Rinsho Shinkeigaku
Online ISSN : 1882-0654
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Original Articles
Development of the Japanese version of the 16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly (J-IQCODE 16) for the Diagnosis of Prestroke Dementia
Shuhei EgashiraKanta TanakaAzusa OkaYoko NagasawaKaoru KohamaAzusa TokunagaAkiko OhataChikage KakutaYasuko FunabikiKazunori ToyodaMasafumi IharaMasatoshi Koga
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2023 Volume 63 Issue 5 Pages 275-285

Details
要旨

脳卒中予後の重要規定因子である発症前認知症の診断には16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly(IQCODE 16)が頻用される.日本版を標準手法で開発し,J-IQCODE 16として当院入院の脳卒中患者102名(DSM-5で発症前認知症19名)に適用した.無作為抽出した導出群51名のJ-IQCODE 16中央値は3.06で,受信者動作特性曲線下面積は0.96であった.カットオフ3.25の設定で検証群51名で感度90%,特異度85%であり,J-IQCODE 16は脳卒中の発症前認知症診断に有用と考えられる.

Abstract

The 16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly (IQCODE 16) has been frequently used to diagnose prestroke dementia, an important determinant of stroke prognosis. We developed the Japanese version of the IQCODE 16 (J-IQCODE 16) using standardized translation methods. We applied the J-IQCODE 16 to 102 patients with stroke (19 with prestroke dementia diagnosed with DSM-5) admitted to the stroke care unit in our hospital. The cohort was randomly divided into a derivation cohort and a validation cohort containing 51 patients each. In the derivation cohort, the median J-IQCODE 16 score was 3.06, and the area under the receiver operating characteristic curve for prestroke dementia was 0.96, with an optimal cutoff value of 3.25 determined using the Youden index. When applied this cut-point to the validation cohort, the sensitivity and specificity of the J-IQCODE 16 for prestroke dementia were 90% and 85%, respectively. The J-IQCODE 16 is considered useful for the diagnosis of prestroke dementia.

はじめに

脳卒中患者は5~21%で発症前から認知症を有し,発症前認知症は脳卒中患者の予後規定因子として働く1)~5.脳卒中患者の発症前の認知状態の特定は,臨床的な機能予後推定に重要なだけでなく,研究においても従来身体機能重視であった対象患者の組入基準に新たな評価軸を与え,脳卒中治療開発の精度を高める可能性がある.しかしながら認知症の診断には専門家による高度な総合的判断を要するだけでなく,脳卒中患者には直接的神経心理検査は有効でない場合も多いため,親族などを対象とする構造化されたスクリーニングツールが必要となる.

これらの要件を満たす尺度に,Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly(IQCODE)がある6)~8.IQCODEは1989年にJormらが報告した主介護者を情報提供者とした自記式の認知機能評価尺度であり,質問項目を16項目に短縮した16-Item IQCODEは簡便で信頼性と妥当性に優れることから18ヶ国語に翻訳を受け用いられ,発症前認知症評価の国際的なゴールドスタンダードとなっている9)~15.日本人の脳卒中患者においても16-Item IQCODEは発症前認知症の良好な診断精度を有する可能性が高く,本邦でも脳卒中発症前認知症評価にIQCODEを用いた報告は散見されるが,日本の生活様式や文化に合わせて日本語で作成され,妥当性検証を受けた日本版16-Item IQCODEの報告はない16)~18

今回我々は,脳卒中患者の発症前認知症の診断ツールを開発することを目的とした.標準化された方法で日本版16-Item IQCODE(J-IQCODE 16)を作成し,その妥当性を検証した.

方法

日本版16-Item IQCODE(J-IQCODE 16)の作成

Fig. 1に示すように,言語的に妥当な尺度翻訳を行う際に標準的に用いられる手順に沿って,J-IQCODE16を作成した19.原作者に日本版作成の許可を得た後,英語の原版から日本語への順翻訳を実施した.脳神経内科医2名(日本神経学会認定神経内科専門医,脳神経内科専攻医)が独立して翻訳作業を行い,異なる部分は協議を行い統合したものを順翻訳案とした.順翻訳案について看護師1名,臨床心理士1名,言語聴覚士1名から意見を聴取し,理解しやすく自然な日本語になるよう修正し,順翻訳とした(Supplementary data 1).英語の原作版と順翻訳案の対比表をTable 1に示す.Professional English editing service(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)に依頼し順翻訳から英語への逆翻訳を行った.得られた逆翻訳を参考に,順翻訳者と独立し,英語と日本語が堪能で認知症に精通した日本精神神経学会認定精神科専門医が順翻訳を再調整したものを,日本版原案とした.

