Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Subdural hematoma with reversible cerebral vasoconstriction syndrome: a case report
Genki IkutaKeishi MakinoKoutaro TakamatsuAkira TakadaKuniyasu WadaYoichiro Hashimoto
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2022 Volume 62 Issue 9 Pages 732-735

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要旨

症例は71歳男性である.睡眠中に雷鳴頭痛が出現し,後頸部痛が持続した.発症翌朝の頭部MRIで右後頭頂側に硬膜下血腫,限局した円蓋部くも膜下出血をみとめ入院した.頭部MRAでは両側後大脳動脈で多発狭窄をみとめ,第8病日の頭部MRA再検で増悪をみとめた.Reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS)を疑い,Ca拮抗薬を開始した.退院後のMRAでは血管狭窄の改善をみとめ,RCVSと診断した.RCVSが硬膜下血腫を伴うことは稀であり,その鑑別診断と発症機序を考察する.

Abstract

A 71-year-old man had persistent cervical pain secondary to thunderclap headache during sleep. MRI conducted the next morning revealed subdural hematoma and convexity subdural hemorrhage on the right occipital region, and the patient was hospitalized. MRA showed vascular narrowing in the bilateral PCA. Follow-up MRA on day 8 of admission showed aggravated vascular narrowing of PCA, indicative of reversible cerebral vasoconstriction syndrome (RCVS). The patient was treated with a calcium-channel antagonist. Post-discharge MRA showed improvement of PCA narrowing, and the diagnosis of RCVS was confirmed.

はじめに

Reversible cerebral vasoconstriction syndrome(RCVS)は3ヵ月以内に改善する急性頭痛と脳動脈の多発性分節性攣縮を示す疾患である1.RCVSでは時に脳出血や脳梗塞を始めとした重篤な合併症をともなうが,硬膜下血腫を合併することは稀である2)~4.さらに,RCVSの特性上,頭痛発症直後に頭蓋内合併症を画像として捉えることは難しい.今回,睡眠中の雷鳴頭痛後の持続する後頸部痛を主訴に,発症早期に硬膜下血腫をみとめたRCVSの1例を経験したので報告する.

症例提示

症例:71歳,男性

主訴:後頸部痛,頭痛

既往歴:高血圧,左鼠径ヘルニア,虫垂炎,肋膜炎.慢性的な頭痛の既往なし.

内服歴:なし.

生活歴:アレルギーなし.喫煙5~6本を50年.飲酒しない.ADL自立.

家族歴:特記事項なし.

外傷歴:特記事項なし.

現病歴:夜間睡眠中に今まで経験したことのないような激しい頭痛が頭全体に出現し,その後も拍動性の全方向で運動時に増悪する後頸部痛が持続し改善しないため,当院に救急搬送された.

入院時現症:身長164 cm,体重58.4 kg.体温35.9°C,血圧144/85 mmHg,脈拍64 bpm,SpO2 97%(室内気).意識は清明,瞳孔左右差なく,対光反射迅速で,眼球運動に異常をみとめなかった.四肢関節の運動,四肢の感覚に異常をみとめず,バレー徴候,ミンガッチーニ徴候はいずれも陰性であった.バビンスキー徴候は陰性であった.後頭部から後頸部にかけて,安静時Numeric Rating Scale(NRS)3~4の疼痛を自覚した.左右前後に動かすと後頸部痛の著しい増強あり,首を動かすことができなかった.悪心・嘔吐,めまいはみとめなかった.

入院時検査所見:血液検査では,白血球5,700/μl,ヘモグロビン10.7 g/dl,血小板145,000/μl,D-dimer 1.4 μg/ml,CRP 0.37 mg/dl,血糖110 mg/dlであった.Mini Mental State Examination(MMSE)は27/30点であった.

画像所見:頭部MRIではFLAIRにて右後頭頂側に硬膜下血腫と円蓋部のくも膜下出血をみとめた(Fig. 1A, C).T2*では微小出血はみとめなかった(Fig. 1B, D).DWIでは脳溝のくも膜下出血の近傍の皮質外側に点状の高信号をみとめた(Fig. 1E).頭部MRAでは両側後大脳動脈で脳血管狭窄をみとめ,動脈瘤はみとめなかった(Fig. 2A).

Fig. 1 Brain MRI findings.

Brain MRI on admission revealed subdural hematoma and convexity subdural hemorrhage on the right occipital region on FLAIR (A, C). There were no findings on T2* (B, D). There was a high signal spot on diffusion weighted images (DWI) (E). MRI on day 8 of admission showed decreased blood flow on the same side (F).

Fig. 2 MRA.

MRA showed vascular narrowing in the bilateral PCA (A). Follow-up MRI on day 8 of admission showed aggravated vascular narrowing of PCA (B). Post-discharge MRI showed an improvement of PCA narrowing (C).

入院後経過:第5病日には安静時の後頸部痛は消失し,第7病日には体動時の後頸部痛も歩けるほどに改善した.第8病日に施行したMRI/MRAでは両PCAの狭小化の増悪と右後頭葉の血流低下をみとめた(Fig. 1F, 2B).以上の所見からRCVSをうたがい,第10病日からベラパミル40 mg 3錠/日を開始した.入院中特に神経学的異常はみとめることなく,第15病日に自宅退院となった.第46病日の頭部MRIにて.両側後大脳動脈の描出の改善を確認している(Fig. 2C).

