Rinsho Shinkeigaku
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Case Reports
A case of multiple small cerebral infarcts in the cerebellum and bilateral cerebrum, diagnosed with amyloid angiopathy by brain biopsy
Takahiro KawaseYuko TakeuchiDaiyu HondaNaoki Mabuchi
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2023 Volume 63 Issue 7 Pages 456-460

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要旨

症例は82歳女性.1ヶ月の経過で物忘れ,異常言動が進行し,頭部MRIで小脳,両側大脳皮質/皮質下白質に散在する微小な脳梗塞を認めた.経過中,皮質下出血を起こし,微小な脳梗塞も経時的に増加した.中枢原発性血管炎や悪性リンパ腫を疑い,右側頭葉出血部位をターゲットに脳生検を施行し,cerebral amyloid angiopathy(CAA)と診断した.CAAは進行性の多発する微小な脳梗塞の原因となりうる.

Abstract

An 82-year-old woman had been suffering from progressive forgetfulness and abnormal speech and behavior for One month. Findings of the MRI of the head indicated scattered small cerebral infarcts in the cerebellum and in bilateral cerebral cortex/subcortical white matter. After admission, she experienced a subcortical hemorrhage, and the percentage of small cerebral infarcts increased over time. Based on the suspicion of central primary vasculitis or malignant lymphoma, we performed a brain biopsy targeting the right temporal lobe hemorrhage site, and the patient was diagnosed with cerebral amyloid angiopathy (CAA). We conclude that CAA can cause multiple small progressive cerebral infarcts.

はじめに

Cerebral amyloid angiopathy(CAA)は,皮質下脳出血の原因としてよく知られている1.一方でCAAが脳出血だけでなく虚血性梗塞を起こしやすいことが示されている2.以前より,進行したCAAに伴う虚血性梗塞も病理学的に確認されていた3)~8,CAAによる虚血性梗塞は非常に小さく,主に大脳皮質や皮質下白質に存在し,臨床的には無症状であることが多い3)~578

本症例は2ヶ月ほどの期間で次々と新規に脳出血,脳梗塞を起こした.病理所見,画像所見にてCAAに関連した脳梗塞を認める報告は散見されるが,臨床症状を呈した脳梗塞としての検討報告は少ない.本症例は小脳,両側大脳皮質/皮質下白質を中心に,広範囲かつ多数の小梗塞巣が増加し,高次脳機能障害が進行した.脳生検でCAAが確定しており,病理所見も含めて報告する.

症例

症例:82歳,女性

主訴:物忘れ 異常言動

既往歴:両側人工股関節置換術.

家族歴:特記事項なし.

生活歴:ADL自立,喫煙歴なし.

現病歴:近医で高血圧加療中だったが,コントロール良好だった.急に料理ができなくなり,発症1ヶ月で急激に受け答えが悪くなり,寝ていることが増えた.冷蔵庫を開けたり閉めたりをくりかえし,何をやっているかとたずねても「分‍からない」と言っていた.2桁の引き算もできなくなり,日付も間違えるようになった.当院脳神経内科で精査入院となっ‍た.

一般身体所見:身長145 cm,体重47.7 kg,体温36.4°C,血圧202/110 mmHg,脈拍80回/分,SPO2 98%(room air),呼吸数18回/分.頭痛なし,皮疹なし,関節痛,筋肉痛なし,心雑音なし.

神経学的所見:GCS E4V4M6.項部硬直なし,構音障害なし,受け答えは曖昧だが,指示動作可能.脳神経異常なし.四肢に脱力なし.腱反射は左右差なく,上下肢とも低下していた.異常反射は認めなかった.

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)12点と低下し,取り繕いがみられた.

検査所見:頭部MRIの拡散強調画像(diffusion-weighted image,以下DWIと略記)で,微小な高信号域を両側大脳半球の皮質/皮質下白質に13個,小脳に3個の合計16個認めた(Fig. 1A, B)(Table 1).右側頭葉にT1強調画像(T1WI)で高信号域を認め(Fig. 1C),急性期の多発脳梗塞と亜急性期の脳出血と考えた.MRAでは脳血管の狭窄や,不整なく,動脈瘤も認めなかった.頭部CTでconvexity SAHは認められなかった.血液検査では白血球数8,200/μl(好酸球3.2%),Hb 12.8 g/dl,血小板数235×103lと基準値内であった.凝固検査ではDダイマー1.2 μg/mlと軽度上昇,その他異常なかった.LDLコレステロール111 mg/dl,HbA1c 5.7%,CRP 0.75 mg/dlと異常なく,その他生化学的検査は基準値内であった.HBs抗原,HCV抗体,梅毒RPR,TPHA,HIV抗原抗体,T-SPOTはいずれも陰性であった.TSH 1.502 μIU/ml,FT3 3.18 pg/ml,FT4 1.08 ng/dlと基準値内であった.ビタミンB1 35 ng/ml,ビタミンB12 519 pg/ml,葉酸5.4 ng/ml,アンモニア24 μg/dlと異常なく,抗サイログロブリン抗体,抗TPO抗体は基準値内であった.腫瘍マーカー(CEA,CA19-9,Pro GRP,CA125)の異常なく,sIL-2R 468 U/mlと正常範囲であった.抗CCP抗体,抗核抗体,抗dsDNA抗体,抗Sm抗体,抗SS-A抗体,抗SS-B抗体,MPO-ANCA,PR3-ANCA,RF,アンギオテンシン転換酵素,抗カルジオリピン抗体,プロテインC定量,プロテインS定量,プロテインS(総抗原量),プロテインS活性はすべて基準値内であった.アポリポ蛋白E表現型はE3/3であった.

