Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Case of hereditary Y69H (p.Y89H) transthyretin variant leptomeningeal amyloidosis presenting with drop attacks and recurrent transient language disorder
Natsumi SaitoYasuko KurohaArika HasegawaMari TadaAkiyoshi KakitaKei WatanabeTetsuya Takahashi
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2023 Volume 63 Issue 10 Pages 650-655

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要旨

症例は73歳女性.66歳時より,1~2日で回復する一過性言語障害,右手指感覚障害の発作を数ヶ月ごとに反復するようになった.71歳,振戦と歩行障害を発症し,転倒を繰り返した.発作時は音韻性錯語,文章の聴理解障害,失書が悪化した.72歳入院時の脳および脊髄造影MRIで髄膜がびまん性に造影効果を示し,脊髄髄膜生検で,くも膜やくも膜下腔の血管壁に抗トランスサイレチン抗体で標識されるアミロイドの沈着を認め,髄膜アミロイドーシスと診断した.また,トランスサイレチン遺伝子にY69H (p.Y89H)変異を認めた.一過性局所神経徴候を繰り返す症例では,トランスサイレチン髄膜アミロイドーシスの鑑別も要する.

Abstract

We report a 73-year-old woman who started developing recurrent transient aphasia at the age of 66 years. During the attacks, she was aware she could not understand what was being said and both her spoken and written speech were meaningless. The attacks usually lasted for a few days, following which she could explain what had happened. Anti-epileptics did not improve her symptoms. She also noticed tremor of her right hand and gait disturbance at the age of 71 years. The recurrent transient aphasia was followed by drop attacks. At the time of her admission to our hospital, she showed paraplegia, phonological paraphasia, and difficulty in understanding complex sentences. Her language disturbance resembled a logopenic variant of primary progressive aphasia. However, the symptoms fluctuated for a few days and subsequently improved. Electroencephalography showed no abnormalities. Gadolinium-enhanced brain and spinal MRI showed diffuse leptomeningeal enhancement over the surface of the spinal cord, brain stem, and cerebrum on T1-weighed imaging. Surgical biopsy of a varicose vein in the subarachnoid space at the level of the Th11 spinal cord was performed. Pathological evaluation of the biopsied specimens revealed TTR-immunolabeled amyloid deposits in the subarachnoid vessel walls and on the arachnoid membrane. Gene analysis revealed c.265T>C, p.Y89H (Y69H) TTR mutation, which is known as one of the causative mutations of familial leptomeningeal amyloidosis. Leptomeningeal forms of transthyretin amyloidosis might present transient focal neurological episodes.

はじめに

髄膜アミロイドーシス(leptomeningeal amyloidosis)は,遺伝性トランスサイレチン(transthyretin,以下ATTRと略記)アミロイドーシスの一型で17種類の遺伝子変異の既報があり,Y69H変異もその一つである.髄膜アミロイドーシスの特徴的症候は認知機能障害,脳卒中様発作,痙攣,失調などを含む一過性局所神経徴候(transient focal neurological episodes,以下TFNEsと略記)であるが,認知機能障害についての詳細な報告はまだ希少である.Y69H変異症例では,発症初期に失語や構音障害,運動麻痺等のTFNEsを特徴とし,次第に進行性の認知機能障害を呈する.この度,我々は転倒発作やロゴペニック型進行性失語に類似する言語障害を反復したY69H (p.Y89H)変異型ATTR髄膜アミロイドーシスの症例を経験したため,考察を交え報告する.

症例

症例:73歳,女性

主訴:発作性の喚語困難としびれ,意思疎通困難,転倒

既往歴:脂質異常症.

家族歴:母と妹に振戦.

現病歴:66歳時一過性の呂律不良や言葉の出にくさ,右手のしびれを発症した.頭部画像検査や心精査で異常なく,一過性脳虚血発作(transient ischemic attack,以下TIAと略記)として抗血小板薬が開始となった.その3ヶ月後にも同様の症状が出現し,てんかんを疑われたが脳波検査では明らかな異常はなかった.68歳時に上記症状が再発し,脳MRIで異常なくてんかんとして抗てんかん薬が開始となった.しかし,その後も同様の症状を繰り返した.69歳時右手のしびれを発‍症した直後に転倒し,くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage,以下SAHと略記)を指摘された.転倒後に下肢脱力を発症する発作も加わり,脱力を主訴に受診した際には対麻痺あるいは右上下肢運動麻痺を指摘された.71歳時振戦と歩行障害が出現し,その後徐々に体幹失調や認知機能低下が進行したため,72歳時に当科へ紹介となった(Fig. 1).

