Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Transverse myelitis and cauda equina syndrome followed by varicella in a patient with varicella-zoster virus infection
Takumi ShimazuDaigo YasutomiNorie ItoSusumu ChibaAkihito Nambu
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2023 Volume 63 Issue 10 Pages 637-642

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要旨

症例は74歳男性である.下肢の脱力および排尿困難を発症し,3日後に全身の水疱が出現した.脊椎MRIではTh12~L1レベルの髄内および馬尾に造影効果を認めた.血清および脳脊髄液中の水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)-IgG抗体価の著明な上昇があり,また脳脊髄液中のVZV-IgM産生を認めた.VZV横断性脊髄炎・馬尾症候群とそれに続発した水痘と診断し,抗ウイルス薬およびステロイドを投与した.2ヶ月後に筋力低下や排尿障害はほぼ完全に回復した.本症例では神経節に潜伏していたVZVが再活性化して横断性脊髄炎を発症し,その後血流を介して全身に播種することで水痘を発症したと示唆された.

Abstract

A 74-year-old man was admitted to our hospital with complaints of weakness in the lower extremities, urinary retention for 10 days, and generalized vesicular rash for 7 days. Spinal magnetic resonance imaging showed contrast enhancement at the Th12–L1 level of the spinal cord and cauda equina. Serum and cerebrospinal fluid varicella-zoster virus (VZV)-immunoglobulin (Ig) G antibody titers were markedly elevated, and VZV-IgM was detected in cerebrospinal fluid. The patient was diagnosed with VZV transverse myelitis and cauda equina syndrome with subsequent varicella and was treated with acyclovir and prednisolone. Two months later, muscle weakness, and dysuria had almost completely resolved. We hypothesize that latent VZV in the ganglia reactivated and caused transverse myelitis, which subsequently spread to the body via the bloodstream, resulting in the development of varicella.

はじめに

水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)は幼小児期に初感染し水痘として発症する.その後,加齢などにより免疫機能が低下し,神経節に潜伏していたVZVが再活性化することで帯状疱疹を発症する.VZVの初感染後に終生免疫が獲得されるため,水痘の再発は稀とされている.

またVZVの感染により髄膜炎,脳炎,横断性脊髄炎,神経根炎,多発神経炎など様々な神経障害を発症することがある1.横断性脊髄炎は稀な合併症であり,免疫正常者が発症する場合は帯状疱疹の出現後,同じデルマトームのレベルに脊髄炎を発症することが多い2.そのため横断性脊髄炎の原因がVZVだと特定することは比較的容易である.

今回我々は,加齢以外に免疫が低下する要因のない高齢者が横断性脊髄炎および馬尾症候群を発症し,後に水痘が出現した1例を経験した.我々が調べる限り,このような症例の報告は過去に認めず,その発症機序について考察を加えて報告する.

症例

症例:74歳男性

主訴:右下肢の脱力および感覚障害,排尿困難

既往歴:過去の水痘罹患歴は不明.免疫不全を示唆する病歴はなし.

生活歴:最近の幼児との接触歴はなし.VZVに対する予防接種歴はなし.

現病歴:発症初日,微熱および倦怠感を自覚した.発症5日後,発熱,右下肢の脱力,排尿困難が出現した.発症6日後,他院に入院し,尿道カテーテルが留置された.発症8日後,全身に水疱が出現し,右下肢優位の不全麻痺と両下肢の感覚障害が出現した.同日よりアシクロビル750 ‍mg/日の静注投与が開始され,加えて免疫グロブリン製剤2.5 ‍g/日の投与が2日間行われた.その後解熱したが,神経症状は持続した.発症15日後,診断および治療のため当院に転院した.

一般身体所見(発症15日後):意識清明.バイタルサインは異常なし.全身に紅暈および痂皮を伴う小水疱が点在していたが,帯状の皮疹はなく,皮疹に沿った神経痛はなかった(Fig. 1).

Fig. 1 Skin lesions 1 week after the initial appearance of rash.

Generalized vesicular rash mixed with crusting (arrows) is visible on the head, torso, and extremities.

神経学的所見(発症15日後):徒手筋力テストでは,右下肢で腸腰筋4,大腿四頭筋3,ハムストリング2,前脛骨筋1,下腿三頭筋1,長母趾伸筋1で,左下肢全体は4に低下していた.腱反射は下肢で消失し,Babinski反射は両側とも陽性だった.触覚は右側L2レベル以下および左側S3~5レベルで低下していた.痛覚は右側L2レベル以下で低下し,左側は低下していなかった.振動覚は両側内果と右側膝蓋骨で消失していた.尿閉,便秘,勃起不全の自律神経症状があった.肛門括約筋のトーヌスは低下していた.