Fig. 1 Procedure for assembling the Japanese version of the 16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly (J-IQCODE 16).

This figure shows the procedure from the original version to the completion of the Japanese versions of 16-Item IQCODE. The Japanese version is made through translation, back-translation, cognitive pre-testing, review by the original authors, and creating and modifying the Japanese draft.

Table 1  Comparison of the original version and the Japanese draft of the 16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly.
Preface
Now we want you to remember what your friend or relative was like 10 years ago and to compare it with what he/she is like now. 10 years ago was in 19____. Below are situations where this person has to use his/her memory or intelligence and we want you to indicate whether this has improved, stayed the same or got worse in that situation over the past 10 years. Note the importance of comparing his/her present performance with 10 years ago. So if 10 years ago this person always forgot where he/she had left things, and he/she still does, then this would be considered “Hasn’t changed much”. Please indicate the changes you have observed by circling the appropriate answer.
Compared with 10 years ago how is this person at:
ご友人やご家族の10年前を思い出していただき,それと現在の様子と比べてください.10年前というのは,______年です.以下にはご本人の記憶力や生活上の能力が必要な場面が挙げられています.それぞれの場面でご本人の能力が過去10年間で改善しているか,変わらないか,悪化しているかをご回答ください.現在と10年前の状態の比較が重要であることに気をつけてください.たとえば10年前,『本人がものをどこに置いたかをいつも覚えておらず』,かつ『現在でもそう』である場合には,この質問に対する回答は「あまり変わらない」となります.あなたから見た変化について,あてはまる回答に丸をつけて示してください.
ご本人の10年前と比較して:
Question
 1. Remembering things about family and friends e.g. occupations, birthdays, addresses  1. 家族や友人のこと(仕事,誕生日,住所など)を覚えておく
 2. Remembering things that have happened recently  2. 最近の出来事の記憶を覚えておく
 3. Recalling conversations a few days later  3. 数日後に会話の内容を思い出すことができる
 4. Remembering his/her address and telephone number  4. 本人自身の住所や電話番号を覚えておく
 5. Remembering what day and month it is  5. 今が何月何日なのかを覚えておく
 6. Remembering where things are usually kept  6. 物品をどこに保管しているのかを覚えておく
 7. Remembering where to find things which have been put in a different place from usual  7. 物品をいつもと異なる場所に置いても,その置いた場所を覚えておく
 8. Knowing how to work familiar machines around the house  8. おなじみの器具や機械の操作方法を知っている
 9. Learning to use a new gadget or machine around the house  9. 新しい電子機器や機械の操作方法を学ぶことができる
10. Learning new things in general 10. 概して新しいことを学ぶことができる
11. Following a story in a book or on TV 11. 本やテレビのストーリーについていくことができる
12. Making decisions on everyday matters 12. 日常の色々な場面で決定を下すことができる
13. Handling money for shopping 13. 買い物のときにお金を扱うことができる
14. Handling financial matters e.g. the pension, dealing with the bank 14. 金融(年金,銀行との取引など)について扱うことができる
15. Handling other everyday arithmetic problems e.g. knowing how much food to buy, knowing how long between visits from family or friends 15. どれくらいの分量の食品を買うか,家族や友人が訪ねてきてからどれくらい経ったか,など日常の数の問題を扱うことができる
16. Using his/her intelligence to understand what’s going on and to reason things through 16. 知性をもって,何が起こっているのかを理解し,理由付けを行うことができる
Answer
1 = Much improved 1 = 大きく改善
2 = A bit improved 2 = 少し改善
3 = Not much change 3 = 変わらない
4 = A bit worse 4 = 少し悪化
5 = Much worse 5 = 大きく悪化

次に,当院脳卒中ケアユニットに入院した脳卒中患者10名の情報提供者(日本語を母国語とする18歳以上で協力が得られる者)に対し日本版原案を用いてプレテストを行った.プレテストの結果をもとに日本版原案を修正し,日本版修正案とした.脳神経内科専門医と精神科専門医が日本版修正案について,認知機能低下の評価尺度として内容が妥当かを判断した.Professional English editing service(カクタス・コミュニケーションズ株式会社)に依頼して日本版修正案から英語への逆翻訳を行い,原著者レビューによる承認を得たものを日本版16-Item IQCODE(J-IQCODE 16)として確定した.

