Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
Disseminated herpes zoster complicated by lumbosacral polyradiculoneuritis and fibular neuropathy: A case report
Kosei NakamuraShintaro TsuboguchiItaru NinomiyaOsamu AnsaiMasato KanazawaOsamu Onodera
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2023 Volume 63 Issue 6 Pages 359-362

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要旨

症例は74歳,女性.左L5領域の帯状疱疹(herpes zoster,以下HZと略記)と汎発性HZを発症し,左下肢筋力低下と自覚的な排尿障害を来した.L5を中心とした多発神経根障害が疑われたが,前脛骨筋の筋力低下は重度であり,治療後も他のL5支配筋と比較して筋力の改善が乏しかった.水痘・帯状疱疹ウイルスによる腰仙髄領域の多発神経根障害に高度な腓骨神経障害の合併と考えた.HZに伴う運動麻痺では神経根と末梢神経が同時に病変部位となることがある.

Abstract

A 74-year-old woman who presented with a skin eruption involving the left lateral leg along the L5 dermatome and widespread eruptions on the buttocks and trunk was diagnosed with disseminated herpes zoster (HZ). She also had left lower extremity muscle weakness. The pattern of distribution of muscle weakness and gadolinium-enhanced magnetic resonance imaging findings indicated polyradiculoneuritis mainly affecting the L5 spinal root. Moreover, we observed severe weakness of the left tibialis anterior muscle. Weakness of the other L5 myotomes reduced after antiviral treatment; however, left tibialis anterior muscle weakness persisted. We concluded that lumbosacral polyradiculoneuritis was attributable to varicella-zoster virus (VZV) infection, which also caused fibular neuropathy in this case. Retrograde transport of the VZV may have infected the fibular nerve throughout the sites of skin eruption. It is important to be mindful of simultaneous nerve root and peripheral nerve involvement in cases of motor paralysis associated with HZ infection.

はじめに

帯状疱疹(herpes zoster,以下HZと略記)は,初感染時に水痘の皮膚病変から感覚神経終末に水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus,以下VZVと略記)が入り,感覚神経の軸索流に乗って三叉神経節や後根神経節に運ばれ,潜伏感染する.加齢,細胞性免疫抑制などにより再活性化し,下行して皮膚に至り,神経支配領域に沿って増殖することで帯状の水疱を形成する1.一方,HZの原発巣から離れたところに水痘に似た散布疹が見られることがあり,これを汎発性(播種性)HZという.

VZV感染症では,時にHZに伴った脊髄前角障害や前根神経節障害,神経叢障害,末梢神経障害による四肢や体幹の運動障害を来す症例も報告されており,髄節性の筋力低下を生じるものをsegmental zoster paresis2,HZに伴う四肢麻痺はzoster-associated limb paresis(ZALP)と呼ぶ3.ZALPは下肢より上肢近位筋障害が多いとされ4,障害部位としては,神経叢41%,神経根37%,単神経14%,神経根神経叢8%とされる3.また非常に稀ながら,腕神経叢障害に単神経障害が合併した報告や5,腰仙髄領域の多発神経根障害で重度の前脛骨筋麻痺と腓骨神経の高度な障害を認めた報告がある6

今回,L5領域のHZと汎発性HZを発症し,片側の下肢筋力低下と自覚的な排尿障害を認め,腰仙髄領域の多発神経根障害と,重篤な腓骨神経障害が生じた1例を経験したので,報告する.

症例

症例:74歳女性

主訴:左足の動きの悪さ

既往歴:関節リウマチでメトトレキサート6 mg/週を内服し,疾患活動性は安定していた.糖尿病でダバグリフロジンプロピレングリコール水和物2.5 mgを内服していた.腰部脊柱管狭窄症でL3/4後方固定術を受けていた.

現病歴:2021年X月,全身に皮疹が出現した.皮疹出現後3日目に近医から当院皮膚科に紹介となった.受診時は全身に紫斑を伴った水疱が散在し,腹部の水疱よりVZV抗原キット(デルマクイック®VZV)陽性であり,汎発性HZの診断で入院した.入院時,皮疹は全身に散在していたが,腰背部,左大腿外側,左下腿外側を中心に集簇していた(Fig. 1).隔離管理となり,下肢のしびれとふらつきがあることから,尿道カテーテルが留置された.汎発性HZに対し,アシクロビル点滴静注(750 mg/日)が開始となった.入院2日目に尿道カテーテルは抜去され自尿は得られていたが,残尿感を自覚していた.同日より左足が重い感じを訴え,入院3日目より左下肢のしびれ感の増強と動きの悪さが悪化したため,入院4日目に当科に紹介された.