検査所見:血算・一般生化学・尿所見に異常なし.前医での免疫グロブリン製剤投与後の血清学的検査(発症15日後)では,VZV-IgM(EIA法)1.05(基準値0.8未満),VZV-IgG(EIA法)128以上(基準値2.0未満),herpes simplex virus(HSV)-IgM陰性,HSV-IgG 118.7(基準値2.0未満),cytomegalovirus(CMV)-IgM陰性,CMV-IgG 157.5 ‍AU/ml(基準値6.0未満),human immunodeficiency virus(HIV)抗体陰性,human T-cell leukemia Virus Type 1(HTLV-1)抗体(PA法)陰性であり,とりわけVZV-IgGの上昇が際立った.抗aquaporin4(AQP4)抗体(EIA法)と抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体(Live CBA法)は陰性だった.脳脊髄液検査(発症18日後)では,外観は軽度黄色調で細胞数129/μl(単核球96%,多形核球4%,正常値0~5),蛋白定量169 ‍mg/dl(正常値10~40),糖定量69 ‍mg/dl(正常値40~70),オリゴクローナルバンド陽性,VZV-IgM 1.42(基準値0.8未満),VZV-IgG 12.8以上(基準値0.2未満),HSV-IgM陰性,HSV-IgG 8.38(基準値0.2未満),VZV PCR陰性だった.血清IgMは血液脳関門を通過しないことから,脳脊髄液中のVZV-IgMは髄腔内産生と示唆された.下肢体性感覚誘発電位(発症20日後)では,左脛骨神経刺激でN7の遅延があり,右側では導出不良であった.頭部MRIでは明らかな病変を認めなかったが,脊椎MRI(発症15日後)ではTh12-L1レベルの髄内にT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号,造影T1強調画像では造影増強を認めた.また造影増強は馬尾全体にも見られた(Fig. 2).

Fig. 2 Spinal magnetic resonance imaging findings on day 15.

(A) Sagittal T2-weighted image shows hyperintense lesions at the Th12–L1 level of the spinal cord (arrow) and cauda equina (arrowheads). (B–‍D) Axial T2-weighted images show intramedullary hyperintense lesions at the levels of Th12 (B), Th12/L1 (C), and L1 (D). (E) Sagittal gadolinium-enhanced T1-weighted image shows enhancement at the Th12–L1 level of the spinal cord (arrow) and cauda equina (arrowheads). (F–H) Axial gadolinium-enhanced T1-weighted images show enhancement at the Th12–L1 level of the spinal cord (F) and at the L2 (G) and L3 (H) levels of the cauda equina (arrowheads).

以上の経過および所見より,水痘およびVZV横断性脊髄炎・馬尾症候群と診断した.また血液中のVZV-IgG抗体価は,前医で投与された免疫グロブリン製剤中の抗体価を加味しても著明に上昇(ブースター効果)していたことから,VZVの初感染ではないと判明した3

治療はアシクロビル(10 ‍mg/kg 8時間毎静注,途中で腎機能低下のため減量,計25日間),ステロイド(メチルプレドニゾロン1,000 ‍mg/日静注,3日間,その後内服に切り替えて計9ヶ月かけて漸減・中止)の投与を行った(Fig. 3).入院後,数日で下肢の筋力低下は改善がみられ,発症60日後に徒手筋力テストでは両下肢とも5まで改善した.感覚障害については,発症30日後に尿意が出現し間欠的導尿に変更した.発症60日後,振動覚は右内果で6秒,左内果で10秒まで改善した.排便は2日に1回程度まで改善したが,元来あった勃起不全は悪化し改善はなかった.発症64日後に自立歩行で退院し,発症70日後に自排尿となった.発症3ヶ月後の脊椎MRIでは脊髄炎を発症した部位の萎縮がみられた.造影T1強調画像における造影増強部位は縮小しながらも持続し,発症11ヶ月後も軽度残存していたが,発症21ヶ月後に消失を確認した(Fig. 4).

Fig. 3 Clinical course of the patient.

Symptoms: Generalized vesicular rash appeared 3 days after the onset of muscle weakness, sensory alterations, and bladder dysfunction. With medical treatment, the lower-extremity weakness rapidly improved, and the patient could walk without any assistance at the time of discharge. Mild sensory alterations persisted. The patient regained the urge to urinate 1 month later and could spontaneously urinate 2 months later. Treatment: Following the diagnosis of varicella-zoster virus infection in the referring hospital, intravenous acyclovir at a dose of 10 ‍mg/kg thrice daily, with dose adjustment for impairment in renal function when necessary, was administered for 25 days. In our hospital, the patient was further treated with steroid pulse therapy (1,000 ‍mg/day intravenous methylprednisolone) for 3 days, followed by oral prednisolone (20 ‍mg/‍day). Prednisolone was gradually tapered and discontinued 9 months later. mPSL, methylprednisolone.

Fig. 4 Time course of the magnetic resonance imaging findings.

Sagittal T2-weighted images show enlargement of the spinal cord at the site of myelitis on days 15 and 25 and atrophy at the same level on days 96, 334, and 644. Axial T2-weighted images at the Th12/L1 level show intramedullary hyperintense lesions until day 644. Sagittal gadolinium-enhanced T1-weighted images also show enhancement in the spinal cord until day 334, and the enhancement disappeared on day 644. T1WI, T1-weighted image; T2WI, T2-weighted image.

