Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of tuberculous meningitis diagnosed early by direct Loop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP) method using centrifuged medium of cerebrospinal fluid culture
Rena OkuderaYu HongoKeito IshiharaKanshu ItoKatsunori IkewakiKazushi Suzuki
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2023 Volume 63 Issue 10 Pages 661-664

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要旨

結核性髄膜炎は死亡率の高い中枢神経感染症であり早期の診断治療が望まれる.診断確定には脳内の結‍核菌感染の証明が必要であるが塗抹,培養,及び国内保険収載されている従来の核酸増幅法は診断感度が十分ではなく,また培養は結果判明までに時間を要する.高感度の核酸増幅法としてnested PCR法があるが施行可能な施設は限られている.我々は脳脊髄液検体の液体培地の遠心沈渣を用いてLoop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法を施行し,培養よりも早期に結核菌感染を証明し得た症例を経験した.本手法は簡便で,かつ早期診断につながるため有用と考えられる.

Abstract

Tuberculous meningitis (TBM) is a central nervous system infection with a high mortality rate and requires early diagnosis and treatment. Identification of Mycobacterium tuberculosis in the cerebrospinal fluid is of primary importance in the diagnosis of TBM, however, conventional methods have some disadvantages: Rapid results tests such as smear and regular PCR method do not have sufficient diagnostic sensitivity; Nested PCR, which is one of the most sensitive tests, is not available in all facilities; Culture tests require a long period of 4–8 weeks for results. Here we report a case of TBM, diagnosed 14 days earlier than culture test by direct Loop-Mediated Isothermal Amplification (LAMP) method using centrifuged medium of cerebrospinal fluid (day 18) culture. The method we used here is simple, widely available, and considered to be useful for early detection of TBM.

はじめに

結核性髄膜炎の診断確定には中枢神経の結核菌感染を証明することが必要で,脳脊髄液の塗抹,培養,及びPCR法・Loop-Mediated Isothermal Amplification(LAMP)法等の核酸増幅法が用いられる1が,脳脊髄液のような菌量の少ない検体では検出感度が低く2,診断率が低い.また培養結果の判明には4~8週間を要し,診断・治療の遅れが危惧される.Nested PCR法が感度・特異度の高い核酸増幅法として有用である2ものの,施行可能な施設は限られている.今回,脳脊髄液検体の液体培地を用いてLAMP法を施行し,培養よりも早期に結核菌感染を証明し得た症例を紹介する.本手法は簡便で,結核性髄膜炎の早期診断に有用と考えられる.

症例

症例:37歳女性

主訴:発熱,頭痛,嘔気

既往歴:特記事項なし.

生活歴:フィリピン共和国生まれ.28歳時に来日.国外からきた労働者が多くいる会社の事務職.結核患者との接触はなし.

現病歴:第1病日から頭痛と発熱あり.頭痛の増悪,嘔気のため第9病日に近医を受診,脳CT,MRIでは異常なし.第10病日に精査目的で当院紹介.

家族歴:特記事項なし.

神経学的所見:意識清明,体温37.0°C,血圧142/82 ‍mmHg,心拍数56 ‍bpm.項部硬直,jolt accentuationを認めた.その他の異常所見なし.

検査所見:血液検査でWBC 2,600/μl,CRP 0.3 ‍mg/dl以下,血沈38 ‍mm/hと軽度上昇を認めた.抗HIV抗体,クリプトコッカス抗原,β-Dグルカン陰性で,インターフェロン-γ遊離試験(T-SPOT®. TB)は陽性.脳脊髄液検査では初圧130 ‍mmH2O,淡黄色,細胞数466/μl(単核球99.4%),蛋白311 ‍mg/dl,糖18 ‍mg/dl(血糖118 ‍mg/dl).ヘルペスウイルスのDNA定量検査陰性,アデノシンデアミナーゼ(ADA)9.6 ‍IU/‍l,T-SPOT陽性.一般細菌培養,抗酸菌塗抹染色,結核菌PCR法(第10病日の脳脊髄液検体),抗酸菌培養(喀痰検体:培養47日目の結果)はいずれも陰性.真菌同定検査も陰性.入院時脳CT,造影MRI,及び体幹CTでは異常所見なし.

経過:入院後,タゾバクタム・ピペラシリン,アシクロビルを投与したが,頭痛は徐々に悪化した.第10病日の脳造影MRIでは異常所見を認めなかった(Fig. 1A, B)が,第16病日に右優位の末梢性顔面神経麻痺,動眼神経麻痺が出現し,脳MRIで側脳室の拡大傾向を認めた.脳神経障害と水頭症が見られ,亜急性に進行する経過から結核性髄膜炎を疑い,第18病日に抗結核薬投与を開始した.出生地から多剤耐性結核菌の可能性を考慮し,イソニアジド(INH)200 ‍mg,リファンピシン(RFP)450 ‍mg,ピラジナミド(PZA)1,000 ‍mg,エタンブトール(EB)750 ‍mg及びレボフロキサシン(LVFX)500 ‍mgの5剤併用,またデキサメタゾン(DEX)16.5 ‍mgを併用した.第18病日の脳脊髄液検体でもPCR法は陰性であったが,同検体を1週間液体培地(Mycobacterium Growth Indicator Tube: MGIT)で培養し,その培地の一部を15,000 ‍rpm,30分で遠心処理し,沈渣でLAMP法を施行したところ結核菌陽性の結果を得た.同検体の培養検査では,第39病日に結核菌陽性の結果を得た.第20病日の脳造影MRIで,水頭症,脳底部髄軟膜の造影増強効果を認めた(Fig. 1C, D).水頭症に対し頻回の腰椎穿刺による脳脊髄液排出を試みたが,水頭症の進行を認めたため(Fig. 1F)経過中,複数回の脳脊髄液持続ドレナージを行った.培養検体での薬剤感受性確認後,第80病日からINH,RFP 2剤治療へ変更.脳神経障害は改善傾向となったが,脳MRIでは結核腫の出現(Fig. 1E)を認め,水頭症はステロイド減量に伴い増悪を繰り返した.高用量ステロイドを維持し,緩徐に漸減する方針とした.軽度の右動眼神経麻痺が残存したが,臨床症状と画像所見は軽快し(Fig. 1G, H)第148病日独歩で自宅退院した.