Fig. 1 Photographs of skin eruptions at admission.

The photographs show skin rash and vesicles of herpes zoster in left buttocks and back (A), and lateral aspect of the left thigh (B), and lateral aspect of the left leg and instep of the foot (C).

一般所見:体温36.8°C,血圧140/64 mmHg,脈拍51/分 整.体幹では散在性に皮疹を認め,左L5領域を中心に水疱を伴う紅斑を認めた.左足部は腫脹していた.

神経学的所見:当科初診時(入院4日目)の診察では,意識清明,脳神経に異常なく,項部硬直を認めなかった.徒手筋力テストで上肢と右下肢の筋力低下はなく,左下肢で腸腰筋5,大腿四頭筋4,中殿筋4,ハムストリング4,前脛骨筋1,長母趾伸筋1,後脛骨筋3,下腿三頭筋4を示し,左下垂足を認めた.壁に手をついて歩行は可能.腱反射は上下肢とも亢進減弱なく,Babinski反射は陰性だった.左足背部の触覚低下,左母趾にしびれ感を認め,振動覚は低下していなかった.残尿感の自覚はあるが便秘はなく,小脳症状は認めなかっ‍た.

検査所見:白血球数は5,590/μlと正常範囲内だが,異形リンパ球を認めた.AST 144 U/l,ALT 54 U/l,LDH 595 U/l,γ-GTP 23 U/l,T.Bil 1.1 mg/dlと軽度肝機能障害を認めた.CK 110 IU/l,CRP 2.79 mg/dl,HbA1c 6.5%であった.心電図と胸部X線に異常は認めなかった.入院4日目に実施した脳脊髄液検査では,初圧11.5 cmH2O,細胞数44/mm3(全て単核球),蛋白99 mg/dl,糖44 mg/dl(血糖120 mg/dl),IgG index 1.03,髄液VZV polymerase chain reaction(PCR)36×103コピー/mlと細胞数増加・蛋白増加,およびVZV PCR陽性であった.ガドリニウム増強腰髄MRI所見(入院7日目):左L5腰神経は馬尾レベルから椎間孔外にかけてIterative Decomposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least-squares estimation(IDEAL)法で高信号,同部位に造強効果を認めたが,脊髄実質には信号変化は見られなかった(Fig. 2).電気生理学的所見(入院22日目):短趾伸筋を記録筋とした左腓骨神経の運動神経伝導検査では,足首と腓骨頭下での最大刺激で複合筋活動電位(compound motor action potential,以下CMAPと略記)が導出できなかった.左脛骨神経でもCMAPの振幅低下を認めた.左腓腹神経の感覚神経伝導検査は正常だった(Table 1).

Fig. 2 Lumbar MRI.

Iterative Decomposition of water and fat with Echo Asymmetry and Least-squares estimation (IDEAL) coronal images indicates that L5 nerve shows continuous high signals from L5 nerve root (A, arrow) to the cauda equina (B, arrows) [3.0 T; repetition time (TR) 608 ms; echo time (TE) 8.77 ms].

Table 1  Motor and sensory nerve conduction studies.
CMAP amplitude
distal/prox. (mV)
DL
(ms)
MCV
(m/s)
SNAP amplitude
(μV)
SCV
(m/s)
lt-fibular NR NR NR
lt-tibial 1.61/1.32
(N > 5.0)
4.9
(N < 6.5)
40.4
(N 41–55)
lt-sural 5.0 49.0
(N 41.3–60.9)

Abbreviations; CMAP: compound motor action potential, DL: distal latency, MCV: motor conduction velocity, SNAP: sensory nerve action potential, SCV: sensory conduction velocity, N: normal range or values, NR: non-recordable.

入院後経過:汎発性HZと同時期に,皮疹の集簇している左L5皮節と同側で同じレベルを含む左L3~S1筋節に筋力低下を認め,自覚的な排尿障害および残尿感もあることから,汎発性HZに伴う腰仙髄領域の多発神経根炎あるいは神経叢炎を考え,入院4日目よりアシクロビル1,500 mg/日に増量し2週間点滴静注を行った.入院7日目に全ての水疱が痂皮化した.しびれ感,残尿感,後脛骨筋を含む前脛骨筋以外の筋力は改善傾向だったが,左下垂足の改善が乏しく入院8日目よりメチルプレドニゾロンのパルス療法(1 g/日×3日間)を併用した.リハビリテーションを行い,左前脛骨筋以外の筋力は元の程度に改善したが,左前脛骨筋の筋力は改善しなかった.入院29日後にリハビリテーション病院に転院し,転院後11日で自宅退院した.退院から8か月後より徐々に足首の背屈が可能となった.退院後1年2か月経過した時点では,左前脛骨筋の筋萎縮は明らかではなかったが,左前脛骨筋と長母趾伸筋の筋力は徒手筋力テスト4程度,左母趾にしびれ感が持続し,左下腿外側に触覚鈍麻が残存していた.