J-IQCODE 16の脳卒中発症前認知症の診断精度とカットオフ値の算出

前向きコホート研究で,J-IQCODE 16による脳卒中患者における発症前認知症の診断精度とカットオフ値の算出を行った.研究対象者の選択基準は 1)国立循環器病研究センター脳卒中ケアユニットに入院,2)年齢18歳以上,3)脳卒中と診断,かつ 4)対象患者の経年変化を知っている信頼できる情報提供者が存在することとし,連続サンプリングした.除外基準は 1)対象者本人もしくは情報提供者が日本語話者ではない,あるいは日本語の読み書きができない,または 2)適切な情報提供者の協力が得られない,とした.組み入れ前に全ての研究対象者もしくは代諾者から書面による同意を得‍た.

研究対象者の情報提供者に対し,脳卒中ケアユニット看護師がJ-IQCODE 16を手渡し,回答を依頼した.背景因子として,性別,年齢,教育年数,脳卒中の既往,高血圧,糖尿病,脂質異常症,心不全の有無,回答者の患者との関係,脳卒中発症から組み入れまでの日数,入院時National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコア,脳卒中病型(脳梗塞,脳出血,くも膜下出血),認知症の既診断と抗認知症薬の使用を調査した.

発症前認知症のゴールドスタンダードは精神障害の診断と統計マニュアル第5版(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5,以下DSM-5と略記)に基づく脳神経内科医2名による診断とした.この2名はJ-IQCODE 16の結果からマスク化され,互いに独立に患者及び介護者からの病歴聴取,身体的及び神経学的診察,認知機能検査,画像検査などから患者が発症前認知症を有するかを総合的に判定した.発症前認知症を有すると判定された場合,患者はDSM-5に基づいてアルツハイマー病,前頭側頭型認知症,レビー小体型認知症,血管性認知症,それ以外に分類された.2名の判定が一致した際はその結果を採用し,一致しなかった場合は協議して総合的に判定した.発症前と発症3ヶ月後のmodified Rankin Scale(mRS)を調査し,機能転帰不良を,発症前mRSが2未満の場合は3ヶ月後mRSが2以上になった場合,発症前mRSが2以上の場合は発症前mRSと比較し3ヶ月後mRSが1以上増悪した場合と定義した.発症前認知症の有無で機能転帰不良の割合を比較した.

Ascertain Dementia 8日本語版(AD8-J)をJ-IQCODE 16と同時に情報提供者に回答してもらうとともに,言語聴覚士または臨床心理士が脳卒中発症1週間以降に患者に対してMini Mental State Examination-Japanese(MMSE-J,精神状態短時間検査 改訂日本版)を実施した.

内的一貫性の評価に,全登録症例のデータを用いてJ-‍IQCODE 16の各質問項目でCronbach’s alphaを算出し質問項目のスコア間の相関を評価した.収束的妥当性の評価に,J-IQCODE 16スコアと,AD8-Jスコア及びMMSE-Jスコアの散布図をプロットして視覚的に相関しているかを判定し,スピアマンの順位相関係数を算出して既存の尺度との相関関係の強さを評価した.J-IQCODE 16スコアとMMSE-Jスコアとの関連には脳卒中重症度が強く影響すると考えられたため,入院時のNIHSSスコア ≤10点,>10点の層別化も行った.