考察

水痘は再発が稀な疾患と考えられてきたが,近年水痘を発症する高齢者の報告が散見されており,全水痘のうち0.1~0.45%が高齢者に発症している45.高齢者の水痘は軽症が多いが,肺炎,髄膜炎,脳炎の合併や死亡例がいくつか報告されている6.我々はVZV脊髄炎に出現した皮疹という観点で過去の報告を調べてみたが,その多くが帯状疱疹であり,稀に皮疹が出現しない例もあった2.非高齢者が水痘を発症し脊髄炎を合併した報告78は存在するが,我々が調べる限り,高齢者が水痘および横断性脊髄炎・馬尾症候群を発症した症例報告は認めなかった.

更に本症例は入院中およびその後約2年間のフォローにおいて,免疫不全を示唆する疾患や検査所見は認めず,加齢以外に免疫が低下する要因はないと判断した.VZV横断性脊髄炎の典型的な臨床経過では,帯状疱疹の出現後に横断性脊髄炎を発症する.非典型的な臨床経過では,帯状疱疹が出現しない場合や横断性脊髄炎の発症後に帯状疱疹が出現する場合があるが,先行研究によると免疫正常者の7割以上は典型的な臨床経過を辿ることが示されている2.我々が調べる限り,免疫状態に関わらず横断性脊髄炎の発症後に水痘が出現したとの報告は認めなかった.日常の診療で横断性脊髄炎を疑う患者に遭遇した場合,その原因疾患として感染症,全身性炎症性疾患,多巣性中枢神経系疾患など様々な鑑別疾患を想起しなければならない.VZV中枢神経感染症の診断には脳脊髄液中のウイルス抗体検査とPCR検査が有用との報告がある9.本症例のように発症から時間が経過するとPCR検査の検出率が低下することが知られており,PCR検査のみではなく抗体検査を行うことが強く勧められている9.またエビデンスに基づく治療法はまだ確立されていないが,アシクロビルの有効性を示す報告1011があり,早期投与が望ましいと示唆されている.非典型的な経過を辿った横断性脊髄炎の原因を特定することは容易ではないが,VZVの可能性を念頭に置き早期の診断および治療を行うべきである.

本症例の発症機序として,ウイルスが神経節で再活性化することで,まず横断性脊髄炎・馬尾症候群を発症し,その後血流に乗り全身に拡がることで水痘が出現したと示唆された.VZVは初感染時,飛沫を介して鼻咽頭リンパ組織から侵入し,血流に乗り全身に拡がる1213.発疹の出現後,小水疱中に存在するウイルスが皮膚の神経終末に感染し,感覚神経を逆行性に進み,生涯に渡り神経節に潜伏すると仮定されている13)~16.感染を終了させるためにはVZVに特異的な細胞性免疫の獲得が必要であり,これがVZVの再活性化を制御するために重要な役割を果たす17.VZVの再活性化が制御できないと,VZVは神経節から感覚神経を順行性に進み,デルマトームに沿って帯状に皮膚に感染することで帯状疱疹を発症する18)~20.また血管炎を伴う,あるいは伴わない炎症が脊髄に波及すると脊髄炎を発症する21.本症例では病理学的検査を行っておらず不明だが,剖検例ではVZVの感染を示唆するCowdry A型封入体を脊髄細胞内に認めたとの報告2がある.また帯状疱疹に続発した抗AQP4抗体陽性脊髄炎22や抗MOG抗体陽性脊髄炎23の報告があるが,本症例は両抗体とも陰性であり,かつステロイド内服の中止後も再燃がないことから,これらの疾患は否定的であった.しばらく脊髄の造影増強が持続したが,T1強調画像で低信号を認めていたことから,グリオーシスを形成し時間とともに瘢痕を残して改善したと示唆された.高齢者の水痘は通常,神経節内に潜伏していたVZVが再活性化してT細胞に感染し,血流を介して全身に播種することで発症すると考えられている.VZVの再感染は極めて稀であり,再活性化との鑑別にはウイルスのDNA鑑定を行う必要があるが,施行は難しく現実的ではない.本症例では先に横断性脊髄炎・馬尾症候群を発症し,その後に水痘が出現した経過を考慮すると,VZVの再感染ではなくVZVの再活性化によりこれらの病態が惹起されたと示唆された.

近年,原因は不明だが世界中で帯状疱疹の罹患率が増加している24)~27.また加齢とともにVZVに特異的な細胞性免疫は低下するため242528)~30,高齢化が進む我が国では今後,帯状疱疹のみならず高齢者の水痘も増える可能性が高い.横断性脊髄炎を診療する場合,本症例のように後から皮疹が出現することがあるため,その原因としてVZVの可能性を念頭に置くべきである.VZVの再活性化により,帯状疱疹後に横断性脊髄炎を発症している例が多いにもかかわらず,なぜ本症例では横断性脊髄炎を発症した後に水痘が出現したかは不明である.今後,高齢者における水痘およびVZV横断性脊髄炎・馬尾症候群の病態が検討される必要がある.

Notes

本報告の要旨は,第110回日本神経学会北海道地方会で発表し,会長推薦演題に選ばれた.

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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