Fig. 1 Clinical course of the patient.

The patient initially presented with transient symptoms of aphasia and dysesthesia in the right hand at the time of disease onset. These symptoms occurred several times a year and progressively worsened. The episodic aphasia and dysesthesia were subsequently followed by drop attacks, although brain MRI and electroencephalography showed no obvious abnormalities. About four years after symptom onset, she gradually presented cognitive dysfunction, such as word-finding difficulty and phonological paraphasia. She also presented tremors and gait disturbance with truncal ataxia five years after initial symptom onset.

入院時現症:血圧114/53 ‍mmHg,脈拍58/分・整,体温36.5°C,一般身体所見に異常はなかった.神経学的には,意識清明で語の流暢性は良好だが喚語困難と音韻性錯語を認めた.キツネの手の模倣や立体模写が困難で構成障害も認めた.脳神経は異常なかった.運動系では四肢体幹に失調があり,起立歩行が不安定であった.両上肢にはミオクローヌス様の振戦を認め,腱反射は左右差なく四肢で亢進していた.病的反射は陰性であった.感覚は異常なく,自律神経障害は便秘のみ認めた.

Fig. 2 Contrast-enhanced T1-weighted images of the brain and spinal MRI.

Gadolinium-enhanced T1-weighted images of the brain (axial, 1.5 ‍T, TR/TE 8.2/4.2 ‍ms) (A), cervical cord (sagittal, 1.5 ‍T, fat-suppressed, TR/TE 500/9.6 ‍ms) (B), thoracic cord (sagittal, 1.5 ‍T, fat-suppressed, TR/TE 620/14.1 ‍ms) (C) and lumbar cord (sagittal, 1.5 ‍T, fat-suppressed, TR/TE 680/14.1 ‍ms) (D) five years after symptom onset. Leptomeningeal enhancement was seen diffusely over the surface of the cerebrum, brainstem and spinal cord.

入院時検査:脳単純MRIで明らかな異常はなかった.脳・全脊髄造影MRIではびまん性に髄膜の造影効果を認め,脳では脳溝に入り込む形で造影された(Fig. 2).血液検査では血算や一般生化学検査で特記所見なく,RPR定性,β-D-グルカン,アスペルギルス抗原,トキソプラズマ抗体,抗SS-A/SS-B抗体,抗RNP抗体,抗CCP抗体,MPO/PR3-ANCA,ACE,各種腫瘍マーカー,傍腫瘍性神経症候群関連抗体でいずれも基準値内であった.髄液検査では細胞数2.3個/μl(単核球100%,多核球0%),蛋白157 ‍mg/dlと蛋白細胞解離がありIgG indexは正常であった.髄液中の結核菌PCR検査,髄液培養検査,クリプトコッカス抗原,HTLV-1抗体いずれも陰性で髄液細胞診では悪性所見をみとめなかった.神経伝導検査は両側正中神経と左下肢で施行し,運動神経伝導検査では,両側正中神経,左後脛骨神経で運動神経伝導速度の低下,両側正中神経で遠位潜時の延長を認めた.F波潜時も両側正中神経でやや延長していた.感覚神経伝導検査では,両側正中神経で感覚神経伝導速度の低下を認めた(Table 1).心エコー検査で壁肥厚はなく,ホルター心電図検査では房室伝導障害や心室性不整脈は認めなかった.脳血流シンチグラフィーでは,両側前頭側頭葉と左優位の頭頂葉に血流低下を認めた.神経心理検査では,改訂長谷川式認知症スケール(HDS-R)4/30点(発作時),Mini-Mental State Test(MMST)12/30点,ウェクスラー成人知能評価尺度・改訂第3版では,言語性知能指数55,動作性知能指数50,全知能指数49,言語理解指数54,知覚統合指数54,作動記憶指数50,処理速度指数50,ウェクスラー記憶検査法・改訂版は実施困難で,ウエスタン失語症総合検査(部分施行)では,正答率はI自発語情報の内容10/10,流暢性10/10,II話し言葉の理解 “はい” “いいえ” で答える問題57/60,経時的理解56/80,III復唱86/100,IV物品呼称30/30,V読み文章の理解6/40,VI書字0/18で豊富な音韻性錯語と文章の復唱障害を認めた.