研究対象者を無作為に,導出群と検証群に1対1の割合で分割した.導出群において,DSM-5による発症前認知症の診断を従属変数,J-IQCODE 16スコアを説明変数としたreceiver operating characteristic(ROC)解析を行い,ROC曲線下面積(Area Under the Curve,以下AUCと略記)を求めて診断精度の指標とした(基準関連妥当性).Youden indexを用いてJ-IQCODE 16スコアのゴールドスタンダードに対するカットオフ値を設定した.検証群において,導出群で設定したカットオフ値を適用した場合の発症前認知症識別の感度,特異度,正確度を算出した.感度分析に,全登録症例のデータを用いて,情報提供者が配偶者かそれ以外か,教育年数 ≤12年,>12年に層別化して同様のROC解析とAUCの差の検定を行った.

J-IQCODE 16とAD8-Jの発症前認知症の診断精度比較を行うために,全登録症例のデータを用いて,それぞれのスコアを説明変数,DSM-5による発症前認知症の診断を従属変数としたROC解析とAUCの差の検定を行った.AD8-JでもJ-IQCODE 16と同様に導出群でカットオフ値を設定し,検証群に適用した場合の発症前認知症識別の感度,特異度,正確度を算出した.

16-Item IQCODEの認知症の識別能はAUCで0.77~0.96と報告されておりプレテストで発症前認知症の診断は40%になされたため,推定AUCを0.77,検出力0.95,有意水準5%,対象集団における発症前認知症ありとなしの比を1:1.5と仮定したところ,必要サンプルサイズは45例と算出された.ROC解析を行う導出群を50例とし,同数の検証群と合わせて100名の研究対象者を組み入れる計画とした.統計処理はStataSE16(StataCorp, College Station, Texas)で行い,統計学的有意水準を5%以下とした.本研究は診断精度研究に関するSTARD 2015ガイドラインに沿って行った20.研究プロトコルは実施前に策定され,国立循環器病研究センター倫理委員会の審査を受けて承認された(登録番号21-K284).

結果

J-IQCODE 16の作成

プレテストで日本版原案を脳卒中患者10名の情報提供者に対して使用し,表面妥当性を確認した(Supplementary data 2).プレテストをもとに日本版原案を修正したが,変更内容は軽微な修正のみであった(Supplementary data 3).得られた日本版修正案の内容妥当性を,神経内科専門医と精神科専‍門医が確認した.Professional English editing serviceに依頼して日本版修正案を逆翻訳し,原著者レビューを受けて承認‍された.最終的に得られたJ-IQCODE 16は,Australian National ‍Universityの原著者研究室のホームページに登録された(https://rsph.anu.edu.au/research/tools-resources/informant-questionnaire-cognitive-decline-elderly)(Fig. 2).

Fig. 2 The final version of the Japanese version of 16-Item IQCODE (J-IQCODE 16).

This figure shows the completed Japanese version of the 16-Item IQCODE (J-IQCODE 16). The original author approved J-IQCODE 16 and registered it on the website of the original author’s laboratory at the Australian National University (https://rsph.anu.edu.au/research/tools-resources/informant-questionnaire-cognitive-decline-elderly).

ベースラインの患者特性

研究対象者選択のフローダイアグラムをFig. 3に示す.研究対象期間に対象となり得る患者は254人存在し,うち131人に研究同意を取得した.J-IQCODE 16が回収できたのは102人(回収率78%)であり,回収できた102人を解析対象とした.全登録症例の患者特性をTable 2に示す.対象患者は女性42%,年齢の中央値73(四分範囲63~80)歳,教育年数の中央値12(12~16)年,回答者が患者の配偶者であったのが45%,発症から組み入れまでの日数の中央値0(0~1),入院時NIHSSスコアの中央値3(1~8)であった.脳卒中病型は脳梗塞78%,脳出血22%で,ゴールドスタンダードにより発症前認知症は19名(19%)に診断された.発症前認知症と診断された19名のうち,脳卒中発症前に既に認知症と診断されており抗認知症薬が投与されていたのは4名(21%)であった.認知症病型はアルツハイマー型6名(32%),血管性5名(26%),レビー小体型3名(16%),それ以外5名(26%)であった.J-IQCODE 16スコアの中央値は3.06,四分位範囲は3.00~3.44であった.機能転帰不良は発症前認知症を有した群で68%見られ,有さなかった群24%よりも多かった(P値 <0.001).

Fig. 3 Flow diagram of participants throughout the study.

