畜尿検査で日中の尿比重1.012,浸透圧437 mOsm/l,夜間の尿比重1.008,浸透圧341 mOsm/lと濃縮障害があった.心電図RR間隔変動係数(CV-RR)は0.58%と年齢に比し低下していた(当院正常範囲:2~3%).Schellong試験では,臥位時血圧134/79 mmHg,脈拍80回/分から起立直後68/35 mmHg,脈拍78回/分と著明な血圧低下があった.立位1分後には血圧は改善した.FAP重症度はstage 1(自立歩行可能)に該当した.

経過:両側手根管症候群,四肢末梢神経症状および自律神経症状からATTRvアミロイドーシスを疑った.経胸壁心臓超音波検査で,左室の高度求心性肥大,心室中隔のエコー輝度亢進(granular sparkling pattern)(Fig. 1A),左室壁運動で心尖部運動が保たれるapical sparing patternを認めた.左室駆出分画(ejection fraction,以下EFと略記)50.4%,拡張末期容積(end-diastolic volume,以下EDVと略記)は72.5 mlであった.心筋生検で,心筋線維周囲に均質構造物の沈着を認め,Direct fast scarlet(DFS)染色陽性かつ抗TTR抗体陽性であった(Fig. 1B).胃十二指腸生検でも前庭部大弯組織でDFS染色陽性であった.本人の同意を取得し,自施設でSanger法による遺伝子解析を実施し,TTR遺伝子V30M変異を確認した(Fig. 1C).非集積地でのV30M変異型ATTRvアミロイドーシスと診断し,パチシラン適応例と判断した.12月某日より,パチシラン投与(0.3 mg/kg,静注)を開始し,3週間ごとに投与を継続した.

Fig. 1 Laboratory findings.

A) Transthoracic echocardiography showed left ventricle hypertrophy and granular sparkling pattern. B–D) Endomyocardial biopsy revealed transthyretin amyloid deposition (B; stained by anti-transthyretin antibody (11891-1-AP). C; Direct Fast Scarlet. D; Direct Fast Scarlet (polarization image)). Bar = 100 μm. E) The sequence trace shows heterozygous p.V30M mutation (arrow) in the TTR gene.

パチシラン初回投与(0週)から5回目投与時(12週)まで各回にわたり,一般神経診察および6分間歩行試験(6MWT),Schellong試験,重心動揺検査,血液検査を実施した.6MWTはパチシラン投与翌日に各回同時刻帯に実施した.0週時点では217 mであり,持続的に改善を認め治療開始12週時点で378 mとなった(Fig. 2).年齢と体重から算出される本例の初回投与時の健常例での推定値は582 mである‍7.6MWT後の自覚的疲労感に関するNew Borg scaleは,9週までは胸部2/下肢3であった.12週時点では胸部1/下肢2と,下肢の疲労感が改善した.12週時点で,握力は20 kg/24 kgに改善したが,四肢MMTで改善は認めなかった.異常感覚の範囲は著変なかったが,その程度は改善し,母指探し試験は9週時点から両側で改善した.重心動揺検査では面積Romberg率(開眼/閉眼時動揺比率)が,3週目の53%から12週時点では43%に改善した.Schellong試験は投与日同時刻帯に実施した.ΔsBP(臥位時収縮期血圧-立位後収縮期血圧)は,明らかな改善はなかった.12週時点でのCV-RR変動係数は1.28%と軽度改善した.夜間頻尿の回数は2,3回/日に減少した.BNP値は経時的な改善はなかった.心臓超音波検査では,EFは9週時点で57.6%であった.

Fig. 2 Clinical course of the patient.

Patisiran monotherapy was started and continued every 3 weeks. The improvement in the walking distance was obvious in the continuous 6-minute walking test. Grip power, sensory disturbance, Romberg ratio, and New Borg scale scores gradually improved. On the other hand, BNP (pg/ml), EF (%), and Schellong test showed no remarkable change.

以降は外来通院にてパチシラン投与を継続している.初回検査から12カ月時点(2020年11月)の心エコー検査では,EF 62.9%,EDV 80.4 mlと改善した.治療開始22カ月時点(2021年10月)で補助具の使用無く独歩通院を継続され,体重62.0 kg,mBMI 850と栄養状態も保たれている.治療開始22カ月時点のフォローの神経伝導検査では,右正中神経で,MCV 40.8 m/s,DL 6.0 ms,CMAP 2.5 mV,右尺骨神経MCV 50.2 m/s,DL 3.8 ms,CMAP 8.11 mVと初回評価時と比べ大きな改善はなかった.また両側正中神経でSCSは導出されなかった.右脛骨神経でMCV 30.5 m/s,DL 7.0 ms,CMAP 0.32 mV,同様にSCSは導出されなかった.同22カ月時点の6分間歩行距離は340 mであった.