Table 1 

Results of nerve conduction study

DL
(ms)
MCV
(m/s)
CMAP amplitude
(distal/proximal) (mV)
F latency
(ms)
F frequency
(%)
SCV
(m/s)
SNAP amplitude
(μV)
Median L 5.67 47.2 11.57 (wrist)/10.73 (elbow) 27.35 88 30.4 27.9
Median R 5.31 50.7 7.87 (wrist)/7.27 (elbow) 26.05 69 35.4 31.4
Tibial L 3.80 40.5 15.09 (ankle)/12.00 (popliteal) 40.90 100
Sural L 43.5 7.50

R: right, L: left, DL: distal latency, MCV: motor conduction velocity, CMAP: compound muscle action potential, SCV: sensory conduction velocity, SNAP: sensory nerve action potential.

入院後経過:意思疎通困難となる発作の際には,喚語困難や文章の復唱障害,音韻性錯語,失書が増悪した.慢性髄膜炎の鑑別として,結核を含む感染症や自己免疫性疾患,悪性疾患は否定的な結果であったため,追加で行ったTTR変異解析でc.265T>C, p.Y89H (Y69H)変異を認めた.脊髄髄膜生検時に硬膜を切開すると,くも膜からくも膜下腔に通常は存在しない灰色の沈着物が豊富に存在した(Fig. 3).病理組織学的には,くも膜下腔の血管壁内やくも膜に付着して,針状や塊状の好酸性で無構造な沈着物を認めた.これらはCongo red染色で赤色に染まり,偏光顕微鏡下ではapple greenやyellow greenを呈し,抗トランスサイレチン抗体で標識された(Fig. 4).以上より,Y69H変異型遺伝性ATTR髄膜アミロイドーシスと診断した.タファミジスで治療を行っているが,経過中に眼・心症状の出現はなく,その後の眼科診察では明らかな異常を指摘されなかった.

Fig. 3 MRI and the subarachnoid space at the surgical biopsy site.

Surgical biopsy of the leptomeninges and varicose vein observed on gadolinium-enhanced fat-suppressed T1-weighed imaging was performed through Th11 laminectomy. Soft grayish material was seen in the subarachnoid space after dural incision, which extensively covered the veins.

Fig. 4 Histopathological findings of the biopsied subarachnoid vessel.

The images show Congo red staining (A, B; B is higher magnified image of the boxed area in A), polarized light microscopic imaging (C), and immunohistochemical staining for transthyretin (TTR) (D). Amyloid deposition is shown by the arrows in B (representative deposits) and immunolabeling in D. Bar = 300 ‍μm for A, C and D, and 45 ‍μm for B.

考察

本症例は,転倒発作や一過性の喚語困難,文章の聴理解障害など反復性かつ経時的に変化する多彩な神経障害があり,当初はてんかんやTIAを疑われ家族歴が明らかでなかったこ‍ともあり診断に難渋した.発症から数年でロゴペニック型進行性失語に類似する言語障害を呈し,SAHを合併した経過‍から,非典型的なアルツハイマー病(Alzheimer’s disease,以下ADと略記)や脳アミロイド血管症(cerebral amylold angiopathy,以下CAAと略記)も鑑別に挙がっていた.ADやCAAとしては,脳萎縮や大脳白質病変,脳実質内の微小出血を伴わず,脳血流シンチグラフィーの所見も非典型的であった.造影MRIではびまん性かつ高度の脳及び脊髄髄膜造影効果を認めたが,慢性髄膜炎として癌性髄膜炎,感染性髄膜炎,自己免疫性疾患やサルコイドーシスを示唆する所見はなかった.反復性の神経徴候をTFNEsと捉えたことを契機にY69H変異型遺伝性ATTR髄膜アミロイドーシスの診断に至った.

ATTR髄膜アミロイドーシスは,脳脈絡叢で産生された異型TTRの過剰沈着が原因とされている.Y69H変異型ATTRアミロイドーシスは11名(うち8名は家系内発症)の既報があり,いずれも眼症状もしくは神経症状に始まる髄膜アミロイドーシスを呈していた1)~5.多くは40~50歳代に発症,年単位で進行して一部は5~十数年の経過で死亡していた.ATTR髄膜アミロイドーシスの臨床症状の特徴として,TFNEsとして知られる失語や運動麻痺などの一過性神経脱落症状や経過中に合併する進行性認知機能障害などがある.病理学的に,脳脊髄のATTR沈着は軟髄膜やその血管もしくは血管周囲に限局して存在し,軟膜直下で神経毒性を引き起こして認知機能障害や失調を発現すると考えられている4.一方,全身性アミロイドーシスで最も頻度の高いV30M変異型においても認知機能障害のない病初期から心臓や末梢神経以外に軟髄膜やくも膜血管へのアミロイド沈着が確認されており,16年以上の長期経過例や高齢発症例では脳出血や認知機能障害を合併することが報告されている6.Y69H変異型などの髄膜アミロイドーシスは発症早期からのTFNEsが特徴的であるが,心症状や末梢神経障害を呈する報告もあり7本例でも認めた.こうした臨床像の違いは,異型TTRの産生部位や組織への親和性の違いが原因として考えられる.