There are 254 potentially eligible patients during the study period, and informed consent is obtained from 131. J-IQCODE 16 is collected from 102 patients, and the response rate is 78%. The 102 who responded are included in the analysis.

Table 2  Baseline characteristics of study participants
Total
(n= 102)
Derivation cohort
(n= 51)
Validation cohort
(n= 51)
P value
Women 43 (42%) 19 (37%) 24 (47%) 0.32
Age, years 73 (63–80) 74 (68–80) 72 (59–81) 0.59
Education, years 12 (12–16) 12 (12–16) 12 (12–16) 0.43
History of stroke before the index stroke 31 (30%) 19 (37%) 12 (24%) 0.13
Hypertension 84 (82%) 44 (86%) 40 (78%) 0.30
Diabetes mellitus 26 (26%) 16 (31%) 10 (20%) 0.17
Dyslipidemia 24 (47%) 28 (55%) 52 (51%) 0.43
Congestive heart failure 52 (51%) 24 (47%) 28 (55%) 0.43
Patient’s spouse answered the J-IQCODE 16 46 (45%) 23 (45%) 23 (45%) 1.00
Time from onset of index stroke to inclusion to the study, days 0 (0–1) 0 (0–0) 0 (0–1) 0.38
Baseline NIHSS score 4 (1–9) 4 (1–9) 3 (1–6) 0.18
Prestroke dementia diagnosed based on DSM-5 by two neurologists 19 (19%) 9 (18%) 10 (20%) 0.84
J-IQCODE 16 score 3.06 (3.00–3.44) 3.06 (3.00–3.44) 3.00 (3.00–3.44) 0.72
Stroke subtype 0.63
Cerebral infarction 80 (78%) 41 (80%) 39 (77%)
Intraparenchymal hemorrhage 22 (22%) 10 (20%) 12 (24%)

Data are presented as median (interquartile range) or n (%). J-IQCODE 16 indicates Japanese version of 16-Item Informant Questionnaire on Cognitive Decline for the Elderly; NIHSS, National Institutes of Health Stroke Scale; DSM-5, Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5. The derivation cohort and the validation cohort were compared using the Mann Whitney U test for continuous variables, the Pearson’s chi-squared test for binary and categorical variables.

内的一貫性,収束的妥当性

J-IQCODE 16の各質問項目のCronbach’s alphaは0.98であった.J-IQCODE 16スコアとAD8-Jスコアの散布図,全登録症例とNIHSSスコアにより層別化した場合のJ-IQCODE 16スコアとMMSE-Jスコアの散布図をFig. 4に示す.スピアマンの相関係数は,J-IQCODE 16スコアとAD8-Jスコアで0.80,J-IQCODE 16スコアとMMSE-Jスコアで−0.35であった.NIHSSスコアで層化した場合,MMSE-JスコアとJ-IQCODE 16スコアとのスピアマンの相関係数はNIHSSスコア10点以下で−0.26,10点超で−0.49であった.

Fig. 4 Scatter plots of J-IQCODE 16 score and existing measures of cognitive decline.

Scatter plots of AD8-J and MMSE-J scores versus J-IQCODE 16 scores are shown in Figs. A and B. Spearman’s rho with the J-IQCODE 16 score is 0.80 for the AD8-J score and -0.35 for the MMSE-J score. Figures C and D show scatter plots of MMSE-J and J-IQCODE16 scores for the mild stroke group (National Institute of Health Stroke Scale: NIHSS score 0–10 points), moderate to severe stroke group (NIHSS score over 10 points). Spearman’s rho between the J-IQCODE 16 score and the MMSE-J score is −0.26 in the mild and −0.49 in the moderate to severe stroke group, respectively.

基準関連妥当性

導出群と検証群の患者特性をTable 2に示す.導出群におけるDSM-5に基づく発症前認知症の診断を従属変数,J-IQCODE 16スコアを説明変数としたROC曲線をFig. 5に示す.導出群のJ-IQCODE16中央値は3.06,AUCは0.96(95%信頼区間0.91~1.00)であった.カットオフ値は3.25と算出された.検証群において導出群で設定したカットオフ値を適用した場合の発症前認知症診断の感度は90%,特異度は85%,正確度は86%であった.