Fig. 1 Gadolinium-enhanced T1-weighted MRI obtained at day 10 (A and B), day 20 (C and D), day 120 (E and F), and day 147 (G and H).

The images at day 20 show leptomeningeal enhancement of ventral pons (C, Arrowhead), and hydrocephalus (D). The images at day 120 show tuberculoma (E, Arrow). Hydrocephalus has exacerbated (F). The images at day 147 show tuberculoma (G, Arrow) and hydrocephalus (H) improved slightly (G, Arrow). R: Right; L: Left.

考察

本例では,脳脊髄液検体のPCR法は陰性であったものの,抗酸菌液体培地で1週間培養後に遠心処理した沈査を用いてLAMP法を施行することで,培養の陽性結果が判明する14日前に結核菌感染が証明できた.

結核性髄膜炎の診断確定には,脳脊髄液検体による①塗抹での抗酸菌陽性,②培養での結核菌同定,③核酸増幅法による結核菌遺伝子の検出のうち,いずれかを満たす必要がある1.しかし感度は①が10~37%,②が43~52%34と十分ではなく,また培養結果の判明には4~8週間を要する.③は迅速診断が可能であるが,国内で保険収載されている従来の核酸増幅法は感度46~66%と十分ではなく,また施設や測定方法により一定していない5.LAMP法は,PCR法で必須の温度サイクルが不要であることや,6領域を認識するプライマーを用いるため特異性が高いことから,簡易,迅速,精確,安価な標的遺伝子増幅法とされ6,結核菌検出において他の核酸増幅法と同等の成績であったと報告されている7.本邦で使用可能な結核菌LAMP法の試薬であるLoopamp®結核菌群検出試薬キットの対象検体は「体液,組織,気管支洗浄液又はそれらの液体培養液,あるいは固形培地上で増殖したコロニーの菌懸濁液」であり8,本例のように液体培養液を検体として用いることが可能である.

ただし菌増殖確認前の液体培地を用いて結核菌検出を試みることは,検出感度が低下する可能性があり添付文書上は推奨されていない.そのため,実施を考慮する場合,患者への十分な説明ののち,倫理委員会への諮問を行う・陰性判定の場合は結果を過信しない等の十分な留意が必要である.

他の高感度の核酸増幅法としてnested PCR法があるが,結核性髄膜炎における感度は報告により異なり47.2~100%9)~11とされる.従来の核酸増幅法より高感度であるものの,感度は検体中の菌量に左右されるため9検体の状態によっては偽陰性の結果もとりうる.また手順が複雑であることなどから施行可能な施設は限られている.なお,nested PCR法に定量性を加えた新しい高感度診断法として,wide range quantitative nested real-time PCR法(WR法)も開発されており,今後の普及が期待されている2

従来の核酸増幅法は,喀痰のように菌体量の多い検体を対象として開発されており,脳脊髄液で検出感度が低い要因は,検体中の菌量が少ないためとされている29.喀痰検体での塗抹陰性例では陽性例よりLAMP法の感度が低いとの報告もあり12,検出感度を上げるためには,菌量を確保することが重要である.本例では,脳脊髄液を1週間培養することで菌量を増やし,培地を遠沈することで菌体濃度を高めたことが結核菌証明につながったと考えられる.培地上において病原体の発育が確認されていない段階で核酸増幅法を施行することは一般的ではないが,結核菌やボレリア属の同定において,病原体未発育の検体を用いて菌同定を試みた報告1314が,少数ながらある.本手法は簡便であり多くの施設でも施行可能と考えるが,核酸増幅に供するまでの適切な培養期間や,従来の核酸増幅法・nested PCRとの感度・特異度の差について,今後多数例での検討が望まれる.

結核性髄膜炎は,初期に髄膜刺激徴候を欠く場合や,症候や脳脊髄液所見が無菌性髄膜炎等と大きな違いがない場合も多く,早期診断は容易ではない15.治療の遅れによって水頭症や血管炎による脳梗塞を発症し,後遺障害を残すことも稀ではないため,初診時の鑑別に本疾患の可能性を挙げ早期診断に努める必要がある.今回我々が用いた,脳脊髄液検体の培養培地を遠沈して核酸増幅法を行う手法は簡便で,かつ迅速に結果の得られる方法として有用と考えられたため報告した.

Acknowledgments

謝辞:本症例の診断法について貴重な知見をご教示いただいた,結核予防会結核研究所抗酸菌部 御手洗 聡 先生に深謝いたします.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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