考察

本例は,パチシラン投与で治療開始3週後から6MWT歩行距離の延長をはじめ,運動神経,感覚神経障害の臨床所見の改善を早期から認めた,非集積地でのV30M変異型ATTRvアミロイドーシスの1例である.パチシランの効果を示したAPOLLO試験および非盲検長期投与試験では投与開始後18ヶ月時点で症状改善について有意差を示した‍68.しかし,個々の例での解析は公表されていない.渉猟し得た限り本例は,本治療方法の有効性を最も早期に確認し得た症例である.

まず,本治療方法の特性を他の治療方法と比較して述べる.ATTRvアミロイドーシスは,変異型TTRがアミロイド構造をとり組織に蓄積する疾患である.TTRは通常4量体を形成するが,単量体がアミロイド形成に寄与し,変異型TTRはアミロイド形成能が高い.治療としては,従来,野生型を正常型TTRに置き換える肝移植療法,TTR4量体を安定化させるタファミジスが用いられてきたが,いずれも,末梢神経障害については進行を抑制するに留まっていた‍49.一方,野生型,変異型TTRを共に減少させる治療方法としてパチシランが認可され,末梢神経障害の改善が初めて認められた‍6(Table 1).

Table 1  Comparison of each ATTRv treatment.
Action mechanism Effect (N: Neurological, C: Cardiac, M: Mortality) Adaptation Reference
Patisiran Suppression of Variant/Normal TTR expression N: Improvement (mNIS + 7) (9, 18, 30 months)
C: Improvement (NT-proBNP) (18, 30 months)
M: Reduction (12, 30 months)
Variant TTR, Polyneuropathy 12), 13)
Tafamidis Stabilization of TTR tetramer N: Suppression of Progress (18 months)
C: Suppression of related hospitalizations (30 months)
M: Reduction (30 months)
Wild and Variant TTR, Polyneuropathy, Cardiomyopathy 4), 5)
Liver transplantation Expression of Normal TTR N: Suppression of Progress (5–10 years)
C: small effect
M: Reduction (10 years)
Variant TTR, Polyneuropathy 2), 9), 10)

他治療方法と比較し,パチシランが症状の改善を認めた機序について考察する.アミロイドを構成するTTRは局所内で代謝回転を繰り返している.これには変異型のみならず野生型TTRも含まれる.肝移植例の解析によれば,移植後,沈着しているアミロイドでは,変異型TTRは減少するが,野生型TTRの蓄積は持続する‍10.そのため,各組織の沈着アミロイドの総量は,代謝量と蓄積量のバランスにより決定される.実際,アミロイド親和性の高い心臓では,野生型TTRが既存のアミロイドに取り込まれるため,肝移植後も心機能障害は進行性である‍11.パチシラン投与下では,野生型TTR産生も減少するため代謝量優位となり,局所アミロイドの減少が得られる可能性があると推察した.また,パチシランの投与で血中TTRは治療開始後3週目で低下が認められている‍6.本例の治療効果の発現時期は,これに一致する.

次に,本症の治療効果評価における6MWT歩行距離の有用性について考察する.ATTRvアミロイドーシスにて6MWTは,心機能低下,もしくは末梢神経障害の評価に用いられる‍51213.本例では治療開始12週時点でBNP値や心臓超音波検査の結果から,心機能改善は明らかとは言えなかった.末梢神経では,アミロイドは小径有髄線維から大径有髄線維の順に沈着し集積地例ではこれが顕著である‍14.一方で非集積地の高齢発症例では再生線維がめだち,小径有髄線維が保たれる例もある‍14.本例では,握力低下,母指探しや重心動揺計検査での異常所見から,大径有髄線維の障害を認めた.これらが早期から改善を認めた事から,本例での6MWT歩行距離の改善は心機能改善ではなく,大径有髄線維の回復を反映していると推察した.また,電気生理学的にはCMAPとSNAPが運動神経,感覚神経の大径有髄線維機能を反映するが,フォローの神経伝導検査ではいずれも改善を認められなかった.このことから,早期の末梢神経障害の評価指標として6MWTが有用な可能性がある.

パチシランはアミロイドの代謝面からも従来の治療方法と異なり,効果発現が早い可能性があることを示した.さらに,その評価に6MWT歩行距離の改善が鋭敏である可能性が示唆され,本方法の活用が望まれる.非集積地と集積地例では,神経病理所見が異なることも重要である.集積地例と比較して,非集積地例では断片化したTTR沈着が見られ‍15,神経脱落や罹病期間と比較してアミロイド沈着が軽度であり‍16,両者でのアミロイド沈着の機序は異なると考えられる.非集積地と集積地例それぞれの治療効果の検討をより大規模に集積する必要があり,その際のプロトコル作成においても本例は貴重な症例であると考える.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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