Fig. 5 Receiver operating characteristic curve of the logistic regression model with the diagnosis of prestroke dementia as the dependent variable and the J-IQCODE 16 score as the explanatory variable in the derivation group.

This figure shows the receiver operating characteristic (ROC) curve of the logistic regression model with the diagnosis of prestroke dementia based on Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5 (DSM-5) by two neurologists as the dependent variable and the J-IQCODE 16 score as the explanatory variable in the derivation group. The area under the ROC curve is 0.96 (95% confidence interval 0.91–1.00), with an optimal cutoff value of 3.25 determined using the Youden index.

感度分析のROC曲線をFig. 6に示す.回答者が配偶者の場合のAUCは0.99(95%信頼区間0.97~1.00),回答者が配偶者でない場合のAUCは0.94(95%信頼区間0.87~1.00),P値は0.12であった.カットオフ値を適用した場合の発症前認知症識別能は回答者が配偶者の場合,感度100%,特異度88%,正確度89%,回答者が配偶者でない場合,感度94%,特異度80%,正確度84%であった.患者の教育年数が12年超の場合のAUCは0.98(95%信頼区間0.95~1.00),患者の教育年数が12年以下の場合のAUCは0.96(95%信頼区間0.90~1.00),P値は0.42であった.カットオフ値を適用した場合の発症前認知症識別能は患者の教育年数が12年超の場合,感度100%,特異度90%,正確度91%,患者の教育年数が12年以下の場合,感度93%,特異度81%,正確度84%であった.

Fig. 6 Differences in receiver operating curve when stratified by whether the respondent is spouse or not (A) and by the patient’s years of education (B)

The AUC was 0.99 (95% confidence interval 0.97–1.00) when the respondent is spouse and 0.94 (95% confidence interval 0.87–1.00) when the respondent is not spouse, with P value of 0.12. When the cutoff is applied, the prestroke dementia discrimination performance is 100% sensitive, 88% specific, 89% accurate when the respondent is spouse, 94% sensitive, 80% specific, and 84% accurate when the respondent is not spouse. The AUC was 0.98 (95% confidence interval 0.95–1.00) when the patient has over 12 years of education and 0.96 (95% confidence interval 0.90–1.00) when the patient has 12 or less years of education, with P value of 0.42. When the cutoff is applied, the prestroke dementia discrimination performance is 100% sensitive, 90% specific, and 91% accurate for patients with over 12 years of education, and 93% sensitive, 81% specific, and 84% accurate for patients with 12 or less years of education.

J-IQCODE 16とAD8-Jの診断精度比較をSupplementary data 4に示す.AUCはJ-IQCODE 16で0.95(95%信頼区間0.90~0.99),AD8-Jで0.95(95%信頼区間0.91~0.99)で,両者に有意な違いはなかった(P値0.92).AD8-Jのカットオフは導出群で1と算出され,検証群にこのカットオフ値を適用した場合の発症前認知症識別能は感度100%,特異度62%,正確度69%であった.

ゴールドスタンダード及びJ-IQCODE 16を研究対象者とその情報提供者に使用したことによる有害事象はなかった.

考察

標準化された翻訳プロセスを用いて日本版16-Item IQCODEを作成した.脳卒中患者に対して適用したところ,脳卒中発症前認知症に対する優れた識別能を示した.

本研究の新規性は日本版16-Item IQCODEの開発と妥当性検証にある.尺度翻訳においては,得られた翻訳版が原版と同じ概念を測定していることを外部の基準を用いて示す必要がある.原版16-Item IQCODEの脳卒中発症前認知症判定の有効性は確立されていた.本研究では脳卒中発症前認知症の診断を参照基準として用いたことで,日本版16-Item IQCODEの妥当性を示すのと同時に,同尺度を実際の脳卒中患者に適用した場合の発症前認知症判定のカットオフを報告できた.