Fig. 1 Brain MRI (1.5 T A, B), (3 T C–F).

Head MRI showed multiple cerebral infarctions on admission (A) (B), and increase in cerebral infarction and hemorrhage after admission (D–F). (A), (B) Axial DWI day 1. (C) Axial T1-weighted imaging day 4. We performed brain biopsy from the bleeding in the right temporal lobe (C: arrowhead). (D) Axial T2*-weighted imaging day 4. New hemorrhage (D: arrowhead). (E) Axial DWI day 11. (F) Axial DWI day 32.

Table 1  DWI high new lesion.
Day 1 Day 4 Day 11 Day 32 Total
Supratentorial lesions 13 6 12 3 34
Infratentorial lesions 0
Cerebellum 3 1 2 1 7
Brain stem 0 0 0 0 0
Total 16 7 14 4 41

髄液検査では,有核細胞数4/μl,蛋白定量78 mg/dl,糖定量53 mg/dl(血糖90 mg/dl),IgGインデックス0.71,C・ネオフォルマンス抗原陰性,オリゴクローナルバンド陰性と,軽度の髄液蛋白増加を認めた.脳波では基礎波が徐波化していたが,突発波は認めなかった.

入院後経過:急性多発脳梗塞と診断したが,亜急性期脳出血合併もあり,抗凝固薬,抗血小板薬とも使用しなかった.入院2日目より,せん妄状態,指示動作不能となった.入院4日目の頭部MRI T2*強調画像(T2*WI)で左前頭葉皮質下に新規脳出血を認めた(Fig. 1D arrow head).皮質脳表ヘモジデリン沈着(cortical superficial siderosis,以下cSSと略記)はなかった.DWIで微小な脳梗塞が7個増えていた(Table 1).収縮期血圧は140 mmHg以下に保たれており,降圧薬持続静注を必要としなかった.造影体幹CTでは腫瘍性病変を認めず,ランダム皮膚生検は陰性.経胸壁心エコーで心内血栓は認めず,血液培養は陰性だった.心電図モニターで心房細動はなく,造影CTで大動脈弓部に解離を認めなかった.経食道エコーでも心内血栓は認めず,マイクロバブルテストでも卵円孔開存を認めなかった.頭部造影MRI,全脊椎MRIでは特記すべき所見は認めなかった.入院11日目の頭部MRIでも微小な脳梗塞が14個新規に出現し,同時に22個のDWI高信号病変を認めた(Fig. 1E)(Table 1).髄液細胞診では小型リンパ球や核形不整のみられる単球,核腫大を示す細胞が少数認められたが,核が変性に陥っており良悪性の確定診断が困難であった.多発微小脳梗塞の原因として,中枢原発性血管炎やリンパ腫などの鑑別が必要と考え,入院16日目に脳生検を施行した.右側頭葉の外側は生検の合併症による臨床症状が起こりにくい部位であり,梗塞巣は目標とするには微小であることから,右側頭葉の外側脳出血痕をターゲットとして生検した(Fig. 1C, arrowhead).

病理所見:大脳皮質と白質が採取されており,クモ膜下腔の血管周囲(Fig. 2A, B)や血管壁内(Fig. 2D)にリンパ球,形質細胞,組織球の浸潤が認められた.ヘモジデリンの沈着が認められた(Fig. 2C).また,アミロイドβの免疫染色(β-amyloid monoclonal antibody(6F/3D),DakoCytomation社)で血管壁は陽性を示した(Fig. 2C, E).老人斑を認めたが,AT8(リン酸化タウ蛋白)による免疫染色ではtauの沈着は認められず,アルツハイマー型認知症とする所見は認めなかった.以上からCAAでCAA-ri(CAA-related inflammation)とAmyloid β-related angiitis(ABRA)とが混在する所見と考えた.脳皮質には毛細血管内皮細胞の腫大とグリオーシスが認‍められた.比較的新しい限局性の虚血性変化と考えた(Fig. ‍2F).ボストン基準第2版9に沿い,Probable CAA with supporting pathologyと診断した.