ATTR髄膜アミロイドーシスの中枢神経症候は,繰り返すTFNEsと進行性の認知機能低下であり,代表的CAAである孤発性Aβ型CAAの臨床症候に極めて類似している.ATTR髄膜アミロイドーシスはCAAとオーバーラップした概念と考えられており,ATTR型CAAとも呼ばれる.病理学的にCAAが確認された病型もあり8)~10,脳内微小出血や脳表ヘモジデリン沈着を伴い脳出血を併発することもあるが変異型によって差がある.髄膜アミロイドーシスに特徴的な脳脈絡叢由来のATTR沈着はあくまで軟髄膜に限局して起こり脳実質や脳深部の血管には及ばないと考えられている.従って,小~中型の皮質血管壁主体にアミロイド沈着をおこすAβ型CAAとは侵される血管領域が異なるため,画像上の微小出血や脳表ヘモジデリン沈着の程度が異なり,またATTRの変異型によっても障害される血管に差ができ表現型にも差が生じるものと想定される.本症例では脳出血の既往はなくMRIで微小出血や脳表ヘモジデリン沈着も明らかでなかったが,SAHの病歴はあり脳表血管の脆弱性は疑われる.ATTR型CAAとAβ型CAAのTFNEsの比較では,共通点として一過性構音障害や片手の感覚障害が挙げられるが,持続時間や高血圧症の有無が異なる11.ATTR型では幻視や視覚異常が特徴的であるとされており,血管のみならずくも膜~軟膜下にびまん性アミロイド沈着をきたすことがAβ型CAAとの病態の違いに関連している可能性がある.本症例でもこれら局所神経徴候を経時的に発症した.局所神経徴候の特徴からは,遺伝性ATTR型CAAでは,早期から前頭-側頭-頭頂葉の境界領域における機能低下が示唆され,経過と共に症状が顕在化していくことが推測される.

遺伝性ATTR髄膜アミロイドーシスの認知機能低下は,病中期以降に様々な形で顕在化する経過を辿るものが多い.本症例では,発症4年で既に軽度認知症と判断されていたが,HDS-RやMMSTなどの得点は変動した.TFNEsとしての可逆的な認知機能障害が部分的に反映された結果と考えられた.発症6年でロゴペニック型進行性失語に類似した言語障害を呈しており,脳血流シンチグラフィーでは両側前頭側頭葉と左頭頂葉の血流低下を認め,言語障害のうち軽度の文章の聴理解障害と音韻性錯語を認め緩徐進行性であった.さらに発作性に意思疎通困難となる際には,文章の聴理解障害と音韻性錯語,失書が悪化していた.変動する言語障害を認めた際には,TFNEsの可能性を考慮する必要があると考えられる.

本例で認めた言語障害に類似するロゴペニック型進行性失語は,原発性進行性失語の一型であり,解剖学的には左シルビウス裂後方の側頭-頭頂葉接合部が責任病巣といわれている.自発語と呼称における語想起障害や句・文の復唱障害を中核症状とし,①音韻性錯語を伴う,②単語理解や対象知識の保存,③発話運動面の保存,④失文法を欠く,を支持項目とする1213.背景病理として,多くはアルツハイマー病を有し,剖検例における脳内蓄積蛋白解析で99例中76%がアミロイドβ(Aβ)の病理所見であったという報告からも,ある程度疾患との対応がある14.一方,レビー病理を伴う例15,複合病理を示す例16もあり,この失語が単一の疾患に由来するものではないことも明らかである.

以上のように,遺伝性ATTR髄膜アミロイドーシスは,異型TTRが軟髄膜を主体に沈着し,神経を中心として眼,心にも及ぶ点が限局性アミロイドーシスとは異なる疾患である.また,TTR遺伝子の変異型により異型TTRの沈着しやすい部位が異なることで表現型に特徴が現れ,時にCAAの側面も併せ持つものと考える.本症例はY69H変異型で,反復する転倒発作や一過性のロゴペニック型進行性失語に類似する言語障害を呈し,経過の中で変動したのが特徴である.遺伝性ATTR髄膜アミロイドーシスのTFNEsについては病態解明に至っていないが,今後症状出現時の脳波,脳血流シンチグラフィー,アミロイドPET,functional MRI所見の蓄積が重要と思われる.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

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