医学的測定尺度の翻訳は診断基準の標準化とデータの国際比較のために重要だが,慎重で繊細な作業を要する.翻訳者は原作版との整合性を維持しながら言語的な違いだけでなく文化的背景も考慮して文言を調整する必要があり,アウトプットとして得られた翻訳版は原作版と同じ概念を測定しているだけでなく,回答者にとって受け入れられやすいものでなければならない.本研究で我々は順翻訳,逆翻訳,プレテスト,原著者レビューといった標準化された手順を踏んだ.得られた翻訳版は原作版とほぼ等価で妥当性が担保されていると考えられた.プレテストや他職種のフィードバックをおこなったことで,回答者に受け入れられやすい表現に整えることができた.作成過程で大幅な修正を必要とするような指摘はなく,原作版16-Item IQCODEが文化的普遍性を有する優れた尺度であることが示唆された.

J-IQCODE 16は脳卒中発症前認知症の判定において,AUC 0.96,カットオフ値3.25の設定で感度90%,特異度85%,正確度86%の優れた測定特性を示した.脳卒中発症前に限らなければ,16-Item IQCODEの認知症識別能については過去に複数の報告がある.Jormらによるオーストラリアでの75歳以上の地域住民500名に対する検討ではAUC 0.77,カットオフ3.38で感度75%,特異度68%であった21.Phungらによるアラビア語版を用いた65歳以上のレバノン人地域住民236名に対して行った検討では,AUC 0.96,カットオフ3.34で感度93%,特異度94%であった22.Del-Serらによるスペインでの認知症外来通院中患者53名に対する検討ではAUC 0.77,カットオフ3.88で感度79%,特異度73%であり,Harwoodらによるイギリスでの65歳以上の入院中の201名に対する検討ではカットオフ3.44で感度100%,特異度86%であった2324.本研究における識別能は既報と比較して先行研究と同等からやや優れている結果であった.脳卒中患者に対しては直接的な問診があまり有効でなく,DSM-5に基づく認知症診断にも情報提供者からの情報に頼る部分が大きくなったことから,ゴールドスタンダードと16-Item IQCODEによる判定が一致しやすくなり,診断精度が高くなった可能性がある.感度分析でも高い発症前認知症識別能を有し,情報提供者と患者の関係,患者の教育年数によらず発症前認知症の判定に有用であることが示唆された.

医学的測定尺度の妥当性の指標のひとつに,同じ概念を測定する,別の既存の尺度との結果の一致性がある.同じ概念を測定していたとしても,測定結果は測定プロセスの影響を受けるため,一般に比較する既存の尺度は別の測定方法によるものが望ましいとされる.本研究ではJ-IQCODE 16と同じく主介護者を情報提供者とした自記式尺度であるAD8-Jと,患者に対する直接的神経心理検査であるMMSE-Jとを用いてJ-IQCODE 16との相関を求めた.J-IQCODE 16はAD8-Jと強い正の相関,MMSE-Jと負の相関を認めたことから,認知機能低下の測定尺度としての収束的妥当性を有すると考えられた.J-IQCODE 16とAD8-Jの発症前認知症の診断精度はAUC‍では同等だが,カットオフでは感度はともに良好で特異度はJ-IQCODE 16でやや優れており,既報と類似の傾向を示した2

本研究の限界に外的妥当性の問題がある.本研究は脳卒中患者のみを対象としており,一般地域住民などの異なるセッティングでは認知症の識別能とカットオフは本研究と異なる可能性がある.また研究への未参加あるいは質問紙の不応答で除外された患者とその情報提供者は回答の精度が低いことが予想され,患者選択バイアスにより診断精度が過大評価された可能性がある.認知症病型によりJ-IQCODE 16による認知症の判定精度が異なる可能性があるが,本研究はサンプル数の制限で検討出来なかった.収束的妥当性の理想的な比較対象である脳卒中発症前のMMSE-Jが収集困難であったため,代替手段として発症後のMMSE-Jを用いた.結果として収束的妥当性の検証が不十分となっている可能性がある.既報では不安と抑うつがIQCODEスコアによる認知症判定の正確度を下げる可能性が指摘されているが,本研究ではこれらの項目は未収集である25

結論

標準手法で作成し妥当性検証を行った日本版16-Item IQCODE(J-IQCODE 16)を,脳卒中発症前認知症判定のカットオフとともに報告した.J-IQCODE 16は脳卒中発症前認知症の診断に有用と考えられるが,外的妥当性の検証が必要である.

Notes

本研究は第一三共奨学寄付プログラムから寄付の形態で資金提供を受けた.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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