考察

L5領域のHZと汎発性HZを発症し,片側の下肢筋力低下と自覚的な排尿障害を来した1例を経験した.初期には腰仙髄領域の多発神経根障害を生じ,高度な腓骨神経麻痺が残存した点が特徴的だった.

本症例では,左L5領域のデルマトームを中心にHZの皮疹を認め,左L3~S1神経根支配筋の筋力低下を認めた.皮疹や浮腫のため感覚障害の範囲は不明瞭であったが,異常感覚は左母趾,感覚鈍麻は左足背部が主体だった.腰髄MRI画像で左L5神経根が馬尾レベルから椎間孔外にかけて造影効果を認め,髄液VZV-PCRが陽性であった.また,脛骨神経の運動神経伝導検査のCMAP振幅が低下していたが,左腓骨神経の感覚神経伝導検査で異常を認めないことからS1神経根障害が想定された.これらの所見から,左L5~S1神経根を中心とした多発神経根障害があり,髄腔内侵襲も伴ったと考えられた.抗ウイルス薬とステロイドで治療を行ったが,L5神経根支配筋の中でも上殿神経支配の中殿筋や脛骨神経支配の後脛骨筋と比較し,腓骨神経支配の前脛骨筋の筋力低下は重度で改善が乏しかった.針筋電図検査と浅腓骨神経感覚神経伝導検査は実施していないが,短趾伸筋を記録筋とした腓骨神経の運動神経伝導検査では,足首と腓骨頭下での最大刺激で導出できず,前脛骨筋のみ高度な筋力低下が残存したため,腓骨神経の高度な軸索障害を想定した.ただし,短趾伸筋を記録筋とした場合,腓骨神経の運動神経伝導検査は潜在的に障害を受ける場合があるため7,本症例においても同検査において潜在的に障害を受けていた可能性はある.今後前脛骨筋の筋萎縮が進行しないか経過を見ていく必要がある.

VZVによる腰仙髄領域の神経叢あるいは多発神経根障害で,重度の腓骨神経障害を認めることがある6.これらの腓骨神経麻痺の機序として,①L5領域のHZの皮疹から腓骨神経の運動神経末端にVZVが逆行性に感染する機序,②近位部(脊髄前角や前根神経節,神経叢レベル)で腓骨神経領域のみに感染が波及し,Waller変性を起こす機序を考えた.本症例では腓骨神経の運動神経伝導検査でCMAPが導出されず,脛骨神経のCMAPの振幅低下と比べて障害の程度に明らかな差があった.さらに,坐骨神経からの分枝支配のハムストリング筋群や,脛骨神経支配の後脛骨筋では筋力は正常あるいは軽度の低下であり,治療後すぐに元の筋力に改善した.これらの所見から,本症例では病初期はL5領域を中心とした多発神経根炎があったが,L5領域の皮疹から逆行性にVZVが腓骨神経の運動神経末端に感染したことで腓骨神経単独が強く障害された可能性を第一に考えた.HZの水疱中には大量の遊離ウイルスが存在し8,本症例では汎発性HZを来したことからも通常のHZ症例よりウイルス量が多かったことが想定される.ヒト胚性幹細胞を用いた実験ではVZVウイルスカプシドが逆行性に軸索輸送されることが示されており9,本症例ではウイルス量が多かったため,VZVが運動神経に逆行性に感染した可能性があると考察した.

一方,脊髄前角や前根神経節,神経叢はVZVの再活性化する後根神経節から解剖学的に近く,後根神経節からウイルスや炎症は波及しやすいことから,近位部での障害によるWaller変性の可能性も否定できない.しかし,一般には末梢神経は複数の神経根から形成されるため,本症例のような近位部での障害で単一の末梢神経障害は来しにくい.そのため,皮疹から運動神経に逆行性に感染した機序を最も考えた.

今回我々は,L5領域のHZに汎発性HZを合併し,下肢の筋力低下と自覚的な排尿障害を呈した1例を経験した.VZV感染による腰仙髄領域の多発神経根障害に加え,高度な腓骨神経麻痺を合併した.HZに伴う運動麻痺では,神経根と末梢神経が同時に病変部位になる可能性もあり,注意深い観察が必要である.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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