Fig. 2 Pathological findings of the brain biopsy.

Infiltration of lymphocytes, plasma cells, and, histiocytes was found around the vessels in the subarachnoid space (A, B) and within the vessel wall (D). Hemosiderin deposition was discovered (B); immunostaining for β-amyloid indicated a positive vascular wall (C, E). In the cerebral cortex, capillary endothelial cell swelling and gliosis were found. We considered this a relatively new localized ischemic change (F). A bar = 100 μm: B bar = 20 μm: C bar = 100 μm: D, E bar = 50 μm: F bar = 10 μm.

入院32日目,頭部MRIで微小な脳梗塞は4個増えていたが(Fig. 1F)(Table 1),指示動作可能となって.HDS-R 19点,MMSE:16点と症状改善していた.保続がみられ,FAB 3/18点と低下しており,前頭葉機能障害は残存した.経過を通して運動症状は認めなかった.またMRIでは,微小出血周囲の白質病変や造影所見も認めなかった.CAA-riの画像的な診断基準1011を満たさないものの,病理学的にCAA-riの所見を認めていた.微小な多発脳梗塞がCAA-riの病勢を反映していたものと考えた.臨床症状は改善したため,免疫治療は行わず,入院39日目に自宅退院となった.

考察

CAAは,皮質下脳出血の原因としてよく知られている1.一方でCAAが脳出血だけでなく虚血性梗塞を起こしやすいことが示されている2

CAAでは,アミロイドβが細動脈に沈着し,血管壁の肥厚や内腔狭小化4,内皮・血管平滑筋機能障害12などを引き起こす.これらの変化は,血管を脆弱にして,微小動脈瘤形成や血液漏出を起こしやすくするだけでなく13,脳血流の局所制御を損ない,細動脈の閉塞を引き起こす14可能性がある.さらに,血管の機能障害により,血管周囲間質のクリアランス機能が低下し,より血管周囲にアミロイド沈着が進むという負のスパイラルが考えられている15

CAAによりDWI高信号病変(CAA-DWI)をきたした症例報告や後方視的研究は散見される216)~20.脳出血や皮質性くも膜下出血を起こしたCAA患者のMRIを数ヶ月から2年間経時的に観察した複数の研究で,CAA-DWIは15~58%の患者にみられるとされている218)~20.CAA-DWIは5 mm以下と小さく20,円形や卵円形であり1820,皮質/皮質下白質に多く出現する218.テント下病変では脳幹にはなく,小脳に出現し21920,テント上では前頭葉に多い傾向にある21.また,脳室周囲白質病変の大きさと微小出血(microbleeds)の数に関連しているが18,高血圧などの従来の血管危険因子とは関連しない218.同時に出現するCAA-DWIは1個か2個程度であり2,推定年間8.0~8.4個のCAA-DWIを生じる218

本症例のDWI高信号病変は小さく,皮質/皮質下白質優位に存在し,脳幹病変をきたしていないなど,CAA-DWIの特徴に多く合致していた.しかし,同時に最大で22個,1ヶ月の経過でのべ41個のDWI高信号病変を認めた点で特徴的であ‍る.

本症例では,入院時血圧は200 mmHg台と高値だが,持参の降圧薬のみで入院後110 mmHg前後と落ち着いていた.このように良好にコントロールされた高血圧以外に脂質異常,糖尿病,喫煙など,動脈硬化の危険因子はなかった.また,好酸球異常,凝固異常,悪性腫瘍,感染性心内膜炎,膠原病,全身性血管炎,卵円孔開存など多発梗塞の原因となる疾患も確認できなかった.

病理組織学的に脳血管にアミロイドβが沈着する病変はCAAと診断する.血管周囲に炎症性細胞の浸潤がみられる場合はCAA-ri 22,血管壁内に炎症性細胞が浸潤する場合はABRA2324に分けられる.この二つの型は本症例のように同時に発生することがあるが,臨床像,予後の間に関連は認められなかったと報告されている25

本症例では急激な見当識障害,異常言動にて発症し,進行性に微小な脳梗塞が増加していき,脳生検でCAAと診断した症例である.CAAは微小な脳梗塞の原因となりうる.小脳,両側大脳皮質の広い範囲に次々と微小脳梗塞をきたす場合でも,CAAを鑑別に挙げる必要がある.

Acknowledgments

謝辞:病理診断をして頂いた福祉村病院 橋詰良夫先生,名古屋掖済会病院病理部 佐竹立成先生に深謝致します.

Notes

※著者全員に本論文に関連し,開示すべきCOI状態にある企業,組織,団体はいずれも有りません.

文献
 
© 2023 Japanese Society of Neurology

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