考察

RCVSはcall–fleming syndrome,benign angiopathy of the central nervous system,thunderclap headache with reversible vasospasm,post-partum angiopathy,migrainous vasospasm,drug-induced cerebral arteritisなど多数の呼び名がある疾患である5.80%でなんらかの誘因があるとされ,労作や入浴,排尿,性行為,咳嗽,くしゃみ,感情の大きな変化などが引き金となることが知られている6が,本症例では明らかな誘因は指摘されていない.Ducrosらの報告では,頭痛はRCVS全体の3/4で唯一の症状であるとされ,17%で本症例のように,睡眠中に起きたとしている.最大のNRSは平均9.5程度であったとされ,5分~36時間でピークに達したとしている6.合併する頭蓋内病変としては脳卒中が多く,その発生率は円蓋部くも膜下出血で20~40%,脳梗塞で10~40%,脳内出血で10%前後である.他に合併する疾患として,痙攣や可逆性白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome,以下PRESと略記)などがある.硬膜下血腫合併例は,2~4.32%と稀であり,脳出血やくも膜下出血と併発することが多い2)~4.血管攣縮は,頭痛発症時には末梢血管側にみとめられ,徐々に中枢側へ移動する7ため,頭痛発症からの時間経過とともに合併症の頻度は異なる.出血性所見は,近位部に比べて遠位部での狭窄が強い時に起きる傾向があるため,雷鳴頭痛の約1週間後に起きる.一方,PRESや脳梗塞は近位部での狭窄が強い時に起きる傾向があるため,雷鳴頭痛の1~3週間後に起きる傾向がある4.硬膜下血腫はDucrosらの報告ではRCVS89例中2例にみとめられ,いずれも雷鳴頭痛の3日後,8日後と比較的早期の発症であった2.本症例の硬膜下血腫は雷鳴頭痛の発症24時間以内にみとめられており,文献と比べても非常に早期に捉える事ができた.

RCVSを発症するリスクファクターとしては,Ducrosらは片頭痛の既往や女性である事を挙げている2.一方,Topcuogluらは女性であることのみが頭痛発症のリスクとし,Patelらは女性に加え,45歳以上であることをリスクとしている3.TopcuogluらはRCVSが女性に多く,妊娠やピルなどがRCVSの誘因になるのは性ホルモンが関与しているからだと提唱している8.本症例は高齢ではあるが,男性であり,片頭痛の既往もなく,典型的ではないと思われた.RCVSの再発率は5.8~12%と比較的低く,片頭痛の合併や雷鳴頭痛発症時にした労作を繰り返すことなどが再発に寄与する要因とされる1910.RCVSに対する治療として,カルシウム拮抗薬があり,日本では未発売のニモジピンの代わりに,ロメリジン,ベラパミル,ニカルジピンなどを使用することが多い.他にマグネシウムやプロポフォール,シロスタゾールなども医学的根拠はないものの,効果が期待できるとされている511

本症例の鑑別疾患に関して,①アミロイドアンギオパチーにより出血した可能性や②円蓋部のくも膜下出血から二次的に血管攣縮を来した可能性が考えられる.①に関してはT2*にて微小出血はみとめられず,MMSEも27点と低下していないこと,②に関しては,動脈の攣縮が両側に起きていることから可能性は低いと考えられた.また,本症例は脳溝のくも膜下出血の近傍の皮質外側に点状のDWI高信号をみとめており(Fig. 1E),そこを中心として広く硬膜下血腫をみとめた(Fig. 1A, C).頭蓋内出血におけるDWI高信号病変はmicroangiopathyの進行と関連があると報告されている.Microangiopathyとは脳血流の自己調整が破綻した状態で,血流の増加に対して微小血管の収縮性が反応できず,脳血流を保てなくなった状態とされる12.そこから後述する機序にて,硬膜下腔へ穿破し血腫が形成されたと予想された.

本症例におけるRCVSによる硬膜下血腫の発症機序について考察する.原因不明の非外傷性の急性硬膜下血腫の報告では,①頭蓋内の疾患では,動脈瘤破裂,動静脈瘻,動静脈奇形,架橋静脈の破裂,くも膜囊胞,血管芽腫,転移性骨腫瘍,絨毛がんなどの合併,②血液凝固の異常例では,凝固欠乏症,全身性エリテマトーデス,ヘモフィリア,慢性骨髄性白血病,血栓性微小血管障害症,多血症,HELLP症候群などの合併,③誘因となるものとして,マラリア,コカイン濫用,脊椎麻酔などが報告されている13.ClarkeとWaltonは頭蓋内出血やくも膜下出血に合併する急性硬膜下血腫ができる機序として,①硬膜下腔への直接の出血と②くも膜下腔を介した硬膜下腔への出血の2パターンがあると提唱している14.動脈瘤破裂にともなう硬膜下血腫の発生機序に関して推察したMarbacherらの理論15を一部改変してRCVSでの原理に当てはめると,①に関しては微小なくも膜下出血が生じることで,くも膜と動脈壁が癒着し,硬膜下への直接の血液の流れができることにより,②に関しては攣縮した血管により圧が上昇することで,血腫が繊細な遠位部のくも膜を突き破り,硬膜下に流れることにより,発生すると考えられる.本症例に関しては①,②の両方とも起こりうると思われ,議論の余地があるものとなった.RCVSの頭蓋内合併症で,硬膜下血腫が主体となることは非常に稀ではあるが,雷鳴頭痛に続く強い後頸部痛と外傷の既往がない硬膜下血腫をみとめる際はRCVSを鑑別に挙げ,厳重なフォローをおこなう必要がある.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2022 Japanese Society of Neurology

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